中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

日本のイタリヤ料理「サイゼリヤ」と米国のイタリヤ料理「ピザハット」が中国で激突

ピザハットの業績が悪化をしている。店舗数を増やしても売上高が伸びない。より低価格のサイゼリヤの成長が大きく影響をしている。ピザハットは、低価格業態の「ピザハットWOW」を展開し、サイゼリヤに対抗をしようとしていると界面新聞が報じた。

 

レストラン業態で広がるピザハット

中国のピザハットは、日本での宅配ピザ業態とは異なり、中国ではピザレストランとして展開をしている。ピザハットは2024年Q1現在で3425店舗を出店していて、マクドナルド(約6300店舗)に次ぐ西洋飲食チェーンとなっているが、客単価は非常に高く、70元以上になる。今、ファストフードは客単価が30元以下のところが大勢で、ピザハットは高級感のあるピザレストランになっている。そのため、デートで使われることが多く、ゆっくりと食事を楽しむ場所になっている。

▲横軸店舗数、縦軸客単価の二軸グラフ。ピザハットは西洋ファストフードに比べて客単価が高く、高級目のピザレストランとして展開をしている。

 

サイゼリヤに圧迫されるピザハット

しかし、長引く経済低迷により、多くの人が一食に30元以上出すことを躊躇するようになっている。飲食マーケティング企業「紅餐」の統計によると、西洋式ファストフードの9割が客単価40元以下で、20元以下でも6割になる。KFC、マクドナルドなどのファストフードは客単価を30元以下にする競争をし、今ではいかに20元に近づけるかという競争をしている。

その中で、業態が異なるとは言え、突出して客単価の高いピザハットは苦しい戦いを強いられることになった。特に強敵になっているのがサイゼリヤだ。サイゼリヤは、広州市上海市北京市に380店舗を展開していて、店舗規模はピザハットの1/10強だが、一線都市(4大都市)の出店数は702店舗と、サイゼリアに追い上げられている。

また、店舗数から単店売上を計算してみると、サイゼリヤピザハットを2023年に追い抜いている。

ピザハットサイゼリヤの単店売上をドルベースで計算してみると、ピザハットは毎年単店売上が減少し、2023年にはサイゼリヤに抜かれた。単位:100万ドル。

 

値下げをするもサイゼリヤに勝てないピザハット

ピザハットは、2015年頃まではピザレストランという業態が他にはなく独占状態だったが、サイゼリヤというライバルの登場とともに、店舗数を増やしても、売上が伸び悩む状態が続いている。そこにコロナ禍以降の経済低迷とともにサイゼリヤが強みを発揮し、ピザレストランの中心は一気にピザハットからサイゼリヤに移ってしまった。

そのため、ピザハットでは、価格改定は行なわないものの、キャンペーンやクーポンを使ったり、低価格の新メニューを追加するなど、実質的な値下げを行なってきた。その中で、39元のイタリアンミートピザというヒット商品も生まれたが、サイゼリヤの勢いを止めることはできなかった。

 

低価格業態「ピザハットWOW」で対抗

そこで、ピザハットは低価格新業態に乗り出した。ピザハットWOWで、1号店が広州市の金沙洲永旺夢楽城モールに出店された。広州市サイゼリヤのホームグラウンドとも言える地域だ。ピザは25元から29元まで、メイン料理も最高で49元だ。サイゼリアのピザは22元から30元、メイン料理は18元から45元であるため、サイゼリアとほぼ同じ価格帯にまで近づけた。

それでいて、ピザハット特有の高級感のあるインテリアを使っている。サイゼリアに行くことに+5元ほど追加することで、落ち着いた環境のあるところでイタリア料理を楽しめるというコンセプトだ。

ピザハットは、低下価格業態「ピザハットWOW」を、広州市のショッピングモールから展開を始めた。広州市サイゼリヤがホームグラウンドとしている地域。

▲価格はサイゼリヤと同等だが、店の雰囲気はピザハット同様の高級感を残した。ワンランク上のサイゼリヤを意識しているようだ。

 

中国の景気が悪化すればするほど成長するサイゼリヤ

一方、中国でのサイゼリアは強さを発揮している。2020年の新型コロナの感染拡大時にはさすがに売上を落としたが、その落ち込みは他の飲食業に比べて小さい。2022年の再拡大の時期には影響を受けず、売上を伸ばしている。さらに、経済低迷がはっきりとした2023年には、前年比で44.6%も伸びている。サイゼリアは、中国経済が減速をすればするほど来店客数が増える状態になっている。

しかし、サイゼリヤの強みは安さだけではない。展開している店舗はフランチャイズではなく、すべて直営店で、本部の制御が効く状態になっている。現場をよく観察し、来店客の嗜好を見て、そこから逆算してメニューを考え、食材の仕入れを考えるという顧客本位の運営をし、同時にコストを下げることにも成功している。サイゼリヤは、安いだけでなく、顧客体験にも優れているのだ。

ピザハットは、まずは安さでサイゼリヤと肩を並べた。しかし、顧客体験まで肩を並べることができるか。高価格帯レストランが、低価格帯レストランに挑戦をするという面白い状況が起きている。

サイゼリヤの日本、アジア(中国、台湾、香港、シンガポール)、豪州の純利益。コロナ前は日本とアジアで稼いでいたが、コロナ後はアジアで稼いでいる。

 

 

たった7元でお腹いっぱいに。小さな麺屋に2時間待ちの行列が途絶えない理由

上海に出店した麺屋「池嬢拌麺」が大人気となり、2時間待ちの行列があたりまえになっている。安くて美味しくてお腹いっぱいになれるということが最大の理由だが、SNSネイティブ世代の創業者がSNSをうまく活用したということも大きいと品牌営銷官が報じた。

 

月給2万元でも中華ファストフードが食べられない!

