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北京の景観を変えた建築家ザハ・ハディット。最後の作品は麗沢SOHO

故宮に象徴される清朝風の景観を残した北京が近代的な景観に生まれ変わったのは、不動産業「SOHO中国」と建築家、ザハ・ハディッド氏の功績が大きい。そのザハ・ハディッド氏の遺作となる麗沢SOHOがオープンし、北京最後の大規模再開発が完成しようとしていると上層建築TOPが報じた。

 

北京の景観を変えたSOHO中国とザハ・ハディッド

北京市のランドマークと言えば、天安門などの歴史建築や、ユニークな外観の中央電視台本部や通称「鳥の巣」(国家体育場)が有名だが、それが変わり始めている。それを変えているのは、不動産業の「SOHO中国」と建築家、ザハ・ハディッド氏だ。

 

販売から賃貸に転換して成功したSOHO中国

SOHO中国は1995年に創業された不動産企業。当初は、オフィスビルを建設して分譲販売するという事業を行なっていたが、中国の経済が発展をすると中国の不動産価格が急騰をするようになった。これにより「麺よりも小麦粉の方が高い」(販売価格よりも原材料費が高くなる)状況となり、経営が圧迫された。たとえば、北京のランドマークになっている「三里屯SOHO」は1平米あたり7500元、現在北京のランドーマークとなっている「望京SOHO」でも1万元程度という安さで販売されている。

これにより、SOHO中国はオフィスビルを建設してそのまま所有し、賃貸をするという賃貸業に転換をした。当初は資金回収に時間がかかるようになったため、苦しい時期もあったが、都市のランドマークになるような魅力のある建築を行うことで、入居率を高めていった。高い入居率を維持することで、近隣相場に合わせて賃貸料を改定できるようになり、不動産価格があがっても利益が圧縮をされず、経営が安定をするようになった。

▲三里屯SOHO。現在では大規模なショッピングモールもでき、北京の流行をリードする地域になっている。

▲望京SOHO。美しい曲線から構成される建築。

 

建築家ザハ・ハディット氏を起用

SOHO中国は、このような戦略で、北京と上海にランドマーク級のユニークな建築を次々と建てている。

この時に、SOHO中国が起用したのが建築家、ザハ・ハディット氏だった。銀河SOHOの設計に携わって以来、SOHO中国の多くの建築物の設計に関わっている。

東二環にある銀河SOHOは、中国の美しい建築10選に選ばれたこともある。中国の庭園のある屋敷のイメージを模したもので、美しい流線からなる4つの球場の建物が連結をされている。

▲銀河SOHO。曲線からなる4つの建築物が連結をされている。中国の美しい建築物10選に選ばれたこともある。

▲銀河SOHOの内部。どこにいても、曲線と空が視界に入るように設計されている。

 

北京最後の大規模再開発「麗沢ビジネス地区」

その後、ハディットとSOHO中国は、望京SOHOを手掛け、さらに3つ目の作品として「麗沢SOHO」が2019年にオープンをしている。この麗沢SOHOがザハ・ハディット氏の最後の作品となった。

麗沢ビジネス地区は、北京市の西南、第2環状線と第3環状線の間にある地区で、北京市の都心での大規模再開発地区としては最後のものになると言われている。金融系の規制が緩和された金融特区になっている。

現在、70%程度の建築物が完成をして、ファーウェイ中国本部、アマゾン中国、中央デジタル研究員、銀河証券など724の企業が入居し、将来は22万人がここで働くことになる。すべての完成は2030年の予定だ。

 

ザハ・ハディットの遺作「麗沢SOHO」

この地区のランドマークとなっているのが、ザハ・ハディット氏の遺作となる麗沢SOHOで、2019年11月にオープンをした。地下4階、地上45階、17万平米の建物になる。地下鉄14号線「麗沢商務区」駅が隣接をし、16号線も延伸される予定だ。

麗沢SOHOは、曲線の女王と呼ばれるザハ・ハディット氏の超現実主義的デザインを実現するために1.83万トンの鉄骨建材が使われている。これはパリのエッフェル塔の2.5基分になるという。

建物全体は螺旋状に45度のひねりが加えられている。建物内部の吹き抜けはビルの天井までの吹き抜けになっていて、高さは約200m。世界で最も高い吹き抜け中庭になっている。また、13階、24階、35階、45階には、2つの棟をつなぐ空中廊下になっており、北京市内が展望できる。

▲麗沢SOHO。2つの構造物がラセンを描きながら組み合わされている。ザハ・ハディットの最後の作品となる。

▲建築中の麗沢SOHOを下から見た写真。エッフェル塔2.5基分の鉄骨が使用されている。

▲完成した麗沢SOHO。曲線の女王、ザハ・ハディットの特徴がよく表現された設計になっている。

▲ザハ・ハディット建築事務所による麗沢SOHOのラフスケッチ。

▲2つの構造体は、4箇所で連結をされ、行き来をすることができ、同時に展望スポットにもなっている。

▲外壁はガラスを魚の鱗のように組み合わせて構成されている。

 

