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今回は、2024年上半期に起きた消費者トラブルについてご紹介します。
多くの方が意外に思うかもしれませんが、中国は消費者保護関係の法律がしっかりと整備されています。このメルマガでも何度かご紹介しましたが、「7日間無理由返品」などは日本より消費者保護の観点では進んでいます。これはECなどの通信販売で購入した商品に適用されるもので、到着後7日間は理由を問わず返品ができるというものです。食品や音楽CDなど、開封した瞬間に商品価値が大きく損なわれてしまう商品は除外されますが、ほとんどの商品に適用されます。理由は「現物を見て買っていないから」です。現物を見て、初めて何か違うと感じたら、気軽に返品することができます。
これが、中国のECを発展させることになりました。この規定は2014年3月に施行された「消費者権益保護法」に規定されています。返品が気軽にできるため、気軽に買うことができます。中国ではECは「購入」ではなく、「取り寄せ」なのです。取り寄せてみて、それから買うか買わないかを考えることができます。これにより、多くの人が安心をしてECを使うようになりました。
洋服や靴などサイズがあるものは3サイズぐらいを注文して、自宅で試着をして、合わないものを返品してしまいます。中には、服を注文して、着てみて姿見で写真を撮りSNSにあげてから返品をしてしまう、ちゃっかりとした人たちもいます。
先ほど「中国の方が進んでいる」と書きましたが、正確には進んでいるのではなく、考え方の違いによるものかもしれません。訪問販売に適用されるクーリングオフ(8日以内であれば契約などを取り消せる)に相当するルールはありません。それどころか、中国人にクーリングオフのことを紹介すると、高確率で「なんで?」となります。意味がわからないと言われます。
クーリングオフは突然自宅を訪問されたり、電話をかけてこられて、そのまま購入や契約をしてしまった場合に適用されます。いったん冷静になって、契約内容を確かめたり、他の商品やサービスと比較をする時間が与えられなかったため、正しい判断ができたとは言えないという考え方です。そう説明すると、中国の人は「なんで?契約しなければいいでしょ?。考えておくからパンフレットだけ置いてって言えばいいんじゃない?」と不思議に思うようです。
ですので、どちらが進んでいるというよりも、考え方の違いが大きく、また、このような消費者保護の法律は、悪徳商法が社会問題となることによって整備されていくということもあるため、お国によって違うのは当たり前のことです。
中国で、消費者を手厚く保護する法律が整備されているということは、裏を返せば、悪徳商人も多いということにもなります。そのため、全国各地の消費者協会は非常に活動的です。悪徳事例を収集するだけでなく、常時公開をしています。それも「A社」「B社」などと生やさしいものではなく、実名を挙げて情報を公開します。さらに、法に触れる内容であれば、すぐに地域の市場監管局や公安も動き、店主やオーナーに罰金が課せられたり、逮捕されることも少なくありません。
また、SNSの登場も消費者保護に大きく貢献をしています。一般の人たちが、買い物で納得がいかないことがあるとSNSで訴え、社会関心を呼ぶということが常に起こります。
しかし、SNSの告発は常に正確とは限りません。そこでよく利用されているのが「黒猫投訴」(https://tousu.sina.com.cn/)です。ここは民間運営ですが、消費者の苦情相談プラットフォームで、社名名指しの投稿が公開されています。スタッフが問題となっている企業に問い合わせをし、調査をしてその結果を公表します。
あくまでも民間機関であるため、調査権や逮捕権のようなものはありませんが、必要があれば公安や市場監管局に通報をするため、消費者の強い味方になっています。消費者問題に遭遇した時は、まずは黒猫投訴を検索して、同様の投稿がないかどうかを確かめるというのが一般的です。
また、公的機関としては「中国消費者協会」(https://www.cca.org.cn/)があり、主だった都市、省などに支部があり、消費者保護活動をしています。どちらかというと、個々の案件に対応するというよりは、ガイドラインの制定や情報発信を主に行っています。
この消費者協会では、半年ごとにさまざまな消費者問題事例集を発信します。今年2024年上半期の消費者問題事例集も発表され、上位10の問題事例が公表されています。この発表は、消費者協会と人民与情データセンター、中国消費者雑誌社などが協力して行うもので、典型事例を社会への影響力として数値化をし、その上位10事例を半年ごとに発表するというものです。
今回の2024年上半期では、上位10の事例に「職業閉店人」「提灯定損」の2つが新しく登場しました。また、以前問題になっていた「殺熟」が再び別の形でランキングに入るようになってきました。文字からどんな内容なのかある程度想像がつくかと思いますが、順位に従って、後ほどご紹介したいと思います。
第1位は、ドリンクカフェでの消費期限切れ食材の使用問題です。社会影響指数は89.8という高いものになりました。2024年上半期では、「書亦焼仙草」「古茗」「茶百道」「茉酸嬭」などの中国茶カフェチェーンで、消費期限が切れた食材を使っていたことが発覚をして問題になっています。
中国茶カフェで食材切れ問題が多発するのには理由があります。ひとつは過当競争により、どの中国茶カフェチェーンも成長がしづらくなっていることです。コーヒーを飲む習慣は現在でも広がっている最中であるため、成長の余地がありますが、中国茶はタピオカミルクティーに代表されるように、市場が若い女性中心であり、完全にレッドオーシャン状態になっています。
また、このようなチェーンは加盟店=フランチャイズ方式で運営されるため、加盟店の経営は苦しく、加盟店オーナーはコストを少しでも下げたいという思いがあります。そのため、期限切れの食材を使ってしまうという問題が起こります。消費期限がすぎた食材は廃棄をしなければなりませんが、それはそのまま加盟店オーナーの損失になります。中国茶カフェチェーン特有の問題というよりも、利益があがらなくなってきたフランチャイズチェーンで起こりがちな問題です。