「月給2万元、中華ファストフードが食べられない」という、旅行インフルエンサーの九行さんが投稿した記事が話題になっている。月給2万元は、日本円にして約43万円。さほど困窮をするような収入ではないと思うが、それ以上に、飲食店の値上がりが激しい。主だった中華ファストフードで、メイン料理、野菜料理を注文し、スープとご飯を頼むと、40元(約900円)近くなってしまう。

しかし、これではお腹がいっぱいにならないのだ。夜食にKFCのチキンやハンバーガーをデリバリーして食べてしまう人もいる。すると、食費は60元、70元になっていく。

もちろん、もっと安いチェーンもある。しかし、そこはレトルト食材を温めて、皿に盛って出すだけ。添加物や防腐剤に対する不安は多くの人に広がっていて、そのようなレトルト食品はできるだけ避けたいと思っている。そして、何より美味しくないのだ。食を生活の基本と考える中国人は、そういう食事を食べ続けると、惨めな気分になり、体だけでなく精神の健康も損なってしまうようになる。

▲さまざまな中華ファストフードの価格。お腹いっぱいにしようとしたら、どうしても40元前後になってしまう。

 

7元でお腹いっぱいにできる店「池嬢拌麺」

その状況の中で、上海に「7元でお腹いっぱいになる拌麺屋」が登場して、大人気となり、ピーク時には2時間待ちの行列ができるようになっている。

この店は「池嬢拌麺」(チーニャン)。拌麺はまぜそばのことだ。食の都、美食天国とも呼ばれる四川省成都市発で、上海市に1号店を出店すると、瞬く間に人気となり、過熱人気となった。

人気のメニューは「マッシュポテト麺」。じゃがいもをすりつぶしてマッシュポテトにし、そこに中華の味付けをし、これを麺と混ぜて食べる。炭水化物と炭水化物の取り合わせで、食べると満足感がある。ネットでは「炭水化物爆弾」とも呼ばれている。

この満腹メニューが19元で、さらに10種類以上の薬味が入れ放題。野菜も摂ることができ、味の変化も楽しめる。しかも、食べている途中で追加OKなのだ。お腹が破裂するまで無限に追加してもかまわない。

さらに、SNSでは「7元窮鬼セット」(貧乏人セット)と呼ばれる裏メニューが話題になっている。1元のご飯を注文し、6元の中華マッシュポテトを注文すると、あとは薬味が追加し放題になる。わずか7元でお腹がいっぱいになるというものだ。

SNSで大きな話題になり、リピーターも増えたため、ピーク時には2時間待ちの行列ができる。コロナ禍以降、こんな流行っている飲食店は久々に登場した。

▲わずか7元の通称「貧乏人セット」。白飯1元、マッシュポテト6元を注文し、合わせて食べる。10種類の薬味は入れ放題。

 

現場でつくるから美味しくて安心

この池嬢拌麺が成功したのは「現炒」と呼ばれる「現場でつくる」ということが大きい。添加物は使ってなく、現場でつくってすぐに食べてもらうので、保存料などを入れる必要もない。多くのファストフードでは、セントラルキッチンで調理をし、各店舗に食材を配送し、店舗での調理をできるだけ効率的にしようとするために、レトルト技術を活用することになるし、化学調味料で味を整え、保存料も使う。

一方、池嬢拌麺は現場調理といっても、薬味はあらかじめつくっておき、どんぶりに入れて並べるだけで、マッシュポテトもつくり置きが可能。あとはご飯を炊いて、麺を茹でるだけ。拌麺という料理をメインにしたことにより、現炒ながら、調理の効率化ができている。調理スタッフは、基本的な調理スキルのみで、お店を回すことができる。

また、味付けが四川省の川渝料理の酸っぱくて辛いということも、上海市民にとっては新鮮だった。

▲19元の満腹セットでは、入れ放題の薬味をたっぷりと入れ、特製のマッシュポテトをかけて麺を食べる。炭水化物爆弾とも呼ばれるほど満足度が高い。

▲10種類の薬味は入れ放題。途中で追加をしてもOK。

 

3人の若者が始めたレトロな麺屋

創業したのは、90年代生まれの3人の若者。店内インテリアは、祖母が営んでいた小さな伝統的な飲食店を参考に、壁のイラストや装飾はすべて自分たちでやった。この手づくり感あふれるインテリアが、SNSで話題となり、SNS映えするという評判も獲得した。

3人は、兄妹とその友人で、地元で親しまれた飲食店を経営していた祖母が、体力の衰えから閉店をすることになり、その味を受け継ぎたいと始めたものだ。しかし、ただ伝統を受け継ぐのではなく、伝統食品に革新を入れることも忘れなかった。3人は仕事を辞めて、全国各地の飲食店を食べ歩きした。その中から、マッシュポテトに米粉を入れるという、伝統料理にはない手法を考案した。これにより、マッシュポテトにまったりとした食感が出ることになり、味が際立ち、そして満腹感を得られるようになった。

▲店内はシンプルだが、若者にとってはSNS映えするポイントがたくさんある。SNSでの拡散が大きな宣伝効果をもたらした。

 

若者が求めるもの全部入りの池嬢拌麺

さらに、3人の若者は、SNSやショートムービーの使い方も心得ていた。開業するのであれば、屋外広告やメディア広告ではなく、自分たちでネットに発信すべきだと考え、さまざまな写真、ビデオを投稿していった。すると、インフルエンサーが訪れて、お店を宣伝してくれる。それを見て、ネット民が写真を撮りにやってきて、行列ができ始める。その行列を見て、普通の人が訪れるようになり、行列はどんどん長くなっていった。