北京の大規模再開発が完了をする

麗沢SOHOは、成熟した北京の象徴となるランドマークとなる。北京市としては最後の大型再開発。ザハ・ハディット氏としては最後の作品。改革開放から続いた北京市の大改造はほぼ完成をした。北京の新しい時代が始まる。

 

 

 

電子書籍リーダー「Kindle」が中国から撤退。プロダクトのポジションを確保できなかったKindle

電子書籍リーダー「Kindle」が中国市場から撤退をする。WeChatのアマゾン公式アカウントが告知をした。2022年10月末まではKindleの返品を受けつけるが、2023年6月末以降は電子書籍が読めなくなるため、ダウンロードすることを推奨している。撤退する理由については説明されていない。

 

Kindleが中国市場から撤退

Kindleが2024年6月30日に完全撤退をする。利用者からはすでに購入した電子書籍がどうなるのかという不安の声があがっている。

すでに、Kindle電子書籍の販売は停止をされている。2022年1月1日以降に購入したKindleは返品を受けつけるが、10月末までに返品を申請しなければならない。電子書店は来年2023年6月30日まで営業されるため、購入した電子書籍を読むことはできるが、閉鎖以降は読めなくなる。そのため、ダウンロードをしてローカルに保存をしておく必要がある。2024年6月30日にはダウンロードもできなくなる。また、スマートフォン向けのKindleアプリもダウンロードできなくなる。

購入した書籍の量によってはダウンロードしきれない場合もあり、その場合はPCなどでダウンロードをし、読みたい本をKindleにUSB経由で移動させる必要がある。なお、書籍の返品は受けつけない。

Kindle公式アカウントが発表した撤退スケジュール。2024年6月に完全撤退となる。書籍はダウンロードをしておけば読み続けられるが、Kindleが故障をしたらその時点で読めなくなる。

 

被害の大きい読み放題のUnlimited会員

また、読み放題のKindle Unlimitedの会員は、2023年6月30日で利用できなくなる。それ以降の期間までの契約をした場合は月割での返金がされる。しかし、Kindle Unlimitedの利用者はこれまで読んだ本がすべて読めなくなることになる。

電子書籍の利用者は、サービスが停止された後、購入した書籍が読めなくなるのではないかという不安を持ち続けながら利用してきた。この撤退ではKindleが故障しない限り、読み続けられることが保証されたが、管理には手間がかかるようになる。また、Unlimitedの場合は、書籍が読めなくなるだけでなく、ブックマークやメモなどもすべて消えることになる。やはり、サブスクリプションではなく、購入した方がいい、いや、紙の本の方が安全だという声があがっている。

▲アマゾンは撤退に関して、丁寧なFAQを公開した。購入した書籍が読めなくなるかもしれないという事態に多くの消費者が動揺をしたようだ。特に、読み放題のUnlimited会員の中には怒りをあらわにしている人もいる。

 

国内ライバルに押されたKindle

Kindleは中国市場で2013年から販売をされ、当初の販売は好調だった。2016年には中国がKindleが最も売れた国になったほどだ。

しかし、それ以降、Kindleの人気は低下をしていく。ファーウェイ、小米、科大訊飛などの中国メーカーがE-Inkタブレットを発売し、価格や機能の点でKindleは影が薄くなっていった。

ひとつは高級機だ。タッチペンに対応をし、手書き文字が描けることから、企業でのノートや書類閲覧を兼ねるビジネスツールに適したE-Inkタブレットが登場をした。

▲EC「京東」で「E-Inkタブレット」を検索すると、さまざまな製品が見つかる。ビジネスに特化した高級機と、読書に特化をした格安機にわかれている。

 

ビジネスに特化した高級E-Inkタブレット

科大訊飛(iFLYTEK)のビジネス用E-Inkタブレットhttp://www.iflyink.com/#/product_detail_a1)では、タッチペンによる手書き、音声入力に対応しているだけでなく、メール、スケジュールなどの機能があり、PDFの閲覧、カメラによる書類のPDF化にも対応している。さらに、高級機になると、音声認識により自動的に会議録を作成してくれる機能が搭載されている。声質や音声源の方向から人を区別し、会話が被っても人別の議事録をつくってくれる。

Kindleアプリなどを入れれば電子書籍リーダーともなるため、こちらを好む人も多い。

もうひとつはシンプルな電子書籍リーダーだ。電子書籍を読むだけの機能しかないが、価格はKindleの半分程度。これもKindleよりもこちらを好む人が多い。

▲iFLYTEKのビジネス用E-Inkタブレット電子書籍リーダーだけでなく、音声入力による会議録作成、書類のスキャンなど多彩なビジネス機能を持っている。価格は高いが、電子書籍を読む層は比較的所得が高い消費者であるので、このような高機能E-Inkタブレットを好む人が多い。

 

中途半端なポジションに陥ったKindle

中国では多くのコンテンツが違法ダウンロードされていた時代があり、2001年のWTO世界貿易機関)加盟から正常化がされていった。しかし、「ネットで検索をして探し、ダウンロードする」という習慣が根付いていたため、多くのコンテンツサービスが配信サブスクや無料サブスクのスタイルを取るようになった。有料で会員になり見放題か、または無料で見ることができるが、有料コンテンツの販売、広告、グッズ販売などで利益を得るというスタイルだ。そのため、Kindleのように一冊一冊を購入するという習慣が定着しづらかった。

