中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

DXが終わり、AXが始まる。AX(AIトランスフォーメーション)で変わる飲食店の業務

「まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 356が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、AIトランスフォーメーションについてご紹介します。

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を覚えていらっしゃるでしょうか。すっかり死語になってしまいました。DXは基幹システムごとつくり直すような大きな改革が多く、現場は意思決定にほとんど参加できないというパターンが多かったように思います。上から「来月からこのツールを使ってくれ」と言われた時には、そのツールがどれだけ現場の業務フローに合っていなくても、もはや業務フローの方をツールに合わせるしかなくなっています。

もちろん、うまくいった企業もたくさんありますが、多くは経営陣とDX推進部だけが先走り、現場は冷めた目で見ているということになっていました。

 

現在、AIが急速に広がり、業務でAIを使うのはもはや一般的です。この使用状況を見るには、「生成AIに関する実態調査」(PwC、https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2026.html)が参考になります。売上高500億円以上の企業に対して、継続的に調査をしているものです。

この調査によると、日本企業は2024年から急速にAIを活用するようになっています。

▲日本企業は2024年頃から急速にAIを活用するようになっている。「生成AIに関する実態調査」(PwC)より引用。

 

最新の2026年春の段階では71%の企業が活用中であり、未着手はわずか4%にまで減っています。

ただし、成果が出ているかどうかについては、他国に一歩遅れをとっているようです。

▲成果が出ているという実感の面では他国に遅れをとっている。現在、AIと奮闘中の状況。「生成AIに関する実態調査」(pwc)より引用。

 

導入はした、現在、成果に結びつけるために奮闘中という段階のようです。

 

AX(AIトランスフォーメーション)という言葉も使われるようになっています。しかし、今ひとつ広がりません。個人的にはDXの続編的な位置づけにしてしまうと「またかけ声だけで終わるのでは」という不安を感じているのではないかと思います。

しかし、今度のAXは、これまでのIT推進、DX推進とは様子が違っていることは、みなさん実感されているのではないでしょうか。その決定的な違いとは、これまでのDXなどのデジタル改革は、現場とは異なるところで意思決定がされ、現場はそれに従うしかありませんでしたが、AXは現場から変えていくことが可能だということです。業務上の疑問をAIに尋ねてみる、書類の下書きをつくってもらう、会議の録音を文字起こし要約をつくってもらう、外国語の資料を翻訳してもらうなどということはもうみなさん、言われなくてもやっているはずです。

また、さらに進んで、イベント企画のアイディアを出すのにAIに壁打ち相手になってもらったり、Excelでデータ解析をするのに面倒な関数を書いてもらうということもされているのではないでしょうか。

 

さらに大きいのが、AIエージェントの登場です。AIエージェントというと、電子メールの返信を自動化したり、ウェブを監視して必要な情報が登録されたら通知をしてくれるなどがその実例ですが、このような本格的なAIエージェントは、システムに深く入り込んで動作をするため、うかつに使うとシステムがおかしくなってしまう危険性があります。

そのためか、プレイグラウンドと呼ばれる閉鎖的な場所にウェブアプリを作成する機能が搭載されているAIが増えてきました。Claude、Codexなどが代表例ですが、中国ではWorkBuddy(テンセント)、QwenWork(アリババ)、DoubaoWork(バイトダンス)などが続々と登場して、「Work製品」などと呼ばれるようになっています。

このようなWork製品では、誰でも簡単にノーコードでウェブアプリを開発することができます。例えば、私の場合、インタビュー取材を録音した音声ファイルを放り込むと、各発言に話者の区別とタイムスタンプを入れた文字起こしデータをつくるというアプリを開発しました。

最初にかかった時間は30分もなかったと思います。「音声ファイルを渡すから、これこれの条件で日本語に文字起こしをしてファイルに保存するアプリを生成して」とプロンプトに書くだけです。AIの方が考えて、細かい点を尋ねてきます。「音声ファイルはmp3、m4a、wavの3つに対応することでよろしいですか」「音声ファイルの内容は日本語のみで進めてよろしいでしょうか」などです。これに答えていけばウェブアプリができあがり、実際に便利に使えています。

これまで音声の文字起こしには有料サービスを使っていましたが、その必要がなくなり、さらに文字起こしの精度もあがりました。なぜなら、途中でAIが「人名や製品名についてはネット検索をして推定される名詞に置き換える機能を追加しますか」と聞いてきたので「はい」と答えたからです。

ただし、使いはじめのうちはしばしばエラーが起きました。3時間もある音声ファイルを渡したところエラーが起きました。なぜエラーが起きるのかを尋ねてみると、文字起こしをするAIは一度に数十MBのデータしか扱えないため、データがあふれてしまうのだと説明してくれました。

「それは困る。なんとかなならないのか」とプロンプトに入れると、「大きなデータは自動で分割して文字起こしをし、最後にテキストデータを連結する機能を追加します」と提案してきてくれました。自動でやってくれるので、私は音声ファイルをドロップするだけです。

それ以降も、細かい問題が出ていますが、そのたびに原因を調べてもらい、「なんとかして」と言うだけで、なんとかなっています。

さまざまな条件で使われることになる市販アプリの水準には達していませんが、自分で使う分にはじゅうぶんなウェブアプリができあがります。

この他、企業の財務報告書の中から主要なデータを抽出してグラフ化し、1ページか2ページのシートにまとめるアプリ、中国の主要なニュースサイトから私の興味がある記事を自動抽出し、見出しを日本語に翻訳してリストするアプリなどをつくって使っています。