池嬢拌麺は、コスパ、現炒、満腹感、SNS映えという、現代の消費者が求めるものがすべてそろっている。人気になるのも当然だ。この池嬢拌麺の成功は、中華ファストフードの流れを変えることになるかもしれない。中華ファストフードは原材料の高騰から値上げをし、高級感を打ち出すようになっている。しかし、美味しいものは高級でなくていいのだ。成功確率の高い起業としても、コスパ中華ファストフードが注目をされている。

▲上海店で、メインのマッシュポテト麺を無料にするキャンペーンの告知。このポスターのレトロでダサかっこいいデザインが若者好みになっている。

 

 

自動運転のパイオニアだった百度。社会への接地戦略で失敗、さらなる戦略転換が求められる

自動運転のパイオニア百度が苦しんでいる。各新エネルギー車メーカーが自動運転技術の開発を進め、百度の存在感が失われようとしている。百度はさらなる戦略転換が求められていると電動車公社が報じた。

 

テック企業も参入する新エネルギー車市場

中国の新エネルギー車(NEV)市場は、比亜迪(BYD)が圧倒的に強く、それにテスラが続くという状況だ。そこに、造車三傑と呼ばれる「理想汽車」(リ・オート)、「蔚来」(NIO)、「小鵬」(Xpeng)が上位をうかがっている。

さらに、テック企業からの参入も台風の目になっている。華為(ファーウェイ)と賽力斯(セレス)の共同ブランド「問界」(AITO、https://aito.auto/)は、ファーウェイの自動運転「ADS2.0」を搭載した電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)で人気を博している。

また、小米汽車(シャオミ、https://www.xiaomiev.com/)は「SU7」が大人気となり、予定生産台数の10万台の完売が見えており、増産体制の準備を始めている。

スマートフォンメーカーの「小米」は、BEV「SU7」を発売し、人気となっている。当然、NOAが搭載されている。

 

精彩を欠く百度の自動運転

ファーウェイと小米の自動車が人気になっているのは、その知名度によるところも大きい。多くの人にとって、両社のスマートフォンなどのデジタルデバイスは身近な存在で、その性能や品質、企業の態度などを手で触れて実感をしている。これにより、注目が集まることになった。

しかし、著名なテック企業であるのに、注目が集まっていない企業がある。百度バイドゥ)だ。百度検索を使ったことがない中国人はまずいなく、百度は早くから自動運転技術の開発を手がけてきた。

しかし、百度の自動運転技術を搭載した「極越」(ジーユエ、https://www.jiyue-auto.com/)は、NEVランキングに顔を出すこともできないほど売れていない。昨2023年12月に発売となった「極越01」は、初月に774台が売れ、翌2024年1月には218台、2月には147台と、販売予定の1万台にも遠く及ばない状況だ。なぜ、ファーウェイと小米は成功をし、百度はうまくいかないのだろうか。

 

自動運転技術の開発に取り組んできた百度

百度は、検索広告の企業だが、創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)は、学生時代からAIを追求しており、百度の経営が安定をした2013年、自動運転技術の開発を早くも始めている。すぐに独BMWと提携をし、BMWの車に自動運転システムが搭載された試験車両も公開された。

2017年7月の百度AI開発者会議では、衝撃的な映像が公開された。北京市の第五環状線で、百度の自動運転車が一般車両に混ざって走行する映像が公開されたのだ。それは、まるでSF映画のようで、観衆は熱狂をした。

当時、公道走行試験はルールが定められてなく、百度はこの試験を強行し、後で北京市交通管理局から安全運転義務違反を問われる事態となった。しかし、12月になって、北京市交通局は「北京市自動運転車両試験を促進するための指導意見」「北京市自動車両道路試験管理実施細則」の2つの文章を公表し、一定のルールの下、自動運転車が公道での走行試験ができるようになった。この百度の突破力も賞賛された。中国の自動運転は、ここから始まったと言っても過言ではない。

百度は2013年から自動運転の開発をしている。すぐに独BMWがパートナーとなり、百度は夢の技術の開発に挑戦をした。

▲2017年の衝撃的な映像。百度の自動運転が一般道を普通の車に混ざって走行している映像が公開された。観衆は熱狂し、ここから中国の自動運転が始まった。

 

ロボタクシーから完全自動運転をねらう百度

百度の自動運転システムは、グーグルのウェイモーと先陣を競い合った。「2019年自動運転報告」(カリフォルニア州車両管理局)によると、MPI(人間が介入しない自動運転の平均距離)で、ウェイモーを大きく引き離している。百度のシステムは、中国では圧倒的なトップであり、世界でもトップグループにいることは間違いなかった。

百度は「アポロ計画」を立ち上げ、この自動運転システムを自動車メーカーに提供をする事業を始めた。それにはフォード、長城汽車など主要な自動車メーカーが名乗りをあげた。

さらに、百度はロボタクシー「蘿卜快跑」をスタートさせた。すでに上海、北京、広州、武漢などで営業運転を始めている。

ロボタクシーは乗車賃を稼ぐという目的もあるが、データの収集という点もねらっている。ロボタクシーで収集した情報を、自動運転システムにフィードバックし、それを各自動車メーカーに販売することで、収益をあげようというものだ。

カリフォルニア州車両管理局の統計によると、継続して人間が介入しない走行距離(MPI)はウェイモーを上回るほどの成績をあげていた。

百度は主要都市でロボタクシーサービスを始めている。運転手はいない無人運転だ。ここで得たデータを活用して、自動運転技術をメーカーに販売することが目的だ。

 

完全自動運転を目指す2つのアプローチ

この百度の戦略は完璧に見えたが、自動運転のアプローチのトレンドが変化をしたことに百度は対応ができなくなっていた。百度の自動運転はL4(レベル4)からL5(完全自動運転)を目指すというものだ。L4はAIが主体となって運転をするもので、人間は運転操作から解放される夢のような技術だ。しかし、L4自動運転をするには、道路環境に一定の条件が必要になる。当面は整備された道路しか走行することができない。技術が成熟をしてくれば、自動運転が可能となる領域が増え、最終的にはどこでも自動運転が可能なL5に到達できるというアプローチだ。