KindleにもテキストやPDFを転送して読む方法は用意されているが、USBケーブルで転送をするか、クラウドを経由させる必要がある。しかし、シンプルな電子書籍リーダーは、中身はAndroidタブレットであるため、リーダーのブラウザーから無料の書籍を検索して、そのまま読むことができる。利便性の点で、Kindleは遅れをとっていた。スマホが大型化をしてくれると、文庫本感覚でスマホで読書をする人も増えいった。

つまり、Kindle電子書籍閲覧以外のことがほぼできないデバイスであり、であればスマホやもっと低価格の電子書籍リーダーでもいいと考える人が多かったようだ。

 

tamakino.hatenablog.com

 

たびたび起きていたKindle撤退の噂

このような事情により、ネットでは以前から「Kindleは撤退するのではないか」と囁かれていた。特に今年2022年初めには、淘宝網タオバオ)や京東などのECでKindleが軒並み在庫なし状態になったため、Kindle撤退の噂がネットを駆け巡り、Kindle公式アカウントが否定をするという事態になった。

撤退の噂が出たのは過去にもあり、そのたびに「Kindleカップ麺の蓋にしか使えない」とネットでは揶揄をされた。特定の目的に特化した「専用端末」という発想が中国市場には合わなかったようだ。

 

 

中国のメタバース状況。教育、トレーニングの分野で産業化。スタートアップ企業も続々登場

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https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、中国のメタバース状況についてご紹介します。

 

一時は、世界を席巻した話題となったメタバースですが、元フェイスブックのメタが株価を大幅に下げたのと同時にすっかり過去の話題になってしまった観があります。メタバースが失敗したために、メタの株価が下がったと誤解されているようなところがあります。あるいはすぐにNFTアートの話題が登場したために、そういう人たちの中ではもう「メタバースは古い」ということになっているのかもしれません。実際、メタのホライズンにアクセスしても、何だか閑散としています。

しかし、メタが株価を下げたのは、本業の広告ビジネスが危うくなっているからです。特にメタは過去に何度もプライバシー情報の不適切な取り扱いを指摘され、利用者からの信頼を失いかけています。そこにアップルが、トラッキング広告(追跡広告)を不可能にする仕組みをiPhoneなどに導入するなどして、デジタル広告は苦しい立場に追い込まれています。メタバースそのものはこれからなので、メタの株価だけで決めつけるのは早計です。

 

実際、このメタバースの話題が登場したことで、VRヘッドセット「Meta Quest 2」が好調に売れ、1500万台に迫る勢いです。

メタバースは必ずしもVRVirtual Reality、仮想現実)とイコールではないのですが、VRバイスが一定程度普及をしたということは悪いことではありません。

しかし、明らかにコンテンツ不足です。VRバイスに対するネットでの評価は「最初はすごく感動するけど、3日で飽きて、1週間で使わなくなる」という意見が多く、私も同じような感想を抱きました。

教育系のコンテンツには面白いものがいくつもありました。例えば、ISS国際宇宙ステーション)の中を歩き回れるものだとか、昆虫が象ほどの大きさに拡大され、蜘蛛が餌を捕食するところをつぶさに観察できるなどというのは、今までにない映像体験で、可能性を感じます。

しかし、ゲームを中心としたエンターテイメントになると、「Beat Saber」(飛んでくるブロックをライトセーバーで切るリズムゲーム)以外にはこれといったものがない状態です。

 

https://store.steampowered.com/app/620980/Beat_Saber/?l=japanese

VRゲームで多くの人が楽しめる唯一と言ってもいいコンテンツ「ビートセーバー」。

 

もちろん、「バイオハザード」などの著名ゲームもVR化されていて、質の高いVRゲームを提供していますが、VR化したことによって新たな遊び方が生まれるというところまではいっていないように思います。有名なゲームの世界観をVRでも楽しめるという段階にとどまっているように思います。

 

ゴーグル型のVRは、必然的に一人称視点になってしまうことが、大きな制限になっています。

実はゲームというのは、一人称視点というのはFPSFirst Person Shooter、一人称視点のシューティングゲーム)ぐらいしかなく、多くのゲームは三人称視点です。例えば、PUBGや「荒野行動」などのバトルロワイヤルゲーム(武器を使って敵を倒し、生き残ることを目指す)では、背後霊のように自分のキャラクターを後ろ上方から見るような視点になっています。

これは、その方がキャラクターの動きが見えて、操作がしやすいということもありますが、自分のキャラクターの戦うところが見えるという演出のひとつにもなっています。

FPSが一人称視点でにできるのは、ゲームの基本構造が、「隠れている相手を見つけ」「自分は物陰に隠れ」「ねらいをつけて」「引き金を引く」というシンプルなものになっているからです。引き金を引いてしまえば、もう弾丸を曲げたり、早めたりという操作はできないので、一人称視点でもじゅうぶんに操作ができ、リアルさが倍増します。

