中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

合成燃料e-fuelはすでに開発できているのに、一向に普及しないのはなぜ。e-fuelの3つの課題

中国はすでに合成燃料e-fuelの製造技術を確立している。これを使った燃料自動車などを製造することもでき、CO2を増やさないで済む。しかし、現実には一向に普及の兆しが見えない。それは大きな3つの課題が残されているからだと知識TNTが報じた。

 

電気料金が安い中国

中国のエネルギー状況は、電力とガソリンで大きな違いがある。電力に関しては石炭火力と太陽光を主体とし、エネルギー自給率が80%を超えている。そのため、電力料金は国際的にも見ても非常に安い。一方、ガソリンは中国内で産出しないため輸入に頼り、国際価格の影響を受ける。2023年、中国が消費した石油の量は約7.26億トンで、5.64億トンが輸入だった。つまり、輸入依存率は77.63%だった。

今年2024年4月にはガソリンが再び値上げとなり、92号ガソリン(レギュラー)1ℓは8.3元となり、95号ガソリン(ハイオク)1ℓは9.0元(約200円)となった。

電気料金が非常に安く、ガソリン価格が国際価格で高いということが、中国のEVシフトを進める原動力になっている。NEV(新エネルギー車)に乗り換えると、燃料費が1/8から1/10程度で済むようになるのだ。

 

合成燃料e-fuelの研究が完成をしている中国

この石油が産出しないということは、中国の安全保障上も大きな課題になっている。国際情勢から石油禁輸をされてしまうと、中国はすぐに立ち行かなくなってしまうのだ。

一般の自動車はEVシフトが進んでいるが、人民解放軍軍用車両はほとんどEVシフトが進んでいない。石油燃料でないと機動力が落ちてしまうためにEVシフトができないのだ。

そのため、中国は産油国であるロシアと友好関係を保たざるを得ない。そして、以前から人工ガソリン(e-fuel)の研究開発に取り組み、2017年にはすでに技術を完成させている。しかし、実際にはほとんどe-fuelは普及していない。それはe-fuelにはさまざまな課題があり、その解決が難しいからだ。

▲中国では、中国版e-fuelの製造技術が確立している。これを利用した自動車なども製造することが可能な状態になっている。

 

水素にCO2を合成した中国版e-fuel

ガソリンの代替物として古くから注目されているのが液体水素だ。水素を燃焼させれば水ができ、CO2は排出しない。そのため、究極のクリーンエネルギーとも言われる。しかし、水素は不安定ですぐに化学反応を起こすために爆発をしやすい。そのため、水素燃料を扱う技術開発が必要であり、貯蔵や運搬にも大きなコストがかかる。

しかし、2017年にアモイ大学化学工学の王野氏の研究チームが、液体水素に直接二酸化炭素を合成する技術を開発した。これにより中国版のe-fuelが完成をした。燃焼をすると、CO2と水を放出する。

CO2を放出してしまうのになぜクリーンエネルギーと呼ばれるのか。それはすでに大気中にあるCO2を原料として燃料を生産し、使用時にはそのCO2を放出することから、大気中のCO2の総量は増やさない。CO2をリサイクルするようなものだ。

このe-fuelは扱いも簡単で、輸送もしやすいことから、人工ガソリンとして大いに期待された。

二酸化炭素を直接水素と合成するプラント。このe-fuelは燃焼すると二酸化炭素を放出するが、二酸化炭素を集めて合成しているため、環境中の二酸化炭素雨の送料は増やさない。

 

水素と二酸化炭素の大量調達が難しい

しかし、現実には実用化にはほど遠い。それは3つの大きな課題があり、まだ突破できないでいるからだ。

大きな課題は原料の入手だ。中国版e-fuelを製造するには大量のCO2と水素が必要になる。しかし、このCO2の入手が難しいのだ。大気中のCO2を使うのでは収集できる量が少なすぎて量産はできない。そこで、大量にCO2を発生させる工場や火力発電所などから放出されるCO2を収集することになる。また、CO2の大量貯蔵にも技術開発が必要になる。

また、水素も意外に入手が難しい。水を電気分解してつくるのが基本だが、大量の水が必要となり、中国は陸水資源が非常に貴重だ。そのため、海水を使って水素を生産することになる。水素も取り扱い、貯蔵が簡単ではない。

 

安全な輸送技術の確立が難しい

2つ目の問題は安全な輸送だ。中国の場合、CO2は内陸部にある大規模工場や火力発電所から収集をする。一方、水素は沿岸部で生産をする。海と山で離れているため、e-fuelを生産するには、CO2か水素のどちらかを輸送しなければならない。この安全で大量の輸送技術がまだ確立をしていない。

 

そもそもエネルギー効率が悪い

3つ目の問題は、そもそも論だ。水素を電気分解により生産するには大量の電力を消費する。しかも、効率は決してよくなく、エネルギー効率は16%程度に止まっている。100の電力を投じても16のエネルギー燃料しか生産できないのだ。

一方、BEV(電気自動車)の技術は進展をし、エネルギー効率は77%にも達している。だったら、電力を使って水素を生産してe-fuelで車を走らせるより、その電力をBEVに充電して走った方が賢いのではないか。

しかも、中国は常に電力が足りていない状況で、太陽光発電を急速に増やしているものの、火力発電を停止できる状況にはなく、水素を電気分解で生産するなどという電力の無駄使いはできない。

このような理由で、e-fuelの製造に関しては技術は確立したものの、さまざまな課題が立ち塞がり、社会実装できないままに足踏みをしている。よほど大きなブレイクスルーが連続して起こらない限り、e-fuel自動車が普及することは難しいのではないかと見られるようになっている。