いずれも制作時間は30分もかかりません。しかも、後から追加したい機能が出てきたら、AIにお願いすれば追加してくれます。

 

おそらく、読者のみなさんの中にも業務に必要なちょっとしたアプリを自作して使っている方も多いかと思います。例えば、Excelの大きなデータを整理しなければならない時、さまざまな関数を使うかと思いますが、スペースの扱いをどうするかなど意外に面倒です。

そんなことに格闘するよりは、AIにこうしてと頼んでしまった方が楽です。間違ったことをやったら、「そうじゃなくて、こうしてほしい」と指示をすればいいのです。そして、同じことを今後もやる可能性があるなら、「今の操作をアプリにしてもらえないか」と頼めばウェブアプリをつくってくれます。次からは、Excelファイルをドロップするだけで同じ作業をやってくれるようになります。

個人がこのようなアプリをつくって使っていれば、隣の席の同僚が「それ便利だな。私にも使わせて」ということになります。現在は、自作したウェブアプリを他人と共有するのには少し手間がかかりますが、それでもngrokなどのツールを入れておけばいいだけです(詳しいやり方はAIが教えてくれます)。早晩、Work製品の中で共有が簡単にできる機能が搭載されるはずです。

 

ここがAXの最大の利点です。DXは上層部がツールを規定し、現場はそれを使うしかありませんでした。使いづらくても我慢するしかありません。しかし、AXではベースになるツールは上層部が規定しますが、現場は必要な業務アプリをどんどんつくっていくことができます。

他の従業員、他店舗に横展開するのも難しくありません。この段階で専門知識のあるエンジニアに見てもらって、コードを洗練させて動作を安定させたり、セキュリティ周りの確認をしてもらえば、業務ツールとして立派に通用します。

DXは現場の業務フローを無視して設計されることも多く、業務効率をあげるどころか下げてしまう例も存在します。とにかく報告の回数が増え、毎回写真を撮らなければならない、仕事が滞るという不満を述べる人もいます。現場の業務効率改善よりも、何かあったも責任を取りたくない上層部のために証跡づくりシステムになっている例もあります。

しかし、AXではノーコードによるAIエージェント開発という武器が与えられたため、現場の工夫でどんどん業務効率をあげていけるようになっています。ボトムアップのデジタル改革が可能になる。ここがAXの最大のポイントです。

▲DXとAXの違い。最も大きいのは人間の役割。作業ではなく監督、意思決定者、評価が主な仕事になる。

 

そこで今回は、飲食店のAX事例をご紹介します。現在の中国の飲食店は、新規出店した店舗の9割が1年以内に閉店するという極めて厳しい状況に置かれています。そのため、どこもなんとかして生き残ろうとして必死なのです。

このような飲食チェーンから人気があるのが天商財龍(https://www.tcsl.com.cn/)のソリューションです。現場のモバイルオーダーから予約システム、発注、シフト管理、本部の監査など飲食チェーンのすべてをカバーするSaaSソリューションを提供していますが、特徴はAIを組み込めるということです。提供されたソリューションでは不足の部分があれば、ノーコードでウェブアプリを作成して組み合わせて使うことができます。

▲天商財龍のソリューション。業務端末から決済端末まで、さらには仕入れやスタッフ管理まで、飲食店が必要としているすべてのソリューションを提供している。従来のSaaSと異なり、AIで自作したウェブアプリと連携させることができる。

 

もちろん、天商財龍以外にも飲食向けソリューションプロバイダーは無数に存在していて、その多くが好きなAIを組み込めるのがあたりまえになっています。

今回は、天商財龍の利用事例を中心に、飲食店がどのようにAIを活用しているのかをご紹介します。

 

天商財龍では、次のようなデータを作成することを推奨しています。

▲推奨されている料理のデータカード。使われている原材料の重さ、単価などが整理されている。これをつくっておくと、さまざまな分析が可能になる。

 

これは回鍋肉のデータカードです。可食部歩留というのは、仕入れた食材の何%が料理に使えるかという数値です。皮を剥いたり、脂身の部分は取り除いて捨てなければなりません。しかし、仕入れは捨てる部分も含めて重さでいくらかが決まります。つまり、可食部歩留を明らかにしておかないと、料理の正確なコストが出せません。

この可食部歩留を算出するには、開店前の仕込みの時に、料理に使う部分と捨てる部分の重量を測定する必要があります。やり方は店舗により様々ですが、最も賢い店舗では壁などに貼り付けたタブレットから仕込む食材を選んでタッチし、可食部と廃棄部分の2つの秤を用意し、ボタンを押せば適切なデータが保存されるようにしています。現場の負担はほとんどなく、それどころか仕込み作業記録が取れ、食材在庫の量も正確に把握することができるようになります。

単価はその日によって異なるため、受発注システムからデータを引っ張ってきます。すると原材料コストが計算でき、価格と比較することでメニューごとの粗利率が計算されます。

マネージャーはこの数値を見て、メニュー価格を改定したり、セットメニューを企画できるようになります。また、今日の定食は回鍋肉にするか青椒肉絲にするかという問いにもその日の粗利率を見ればすぐに答えが出せます(もちろん、お客の人気であるとか、食材の仕入れ料など複数の要素が関わるため、AIに相談しながら決める方が確実です)。

この表を自動でつくるには、先ほどのWork製品を使ってAIにウェブアプリをつくってもらえばすぐにできます。多くの店長、マネージャーが自分でデータカードをつくるアプリをつくって、その日や翌日のメニュー決定の参考にしています。