しかし、現状のロボタクシーは、この技術的制約と法律上の制約から、定められた地域の中しか走行ができない。人間のタクシーのように、遠くまで行ってもらうことはできず、裏道に入ることもできない。結局、市の中心部を移動することに留まってしまう。

もうひとつのアプローチが、L2という人間が主体の自動運転からL5を目指すというものだ。L2は、オートパーキングや車線キープ、オートクルーズなどで、人間が状況を見て、自動車に命令をするというものだが、もし、このL2自動運転の機能が、自動車が走行するあらゆる局面をカバーできるのであれば、人間は運転席に座って見ているだけでよくなる。これがL2+自動運転の考え方で、最近ではNOA(Navigation On Autopilot)と呼ばれるようになっている。

このNOAでは、ファーウェイのADS2.0とテスラのFSD(Full Self Driving)の性能が図抜けており、自動車メディアの検証では、いずれも都市部で90%以上の時間、自動運転で走行ができるようになっている。

自動車メーカーはどちらのアプローチを選ぶのか。もちろんNOAだ。百度のアポロでは、人間は運転から解放されるものの、走れる場所が大きく制限される。一方、NOAはときおり人間が手助けをしてやらなければならないものの、制限なく走ることができる。販売する車としてはNOAを選ばざるを得ない。

 

戦略転換に失敗をした百度

百度は戦略転換をしたが、遅かったかもしれない。アポロをL2+に転換をして、自動車メーカーに供給しようとしたが、すでに、各自動車メーカーは自分たちでNOAの開発を始めており、アポロを必要としなくなっていた。

さらに、NEVの市場競争はこれから熾烈になることは間違いない。最盛期には200社を超えるNEVメーカーがあったが、現在は120社ほどにまで絞られている。最終的には5社から10社が生き残ると見ている人が多い。その競争を勝ち抜くために、各社は自動車は赤字覚悟の低価格で販売をし、NOAのサブスク料金で収益をあげるモデルに移行を始めている。スマホと同じように、本体を低価格にして、後からコンテンツと広告で収益をあげようというものだ。

自動車の最も魅力的なコンテンツはNOAであることは間違いない。ここを他社からの供給を受けてしまうと、収益力が一気に低下をして、生き残っていくことができない。各社は困難であっても、NOAの自社開発に賭けている。

百度は自動運転技術アポロを搭載した自動車を威馬と共同開発して発売したが、自動運転ばかりが強調され、自動車としての性能が消費者に伝わらずセールスは失敗をした。

 

提携をした威馬は破産

この百度のL2自動運転の供給を受けたメーカーが「威馬」(ウェイマー、Weltmeister)だった。自社の威馬EX6に百度のアポロを搭載して、威馬W6の販売を始めた。しかし、プロモーションを百度が主導して行なったために、自動運転機能ばかりが宣伝され、肝心の自動車の性能については消費者になかなか伝わらなかった。まるで、威馬の自動車は、自動運転システムのひとつの部品にすぎないかのような扱いだった。結局、W6はあまり売れず、威馬は資金不足に陥り、破産をしてしまった。

そして、百度は現在「極越」にアポロを供給しているが、同じ轍を踏もうとしている。自動運転のリーダー企業だった百度は、さらなる戦略転換を迫られている。

 

Soraを超えたビデオ生成AI「Kling」(クリング)。その6つの優れた特長

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今回は、OpenAIのSoraを超えたのではないかと言われるビデオ生成AI「クリング」についてご紹介します。

 

すごいものが登場してきました。ビデオ系生成AIの「可霊」(カーリン、Kling)です。読み方は一定していませんが、英語圏では「クリン」「クリング」などと呼ばれることが多いようです。

このクリングは、OpenAI社が発表して大きな話題となった「Sora」(ソラ)に対抗するもので、テキストプロンプトを入力するとビデオを生成してくれるというものです。

何で大きな話題になっているかと言うと、Soraよりも生成される映像の出来栄えがいいからなのです。例えば、公式サイト(https://kling.kuaishou.com/)に掲載されている例では、プロンプトが「眼鏡をかけた中国の男の子がファストフード店で、チーズバーガーを目を閉じて味わっている」という5秒のビデオがあります。これのどこがすごいかと言うと、Soraではものを食べるビデオ生成は簡単ではなく、口が歪んでしまったり、くちびるではなく口のあたりから食べ物が中に消えていったり、人間の口と食べ物が融合してしまうようなことがありました。

ところが、クリングでは子どもがちゃんとハンバーガーを食べているのです。そして、驚くことに口の周りにバンズなどのカスがつきます。さらには肉汁でしょうか、口の周りが油でテカテカ光るのです。

もはや生成AIでつくったビデオなのか、ほんとうに実写で撮影した映像なのか判別がつきません。サンプル映像なので、うまくいったものを選んで掲載していることはあると思いますが、驚くべき精度なのです。

今後、Soraとクリングが競い合って、ビデオ生成AIを進化させていくことは間違いありません。

 

SNS「小紅書」に投稿されたクリングで生成されたビデオを見てください。

 

http://xhslink.com/ro2s9O

▲小紅書の亮亮さんがクリングで生成した映像。テキストプロンプトだけで生成されている。動きも実に自然。

 

水着の女性が微笑んでいるだけのビデオですが、言われなければ生成AIによるものだとは思えません。途中で水着が入れ替わったり、髪の毛の末端の動きが不自然というところで違和感を感じますが、ぼーっと見てしまうと実写だとしか思えないほどです。これが元画像なしに、テキストによるプロンプトだけで生成できるのです。