ですので、FPSVR化は比較的うまくいっていて、VRアプリのストアのランキングでも必ず上位に入ってきます。

しかし、これも従来のゲームの拡張版にすぎません。BeatSaberのように、従来の2D画面ではできない(または面白みが出ない)けど、VRでは面白いというVR特有のキラーコンテンツがもっと登場してこないと、どこかで息切れをしてしまうかもしれません。

グーグルが開発したTilt Brushも可能性を感じさせます。手を使って、空間に「立体的な絵」を描いていけるというものです。もちろん、できあがった作品は3Dモデルになります。クリエイティブ力が必要とされるため、絵心のある人でないと使いこなせませんが、これの子ども用の簡略化された3Dペイントアプリが登場すれば、キラーコンテンツになりそうです。

 

https://www.youtube.com/watch?v=91J8pLHdDB0&t=69s

▲可能性を感じさせるTilt Bruch。三次元の絵を描いていける。

 

中国でもメタバースVRの話題は盛り上がっています。メタバースは「元宇宙」(ユエンユージョウ)と呼ばれ、百度バイドゥ)はメタの「ホライズン」に対抗して、「希壌」(シーラン)を発表しています。

 

https://www.youtube.com/watch?v=VGVppkDoYjs&t=44s

百度が開発したシーラン。メタのホライズンと基本的な部分は共通している。

 

メタのホライズンは、今後どうなるかはわかりませんが、現在のところ、VRバイス「Meta Quest」向けのアプリとして提供されています。つまり、VR専用の空間です。

しかし、シーランはVR用アプリだけでなく、スマートフォンやPC用のアプリも提供されています。つまり、VRだけでなく、2Dからもアクセスが可能です。オンラインミーティングなどがやりやすくなり、実用性を高める、優れた考え方だと思います。

 

日本や諸外国では、VRバイスというと、Meta QuestシリーズかPlaystation VRが主なものになりますが、中国ではMeta Questが利用できません。Meta Questを利用するには、現在、Facebookアカウントが必須となっていて、中国政府はFacebookを遮断しているため、Facebookアカウントが取得できないからです。

とは言え、VPN経由でFacebookにアクセスしている人はたくさんいて、Facebookアカウントを取得している人もかなりの人数に上ります。淘宝網タオバオ)などのECでもMeta Questは普通に売られていて、VPN経由でFacebookにアクセスをして、Meta Questを使っている人もそれなりにいると思われます。

ただ、レビューの欄を見ると、「VPN経由でのアカウント取得は難しくありませんか」という質問が必ずあって、「難しいです。私はできませんでした」という回答が寄せられています。すでにFacebookアカウントを持っている人や、ネットに慣れている人はともかく、普通の人がMeta Questを使うのはハードルが高いようです。

中国では、Meta Questの代わりに北京小鳥看看科技がVRバイス「Pico」シリーズ(https://www.picoxr.com/jp/)を発売していて、日本でも発売されています。ラインナップにBeatSaberはないようですが、主だったVRアプリには対応しているようです。

このように環境が整ってきたため、中国にもメタバース関連の企業がさまざま登場してきて、メディアを賑わせるようになっています。その多くが、VR特化ではなく、バーチャルキャラクター制作など、他の分野にも応用が効く領域でビジネスを展開しています。

今回は、百度メタバースVRでどのような領域に注力をしていて、どのような関連企業が登場しているかという現状をご紹介します。

 

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vol.129:SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か

 

 

「緑の波」で交通渋滞を解消。西安市で移動時間を23%減少させたハイセンスのスマート交通信号機

コロナ禍が落ち着き、再び都市は交通渋滞に悩まされるようになっている。その対策として広がっているのが「緑の波」運用だ。渋滞発生地点の交通信号を緑に変え、交通の目詰まりを解消するというものだ。この分野で交通信号機シェアトップのハイセンスが成果を上げていると斉魯風口が報じた。

 

交通信号機の品質で評価をされているハイセンス

中国の交通信号機のトップシェアを取っている企業は海信網絡科技(ハイシン、Hisense TransTech、https://www.hisense-transtech.com.cn)だ。省都級31都市の18都市、その他の1線から3線都市88都市の33都市で採用されている。大都市カバー率は37.5%になる。交通信号機の設置シェアでは16.6%となり、業界トップとなっている。

交通信号は厳しい気候環境の中で24時間7日間動作をしなければならない。そのため、どの都市でも安定性と低故障率を重視をする。95都市の交通警察に安定運用可能な交通信号機ブランドを選んでもらったところ、80都市がハイセンスの名前を挙げた。

ハイセンスのスマート交通事業部のシニア研究員、韓鋒氏によると、ハイセンスではすべての交通信号機を出荷前に、すべての機能を2回動作させてテストを行なっているという。さらに、第三者機関に試験を依頼し、それでようやく1台の信号機が出荷できる。

スマート交通事業部の陳暁明副総経理によると、ハイセンスの交通信号機の年間故障率は1%以下だという。

▲トンネル出入り口で、どのくらいの速度低下が起こるかを調査するハイセンスのエンジニア。ハイセンスのスマート交通信号は、実際の交通状況に合わせた明滅時間の運用が可能になっている。

 