たったこれだけのことをするだけで、どんぶり勘定の運営からデータ駆動運営に現場の意識が変わっていきます。

 

現在のAIはマルチモーダルに対応しています。つまり、画像や音声なども扱うことができます。また、カメラユニットは中国では数千円で売られています。電源を確保するのが少し面倒ですが、データはWi-Fiで送信されるため、飲食店のさまざまな場所にカメラユニットが取り付けられ、AIに処理させられるようになっています。

いちばん多いのは、厨房とフロアの間のカウンターの真上にカメラユニットを取り付ける工夫です。厨房スタッフが調理の終わった料理を置き、それをフロアスタッフが配膳するというカウンターです。

ここにカメラがあれば、料理を認識して、盛り付けは正しいか、定められた食材が使われているか、さらには異物が混入していないかなどを判定することができます。

もちろん、これには料理を学習する必要がありますが、だいたいひとつのメニューで100枚の画像を見せれば実用的な精度になるそうです。

導入してから数日間は、映像を見て、そこに人手で何の料理であるかラベル付けをしていかなければなりません。ここがたいへんですが、一度学習してしまえば、後は安心して料理を出せるようになります。万が一、不合格規格の料理がカウンターに並べられた場合は、リアルタイムでアラートを出すことも可能になります。

それだけではありません。カウンターに置かれる料理を把握するということは、注文されてからカウンターに出てくるまでの時間、配膳までの間カウンターに置かれている時間も正確に測れるということになります。

これもAIに頼んで、生データから必要な数値を抽出するウェブアプリをつくってもらい、Excelファイルに整理し、これをAIに分析してもらうことでさまざまな改善案を得ることができます。例えば、調理する優先順位のつけ方が効率的でないとか、そもそもコンロの数が足りていないとか、具体的な要因を発見することができます。

今回はこのような飲食店の現場で始まっているAIの活用事例をご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.353:縮小する月餅市場。その中で成長する老舗「広州酒家」。老舗ブランドの生き残り方

vol.354:中国の個人消費はなぜ小さい。伸び代のある市場と伸び代のない市場

vol.355:サイバー攻撃による情報流出。攻撃に強い中国、弱い日本の違いはどこにあるのか

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com

 

 

 

関税撤廃の島となる海南島。商業の香港、工業の海南島、2つの関税フリー地区

海南島の全島封関制度がスタートした。海南島では輸入関税が撤廃され、海南島で加工した製品を中国に輸出する際も条件を満たせば関税がなくなる。海南島は加工製造業の島になろうとしていると近史閣が報じた。

 

第2の香港、海南島

中国のリゾート地として知られる海南島。この海南島が第2の香港になろうとしている。

中国政府は海南自由貿易港構想に基づき、2025年12月18日から「全島封関」制度をスタートさせた。これは海外から海南島に輸入される輸入品の関税を原則撤廃するというものだ。商品を海南島から中国本土に輸入する時に、通常の関税を徴収する。つまり、海南島全体を保税特区にするというもので香港と同じ仕組みになる。

▲海南島の全島封関制度がスタートした。

 

海南島で製造すれば関税が完全フリーになる

大きく違うのは「加工増値」の特例ルールだ。海外から関税なしで原材料や部品を輸入し、海南島で加工し、30%以上の付加価値をつけた製品は、中国に移す時にも関税が免除される。これにより、外資企業や中国製造企業が海南島に加工拠点を設置し始めている。さらに、法人税も軽減される優遇措置があり、海南島は製造の島になろうとしている。

香港が商業の自由がある買い物天国であるとするなら、海南島は工業の自由があるものづくり天国になる可能性がある。

▲海南島の輸入関税は撤廃される。海南島で加工をすれば中国への輸出関税も免除される。

 

香港よりも行きやすい買い物天国

海南島の市民にも恩恵がある。シャンプーや粉ミルク、スナック菓子など輸入製品が関税なしで安くなる。中国からも観光客がやってきて、香港と同じように買い物を楽しむことができる。中国に持ち込む時は、原則として自分で消費する範囲の量であれば関税が免除される。香港と同じような買い物天国となり、海南島の観光業に大きな恩恵をもたらしている。

香港は現在でも特別区であり、出入りするには入境出境手続きが必要になる。電子化され、非常に簡単になったとは言え、煩わしさはある。しかし、海南島は中国国内なのでこのような手続きはなく、気軽に高速鉄道で行き来をすることができる。

海外からの旅行者も取り込めるのではないかと期待されている。外国人が海南島の免税店で買い物をした場合、関税だけでなく、中国の消費税も免除される。商品は、帰国する空港などに送られ、そこで税関の検査を受けた状態で渡される。個人で消費する範囲の買い物であれば、関税と消費税が免除され、特別な還付手続きは必要なく、空港まで運んでくれる。海南島が第2の香港となり、国際的なリゾートになる可能性もある。

これを見込んで、ジュエリー企業が海南島に進出している。海南島で宝石を輸入し、そこでジュエリーに加工すれば、中国にも海外にも関税分を安くした価格で販売できるからだ。

海南島の全島封関が始まって半年で、企業が8.5万社増え、外資系企業も737社増加した。さらに、7000社の外資系企業が登記を申請している。海外から海南島への直行便も増え始めている。まだ時間はかかるが、海南島は第2の香港になろうとしている。

▲海南島はリゾート地としても有名で、関税なしの買い物を中心にした観光業も期待される。

▲海南島の輸入関税が撤廃され、第2の香港になろうとしている。

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com

 

