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今回は、AIトランスフォーメーションについてご紹介します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を覚えていらっしゃるでしょうか。すっかり死語になってしまいました。DXは基幹システムごとつくり直すような大きな改革が多く、現場は意思決定にほとんど参加できないというパターンが多かったように思います。上から「来月からこのツールを使ってくれ」と言われた時には、そのツールがどれだけ現場の業務フローに合っていなくても、もはや業務フローの方をツールに合わせるしかなくなっています。
もちろん、うまくいった企業もたくさんありますが、多くは経営陣とDX推進部だけが先走り、現場は冷めた目で見ているということになっていました。
現在、AIが急速に広がり、業務でAIを使うのはもはや一般的です。この使用状況を見るには、「生成AIに関する実態調査」(PwC、https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2026.html)が参考になります。売上高500億円以上の企業に対して、継続的に調査をしているものです。
この調査によると、日本企業は2024年から急速にAIを活用するようになっています。

最新の2026年春の段階では71%の企業が活用中であり、未着手はわずか4%にまで減っています。
ただし、成果が出ているかどうかについては、他国に一歩遅れをとっているようです。

導入はした、現在、成果に結びつけるために奮闘中という段階のようです。
AX(AIトランスフォーメーション)という言葉も使われるようになっています。しかし、今ひとつ広がりません。個人的にはDXの続編的な位置づけにしてしまうと「またかけ声だけで終わるのでは」という不安を感じているのではないかと思います。
しかし、今度のAXは、これまでのIT推進、DX推進とは様子が違っていることは、みなさん実感されているのではないでしょうか。その決定的な違いとは、これまでのDXなどのデジタル改革は、現場とは異なるところで意思決定がされ、現場はそれに従うしかありませんでしたが、AXは現場から変えていくことが可能だということです。業務上の疑問をAIに尋ねてみる、書類の下書きをつくってもらう、会議の録音を文字起こし要約をつくってもらう、外国語の資料を翻訳してもらうなどということはもうみなさん、言われなくてもやっているはずです。
また、さらに進んで、イベント企画のアイディアを出すのにAIに壁打ち相手になってもらったり、Excelでデータ解析をするのに面倒な関数を書いてもらうということもされているのではないでしょうか。
さらに大きいのが、AIエージェントの登場です。AIエージェントというと、電子メールの返信を自動化したり、ウェブを監視して必要な情報が登録されたら通知をしてくれるなどがその実例ですが、このような本格的なAIエージェントは、システムに深く入り込んで動作をするため、うかつに使うとシステムがおかしくなってしまう危険性があります。
そのためか、プレイグラウンドと呼ばれる閉鎖的な場所にウェブアプリを作成する機能が搭載されているAIが増えてきました。Claude、Codexなどが代表例ですが、中国ではWorkBuddy(テンセント)、QwenWork(アリババ)、DoubaoWork(バイトダンス)などが続々と登場して、「Work製品」などと呼ばれるようになっています。
このようなWork製品では、誰でも簡単にノーコードでウェブアプリを開発することができます。例えば、私の場合、インタビュー取材を録音した音声ファイルを放り込むと、各発言に話者の区別とタイムスタンプを入れた文字起こしデータをつくるというアプリを開発しました。
最初にかかった時間は30分もなかったと思います。「音声ファイルを渡すから、これこれの条件で日本語に文字起こしをしてファイルに保存するアプリを生成して」とプロンプトに書くだけです。AIの方が考えて、細かい点を尋ねてきます。「音声ファイルはmp3、m4a、wavの3つに対応することでよろしいですか」「音声ファイルの内容は日本語のみで進めてよろしいでしょうか」などです。これに答えていけばウェブアプリができあがり、実際に便利に使えています。