このフランチャイズ特有の問題を、すごい方法で解決をしているのがドリンクスタンド「蜜雪氷城」(ミーシュエ)です。蜜雪氷城も食材を製造し、加盟店に販売することで利益をあげていますが、品質と価格の追求を怠らず、加盟店が同様の食材を市場で調達しようとしても、本部から買った方が安いのです。ですので、加盟店はみなルール通り、本部から支給された食材を使います。
また、多くの食材がパウダー化、液化、冷凍などにし、消費期限が長くなるような工夫がされています。そのため、まったく起きていないわけではありませんが、蜜雪氷城は3万2000店舗という膨大な数の店舗展開をしている割に、食材問題はわずかしか起きていません。発生した問題の多くは、悪意のあるものではなく、オペレーション上のミスによるものです。
毎日のようにとまでは言いませんが、毎週のようには、この期限切れ食材使用の問題は報道をされますので、売上にも鋭く反応をします。多くの人が、食材問題が起きると、とりあえずそのチェーンを利用するのをやめるという行動を取るからです。
8月21日にスシローの北京市西単店が開店し、一時期は最大1500組が行列をするという大人気になったというニュースをご覧になったことがあるかと思います。1500組といっても実際に並んでいるわけではなく、スマートフォンから行列待ちの予約ができるようになっていて、順番がきても店頭にいなければ自動的にキャンセルされるという仕組みなので、とりあえず予約してしまうという人が多かったとは思います。
しかし、それでも1500組の待ち行列はすごい人気で、実際にオープン時に行った人に聞くと、リアルに200人以上は並んでいて、有名歌手のコンサートでもあるのかと思ったほどだったそうです。あまりに行列がすごいので、車で1時間ほどかけて天津市のスシローに食べに行ったという人までいます。
オープン記念クーポンを配布したことや、北京初出店で、西単という非常に利便性のいい繁華街に位置する、処理水海洋放出の問題で日本の寿司から遠ざかっていた人が多かったなど、さまざまな条件がうまく噛み合いました。
ところが、9月4日に食材の期限切れ問題が深圳で発生し、様子ががらりと変わりました。元スシローの店員だと称する人が、店長からの命令で、消費期限がすぎ、変色しているサーモンを使っていたと、写真つきで投稿をしたのです。深圳市市場監管局が調査に乗り出す事態になりました。
スシローはすぐに声明を出し「この投稿が真実であるかどうかを含めて社内調査を行っている」としました。また、「スシローでは非常に厳格に食材管理をしており、一般的な飲食店よりも短い廃棄期間を定めている。また、期限切れ食材を提供するような指示は出せない仕組みになっている」とも付け加えました。
この告発が真実であるのかどうかはいまだにわかっていません。しかし、これでスシローの客足ががらりと少なくなったのは事実です。この問題が起きる前、北京西単店では、2か月先まで予約が取れない状態でした。ところがこの問題が起きると、予約がいっぱいの期間は見る見る間に短くなり、現在では当日ではいっぱいになることはあるものの、翌日であれば予約が取れる状況になっています。店頭での待ち行列でも50組程度になることはあるものの、0つまりすぐに入れることも多くなっています。
「vol.249:スターバックスがカフェ競争から離脱。外資系飲食チェーンに圧倒的に足りていない製品イノベーション」でも、ご紹介しましたが、日本の飲食チェーンが中国でなかなか定着できない理由の最大のものは製品イノベーション力です。中国では、とにかく次々と新メニューを投入していかないとすぐに飽きられてしまいます。日本の飲食チェーンは「ウチの味を中国でも広めたい」と考え、基本メニューだけにこだわりすぎて、リピートが取れず敗退していくというのがパターンになっています。
しかし、スシローはこの製品イノベーション力が非常に高い企業です。海鮮という性質上、時季によってメニューが変わっていきます。しかも、スシローは日本でもラーメンをメニューに加えていますが、中国でも麺メニューを充実させています。これは可能性があると思いました。
中国でも日本の寿司は認知をされていますが、イメージとしては上海の富裕層が高級寿司店につまみに行くというもので、日常の食事ではありません。冷たい寿司だけでお腹いっぱいにしても、それはどこかちゃんとした食事ではなく、満足感に欠けるのです。寿司を食事にするには、温かい汁物でお腹にたまるものがどうしても必要になります。そこをきちんと押さえて、新メニューをどんどん投入していけば、「暖かい麺などを基本に寿司をつまむ新しいスタイルの食事」として富裕層だけでなく、庶民の間に定着をする可能性もじゅうぶんあります。スシローには、この期限切れ問題に負けず、なんとか乗り越えていただきたいものだと陰ながら応援しています。
以下、2位から10位までをご紹介していきます。今回は、中国で2024年上半期に問題になった消費者問題トップ10をご紹介します。
第1位から第10位までの消費者問題は次の表のようになりました。
今回は、2024年上半期に問題となった消費者問題をご紹介し、黒猫投訴のユニークなビジネスモデルについてご紹介します。
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先月、発行したのは、以下のメルマガです。
vol.249:スターバックスがカフェ競争から離脱。外資系飲食チェーンに圧倒的に足りていない製品イノベーション
vol.250:アップル税をめぐってテンセントとアップルが深刻な対立。最悪の場合はWeChatの配信停止も。アップストアの問題とは
vol.251:人類が体験したことがない速度で進む中国の高齢化。シルバービジネスに有用な考え方とは
vol.252:中国でも生成AIの幻滅期に。AIはエージェントに進化をする。アリペイ、タオバオの取り組み