 

 

 

コストコがEC大手の京東と独占契約。全国物流網を持つ京東と手を組み、OMOに進出

コストコが京東と独占契約を結んだ。即時小売が広がる中で、全国物流網を持つ京東と提携して、一気にOMOに対応しようというものだ。慎重なコストコが動いたことで、他の小売ブランドもOMO対応が加速される可能性があると星海情報局が報じた。

 

コストコが京東と独占契約

大手EC「京東」(ジンドン、JD.com)は、コストコとパートナー契約を結んだことを発表した。コストコは今年2026年5月には京東サイト内にオンライン旗艦店を出店していたが、京東と独占契約を結んだ。つまり、京東以外でコストコの商品をオンラインで購入することはできなくなる。

これに合わせて、コストコは大きな動きを見せている。配送料が無料になる購入額は199元から99元(約2300円)と半額程度に下げ、割引クーポンもこれまで「満499減20」(499元以上購入すると20元割引)だったものが、「満299減20」と使いやすく、割引率を高くした。

▲コストコは堅実な経営手法で知られている。中国に進出して6年になるが、店舗数はまだ7店舗にすぎない。

 

じっくり成長、確実に成長のコストコ

このような急速な動きに、中国のコストコファンは驚いている。なぜなら、コストコの経営戦略は堅実を主とし、時流に合わせて目まぐるしく施策を打っていくことはしてこなかったからだ。

コストコは中国に進出してから6年になるが、わずか7店舗しか展開せず、それも上海を中心とした長江デルタ地区に限られている。

ところが、コストコの2024年の売上高は87億元(約2000億円)を超え、店舗あたりの売上高も10億元を超えている。上海市の閔行店は、中国だけでなく、グローバルでもトップクラスの売上になっている。

コストコのロン・バシュリスCEOは、訪中し、深圳と南京の店舗を視察した際、メディアから「コストの店舗展開ペースは遅いのではないか?」と尋ねられて、そうは思わないと答えた。「成長が停滞しているとは考えていません。むしろ、これが私たちが設計したペースなのです」。

 

販売は利益なし、会費で利益を出す

コストコは商品の販売ではほとんど利益を出していない。良質のものを利益なしの低価格で販売をする。利益は年会費から得ている。グローバルでの2024年度の業績によると、販売粗利率はわずか10.92%でしかない。ここから販促費用などを引くと、営業利益は0かマイナスだ。

しかし、年間の純利益は73.67億ドルあり、会費収入が48.28億ドルある。つまり、利益の2/3は会費からきているのだ。

コストコの店舗展開は堅実だ。店舗を展開する時も、賃貸をするのではなく、その土地を購入することを基本にしている。そのため、立地選定には時間をかけ、開店するまで3年程度かかることは珍しくない。立地さえ間違えなければ、確実に利益が出る体制ができている。

 

コストコが判断した「動くべきタイミング」

それがなぜ、オンラインでは突如として素早い動きを見せたのか。コストコは中国市場で「時が訪れた」と判断したからだ。

即時小売(インスタントリテール、クイックコマース)が成熟してきて、もはや中国の消費者には「買い物に行く」という感覚はなくなっている。「買い物をする」という感覚だけで、オンラインで購入するかオフラインで購入するかは、その時の状況により選ぶという感覚になっている。即時小売は商品がEC価格で販売され、注文をすれば30分で自宅にでもオフィスにでも届けてくれる。

2016年にアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)氏は、「オンライン小売とオフライン小売は深く融合し、すべての小売業は新小売になっていく」と宣言し、多くの人を驚かせたが、それが現実のものになってきた。

▲京東はEC大手と知られるが、強みは自社物流網。幹線から毛細血管までカバーし、あの広い中国で翌日配送、当日配送を実現している。

 

配達網を構築するのは簡単ではない

しかし、コストコのようなオフライン販売業者から見ると、クイックコマースへの進出は簡単ではない。全国の消費者に30分で配達するには、前置倉と呼ばれる小型倉庫を全国に張り巡らせ、毛細血管のような物流網を構築しなければならない。

過去、生鮮食料品を中心に「毎日優鮮」「叮咚買菜」は、自力で物流網を構築し、クイックコマースというジャンルを切り開いてきたが、毎日優鮮は資金繰りが悪化して上場廃止となり、叮咚買菜は全国展開を放棄し、江蘇省、浙江省、上海市などの購買力の高い地域のみに特化することでようやく黒字化を果たした。

クイックコマースの仕組みを自力で構築することは、コストコのような大企業でも簡単ではない。

▲京東の物流網は、宅配便企業よりも強力。コストコはOMOに対応するために京東と手を組んだ。今後、他の小売ブランドも京東と提携する例が増える可能性がある。

 

動脈から毛細血管まで物流を制する京東

しかし、消費者の方はすでにクイックコマースを利用することは日常のものとなっている。そこには対応しなければならない。

唯一の正着は、すでに全国物流網を持っているプラットフォームと提携することだ。京東は、自社仕入れ、自社配達のECで、3600を超える倉庫を持ち、1万9000箇所の配送拠点、66万人の従業員を擁している。すでに、ほぼ全国で当日配送または翌日配送を可能にしている。

それだけでなく、2025年にはフードデリバリーに参入し、30分配達網を構築した。全国に一気にクイックコマースを展開できる唯一の企業だ。コストコがクイックコマースに対応するには、自力で配達網を構築するのではなく、京東と提携することが当然の帰結となる。