これまで音声の文字起こしには有料サービスを使っていましたが、その必要がなくなり、さらに文字起こしの精度もあがりました。なぜなら、途中でAIが「人名や製品名についてはネット検索をして推定される名詞に置き換える機能を追加しますか」と聞いてきたので「はい」と答えたからです。
ただし、使いはじめのうちはしばしばエラーが起きました。3時間もある音声ファイルを渡したところエラーが起きました。なぜエラーが起きるのかを尋ねてみると、文字起こしをするAIは一度に数十MBのデータしか扱えないため、データがあふれてしまうのだと説明してくれました。
「それは困る。なんとかなならないのか」とプロンプトに入れると、「大きなデータは自動で分割して文字起こしをし、最後にテキストデータを連結する機能を追加します」と提案してきてくれました。自動でやってくれるので、私は音声ファイルをドロップするだけです。
それ以降も、細かい問題が出ていますが、そのたびに原因を調べてもらい、「なんとかして」と言うだけで、なんとかなっています。
さまざまな条件で使われることになる市販アプリの水準には達していませんが、自分で使う分にはじゅうぶんなウェブアプリができあがります。
この他、企業の財務報告書の中から主要なデータを抽出してグラフ化し、1ページか2ページのシートにまとめるアプリ、中国の主要なニュースサイトから私の興味がある記事を自動抽出し、見出しを日本語に翻訳してリストするアプリなどをつくって使っています。
いずれも制作時間は30分もかかりません。しかも、後から追加したい機能が出てきたら、AIにお願いすれば追加してくれます。
おそらく、読者のみなさんの中にも業務に必要なちょっとしたアプリを自作して使っている方も多いかと思います。例えば、Excelの大きなデータを整理しなければならない時、さまざまな関数を使うかと思いますが、スペースの扱いをどうするかなど意外に面倒です。
そんなことに格闘するよりは、AIにこうしてと頼んでしまった方が楽です。間違ったことをやったら、「そうじゃなくて、こうしてほしい」と指示をすればいいのです。そして、同じことを今後もやる可能性があるなら、「今の操作をアプリにしてもらえないか」と頼めばウェブアプリをつくってくれます。次からは、Excelファイルをドロップするだけで同じ作業をやってくれるようになります。
個人がこのようなアプリをつくって使っていれば、隣の席の同僚が「それ便利だな。私にも使わせて」ということになります。現在は、自作したウェブアプリを他人と共有するのには少し手間がかかりますが、それでもngrokなどのツールを入れておけばいいだけです(詳しいやり方はAIが教えてくれます)。早晩、Work製品の中で共有が簡単にできる機能が搭載されるはずです。
ここがAXの最大の利点です。DXは上層部がツールを規定し、現場はそれを使うしかありませんでした。使いづらくても我慢するしかありません。しかし、AXではベースになるツールは上層部が規定しますが、現場は必要な業務アプリをどんどんつくっていくことができます。
他の従業員、他店舗に横展開するのも難しくありません。この段階で専門知識のあるエンジニアに見てもらって、コードを洗練させて動作を安定させたり、セキュリティ周りの確認をしてもらえば、業務ツールとして立派に通用します。
DXは現場の業務フローを無視して設計されることも多く、業務効率をあげるどころか下げてしまう例も存在します。とにかく報告の回数が増え、毎回写真を撮らなければならない、仕事が滞るという不満を述べる人もいます。現場の業務効率改善よりも、何かあったも責任を取りたくない上層部のために証跡づくりシステムになっている例もあります。
しかし、AXではノーコードによるAIエージェント開発という武器が与えられたため、現場の工夫でどんどん業務効率をあげていけるようになっています。ボトムアップのデジタル改革が可能になる。ここがAXの最大のポイントです。

そこで今回は、飲食店のAX事例をご紹介します。現在の中国の飲食店は、新規出店した店舗の9割が1年以内に閉店するという極めて厳しい状況に置かれています。そのため、どこもなんとかして生き残ろうとして必死なのです。
このような飲食チェーンから人気があるのが天商財龍(https://www.tcsl.com.cn/)のソリューションです。現場のモバイルオーダーから予約システム、発注、シフト管理、本部の監査など飲食チェーンのすべてをカバーするSaaSソリューションを提供していますが、特徴はAIを組み込めるということです。提供されたソリューションでは不足の部分があれば、ノーコードでウェブアプリを作成して組み合わせて使うことができます。