 

もうひとつ驚きなのが、このクリングを開発したのが「快手」(クワイショウ)であるということです。快手は中国版TikTok「抖音」(ドウイン)と同様のショートムービーサービスですが、抖音を運営するバイトダンスの陰に隠れてしまい、国際的な知名度はあまりありません。しかも、抖音が都市部、若い世代が中心であるのに対し、快手は地方都市、中高年世代が多いということから、日本で注目されることはあまり多くないように思います。

ユーザー層を反映して、ショートムービーの内容も「土味」の多いものが中心になります。抖音では若いユーザーによる自撮りダンス映像やペットの可愛い映像などが多いですが、快手では土味としか言いようのない映像が多いのです。

例えば、小さな町の広場で屋外で手品ショーをやっています。美女が箱の中に入って、人体切断のマジックが行われています。美女の入った箱が2つに切断され、2つの台車に分かれます。すると、観客の中の悪い連中が、その下半身の台車だけを持って逃げてしまうのです。手品師は追いかけますし、残された美女は箱から顔を出して「返して!」と叫んでいます。本当のリアルな映像なのか、コントとしてつくった映像なのかはわかりませんが、洗練されていない面白さがあります。土味とは、決して悪い意味だけではありませんが、田舎的ということです。

抖音は、国際版としてTikTokを新たに開発し海外展開をしました。現地法人もつくり、各国でインフルエンサーを発掘して、世界中にTikTokが急速に浸透していったのはご存知のとおりです。一方、快手も2017年から海外展開を始めていますが、アプリを各国で配信しただけで、起動すると中国の映像がそのまま流れてきます。そのため、多くの人がピンとこず、ブラジルとインドネシアである程度のシェアを取っただけで、海外展開はうまくいっているとは言えません。日本のアプリストアでも「快手」でダウンロードすることができますが、使っている方は多くはないと思われます。

 

ライブコマースでも抖音に大きく差をつけられています。抖音の2023年のライブコマース流通総額(GMV)は2.7兆元(約60兆円)ですが、快手は1.18兆元と半分以下です。

抖音はさまざまなブランドがライブコマースを行い、華やかさがありますが、快手はCEOライブを売りにしています。CEOと言っても、地方の小さなメーカーや販売店の社長が登場して、自ら商品を売り込むというものです。責任者自らが登場するために、ライブコマース番組的には華やかさはありませんが、信頼をしやすいために好んで快手のライブコマースで買い物をする人もいます。快手のライブコマースは単価の安いものも多く、抖音のライブコマースがジャパネットたかたのテレビ通販だとしたら、快手のライブコマースは夢グループ(https://yume-gr.jp/)のテレビ通販の趣きがあります。

 

そんな、失礼かもしれませんが、ちょっとダサいと見られていた快手からこのような世界最先端の生成AIが登場してきたことに中国人も驚いています。

そこで、今回は、このクリングがどのような生成AIなのかをご紹介します。6月6日に快手の視覚生成インタラクションセンターの責任者である万鵬飛(ワン・パンフェイ)氏が、北京で開催されたBAAIコンファレンス(https://2024.baai.ac.cn/)に登壇をし、クリングに関する講演を行いました。この内容に基づいてご紹介します。

今回は、クリングとはどのような生成AIなのか、どのような優れた点があるのかをご紹介します。

 

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vol.235:中国で人気爆発のサイゼリヤ。「安さ」だけではない、サイゼリヤの飲食版SPA

vol.236:BYDは日本市場で地位を確保できるのか。BYDの本当の黒船「DM-i」技術とは

 

衝突によりドアロックされた交通事故。過度な自動化はほんとうに安全なのか

山西省の高速道路で痛ましい事故が起きた。作業中の散水車に一般車両が追突するというもので、ドアロックされてしまったために救助ができなかったというものだ。ネットでは、過度な自動化に対する議論がされていると新浪科技が報じた。

 

ドアロックが解除されなかった交通事故

2024年4月26日、山西省運城市の侯平高速で痛ましい交通事故が起きた。当時、散水車が追い越し車線で作業中で、作業区間の手間には安全コーンを設置し、車線規制をしていた。しかし、一般車両がこの車線規制を無視し、散水車に激突をした。

車両はボンネットが炎上をし、さらにドアがロックされたままになってしまった。散水作業員と通りがかった運転手が、ドアを開けて救助しようとしたが、ドアを開けることができず、窓を割って、乗員を救おうとしたが、火の回りが激しく、あきらめる他なかった。乗っていた3人は死亡をすることになった。

山西省運城市の侯平高速で起きた痛ましい事故。近くにいた人たちが救助をしようとしたが、ドアロックされているため、窓を破ったが、間に合わなかった。

 

自動運転車の事故として大きな話題に

この交通事故が大きな話題を呼んだのは、車両が賽力斯(セレス)とファーウェイの共同ブランド「問界」(AITO)のM7だったということだ。問界には、ファーウェイの自動運転システム「ADS 2.0」が搭載され、一般道路でも90%以上、高速道路ではほぼ100%、運転を自動車任せにすることができることから、高額なSUVでもあるにも関わらず、人気の車種となっている。

それが、衝突事故を起こし、火災が発生し、ドアがロックされるという、多くの人がEVと自動運転車に対して感じている不安が現実のものとなった。

つまり、多くの人は、この事故のニュースを見て、こう推測した。

1)自動運転が判断ミスをしたのではないか。あるいは手動運転中であっても作動するはずのAEB(衝突回避ブレーキ)が作動しなかったのではないか。

2)火災はリチウムイオンバッテリーによる発火ではないのか。

3)エアバッグが開かず、それで乗員は気を失い、ドアロックを解除できなかったのではないか。

4)ドア関連の制御に問題があり、外部からも開けらないドアロック状態になったのではないか。

▲激しく炎上する事故車両。このような映像から「自動運転はやっぱり怖い」「EVはやっぱり怖い」という声があがった。

 