コストコが京東と提携したことで、これが刺激となり、他の小売ブランドも京東と提携する例が増えていくことは確実だ。コストコにとって大きな飛躍の機会になるだけでなく、京東にとっても大きな飛躍の機会になる可能性がある。

中国ではオンラインで購入し、30分で届けてもらうという買い物スタイルがますます浸透していくことになる。

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com

 

 

 

Kimi K3の登場により、米国AIがオープンvsクローズドの分断が始まる

Kimi K3は、トップクラスの性能でありながらオープンソースであるということが特長だ。米国では、オープンソースを支援するNVIDIAを始めとするプレイヤーと、クローズドを支持するアンソロピック、OpenAIなどのプレイヤーに分断が始まっていると愛范児が報じた。

 

トップクラスの性能がオープンソース、Kimi K3

中国「月之暗面」(Moonshot AI)がリリースしたAIモデル「Kimi K3」が、米国のAIプレイヤーを分断しようとしている。

Kimi K3は、評価スコアはClaude Opus 5やFable 5に匹敵しながら、トークン出力価格は安い。それだけではなく、オープンソースであるという点が大きい。つまり、AIモデルを動かせる環境があり、自分用にダウンロードして動かせば利用料金は無料になる。また、クラウド事業者が自社クラウドに展開して、利用者に使わせ使用料を取るというビジネスも可能になる。

このオープンソースであることが米国AIプレイヤーを分断しようとしている。

▲AI Worldによる価格(横軸)と性能(縦軸)の分布図。Kimi K3はオープンソースでありながら、Opus 5やFable 5に性能で迫り、価格では安い。

 

オープンソース推進派のNVIDIA

オープンソース推進派の先頭に立っているのはNVIDIAのジェンスン・フアンCEOだ。中国のオープンソースモデルを非常に優秀だと賞賛し、米国で中国オープンソースAIの使用を制限しようとする動きを牽制している。

もちろん、フアンCEO自体が開明的な考え方を持っていて、あらゆることはオープンであるべきと考えているということもあるが、オープンソースであろうとクローズドソースであろうと、動かすのにはNVIDIAのGPUが必要になるのだから、AIが広がることを歓迎するというビジネス上の打算もある。

NVIDIAはオープンソースAIアライアンスを発足させ、マイクロソフト、ハギングフェイス、クラウドフレアなど30社が参加した。しかし、アンソロピックは参加せず、ダリオ・アモデイCEOはなぜ参加しなかったのかを説明する文章を公開した(https://www.anthropic.com/news/position-open-weights-models)。

▲オープンソースアライアンスに参加した企業。OpenAIやアンソロピックは参加しなかった。

 

オープンソースは悪用も可能

この中でアモデイCEOが主張しているのがAIの悪用の問題だ。オープンソースであるから、悪人も高性能AIを手に入れることができる。しかも、一般的なAIは犯罪などに関する内容にはガードがかかっているが、オープンソースであればこれを外すことも難しくない。新種のウイルスなどのバイオ兵器がAIアシストにより開発されてしまう可能性がある。ただし、中国のオープンソースAIの使用を禁止するのではなく、適切な制限をかけるべきだと主張している。

▲NVIDIAが公開したオープンソースAIを支持する文書。マイクロソフト、メタ、ハギングフェイスなどが賛同している。

 

オープン陣営とクローズド陣営の分断

その2日後、NVIDIA、マイクロソフト、メタ、ハギングフェイス、AMD、レッドハット、Linuxファウンデーションなどが、「Open Weights and American AI Leadership」(オープンウェイトと米国AIリーダーシップ、https://images.nvidia.com/pdf/Open-Weights-and-American-AI-Leadership.pdf)というNVIDIAが公開した文書に名を連ねた。

内容は、クローズドソースモデルのみであると、利用する企業はAI企業に囲い込まれてしまう。A社のAIを使うと、それに伴う資産が蓄積し、後々より優秀なAIが登場しても乗り換えることが難しくなっていく。また、ユーザー企業は自社データをAI企業に預けなければならなくなる。このような観点から、オープンソースAIを禁止すべきではなく、オープンソースを使用し、企業の自主性を確保すべきだという主張だ。

Anthropic、OpenAI、Googleは、クローズソースモデルを主力サービスにしており、このようなオープンソース促進とは距離を置いている。

米国のAIプレイヤーたちは、Kimi K3の登場で、オープン派とクローズド派への分断が始まっている。

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com

 

 

 

EV充電器の新たな問題「QRコードガチャ」。どれをスキャンするかで料金が違う

EV充電器に新たな問題が持ちあがっている。それは複数のQRコードがあり、どれをスキャンするかで利用料金が異なってくるという問題だ。これではガチャのようではないかと利用者から不満の声があがっていると央広網が報じた。

 

EV2.12台に1台の充電器

中国のEVシフトは順調に進み、環境整備も順調に進んでいる。公共の充電器は2025年末で2148.1万機となり、新エネルギー車(NEV)保有台数の4550万台と比較して、2.12:1となった。一般には3:1以下であれば適正量と考えられているため、それ以上であり、「充電スポットが満杯で使えない、見つからない」という問題は、連休などの混雑期を除いてほぼ解消されている。

 

利用者を悩ませるQRコードガチャ

しかし、今度は別の問題が持ち上がっている。充電器を利用するには、まず充電器についているQRコードをスマートフォンで読み取る。すると、専用のミニプログラムが起動する。その中で料金を確認して、開始ボタンをタップすると充電が始まる。支払いは、ミニプログラムの背後にあるWeChatペイやアリペイといったスマホ決済で自動的に行われる。