渋滞を解消する「緑の波」を生み出すスマート交差点

近年、交通信号機メーカーの間で、競争のキーワードになっているのが「スマート交差点」だ。スマート交差点とは、1つの交差点の信号制御をスマート化するだけではなく、交通信号機の制御をネットワーク化し、交差点と交差点のネットワークを構築し、信号制御を点ではなく面で行うことを指している。

その象徴的な運用方法が「緑の波」(グリーンウェーブ)だ。交通監視カメラなどから渋滞が始まるポイントを検出すると、その集団の前の道路の交通信号を走行速度に合わせて緑に変えていく。水道管の目詰まりの兆候を検出したら、水の流れをよくして目詰まりを起こさないようにする仕組みだ。

 

緑の波で渋滞を解消した西安市

高徳地図の統計によると、2021年に交通渋滞が大幅減少した都市のランキングは、西安昆明、蘭州、銀川、貴陽になっている。このうち、西安市がハイセンスのスマート交通信号機を導入している。

西安市では1341カ所の交通信号機をネットワーク化し、114カ所のグリーウェーブ帯を設定した。ここで渋滞の兆候が起きた場合は、信号制御のタイミングを変えて、交通の流れをよくして、渋滞が他所に波及をする前に解消をしてしまう。

これにより、市内道路の平均移動時間は23%短縮された。

昆明、蘭州、銀川、貴陽でもハイセンスのスマート交通ソリューションを導入し、同様の効果を上げている。

西安市の交通警察では、渋滞が起き始めると、その前方の交通信号を次々と緑に変えていく「緑の波」運用で、交通渋滞を大きく軽減した。

 

競争が激しくなっている交通渋滞解消ビジネス

この交通渋滞解消の領域では、競争が厳しくなっている。アリババの城市大脳(シティーブレイン)を始めとして、百度バイドゥ)、華為(ファーウェイ)、騰訊(テンセント)、滴滴(ディディ)などのテック企業が同様のソリューションを開発し、目覚ましい成果をあげているからだ。

2020年の統計によると、全国で1万4860件のスマート交通公共プロジェクトがあり、5136社の企業が参加をしている。その中で、ハイセンスは交通信号システムの品質を基礎に、スマート交通に挑戦をしている。

▲ハイセンスのスマート交差点のシステム概要図。最終的には信号の明滅時間を制御するだけだが、さまざまなデータがクラウドに集められ、リアルタイムで分析されて決定される。

 

 



シェアリング自転車の明暗。1位の創業者は破産寸前。2位の創業者は大金を得てイグジット

2016年から2018年の間、新しいビジネスとしてシェアリング自転車が注目をされ、大量の投資資金が流れ込んだ。シェア1位のofoは現在破綻をし、創業者は億万長者から転落をした。2位のMobikeは美団に売却され、創業者は300億円のお金を得てイグジットした。対照的な結果になっていると鬼谷子思維が報じた。

 

1位の創業者は、億万長者から破産寸前に転落

2016年から2018年にかけて、中国で激しい競争をしたシェアリング自転車サービスの「ofo」(オーエフオーまたはオッフォ)と「Mobike」(モバイク)。ofoは結局破綻をし、創業者の戴威(ダイ・ウェイ)は、現在返済方法を模索している最中で、資産はすべて裁判所の管理下に置かれている。生活費として支出できる額は制限され、飛行機のビジネスクラスに乗るのにも裁判所の許可が必要な状態になっている。北京大学の学生だった戴威はわずか数ヶ月で億万長者になったが、わずか数年で莫大な借金を抱える身となった。

▲シェアリング自転車1位2位の創業者である戴威(左)と胡瑋煒(右)。同じビジネスで競争しながら、現在の境遇は対照的だ。戴威は裁判所の個人資産を管理される破産寸前の状態。胡瑋煒は大金を得て、第2の人生を楽しんでいる。

 

普通の女性がわずか3年で億万長者に

一方、Mobikeの創業者、胡瑋煒(フー・ウェイウェイ)は、Mobikeを美団(メイトワン)に売却したことにより、15億元(約290億円)の資産を持つ身となり、戴威とは好対照になっている。

胡瑋煒はごく普通の女性で、社会に出てからは月給3000元(約5.8万円)で、北京市内を転々とする北漂族(北京漂流族)だった。ごく普通の女性がわずか3年で富豪と呼べる身分になったことから、多くの女性の関心を集めている。

 

10年働いても、家も車も買えない

胡瑋煒は、1982年に浙江省東陽市郊外のごく普通の農村家庭に生まれた。両親は農業に従事をし、農閑期には東陽市周辺の木工工場で働くという家庭だった。胡瑋煒の才能もごくごく一般的な普通の子だった。運命を変えるには優れた大学を卒業する必要があると思い、勉強に熱中をした時期もあったが、成績は中位のままだった。

2001年、胡瑋煒は浙江大学の都市学部に進学をし、メディア学を専攻する。この都市学部は、浙江大学杭州市が共同して設立した教育機関で、学位が授与できるようになったのは2012年のことで、胡瑋煒が入学をした時は専門学校だった。

