中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

フードデリバリーによる包装ゴミの処理に毎年500億円。環境対応包装材が普及をしない理由とは

中国ではフードデリバリーにより毎年160万トンのプラスチックゴミが出て、その処理に24.5億元の費用がかかっている。さらに、事業用のゴミとして排出されるプラスチックも合わせると、年間2536万トンとなり、中国は世界最大のプラスチック廃棄大国になっていると中国慈善家雑誌が報じた。

 

利用が広がる使い捨てプラスチック容器

中国のプラスチックゴミで問題になっているのが、フードデリバリーだ。デリバリーされる多くの食品がプラスチック容器に入れられている。さらに、最近ではファストフードでもプラスチック容器を採用する例が増えている。食器洗いという工程が必要なくなるため、店舗スペースの節約、人件費の節約、衛生問題の解決などさまざまなメリットがあるからだ。

▲2019年の各国のプラスチックゴミ廃棄量。中国と米国で、世界のプラスチックゴミの1/3を廃棄している。Minderoo Foundationの調査データより。

 

デリバリーのゴミ処理に毎年500億円の費用が

中国消費者協会は「商品の過剰包装と消費者意識調査報告書」を公開した。これによると、消費者の96.4%が過剰包装だと感じた経験を持ち、80.7%が過剰包装に否定的な態度を持ち、51.4%が過剰包装にはさまざまな問題があると感じている。

しかし、それでもフードデリバリーでは過剰包装が改善されない。簡易包装では、配達中に漏れたりする心配があり、また配達員が食品に触れるという衛生問題、信用問題も起こりかねないからだ。

清華大学環境学部の研究チームがあるレポートを発表した。3500万件のデリバリー内容の調査により、2020年にはフードデリバリーにより160万トンのプラスチックゴミが出て、このゴミの処理に24.5億元(約500億円)かかっているというものだ。この費用は誰が最終的に負担をしているのだろうか。

清華大学の調査で、実際に注文されたデリバリーによるゴミ。4人分の食事でこれだけのゴミが出る。多くの場合、紙とプラスチックの分別も行われずに廃棄される。

 

包装にかかる費用は結局消費者が負担をしている

現在、多くのデリバリーで包装費が上乗せされている。デリバリープラットフォームである「美団」(メイトワン)によると、飲食店が不当な包装費を顧客に請求することは禁止をしているという。加盟店がそのような行為をしていたことが発覚をしたら、格付けを落とすなどのペナルティを課すと返答した。

一方、ウーラマは、顧客に包装費を請求することを容認している。食品の衛生と安全を確保した配送を行うには、食品を適切に包装する必要があり、その料金を顧客に請求することがあると回答した。

一方で、飲食店は激しい競争にさらされている。そのため、包装を工夫することでその競争に勝とうと考える飲食店もある。包装に提携をするアニメのキャラクターを印刷したり、特殊な形のパッケージも使われる。このようなものが過剰包装となり、その負担は消費者に課せらている。

▲デリバリーのレシート。餐盒費(包装費)が3元上乗せされている。

 

環境対応包装はコスト高になる

中国慈善家雑誌が市場調査をしてみると、デリバリー用のパッケージは、安いものでは0.3元から0.6元程度で販売されていることがわかった。これはポリプロピレンやポリエチレンを材料とした110℃の高温まで耐えられるものだ。

近年では、プラスチックゴミ削減の観点から、サトウキビを原料にした紙素材の包装材も市販されているが、価格はプラスチックの30%から100%増しになる。素材としては紙に近いため、スープや汁ものは入れることができない。水分がある食材では時間が経つと包装材が柔らかくなってしまったり、破れてしまったりする。サンドイッチのような水分のない、常温食品にしか使えない。

また、生態分解プラスチック製の包装材も市販されていて、従来の包装材と同じ感覚で、高温食材や水分の多い食材にも使えるが、価格は2倍から3倍となる。

 

デリバリー企業の対応も追いつかない

美団は、2022年までに、青山計画と称して、1500以上のマンションやオフィスからゴミの回収を行っており、これまでに6600トンのプラスチックゴミを回収し、適切な処分を行なった。

また、全聚徳、雲海肴などの著名飲食チェーンと提携をして、環境にやさしい包装材の配布を行ない、これまでに10万個の環境対応の包装材を配布してきた。

しかし、難しいのは、美団には、飲食店に環境対応の包装材を使わせる強制力はなく、あくまでも推奨するだけしかできないことだ。青山計画では「飲食デリバリー緑色包装解決方案」というガイドラインをまとめ、これを飲食店に入るをしているが、あくまでもガイドラインであり、罰則などまで規定することは難しい。

▲デリバリーでは、配達途中の事故を防ぐために過剰包装が進んでいる。環境対応包装材はコストの問題でなかなか普及しない。

 

政府も動いたが、値上げが避けられない

環境保護の専門家からは批判の声も出てきている。プラットフォームがガイドラインをつくっても、一定の強制力がなければ、プラスチックゴミ削減に対する影響は非常に限られている。本気でプラスチックゴミ削減に取り組むのであれば、報酬と罰のメカニズムを活用した仕組みが必要になるというものだ。

このような声に、政府が動き始めている。2023年6月14日、国家市場監督管理総局と商務部は、共同して「ネット飲食プラットフォームが主導をして、デリバリー食品の浪費を効果的に防止することに関する指導意見」を公表し、環境対応の包装材を使用することを、飲食店に対して指導する義務がプラットフォームにはあるということを明確にした。

今後、デリバリー食品の包装材に関しては、規制が入っていくことになるが、その経済的な負担は消費者に回されることになり、実質的な値上げとなる。売上が下がることを恐れる飲食店では、環境対応包装材を採用したがらないという抵抗が起きることも考えられ、プラスチックゴミが削減できるまでには、まだまだ長い時間がかかると見られている。