自動運転のリスクに対する議論が起きる

ネットでは大きな論争が始まった。ここ数年の急速なEVと自動運転の普及は、新しいもの好きの中国人にとっても急すぎるのか、アンチEV、アンチ自動運転のネット民たちが一斉に声をあげた。やはりEVは危ない、自動運転よりも人間の運転の方が信頼できると言い始めた。一方、事故の詳細もわからないうちに、憶測で非難をしたり、議論をすべきではないと嗜める人もいた。

そして、5月6日になって、AITOは、まだ検証途中としながらも、ネットで議論される4つの疑問に答える公式声明(https://weibo.com/7711487956/5031047129465813)をSNS「微博」(ウェエボー)で公開した。

 

疑問1:AEBはなぜ衝突を避けることができなかったのか

問題の車両は手動運転中だった。そのため、自動運転ADSの問題は排除することができる。手動運転中であっても、問界M7は、障害物を認識すると、AEBが自動的に作動するようになっている。データ解析によると、衝突前5分以内に、運転手は2回ブレーキを踏んでおり、正常に減速されていることから、ブレーキ機構そのものに問題はなかったと言える。

しかし、問題は衝突速度が115km/hもあったことだ。中国の高速道路の制限速度は120kmであるため、散水車に気づかず、そのまま衝突したと思われる。ところが、問界M7のAEBの動作範囲は4-85km/hだった。つまり、速度が速すぎてAEBが動作をしなかったのだ。

AEBは常に自動ブレーキをかけてくれるわけではない。高速になると、それだけ遠方の障害物を認識する必要があり、そのためには高精度のLiDARなどが必要となり、車両コストがあがる。また、無理をして遠方まで感知させると障害物の誤認識が起こり、必要のない自動ブレーキもかかることになり、かえって危険になる。そのため、多くのAEBが、一般道での走行を想定してAEBの動作条件を設計するようになっている。

 

疑問2:衝突後、バッテリーが発火したのではないか

問題の車両が散水車と激しく衝突をし、散水車のフレームがフロント部分に食いこみ、フロントの機械室が破壊をされた。これにより、電気系統の切断が起こり、火花により、フロント内に着火をした。ボディー底面に配置されているバッテリーは正常であり、発火もしていない。

▲セレスが公開した衝突時のシミューション。EDR(Event Data Recorder)の解析に基づいたもの。赤がドアロック関連の信号線で、衝突感知をする前に、信号線が切断されてしまった。

 

疑問3:エアバッグが正常に作動しなかったのではないか

エアバッグは正常に作動をした。しかし、運転席のシートベルトはロックをされたが、助手席と後部座席のシートベルトはロックされていない。これがシートベルトをしていなかったことによるものか、シートベルトのロック機構の問題なのかは、データをさらに分析する必要がある。

 

疑問4:なぜドアロックされてしまったのか

問界M7は、衝突を検知すると自動でドアロックを解除する機能が組み込まれているが、それが正しく動作しなかった。衝突時の速度115km/hという想定外の速度であったため、フロント内が瞬時に破壊をされ、ドアロック関連の信号線が衝突検知よりも早く切断されてしまった。

 

衝突時速度が115km/hという想定外の速さ

つまり、今回の事故は、衝突時の速度が115km/hという想定外の速度であったため、さまざまな現象が起きてしまったことになる。衝突時にブレーキを踏んでいないことから、運転手は散水車をまったく認識をしていなかったことになる。通常であれば、障害物を認識し、ブレーキを踏むことにより減速をし、AEBが動作する条件に入り、衝突が回避できる。なぜ、運転手が散水車を認識できなかったのかについては警察の調査を待つ必要がある。

一方、高速走行時のAEB動作という新たな課題が発見された。これは、燃料車、EV、手動運転、自動運転に関わらず、すべての自動車に関わる問題であるため、高速時のAEBを可能にする技術開発が求められている。

メーカーの想定外の事故ではあったが、それでも3人の命が失われたことは重い。自動車には、このような想定外のことまで想定するような設計が求められている。

 

2世代遅れのファーウェイ「麒麟」。それでもスマホ性能がiPhoneと肩を並べる秘密

ファーウェイの自主開発SoC「麒麟」は7nm相当であり、iPhone用のA17と比べると2世代遅れている。しかし、それでいながら、性能はiPhoneにかなり近いところまできている。それはハイパースレッドという技術が採用されているからだと小伊評科技が報じた。

 

米国を驚かせた自主開発のSoC「麒麟

ファーウェイが米国の技術を使わずに、独自技術だけで開発をしたスマートフォンの心臓部SoC(システムオンチップ)「麒麟9000S」とその後継モデル「麒麟9010」。これにより、ファーウェイは中国のスマホ市場で見事な復活を遂げた。米国が、ファーウェイに対してチップ制裁を行なってわずか3年、SoCの自主開発に成功したことは世界を驚かせた。

麒麟9000Sの実物。製造技術は2世代遅れだが、性能は最先端SoCとほぼ肩を並べている。

 

技術は2世代遅れでも、スマホ性能が高い秘密

しかし、麒麟9000Sは「7nm相当」であり、最先端SoCであるアップルのA17 Proの3nmと比べると2世代ほど遅れている。SoCの技術が遅れているということは、それがそのまま性能差になって現れるため、最終製品であるスマホの性能にも直接関わってくる。しかし、中国では9010を搭載したファーウェイのスマホと最先端SoC「A16」(4nm)を搭載したiPhone 14で、大きな性能さを感じている人はいない。ベンチーマークテストでも、麒麟はAシリーズよりは落ちるものの、2世代も差があるほどの開きはない。せいぜい1世代か、0.5世代だという人もいる。