もちろん、天商財龍以外にも飲食向けソリューションプロバイダーは無数に存在していて、その多くが好きなAIを組み込めるのがあたりまえになっています。
今回は、天商財龍の利用事例を中心に、飲食店がどのようにAIを活用しているのかをご紹介します。
天商財龍では、次のようなデータを作成することを推奨しています。

これは回鍋肉のデータカードです。可食部歩留というのは、仕入れた食材の何%が料理に使えるかという数値です。皮を剥いたり、脂身の部分は取り除いて捨てなければなりません。しかし、仕入れは捨てる部分も含めて重さでいくらかが決まります。つまり、可食部歩留を明らかにしておかないと、料理の正確なコストが出せません。
この可食部歩留を算出するには、開店前の仕込みの時に、料理に使う部分と捨てる部分の重量を測定する必要があります。やり方は店舗により様々ですが、最も賢い店舗では壁などに貼り付けたタブレットから仕込む食材を選んでタッチし、可食部と廃棄部分の2つの秤を用意し、ボタンを押せば適切なデータが保存されるようにしています。現場の負担はほとんどなく、それどころか仕込み作業記録が取れ、食材在庫の量も正確に把握することができるようになります。
単価はその日によって異なるため、受発注システムからデータを引っ張ってきます。すると原材料コストが計算でき、価格と比較することでメニューごとの粗利率が計算されます。
マネージャーはこの数値を見て、メニュー価格を改定したり、セットメニューを企画できるようになります。また、今日の定食は回鍋肉にするか青椒肉絲にするかという問いにもその日の粗利率を見ればすぐに答えが出せます(もちろん、お客の人気であるとか、食材の仕入れ料など複数の要素が関わるため、AIに相談しながら決める方が確実です)。
この表を自動でつくるには、先ほどのWork製品を使ってAIにウェブアプリをつくってもらえばすぐにできます。多くの店長、マネージャーが自分でデータカードをつくるアプリをつくって、その日や翌日のメニュー決定の参考にしています。
たったこれだけのことをするだけで、どんぶり勘定の運営からデータ駆動運営に現場の意識が変わっていきます。
現在のAIはマルチモーダルに対応しています。つまり、画像や音声なども扱うことができます。また、カメラユニットは中国では数千円で売られています。電源を確保するのが少し面倒ですが、データはWi-Fiで送信されるため、飲食店のさまざまな場所にカメラユニットが取り付けられ、AIに処理させられるようになっています。
いちばん多いのは、厨房とフロアの間のカウンターの真上にカメラユニットを取り付ける工夫です。厨房スタッフが調理の終わった料理を置き、それをフロアスタッフが配膳するというカウンターです。
ここにカメラがあれば、料理を認識して、盛り付けは正しいか、定められた食材が使われているか、さらには異物が混入していないかなどを判定することができます。
もちろん、これには料理を学習する必要がありますが、だいたいひとつのメニューで100枚の画像を見せれば実用的な精度になるそうです。
導入してから数日間は、映像を見て、そこに人手で何の料理であるかラベル付けをしていかなければなりません。ここがたいへんですが、一度学習してしまえば、後は安心して料理を出せるようになります。万が一、不合格規格の料理がカウンターに並べられた場合は、リアルタイムでアラートを出すことも可能になります。
それだけではありません。カウンターに置かれる料理を把握するということは、注文されてからカウンターに出てくるまでの時間、配膳までの間カウンターに置かれている時間も正確に測れるということになります。
これもAIに頼んで、生データから必要な数値を抽出するウェブアプリをつくってもらい、Excelファイルに整理し、これをAIに分析してもらうことでさまざまな改善案を得ることができます。例えば、調理する優先順位のつけ方が効率的でないとか、そもそもコンロの数が足りていないとか、具体的な要因を発見することができます。
今回はこのような飲食店の現場で始まっているAIの活用事例をご紹介します。
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vol.353:縮小する月餅市場。その中で成長する老舗「広州酒家」。老舗ブランドの生き残り方
vol.354:中国の個人消費はなぜ小さい。伸び代のある市場と伸び代のない市場
vol.355:サイバー攻撃による情報流出。攻撃に強い中国、弱い日本の違いはどこにあるのか
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