中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国越境ECvs巨人アマゾン。Temu、SHEINの低価格攻勢とアマゾンの攻防

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https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、中国越境ECに対するアマゾンの対応についてご紹介します。

 

Amazon(アマゾン)と言えば、説明不要の国際的ECの巨人です。オフラインに強いウォルマートとともに、その牙城は誰にも崩すことができないほど巨大になっています。しかし、「アマゾンを倒す」とまで言うと明らかに言葉がすぎますが、中国の越境ECが急速に伸びてきて、アマゾンの低価格帯部分に打撃を与え始めています。

もちろん、アマゾンはすでに対策を取っていて、この低価格帯商品での競争が激しくなっています。国際的ECの低価格帯商品の領域では、大きな地殻変動が起きようとしています。

 

中国越境ECとは、次の4つです。

SHEIN(シーイン):女性向けアパレル製品を中心にしたファストファッション越境ECです。

Temu(テム):拼多多(ピンドードー)の越境ECです。日用雑貨を中心に驚きの低価格で販売をしています。

AliExpress(アリエクスプレス):アリババの淘宝網タオバオ)の越境ECです。日本では電子機器系のファンの間でよく知られています。

TikTok Shop:TikTok内でのライブコマース、ショートムービーを活用したECです。日本ではまだサービスが提供されていません。

日本では、TikTok Shop以外の越境ECが利用できます。また、タオバオでも日本円決済、日本発送に対応した商品が増えており、事実上の越境ECとして利用することができます。ただし、すべて中国語対応となるため、中国語がある程度わかることが条件になります。利用できるのであれば、アリエクスプレスよりも扱い商品ははるかに多く、価格ももう一段安くなります。

 

各越境ECについては、このメルマガでも過去何回も取り上げています。

EC全体を俯瞰し整理したものは、

「vol.110:二軸マトリクスで整理をするECの進化。小売業のポジション取りの考え方」

SHEINについては、

「vol.153:SHEINは、なぜ中国市場ではなく、米国市場で成功したのか。持続的イノベーションのお手本にすべき企業」

TikTok Shopについては、

「vol.200:インドネシアTikTok Shoppingが禁止。浮かび上がった国内産業vs中国のせめぎ合い」「vol.218:東南アジアで広まるライブコマース。TikTok Shoppingの東南アジアでの現在」

Temuについては、

「vol.211:劣悪品を排除し、低価格を実現する仕組み。Temuの革新的なビジネスモデルとは」

で、ご紹介しています。

なお、訂正があります。これまでTemuの読み方を「ティームー」と表記をしてきました。これは、日本のTemuの公式サイトが「ティームー」という表記を使っていたことに基づいています。また、英語圏では「ティームー」という読み方が一般的で、中国では「ティームー」「テム」両方の呼び方が混在をしています。

ところが、Temuの日本向けビデオ広告を見ると、演者が「テム」と呼んでいました。そこで、Temuの顧客センターに尋ねてみたところ「両方の呼び方があって、どちらでもかまわない」という回答で、しかも公式サイトから「ティームー」の表記がなくなっていました。

日本向けのTemuの広告内では、演者は「テム」という発音で統一をしているようですので、今後、読み方の表記を「テム」で統一することにいたします。

 

現在、SHEINやTemuに対するネガティブなSNSの投稿やニュースが続いています。私自身はTemuを普段から使っていて、問題を感じることはまったくなく、みなさんにもお勧めするようなことを何度も言ってきました。そこに、このようなネガティブな報道が続くと、ご不安になられる方もいるかと思いますので、それぞれについて、簡単に解説しておきたいと思います。

ネガティブな報道とは次のようなものです。

1)Temuでクレジットカードを登録したら不正利用された。Temuがカード情報を不正に流出させているのではないか(女性セブンプラス)。

https://j7p.jp/114731

2)ソウル市の調査によると、SHEINやTemuの商品から基準値を超える発癌物質などが検出された(朝鮮日報

https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/07/19/2024071980029.html#:~:text=主要記事-,中国SHEINの女性用下着から膀胱炎リスク,物質検出 ソウル市調査&text=ソウル市は18日,を高めるものだという。

3)Temuの本部に出品業者が大挙して抗議に(Bloomberg

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-30/SHFDE2T0AFB400

などです。

 

1については、「vol.234:Temuはなぜ常識を超えて安いのか。創業者の「資本主義の逆回転」と安さの本質」でもご説明しました。過去のメルマガを探していただくか、こちらの無料部分でも読めます。

https://tamakino.hatenablog.com/entry/2024/06/23/080000

 

