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ピザハットWOWがねらう若い女性の一人食。中国で一人食は定着するのか

飲食全体がかつてない苦境に陥り、各飲食チェーンは低価格セットの販売を急いでいる。ピザハットの低価格業態「ピザハットWOW」では、仕事帰りの若い女性の一人食にねらいを定めていると消費が報じた。

 

かつてないほどの飲食不況

飲食業がかつてないほど苦しんでいる。北京市統計局が発表した2024年H1の売上高200万元以上の飲食企業の統計では、全体の純利益が88.8%も減少した。利益率はわずか0.37%になっている。全国で上場をしている飲食企業11社も8社が減益となり、3社は赤字になってしまった。このような見たことがないほどの全面的悪化の数字を見ても、市民はさほど驚かない。それは生活実感からも外食産業が悲惨な状況になっていることがわかるからだ。多くの人が30元以下のファストフードで食事を摂るようになり、各飲食店は、俗に言われる低価格の「貧乏セット」をいかに提供するかに頭を悩まされるようになっている。

 

カテゴリー最安値の店に人が集まる

しかし、その中でも「カテゴリー最安値」を実現している飲食店には客が集まっている。「薩莉亜」(サイゼリヤ)は、客単価45元と、中国では決して激安ではないが、平日でも予約をしないと入れないほど客が押し寄せている。サイゼリヤは一品一品の料理の価格が安く、家族や友人など大人数でいき、あれこれ注文して楽しむ店になっている。「大勢で行って楽しく食事をする」飲食店としては最安値になっている。そのため、客単価70元、80元の店から客を奪い、業績を伸ばしている。

スシローも北京店の盛況ぶりが話題だ。一皿10元を基本にし、客単価は120元ほどとなり、贅沢な部類の食事になるが、これまで寿司は高級料理であり、1人120元で食べられる店はほとんどない。一時期は行列待ちが1500組を突破し、予約も1ヶ月先までほぼ埋まっている状態になった。これも「日本の本場の寿司」というカテゴリーの中で最安値になっている。

 

サイゼリヤに客を奪われたピザハット

ピザハットWOWも好調だ。ピザハットは中国ではデリバリーピザではなく、ピザレストラン業態で展開をし、現在3400店舗になっている。客単価は70元を超え、高級ではないものの安くもない。若者がデートで行くイメージだ。

しかし、サイゼリヤが人気になるとともにピザハットの業績は落ちていった。同じイタリア料理であるため、客を奪われていることは明らかだ。そこで、ピザハットは「ピザハットWOW」という低価格の新業態の展開を始めた。ピザは25元から29元まで、メイン料理も最高で49元だ。サイゼリアのピザは22元から30元、メイン料理は18元から45元であるため、サイゼリアとほぼ同じ価格帯にまで近づけた。客単価は45元程度と、サイゼリヤとほぼ同じだ。

ピザハットサイゼリヤの単店売上の比較。客単価120元のピザハットは、客単価45元のサイゼリヤに単店売上でも抜かれてしまった。

 

一人食をねらうピザハットWOW

このピザハットWOWのコア顧客層は、若い世代の一人食だ。運営元の百勝中国(ヤムチャイナ)の屈翠容CEOはこう述べている。「一人食、若い世代、価格に敏感な消費者が、ピザハットWOWのコア顧客です」。

そのため、あらゆる料理の分量が少な目だ。これは分量を抑えて価格を下げるというねらいもあるが、一人できても複数の料理を注文することにより、客単価を上げ、複数の料理を食べるという満足感を得てもらうことが最大の理由になっている。

ピザハットWOWは、低価格ながら、店内は豪華。ピザハットレストランを転換しているケースも多い。

ピザハットWOWはテラス席も用意され、店内環境は優れている。これにより、大都市の若い女性の一人食をねらっている。

 

現場調理でサイゼリヤと差別化

さらに、サイゼリヤと大きく違うのが、現場調理であるということだ。サイゼリヤはセントラルキッチンで食材を製造し、それを各店舗に配送して、現場では暖めるなどの単純な調理をして提供している。一方、ピザハットWOWではシェフがいて、その場で食材から調理をしている。その食材はピザハット本体と同じものが使用されており、キッチンはガラス張りで、調理している様子を客席から見ることができる。食の安心感を提供するとともに、レストランとしてのムードづくりにも役立っている。

ピザハットWOWでは、ひとつのメニューの単価が抑えられているため、グループでくればさまざまな料理を注文することができる。

 

若いOLのチョイ飲みにフォーカス

さらに店舗自体は、原則、ピザハットを改装してリニューアルオープンしている。そのため、店内の雰囲気は豪華で落ち着いている。

価格だけでなく、健康や雰囲気などにも敏感な消費者を取り込もうとしている。わかりやすく言えば、都市で働く若い女性が仕事帰りに一人でやってきて、食事を摂り、ワインを1杯だけ飲んで帰っていくというシナリオを想定している。

▲家族づれが主要な顧客層になっているが、女性同士のグループや女性の一人客も目立つようになっている。

 

デジタル化による効率アップで低価格を実現

しかし、サイゼリヤはセントラルキッチン、作業の標準化という手法で安さを実現している。一方のピザハットWOWは現場調理、豪華な内装で、どうやって安さを実現しているのだろうか。

この原動力になっているのが、運営元のヤムチャイナが開発した「iKitchen」だ。生産、品質、食品安全を一元管理できるシステムで、現場のシェフ、フロア担当、管理者はすべてタブレットスマートフォンを使いながら業務を遂行している。このiKitchenはピザハット本体にも導入され、ピザハットの業務効率化にも大きな成果をあげているという。

食材ロス、鮮度、清掃、業務などの管理をデジタル化することで、業務効率化を図り、少ない人数で店舗が運営できる体制を構築しようとしている。ヤムチャイナでは、このピザハットWOWに自信を持っており、5月に広州市の金沙洲永旺夢楽城モールに1号店がオープンしてわずか4ヶ月で、すでに店舗数は100店舗を超えた。ピザハットWOWがねらう「一人食」が消費者に受け入れられるか注目されている。中国のピザハットが食習慣を大きく変えることになるかもしれない。