ところが、多くの充電器に複数のQRコードが貼り付けてあり、いったいどれをスキャンすればいいのかがわからないという混乱が起きている。

▲6つのQRコードがある充電器。いずれも公式のもので、それぞれに料金が微妙に違っている。

 

公式QRコードが複数ある

困ったことに、どのQRコードも公式なもので、料金が微妙に異なっている。央広網の記者が実際にスキャンしてみたところ、A社のQRコードでは「電力料金0.68元/kWh、手数料0.25元/kWh」、B社のQRコードでは「電力料金0.68元/kWh、手数料0.20元/kWh」と表示され、B社の方が安いのだ。

QRコードの企業によってベースの料金が異なり、しかもそれぞれ時間帯によって料金が異なっている。このため、多くの人が、すべてのQRコードをスキャンして、料金を比較して、最も安いところで充電を始めるということをしている。QRコードが2つぐらいであるならともかく、中にはQRコードが8つもついている例がある。すべてをスキャンして料金を比べるなどということは面倒で、これは「充電ガチャではないか」という声があがっている。

▲QRコードをスキャンすると料金表が表示される。これが業者によって異なっている。しかも、同じ業者でも時間帯や優待条件によって料金が異なる。

 

複数の業者が共同運営する充電ステーション

2025年末の充電器は2148.1万機だが、政府機関などが設置する公共の充電器は486.3万機であり、全体の1/4以下でしかない。残りはすべて民間が運営する充電器だ。

民間が場所を確保し、設備を設置し、電力を確保するというのは資金的に厳しいため、マルチプラットフォーム運営が広がっている。つまり、A社とB社で資金を出し合って充電ステーションを建設し、共同運営をする。このため、複数のQRコードがついていて、それぞれの企業の戦略によって料金が微妙に違ってくる。

さらに、後から資金提供をする充電プラットフォーム企業もあり、こうなると運営する企業が3社、4社と増えていき、QRコードの数も3枚、4枚と増えていくことになる。

 

公式に見せかけた違法広告のQRコードまで

さらに、問題を複雑にしているのが違法なシール広告だ。充電器は滞在時間が一定時間以上あるため、シール広告業者は違法だとわかっていて、充電器に広告を貼っていく。管理会社では剥がすことをしているが、剥がしても剥がしても追いつかないのが現状だ。

ほとんどは個人金融や自動車修理、レンタカーサービスなどだが、中にはいかにも公式の充電用QRコードであるかのように偽装している広告がある。これをスキャンすると、充電画面ではなく、広告が表示される。しかも、広告がすぐには消えないような設計にしていることも多く、新エネルギー車のオーナーは、複数の公式QRコードだけでなく、広告のQRコードにも悩まされるようになっている。

▲広告だらけになってしまった充電器。勝手に広告を貼るのを違法行為だが、現実には防ぎようがない。

 

望まれる充電QRコードの統一

もちろん、他人の所有物に無断で広告シールを貼るのは違法行為だが、現実には防ぎようがない。弁護士や自動車業界の専門家は、充電プラットフォームのQRコードの共通化を提言している。複数のプラットフォームが運営していても、QRコードは共通化をして、それをスキャンすると、運営会社と料金の一覧が表示される。そこから好みの運営会社を選んで、充電ができるようにすべきだとしている。

こうすると、充電器には公式のQRコードは1つになる。公式コードがひとつであれば間違って広告のQRコードをスキャンすることもなくなり、広告効果が得られなければ、広告シールを貼る行為も抑制される。

しかし、その共通コードやミニプログラムを誰が開発するかが問題で、このQRコードガチャの問題の解決にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com

 

 

 

Fable5を超えたKimi K3。その論文の筆頭著者は17歳の高校生

Moonshot AIが公開したKimi K3は、オープンソースでありながらFable5のベンチマークを超え、AI関係者に衝撃を与えた。技術論文が公開されると、その筆頭著者が17歳の高校生であることが再び衝撃を与えていると21財経が報じた。

 

オープンソースでFable5を超える

今年2026年7月16日、「月之暗面」(Moonshot AI)がKimi K3を発表し、大きな話題となった。さまざまなスコアプラットフォームで、話題となっていたClaude Fable 5を超える成績をマークしたからだ。Fable 5がクローズドソースであるのに対して、Kimi K3はオープンソース。オープンソースのAIモデルが最高の成績をマークしたことにより、各社のAIビジネスのあり方に大きな影響を与えることになる。

▲Kimi K3は、発表するなり、Arena AIのベンチマークスコアでFable5を凌駕し、大きな衝撃を与えた。

 

演算効率を劇的にあげる注意力残差処理

Kimi K3が話題になった理由はもうひとつある。それは、これまでのAIモデルとは異なる数々の構造を採用していることだ。そのコア技術が「Attention Residuals」(注意力残差、https://arxiv.org/abs/2603.15031)という論文で解説されている。

一般的なAIでは、層が深くなっていくと、過去の情報が足し算式に積み上がっていってしまい、特定の情報の重要度がどんどん希釈されていってしまう。そこで、重要なものには注意機構を働かせるということは誰でも考える。過去の情報を均等に積み上げるのではなく、重要なものには注目度を高めておくという発想だ。

しかし、これを単純に行うと、演算量は爆発的に増え、メモリリソースは足りなくなってしまう。この問題を解決する機構を考案したというのがこの論文だ。

▲Moonshot AIが公開した「Attention Residuals」の論文。その筆頭著者Guangyu Chenは、17歳の高校生、陳広宇だった。

 