繰り返しになるので簡単に説明しますが、現在、ECなどの加盟店がクレジットカード決済を行うには、国際的なカードセキュリティ基準「PCI DSS」に準拠することが必須になっています。このセキュリティ基準のポイントは「加盟店はカード番号を知ることができない」というものです。カード番号を知ることができないのですから、TemuあるいはTemu内部の悪意のある従業員も流出のさせようがありません。もし、このセキュリティ基準にバックドアのようなもの設置していた場合は重大な違反となりますので、加盟店契約を解除され、カード決済は扱えなくなります。

Temuがサイバー攻撃を受けて、悪意のある第三者によりカード番号が抜き取られているのだとすると、カード会社の検知によりTemuから流出していることが判明した途端に、カード会社はまず、状況に応じてカード新規登録の停止や決済の停止の措置をとります。それから調査を始めます。

そのどちらも起きていないのですから、Temuからカード情報が流出していると考えるのは無理があります。おそらくは、まったく別のところでフィッシングサイトに騙されて、自分でカード情報を犯行集団に渡してしまい、Temuが怪しいと思い込んでいるのではないかと思います。

この問題を報じているメディア記事でも、みな「不正請求される?」など断言をしない形で報じていて、多くが「Temuに限らず、どのサービスでも不正利用のリスクは常につきまといます」としています。もし、「Temuがカード情報を流出させていることを確認した」と断言している記事がありましたら、詳しく読みたいので教えていただけると助かります。これは、VISAやMastercardなどの国際カード会社が策定をしたセキュリティ基準「PCI DSS」に大きな穴があったという話になるので、決済業界が上へ下への大騒ぎになる重大ニュースになります。

 

2のソウル市が有害物質を検出したという件に関しては、私の知識では評価ができません。しかし、なぜソウル市だけで有害物質が検出されるのかが不可解です。このような報道がされれば、各国の検査機関や市民団体が追試をしていると思いますが、今のところ、そちらから検出されたという発表はありません。

ソウル市の検査結果はこちらから見ることができます。

https://www.seoul.go.kr/news/news_report.do#view/412765

 

発表資料(pdf)にある商品を日本のTemuで探してみましたが見つかりません。すでに撤去済みなのかもしれません。さらに、日本のアマゾンで探してみると、何点か、同じ商品ではないかと思えるものを見つけました。

こちらはソウル市の発表にある商品です。

▲ソウル市により、可塑剤「DBP」が基準値の380倍も使われていたと指摘された商品。ソウル市公式サイト報道資料より引用。

 

こちらは、アマゾンで販売されている商品です。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0CZ8CZB35/ref=ewc_pr_img_1?smid=A1WFFDM7OAIC09&th=1

 

見た目だけで判断をしているため、本当に同じ商品であるかどうかは断定できませんが、非常によく似ています。ソウル市の検査で有害物質が検出された商品と非常によく似た商品が日本のアマゾンで販売されています。これはどういうことなのでしょうか。もう少し、他国の検査機関の発表がなければなんとも言えない情報です。

実際、TemuやSHEINに商品を提供している出品業者の2割程度がアマゾンのマーケットプレイスにも出品をしています。ブランド名や商品名は変えていることがありますが、同じ商品がTemuとアマゾンで売られている例は増えているのです。なぜ、Temuでは有害物質が発見されているのに、アマゾンでは堂々と販売されているのでしょうか。

「Temuは有害物質とか怖いから、アマゾンで買う」と言っている方がいたら、ぜひ「アマゾンでも気をつけて購入した方がいい」と教えてあげてください。

 

3の出品業者のTemuへの集団抗議は、多くのメディアが事実を伝えるだけにとどめていますが、日本のSNSではもっぱら「Temuは消費者を騙し、出品業者も騙し、二重に儲けている」という文脈になっています。

今、中国では悪質業者の大掃除が行われています。ECにはたくさんの出品業者が参加するため、中には悪質な業者もたくさんいます。その多くは、商品ページでいいことを言っておきながら、内容の異なる商品を販売するというものです。

例えば、アマゾンにもそんな商品はたくさんあります。

https://www.amazon.co.jp/SSD【Win-動作確認済み】最大転送速度550MB-USB3-2Gen1-Type-C-金属の質感/dp/B0DB5X975H/ref=pd_sbs_d_sccl_3_4/356-7814113-8475338

 

これは、SSD(メモリーディスク)で容量が30TBあるものが7500円程度で販売されている例です。SSDは容量が大きいものでも2TBぐらいが最大で、そのような製品だと2万円から3万円はします。それが、価格は半分以下で容量は15倍なのです。

レビューを読むと、認識しない、実際は100GB程度しか保存できないというものが多くあります。多くの方が返品をしているようですが、このような消費者を騙す商品がたくさんあります。