そこでも胡瑋煒は普通だった。高校までは、国語の成績がよく、作文は教師から褒められることも多かったが、浙江大学にきてみるとたいして目立つわけでもない。

卒業後は、地方都市の杭州市ではなく、大都市である北京市で仕事を得ようと、北京市に引っ越し、職を探した。いわゆる北漂族となった。

大量の履歴書を送り、ようやく「毎日経済新聞」の職を得て、自動車産業担当の記者となった。それから「新京報」「商業価値」「極客公園」とメディアを転々とし、10年間、記者を務めた。

それでも給料は低いままで、家も車も持っていなかった。北京で仕事を続けることに疑問を持つようになり、北京に居続けるには会社員では無理だと感じるようになった。そして、32歳の時に、それまで貯めた15万元(約290万円)を元手に、メディア「極客汽車」(ギーク・カー)という自動車専門メディアを立ち上げた。資金にも限りがあるので、オフィスは、胡同の中にある民家の一室だった。

 

取材を通じた出会いが人生を変えた

極客汽車は、自動車の先進テクノロジーや未来の自動車を伝えるメディアだ。その中で、スマート自転車を設計している陳騰蛟(チェン・タンジャオ)と知り合った。陳騰蛟は清華大学美術学部で交通車両の造形デザインを専攻し、日産インフィニティでデザイナーをしていた専門家だ。

陳騰蛟はその時、スマート自転車のデザインをしていて、胡瑋煒はそれに魅入られてしまった。そこで、やはり取材で知り合った蔚来汽車(ウェイライ、NIO)の創業者、李斌(リ・ビン)に意見を求めた。このスマート自転車をレンタルするビジネスの見込みはどうかと尋ねたのだ。すると、李斌は悪くないと答えた。いずれ、電気自動車(EV)が主流にはなるが、公共交通の最後の1kmを補う手段として悪くない。規模は大きくなるとは言えないが、ビジネスとしてはじゅうぶんに成立するというような内容だった。

▲胡瑋煒は、ごく普通のメディア記者だったが、Mobikeを創業し、わずか3年で億万長者の身となった。

 

レンタル自転車の不便さを解消すれば上手くいく

胡瑋煒は、自分の経験からも、このビジネスはうまくいくのではないかと感じた。この頃すでに地方政府が公共交通を補う手段として低価格で自転車がレンタルできるサービスを始めていた。しかし、どれもが使いづらかったのだ。

杭州市に出張をした時に、レンタル自転車を使おうとしたが、時間が早かったせいか、カードを発行する窓口が開いていなかった。目の前に自転車はあるのに借りることができなかった。

上海市ではレンタル自転車を借りることができたが、カードの発行に手間と時間がかかった。また、借りた自転車は借りた場所に返却しなけれならず、移動ツールとして使うことができない。しかも、拠点の数が少ないので、そもそもレンタルできる場所を見つけるだけでも手間がかかる。自転車を借りられる場所を探すために、自転車に乗って探し回ることが必要なほどだった。

陳騰蛟のスマート自転車なら、スマートフォンで自転車のIDを読み込むことで貸し出しをすることができる。李斌が言うように、どこでも借りることができ、どこにでも返すことができるレンタル自転車があれば、多くの人が便利に感じてくれるのではないか。李斌は「モバイルフォン」を文字って「モバイルバイク」という言葉を使った。胡瑋煒は、ここから「モバイク」というブランド名を思いついた。

李斌はNIOの仕事が忙しいため、胡瑋煒に起業することはできないが、問題が起きたらいつでも相談にきてほしいと言った。

 

モバイク創業、美団に売却

2015年1月、李斌が146万元(約2800万円)を出資して、モバイクが創業した。そして、同時期にofoが登場し、両社は競い合うようにして成長をしていった。競争が激しくなり、資金不足に陥ると、李斌が投資家や投資会社を紹介してくれる。さらには美団(メイトワン)の創業者、王興(ワン・シン)が支援を申し出てきた。そして、最終的に2018年4月、モバイクは美団に売却をされることになる。買収額は27億元で、胡瑋煒は15億元の大金を手にすることになった。

この一件は、15万元の資産の女性が、わずか3年で15億元になったと話題になった。

▲2018年には、シェアリング自転車各社が過剰に自転車を投入したため、街のあちこちに自転車の墓場が出現し、大きな社会問題にもなった。

 

好機を逃さなかった「普通の女性」、胡瑋煒

胡瑋煒が成功できたのは、デザイナーの陳騰蛟、NIOの李斌と知り合えたことが何よりも大きい。このため、彼女の成功はたまたま幸運に恵まれただけだとみなす人もいる。しかし、李斌が彼女を信頼したのは、知り合いだからではなく、彼女のビジネスアイディアに見どころがあったからであり、その後、出資をしたのは大きなリターンが得られると判断をしたからだ。

好機を活かせた人は幸運だと言われる。好機を活かせなかった人は不運だと言われる。幸運も結局は本人次第なのだ。

 

 

ドローン規制で足踏みをするDJI。その技術を次は地上で活かして成長をねらう

DJIの成長が止まっている。中国政府がドローンに対する厳しい規制を始め、売上が落ちているからだ。しかし、DJIは、ドローンで培った技術を今度は地上に適用し、地上で鍛えられた技術を空中に還元することで、次の成長曲線を描こうとしているとAI藍媒匯が報じた。

 

DJIの成長に翳り、次の成長は可能か?