この差を埋めているのは、ファーウェイが麒麟の設計にハイパースレッドという技術を使って、遅れている製造能力の差を埋めているからだ。

 

複数のCPUを組み込んだマルチコアSoC

携帯電話やPCの心臓部である演算制御ユニットは、昔はCPU(Central Processing Unit=中央処理装置)と呼ばれていた。より複雑で高速な処理が求められるようになると、マルチコアというアイディアが採用された。その名のとおり、1つのチップに複数のCPUを入れて、複数のタスクを同時並行で処理することにより性能をあげるというわかりやすい発想だ。お店の人手が足りなくなったので、スタッフを増やすということに相当をする。

さらに、チップにはセンサーやその処理回路も組み込まれ、スマホが必要としている処理はすべて1枚のチップの中で完結するようになっていった。ここまでくると、もはやCPUと呼び方がふさわしくないため、SoC(System on Chip=チップ化されたシステム)と呼ばれるようになる。

麒麟9000Sの構成図。「核心」がコアで、従来のCPUにあたる。サーバー用に設計された「泰山」コアが流量されている。

 

性能差を埋める技術「ハイパースレッド」

さらに複雑で高速の処理が求められるようになると、コア数も増えていった。アップルのA16の場合、CPUが6コアであり、GPUも6コア、さらにAI演算用に16コアある。つまり、iPhoneは昔の感覚でいえば、あの小さなスマホの中に6台のPCが入っているようなものなのだ。麒麟9010も6コアであり、基本的な部分はA16と変わらない。

だとすれば、7nm相当という2世代遅れの麒麟9010は、4nmのA16と比べて集積度で劣り、性能が劣っておかしくないのだが、その差は小さい。

その理由は、麒麟9010がハイパースレッドという技術を採用しているからだ。

 

ひとつのコアに同時に複数のタスクを実行させる

マルチコアは、お店のスタッフの人数を増やして、多くの仕事をこなそうという発想。しかし、それぞれのコアは、意外に待ち時間がある。CPUの命令スピードから見ると、メモリーやキャッシュの読み書きには長い時間がかかり、しばしばCPUは「読み書き待ち」が起きてしまう。その間、それぞれのコアは遊んでいることになる。

そこで、各コアに複数の仕事を依頼する。各コアは、読み書きの待ち時間には別の仕事をするため、効率的に仕事をこなすことができる。レジ担当のスタッフに、おでんや肉まんの管理を頼んでおき、お客さんが途切れて時間ができた時に、おでんの具を追加してもらうようなものだ。

こうすることで、各コアが複数の仕事を同時にこなすことができるようなり、全体の効率が大きく向上する。これがハイパースレッドの考え方だ。

▲ハイパースレッドの模式図。いちばん下はマルチコア。複数のコアに複数の仕事をさせる。中段のハイパースレッドは、1つのコアに複数の仕事をさせる。

 

サーバーで使われる技術をSoCに流用

このハイパースレッドという技術は、サーバー用チップやPC用チップなどでは採用されてきたが、スマホ用チップでは麒麟が初めて採用をした。麒麟9000Sでは、TaiShan V120というコアが採用されている。一方、ファーウェイが2020年に発表したサーバー用チップ「鯤鵬920」のコアはTaiShan V110だ。つまり、ファーウェイは、サーバー用に設計をされたコアをそのままスマホ用SoCにも流用をして麒麟9000Sを設計したことになる。サーバーチップでは、ハイパースレッドが常識であるために、麒麟9000Sでもハイパースレッドが採用されたことになる。これは、短期間でSoCを製造する必要があったため、ハイパースレッドもそのままSoCに使われたということなのだろうか。

しかし、次の麒麟9100では、新たなコア設計が採用された。それでもハイパースレッドが採用されている。つまり、ファーウェイは戦略として、スマホチップにハイパースレッドを採用していることになる。

▲ハイパースレッドは、サーバー用のSoCなどでは普通に用いられている技術。ファーウェイはこれをスマートフォンに応用した。

 

ハイパースレッドの欠点は消費電力

他社が、スマホチップにハイパースレッドを採用しないのは、この技術に利点ばかりでなく欠点もあるからだ。

ひとつは各コアのピーク性能は弱くなるということだ。各コアが2つのタスクを同時並行で、資源をやりくりして処理するため、処理速度の最高値は低下をすることになる。処理速度をあげるには、王道とも言える、集積度をあげていくしかないのだ。

もうひとつは消費電力が大きくなるということだ。マルチコア+ハイパースレッドでは、タスクをどのコアに実行させるかの制御、スケジューリングなどの手間が増えるため、全体の処理量は増大をする。処理が増大するということは、電力を消費するということで、バッテリーの持続時間、発熱などにシビアなスマホでは安易に採用するわけにはいかない。それで、多くのスマホチップは、ハイパースレッドを採用せず、集積度を高めて処理能力をあげようとする。

 

独自OS「ハーモニーOS」の意味

では、なぜファーウェイは、スマホチップにハイパースレッドを採用したのか。それはファーウェイには、このような欠点を打ち消すことができる条件がそろっているからだ。

それが自主開発の鴻蒙系統(HarmonyOS)だ。ハーモニーOSは、カーネルから自主開発の100%オリジナルOSだ。そのため、マルチスレッドの制御、スケジューリングなどもOSが管理をし、チップとの最適化が可能だ。ここを詰めていくことで、ハイパースレッドを効率的に制御し、電力消費を抑えることができる。

 

カーネルまで自主開発したことで選択肢が広がった

さまざまなチップ上で動くAndroidには真似ができないことで、独自のiOSを持つアップルも簡単には追従できない。なぜなら、iOSはアップルの自主開発だが、そのカーネルUNIX系の「Darwin」を採用しており、ファーウェイと同じレベルでOSとチップの最適化を図るには、カーネルから自主開発をしなければならなくなる。