こういうことをする業者はタオバオの時代からたくさんいて、EC運営にとっては頭痛の種になっていました。タオバオは苦情の多い業者の出品を禁止するという形で排除に乗り出しました。すると、同時期に拼多多が成長を始めたため、多くの悪質業者が拼多多に移りました。そして、Temuでは、このような業者の商品を採用しないという方針を取り、それでも消費者に渡った場合は「即返金、商品返送は不要」にしています。悪質業者にしてみれば、お金は入ってこない、商品は戻ってこないになるわけですが、これにより悪質業者を一掃しようとしているのです。Temuを国際的なECに成長させ、株式上場させるためには、ここで一掃しておく必要があるのです。

そのような悪質業者がTemuの本社に大挙して押しかけて抗議をしたという話です。Temuではすぐに警察を呼んで排除してもらいました。つまり、悪質業者を排除するための戦いをしているのです。消費者にとっては、悪いことではありません。

 

もちろん、それでも「Temuは怖いから使わない」と判断されるのは自由です。同じものがアマゾンでも2倍ぐらいの価格で販売されているので、それが安心できるというのであればそちらを買うのももちろん個人の自由です。

今、中国のECの大きなテーマになっているのが、「返品のしやすさを高めること」と「悪質業者の排除」です。ECにはフルマネージドモデルとバザールモデルの2つのやり方があります。この名称は確定した言い方がなく、フルマネージドはB2C型、バザールモデルはS2B2C型と呼ばれることもあります。

フルマネージド(B2C)は理解しやすく、一般的なお店と同じです。ECが商品を仕入れて消費者に向けて販売をします。中国では京東(ジンドン)、日本ではアマゾンがこのタイプです。一方、バザール(S2B2C)は、多数の出品業者が出品し、消費者がそれを買うというマッチング型です。中国ではタオバオ、日本では楽天やアマゾンのマーケットプレイスがこのタイプです。

フルマネージドモデルでは、品質管理はしやすくなります。ECのバイヤーが問題のある商品を仕入れなければいいだけです。ところがバザールモデルでは、品質管理がものすごく難しくなります。大量の出品業者が出品するために、そのすべてを事前にチェックすることは不可能に近いからです。多くの場合、問題のある商品が消費者にわたってしまって、それから事後で対処することになりがちです。

中国のECは、越境ECとして海外に展開をし、なおかつ株式上場もねらっていますから、このタイミングで、品質管理のレベルをあげる必要に迫られています。そこで、まず簡単に返品ができる仕組みを整え、消費者に与える手間を軽減し、同時にそのような問題のある商品を販売する業者を排除する必要に迫られています。

 

面白いのは、日本の楽天もバザールモデルであるのに、ゼロではないと思いますが、品質問題が日常的に起こっているということはありません。楽天の場合は、まず出店審査が非常に厳しく、その後の品質管理も労力をかけて行っています。

これは、日本のECの使い方によるところもあるかもしれません。次の図は、米国のECの返品率です。

▲米国のECで返品率が高い商品ジャンル。衣類と靴が56%と非常に高くなっている。全平均は25%前後になる。Magneto IT Solutionsより引用。

 

全体で平均して25%ほどになります。中国ではさらに高く30%を超え、40%に近づいているとも言われます。また、他の国もだいたい米国と同じレベルです。つまり、ECというのは「買う場所」ではなく、「取り寄せてみる場所」なのです。まず取り寄せてみて、箱を開けて、そこで初めて商品の実物を見て吟味をし、問題があると感じたものは返品をします。オンライン出張販売システムなのです。

一方、日本の返品率は5%から10%と、非常に低くなっています。つまり、店頭と同じ感覚で「注文=購入」の意識であり、返品をするのはよほどの理由がないと申し訳ないと感じてしまうのです。これはこれで美しい日本の心で大切にすべきですが、海外の返品前提のECが入ってきた場合には不快な思いをすることも出てきます。

 

また、日本全体が返品を前提としないために、返品手続きは複雑なまま改善されづらいという問題もあります。そこにかかるコストは当然価格に反映されることになります。ECというのは「現物を見ずに買う」ということが大きな課題になっているため、返品しやすくすることで消費を刺激するというのが海外のECの考え方です。

中国の越境ECは、このような返品手順を非常に簡素化、合理化をして消費者が問題を感じたら返品しやすくしています。なおかつ悪質な出品業者が損をする仕組みを導入して排除するということを進めています。この点では、アマゾンなどの国際的なECよりも対応が進んでいます。

アマゾンは、自社仕入れ自社販売というフルマネージドモデルが中心であったため、品質管理がしやすく、中国のECのような品質問題が比較的起こりづらい環境でした。しかし、マーケットプレイスでの販売量が増え、さらには中国越境ECに対抗するために低価格帯商品を充実させようとすると、中国越境ECと同じように「返品のしやすさ」「悪質業者の排除」をしていかなければならなくなります。ここにECの巨人アマゾンにも隙があり、そこが中国越境ECに侵食されることになっているのです。

今回は、アマゾンが低価格帯商品でどの程度侵食をされて、アマゾンはどのような対応をしているのかをご紹介します。

 

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