2006年に創業し、ドローンの分野で国際的なリーダー企業となった大疆(ダージャン、DJI)。セコイアキャピタルを始めとする多数の投資会社もDJIに注目をし、DJIはいまだ上場をしていないものの、企業価値はすでに1600億元(約3兆円)を超えていると見られている。

しかし、その輝きも最近では失われてきている。品質問題や米中貿易摩擦により、業績が伸び悩み、投資会社の中には離脱をするところも現れ始めている。技術力とイノベーションでドローンの領域を切り開いてきたDJIが、踊り場で足踏みをする状況になっている。

▲ドローンで世界的なリーダー企業となったDJI。その技術を地上で活かすことで、第2の成長曲線を描こうとしている。

 

停滞の理由は政府の厳しいドローン規制

DJIの業績が停滞をしたのは、中国政府がドローンに対する規制を始めたことが大きい。民生用ドローンで250グラム以上のドローンは、登録をすることが必須となった。さらに、落下をした場合に人に損害を与えるような市街地などが飛行禁止地域として設定をされたため、都市部ではほとんど飛ばすことができなくなった。このような規制を無視してドローンを飛ばし、処罰を受けるという事件も多発をし、ドローンのイメージそのものも悪化をして、売上は大きく後退した。

 

DJIは開発したAIを地上で使うことで成長をねらう

「2020ドローン市場部門報告」(DroneAnalyst)によると、DJIの中国でのシェアは2018年の74%から2019年の69%に低下をしている。DJIのシェアが低下をしたのはこれが初めてのことだった。

DJIの次の成長曲線は「AIの地上化」だ。DJIのドローンは、その飛行性能だけでなく、AIテクノロジーが突出をしていた。これにより、ドローンが物体を自動追尾して撮影することや撮影した物体の識別、さらには農薬の自動散布などに活かされている。

この蓄積されたAIテクノロジーを活かして、アクションカメラやロボット玩具、マイクロフォンなどの製品を発売している。いずれもAIテクノロジーが活かされ、他社製品とは差別化がされている。

アクションカメラは物体を認識して追跡をして撮影しながらピントを合わすという高度なことをしており、ロボット玩具は自動で障害を回避し、マイクロフォンはワイヤレスで長距離の伝送を可能にする。いずれも、ドローンで培った対象追跡技術、回避技術、信号伝送技術が活かされている。

▲DJIのアクションカメラ。撮影対象の物体を自動追尾し、焦点を合わし続ける。ドローンで培ったAI技術が活かされている。

▲DJIが発売しているロボット玩具。障害(兵士のフィギュア)を認識し、自動で回避をしながら走行する。

▲DJIは手ぶれをキャンセルするスタビライザーでも秀でている。実際ウェブメディアで業務用ビデオカメラを使うのはもはやかなり特別な場合だ。多くは、DJIのスタビライザーとスマホ一眼レフカメラが使われる。

 

地上で鍛えたAIを業務用ドローンに還元する

このような地上でAIテクノロジーが鍛えられることが、ドローンにも還元されている。DJIの農業用の農薬散布ドローンでは、上空から作物の品種を画像解析で識別し、異なる作物に異なる農薬、異なる量の農薬を散布をすることが可能になっている。農薬のドローン散布は、従来、単一の作物を植える大農場でないと業務効率があがらなかったが、このDJIのドローンを使うと小規模農家の小さな耕作地でも効率よく農薬を散布できるようになる。

DJIは、このAIテクノロジーを空中と地上の間で回っていくサイクルを確立して、空中でも地上でもイノベーションを起こす。それが可能になれば、DJIの第2の成長が始まる。DJIはドローン企業ではなく、AI企業になろうとしている。

▲DJIの農薬散布ドローンは、上空から作付けされた作物を自動認識し、異なる農薬を適切な量で散布をすることができるようになっている。狭小農地での自動化、効率化に大きな貢献をしている。

 

 

「アリババ」は誰のもの?商標問題を抱えて上場したジャック・マーの「アリババ」と商標権侵害で訴えた「アリババ」

アリババは、2007年に香港に上場をしているが、このとき、「アリババ」という社名に商標権問題を抱えていた。訴えたのが、商標権買取を目的とした悪質企業ではなく、真っ当にコンピューターゲームを販売していた正普科技であっただけに問題は複雑だったと律界小蝦米が報じた。

 

上場時に商標問題に直面したアリババ

アリババは、2007年11月に香港証券取引所に上場をしている。しかし、この時は、BtoBビジネスのAlibaba.comが中心で、ECの「淘宝網」(タオバオ)やスマホ決済の「支付宝」(アリペイ)は含んでいなかった。いずれにしても、この時に多くの人が「阿里巴巴」(アリババ)という不思議な社名を知ることになった。

しかし、このとき、アリババは「アリババ」という社名の商標問題を抱えていた。北京市の正普科技という企業が「アリババ」の商標を所有しており、アリババという名称の使用停止を求めて北京市海淀区人民法廷に訴えたのだ。