ファーウェイは、米国のチップ制裁を受けたことで、チップとOSの両者を自主開発のものに切り替えざるを得なくなった。しかし、そのことが、自由に最適化を図れるという強みを手に入れることになった。これが、麒麟はチップの製造技術としては2世代遅れながら、最先端チップと肩を並べることができる理由になっている。

 

 

ホンダの牙城バイク王国ベトナムでも、バイクの電動シフトが始まる。日中メーカーの競争が激化

ベトナムのバイク市場の8割はホンダが占めている。しかし、そこに中国企業電動バイクでシェアを取り始めている。ベトナムもバイクの電動シフトを初めており、電動バイクの領域で日本メーカーと中国メーカーの競争が始まっていると正解局が封じた。

 

バイク王国のベトナム

ベトナムバイク王国だ。「恋人はいなくても生きていけるが、バイクがなければ生きていけない」とまで言われるほどで、人口は1億人であるのに、バイクの保有量は4500万台を超えている。成人では、2人に1台以上がある計算になる。ベトナムの国土の3/4は山地丘陵であり、都市部は道路が狭いため、自動車よりも小回りの効くバイクが好まれる。

ベトナムバイク王国。保有台数は成人2人に1台以上になる。道路が狭いため、バイクの方が使い勝手がいいのだ。

 

中国バイクvs日本バイクの攻防

ベトナムのバイク市場は、日本メーカー、特にホンダの牙城とも言えるものだった。日系ブランドで市場の98%を占めていた。ところが、1999年に中国企業が進出を始め、一気に市場のシェアを奪っていった。

中国バイクは、日本のバイクと比べても品質や性能で見劣りはせず、それでいて価格は半分ほどなので、あっという間に市場に浸透をした。中国バイクのシェアは80%にまで高まった。

しかし、中国バイクはここから自滅の道をたどる。今度は中国バイク同士での競争が激化をし、多くの中国企業ベトナム国内に生産拠点をつくり、過剰な低価格戦略が始まった。しかし、それは必然的に品質低下を招き、もともと安かった中国バイクの価格は2年ほどでさらに半分以下になった。

これは安価なバイクを求めているベトナムの消費者も許容ができない品質低下ぶりだった。これにより「中国のバイクは安いけど、壊れる、危ない」という評判が広がり、次第に日本バイクへの回帰が始まった。

赤字覚悟でシェアを取りにいっていた中国バイクは、経営が維持できず、次々と撤退を始めた。結局、残ったのは安心できる日本バイクだった。

現在、人気のバイクブランドは「ホンダ」「ヤマハ」「台湾三陽」「スズキ」「ピアッジオ」となっている。特に強いのはホンダで、シェアは80%を超えている。

▲バイクは価格が安いため、若い世代は自動車よりもバイクを購入する人が多い。

 

中国は電動バイクで再挑戦

ところが、2023年、状況が少し変わってきた。再び、中国企業の進出が始まったのだ。2023年、バイクの販売台数は278万台と前年比で17.9%も下落をした。ホンダも19.8%減と厳しい状況になっている。

一方、伸びているのが中国「雅迪」(Yadea、https://www.yadea.com.cn/)、ベトナム「VinFast」(https://vinfastauto.com/en/)などの電動バイクだ。電動バイクは全体のまだ1/10以下だが、バイク全体の販売が下落する中で、各社30%程度の増加を示している。

▲雅迪は電動バイクの生産工場をベトナムに建設し、本腰を入れてベトナム市場に参入した。

▲雅迪の販売店電動バイクは、まだバイク全体の1/10程度の割合だが、燃料バイクに対する優位性が高く、今後一気に普及をしていく可能性がある。

 

ベトナムバイクも電動シフトが始まっている

2021年に開催された「第26回気候変動枠組み条約締結国会議」(COP26)で、ベトナムも2050年までにカーボンニュートラルを実現することを約束した。この時までに、すべての自動車とバイクをグリーン電力またはCO2を排出しないゼロエミッション燃料に変えるという内容だ。

また、その前段階として、ホーチミン市では2025年、ハノイ市では2030年に、燃料バイクの市内への乗り入れを禁止するという目標を掲げた。つまり、今、都市部の人がバイクを買うのであれば電動バイクを買うしかないのだ。

電動バイクは価格、維持費などが圧倒的に安くなる。また、現在、運転免許書が不要であるという点も大きい。このため、一気に電動バイクが普及すると見られる。単位:万ドン。

電動バイクは、航続距離と充電時間にまだ課題が残るため、計画に使われる配達系の企業での採用が中心になっている。写真はベトナム郵政が導入したホンダの電動バイク「Benly e」。

ベトナム企業のVinFast製の電動バイク「Evo」。地元企業も電動バイクに参入し、日中ベトナムの三つ巴の競争が始まっている。

 

電動バイクで日本と中国の競争が始まっている

電動バイクの欠点は航続距離だ。満充電で100kmから200kmであり、充電には3時間以上かかる。市内を走行するのであればじゅうぶんな距離であり、寝ている間に充電をするのであれば問題はないが、郊外を長距離走る場合には充電スポットの位置を確かめるなど工夫が必要になる。

しかし、それ以外のコストは圧倒的に電動バイクが安くなる。このことから、電動バイクを選ぶ人が増え始めている。

ホンダ、ヤマハ電動バイクの発売を進めている。ホンダはベトナム市場では、郵便や宅配などの商用電動バイクを発売している。ヤマハもすでに電動バイク「Neo’s」をベトナムで発売している。

電動バイクは、ベトナム市場で、中国系と日系の激しい競争が起こりそうだ。