論文の筆頭著者は17歳の高校生

この論文は、Kimi K3の優秀さを説明していることから注目されただけでなく、その筆頭著者Guangyu Chenという人物にも注目が集まった。なぜなら、彼はまだ17歳の高校生、陳広宇だったからだ。しかも、わずか1年半前にはAIに触ったこともなかった。

陳広宇は子どもの頃から、ロボットアームや仮想通貨のアルゴリズムに興味を持ち、コードを書きまくっていた。自分の体験をSNSで発信したところ、シリコンバレーのスタートアップTilde ResearchのCEOの目に留まり、ある企業のインターンに申し込むように勧められた。オンラインでそのインターン枠を勝ち取るためのテストを徹夜でこなし、サンフランシスコでインターン経験をし、中国に帰国後はさまざまなオープンソースプロジェクトに参加するというスーパー高校生だった。

この存在にMoonshot AIが目をつけ、インターンに誘った。入社後わずか48時間で、社内ハッカソンに参加、優勝をさらってしまう。これにより、コア開発チームに参加することになった。そして、Attention Residualsの研究開発を行うことになる。

▲17歳の陳広宇。自分の体験をSNSで公開し、サンフランシスコのIT企業でインターンを経験し、Moonshot AIのコア開発チームに所属するというスーパー高校生だ。

 

大学と留学だけが成功の道ではなくなっている

中国ではやや進学熱が冷め始めている。以前は、トップ大学に入り、さらに米国の大学院に進むことが輝かしい人生を獲得する唯一の道だった。しかし、中国の若年失業率が高止まりし、トップ大学の卒業生でも就職難に直面している。大学進学をするために、小さくないお金をかけ、本人はぎりぎりの努力を強いられ、それで人生が約束されるならともかく、仕事探しに走り回らなければならないなら、この努力は無駄なのではないかと考える人が出始めている。

そこに陳広宇のような学歴に関係なく、実力で活躍する若者が登場してきた。そういう視点からも陳広宇は注目されている。

▲陳広宇は見た目は普通の高校生にしか見えない。

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com

 

 

サイバー攻撃による情報流出。攻撃に強い中国、弱い日本の違いはどこにあるのか

 

「まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 355が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、情報流出問題についてご紹介します。

 

日本では、複数の企業が外部からの攻撃を受け、個人情報が流出する事件が続いています。では企業はどう対応すればいいのかという話になると、「セキュリティの強化」「体制とルールの整備」「システムの二重化」など、従来から言われていることが繰り返されるだけで、もやもやしている方も多いのではないでしょうか。

意外なことに、中国では外部からの攻撃による情報流出は多くありません。「2024年データ安全報告」(奇安信)によると、外部攻撃による情報流出はわずか5.0%でしかありません。

▲中国の情報共有プラットフォームの情報流出の原因。内部人員による悪意、過失によるものが圧倒的に多くなっている。「2024年データ安全報告」(奇安信)より作成。

 

内部人員と取引先からの流出(悪意と過失の両方を含む)が圧倒的に多くなっています。

 

日本では、東京商工リサーチの統計では次のようになっています。

▲2025年、日本の上場企業の情報流出の原因。外部攻撃によるものが圧倒的に多い。東京商工リサーチの統計より作成。

 

日本の場合は、ウイルス感染・不正アクセスといった外部攻撃によるものが圧倒的に多くなっています。

中国の統計は、情報共有プラットフォームの監視データのもので、日本の統計は上場企業のものと母集団の取り方も異なっており、標本数も少ないため正確に比較することはできませんが、中国は内部要因が多く、日本は外部要因が多いということは言えそうです。

 

総合的なセキュリティという面では中国は他国に劣っていることは隠しようもありません。いくらなんでも内部からの流出が多すぎます。

これは従業員のモラルが低いということもありますが、中国独特の考え方も影響しています。それは、企業と従業員は対等に近い関係であり、自分の成果物は自分のものであるという考え方があるのです。例えば、エンジニアが転職する時に、元の企業で開発したソースコードを持参する、営業マンが自分で開拓した顧客リストを持ってライバル企業に転職するなどということがあります。

さらに、ECや小売、マーケティングなどのシステムは大手テック企業が開発して、自社だけでなく、無数の関連業者が使うことになります。末端の業者ではセキュリティ意識も低く、データを売って小遣い稼ぎをすることが横行しています。日本よりもはるかに低レベルのところで個人情報が脅かされています。

 

その一方で、外部攻撃による情報流出は多くありません。ひとつの理由は、内部犯行経由で情報が流出してくるのだから、わざわざ難しい手段を取って攻撃する必要がないということもあります。

しかし、それだけではなく、そもそもが外部攻撃されづらい体系になっています。具体的には「脱ウェブ化」と「内製化」です。日本のIT体系はこの点で攻撃されやすい体勢になっています。すぐに構造転換していけるようなものではありませんが、IT系の計画を立てる時、攻撃に強い仕組みとして考慮しておくべきことだと思います。

今回は、外部攻撃に強い、中国の「脱ウェブ化」と「内製化」が主要なテーマになります。

 

この2つについて理解していただくには、話題になっているAIによる攻撃について知っていただく必要があります。

韓国の新韓銀行、KB国民銀行など16社の金融機関が攻撃に遭い、融資やローンの10万件の個人情報が流出しました。この件については米国の調査機関「CrowdStrike」が詳細なレポートを公開しています。「Unknown Threat Actor Uses AI-Driven ARTEX to Target South Korean Finance」(身元不明の攻撃者、AI駆動型のARTEXを使用して韓国の金融を標的に」(https://www.crowdstrike.com/en-us/blog/unknown-threat-actor-uses-artex-to-target-south-korean-finance/)というものです。