▲2007年に香港に上場した時のアリババ。この時、アリババは商標権問題を抱えていた。

 

ゲーム販売では知名度のあった正普科技

正普科技は、1993年8月に姚増起が起業したゲーム販売会社。「芝麻開門」(開けゴマ)と銘打ったゲームシリーズを販売して、コンピューターユーザーの間では有名だった。このシリーズは1000万セットも売れている。

1999年には「2688」というECサービスを始めている。タオバオとほぼ同じ時期だ。そして、2000年から芝麻開門シリーズの発売を始め、2002年には「アラジンのランプ」シリーズの発売を始めている。

つまり、この正普科技はまっとうな黎明期のテック企業であるだけに話は複雑だった。もし、これがアリババのじゃまをして、商標を買い取ってもらうことが目的であれば、どこかで和解をすることも可能だ。しかし、正普科技としては自分たちの権利を侵害されたことになるため、この紛争は7年にわたって続くことになる。

▲正普科技が発売していた「開けゴマ」シリーズのコンピューターゲーム。かなりの人気があり、累計1000万部以上を売り上げている。

 

法人でなければ商標申請ができなかった当時のルール

1999年5月14日、正普科技は商標局で「アリババ」の商標申請をおこなっている。「開けゴマ」「アラジンのランプ」に続くシリーズ名として使う予定だった。そして、1ヶ月ほど経った1999年6月28日に、アリババという企業が登記をされる。

当時の中国の商標法では、個人が商標を申請することはできなかった。創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)としては、会社を登記するする前に「アリババ」の商標を申請することはできず、先にアリババという法人を登記してから、アリババという法人格で商標を申請する必要があった。これにより、アリババの商標申請は遅れてしまい、わずかな差で偶然にも正普科技が先に取得をしてしまったことになる。

商標局では、申請があった商標を審査をした後、3ヶ月間の公告を行う。この公告期間の間に意義が申し立てられなければ商標が確定をする。「アリババ」の商標も3ヶ月間の公告が行われ、その最終日に企業「アリババ」が異議申し立てをおこなった。ここから、アリババと正普科技の紛争が始まる。

 

対立する両者の主張

正普科技の主張は、先願主義の原則に基づいたものだ。正普科技の方が早く申請をしている。この申請時に、アリババという企業はまだ登記されてなく、法的には存在をしなかったのだから、商標を申請することはできない。アリババの商標の所有権は正普科技にあるというものだ。

アリババの主張は、正普科技が商標申請をした時に、アリババはすでに一定の知名度を得ていたというものだ。1999年10月には、米国のゴールドマンサックスを筆頭とする投資団から500万ドルの投資を受けており、国際的知名度もあったというものだ。

 

裁定はアリババの勝ち

2005年11月に、商標審査委員会は裁定を下した。それは、正普科技の商標申請はガーデニング関連商品の領域では認めるが、それ以外の領域では無効としたものだ。正普科技はソフトウェアやオンラインサービスを中心に商標申請をしており、ガーデニング関連商品はついでに申請したにすぎない。事実上、アリババの主張を認めたことになる。

商標審査委員会は、商標の申請には先行する他人の権利を侵害しないことが条件になっており、申請時にはアリババは一定の知名度を持っていて、アリババの権利を侵害する申請だったとした。

当然ながら、正普科技は納得がいかず、北京市高級人民法廷に告訴をした。高級法廷の判断も、正普科技の商標を無効とするものだった。申請時にすでに「Alibaba.com」が存在をし、一定の知名度があった。正普科技の商標申請を認めると、消費者に不要な混乱をもたらすことになるというものだった。

 

商標局が通知省を誤って郵送、問題は複雑に

ところが、この話はここで終わらない。2006年9月、商標局は正普科技に対して、商標取得通知証を郵送してしまうのだ。内容は、正普科技が申請した通り、ソフトウェアプログラム、ソフトウェア設計、ガーデニングなどに対して認められた。有効期限は2000年11月14日から2010年11月13日までとなっている。

商標局の手違いだとしか思えないが、正普科技にしてみれば正式に商標を取得したことになる。正普科技は、これを盾に再びアリババを相手取って、商標権侵害で訴訟を起こしている。

最終的に、商標局が手続きのミスを認め、正普科技とアリババも和解をし、正普科技の商標の有効期限が切れた2010年に、今度はアリババが商標を申請することで、この紛争は決着をした。

▲現在の2688網。トップページの「この世に開店できない店はない」は、アリババの「この世に実行できないビジネスはない」をもじったもの。

 

今でも残るアリババへの対抗意識

現在、正普科技という企業は存在をしなくなっているが、そのうちの2688網(http://www.2688.com)が生き残っていて、オンラインショップの開店や運営をサポートする事業をおこなっている。ビジネススクールの名前は「開けゴマ学院」というもので、正普科技時代の名称が今でも使われている。

また、2688網がミッションとして掲げているのは「この世に開けない店舗をなくす」というものだが、これは明らかにアリババの「この世にできないビジネスをなくす」をもじったものだ。2688網は、いまだにアリババに対する対抗意識を失っていないようだ。