ここで使われたのはARTEXというペネトレーションツールです。このARTEXは悪さをするための道具ではなく、サーバーの侵入テストを行うツールです。背後にAIモデルを使って、次々と検査対象への侵入を試み、脆弱性を発見したら報告してくれます。セキュリティ防御のために使うツールで、ARTEXは中国人開発者が開発し、GitHubなどでオープンソースとして公開されていました。

もちろん、誰でも利用できるオープンソースにしたら、今回のように悪用される可能性があり、この事件の後、開発者は公開を停止しています。

 

攻撃者は、DeepSeekをAIモデルに使い、Claude Codeを使ってARTEXに脆弱性を発見させる作業を行わせていました。そして、発見した脆弱性を使って侵入し、個人情報を抜き出したという事件です。

ここで重要なのは「AIによる攻撃」というのは既知の脆弱性発見が主体になるということです。あるテレビ番組で「AIが使われているため、未知の脆弱性を突かれてしまうので防ぎようがない」と言っている方がいました。これは間違いではありませんが、現実的ではありません。未知の脆弱性を発見するには、AIと言えどもそれなりの時間がかかります。そして、攻撃対象に対して、さまざまな普通ではないアクセスをしなければならなくなります。

セキュリティレベルがさほど高くないシステムであっても不審なアクセス検知の仕組みは整っていて、このようなことをすればアラートが発報されます。セキュリティ担当は、そのアクセスが通常の利用者のものとは異なると判断し、すぐにアクセスを遮断することになります。

攻撃者がIPアドレス(発信元)を変えて脆弱性検知のためのアクセスを続けることもできますが、この時点で標的攻撃とみなされ、おおごとになります。どうするかはケースバイケースですが、多くの場合、あらかじめ決めておいた社内外のエンジニアによる緊急対応チームが立ち上がり、外部の専門機関にも情報が共有され、攻撃者の身元特定に動きます。

未知の脆弱性を発見しようとすることは、攻撃者にとって危険が大きい行為なのです。

 

一方、既知の脆弱性は、世界的な組織であるCERT(Computer Emergency Response Team、コンピューター緊急対応チーム)が毎日のように警告を行っています。多くの場合、対処方法や開発元によるパッチプログラム(補修プログラム)なども提供されます。

攻撃者はこの情報に基づいて、ARTEXに「既知の脆弱性でまだ対応されていないサイト」を探させた方が賢いのです。例えば、脆弱性の内容にもよりますが、システムのバージョン番号を取得しただけでも脆弱性の存在が明らかになることがあります。対応したバージョンが2.0であるのに、その企業では1.9を使っていたら、それだけで未対応であるということがわかります。バージョン番号を取得するアクセスは普通にもあることですから、アラートがあがることもありません。

また、パッチプログラムの内容とその元のコードはどちらも公開されていますから、それを比較すると、どこに脆弱性があったのかが詳細にわかります。そして、そのパッチをまだあてていないサイトを探せばいいのです。

つまり、AI時代のセキュリティの考え方は、未知の脆弱性にまで心配をすることよりは、既知の脆弱性の警告が公開されたら、できるだけタイムラグを起こさないように素早く対応することが重要になります(もちろん、これは現時点の話で、AIが進化し、早晩、未知の脆弱性にも対応しなければならなくなります)。

しかし、後ほどご説明しますが、そう理想どおりにはいかない現実があります。

 

AI時代のセキュリティでもうひとつ重要なのは、件数が増えるかどうかはわかりません(増えると考えるのが自然です)が、攻撃者の裾野が広くなる可能性があるということです。

韓国の金融機関に対する攻撃の詳細が判明したのは、攻撃に使われたサーバーにさまざまな作業後の痕跡が誰にでも見られる状態で残されていたからです。Claude Codeのプロンプトも残されていたため、どのようにARTEXを使い攻撃をしたのかもある程度わかっています。プロンプトのほとんどは中国語で書かれていたため、中国語話者であることはほぼ確定しています。

また、華南理工大学の学歴を持っている記述や広東省茂名市の位置情報が残され、さらにはセキュリティ研究者として就職するために使う履歴書作成のプロンプトも残されていました。

このような攻撃者の特定につながりそうな情報が公開状態で残されていたことに、多くの人が困惑しています。つまり、大学生か卒業したばかりの若く経験が少ないセキュリティエンジニアなのではないか。いやいや、実は残されていた情報は、身元を隠すためのダミーなのではないかとさまざまな意見があります。

いずれにしても、今後は熟練した攻撃者と経験が少ない攻撃者は、攻撃手法については大きな差はなくなり、ただ身元につながりそうな情報の消し方に差があるということになります。今後、攻撃そのものの数も増える可能性が高いですが、検挙される攻撃者も増える可能性があります。

では、企業側はどう守ったらいいのか。それを考える時に重要なのが、中国で広がっている「脱ウェブ化」と「内製化」です。今回はこの2つについてご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.353:縮小する月餅市場。その中で成長する老舗「広州酒家」。老舗ブランドの生き残り方

vol.354:中国の個人消費はなぜ小さい。伸び代のある市場と伸び代のない市場

 

バックナンバーポッドキャスト放送中!

apple.co

 

 

ビデオ版バックナンバーも放送中!

www.youtube.com