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TikTok排除に成功した米国。次は、激安アパレルのSHEINと激安ECのTemuがターゲット

TikTok排除に一定の成果をあげた米国議会は、次はSHEINとTemuの排除をねらっている。関税の免税措置の上限を引き下げ、関税がかかるようにしようというものだ。しかし、現実にはSHEINとTemuに打撃を与えることは難しく、米国議会は苦慮をしていると霞光社が報じた。

 

米国企業への売却の道はほぼないTikTok

TikTokの禁止法案が米国で成立し、9ヶ月以内に中国政府の影響下にない米国企業時に事業売却をしない場合、運営が禁止されることになった。TikTokは、ほぼ確実にこの法案が憲法違反であることを訴える訴訟を起こすと思われるが、それに敗訴をすれば打つ手がなくなる。

TikTokは未上場であるため、親会社の中国企業「バイトダンス」がその株を保有している。事業売却のためにこの非公開株を米国企業に譲渡する場合は、中国政府の承認が必要になる。また、TikTokのリコメンドアルゴリズムは、商務部などが定める「中国輸出禁止制限技術」に指定されており、TikTokを米国企業に売却をすると、この規制に触れることにもなる。中国政府がこれを認める可能性は低く、米国での運営はできなくなる公算が強い。つまり、米国でのサービスを停止する可能性が高い。

 

次は、関税問題に焦点が

米国は、TikTok排除に一定の成果を出し、次は越境ECの「SHIEN」(シーイン)と「Temu」(ティームー)の排除が本格化をしてきている。その中心になっているのは、de minimis(デ・ミニミス)規定の撤廃または改定だ。

デ・ミニミスとは「些細なこと」という意味で、米国では海外からの個人宛小包のうち、商品価値800ドル(約12.5万円)以下のものについては、関税を取らないというルールだ。

このようなルールはどの国にも存在をする。日本の場合は、商品価値1万円以下の個人宛輸入小包では関税を取らないルールになっている。中国でも輸入税額が50元以下の場合は免除される。

このようなルールには2つのねらいがある。ひとつは、低額商品の個人輸入をしやすくして消費者の選択肢を増やすこと。もうひとつは、低額のものまで関税を取ってしまうと、税関の業務負担が大きくなり、行政コストが見合わないことだ。

▲米国に免税優遇を受けて入ってくる輸入品の30%はSHEINとTemuの商品になる。

 

SHEINとTemuは関税を逃れている

米国下院の超党派の対中国共産党委員会があるレポートを下院に提出した。「Fast Fashion and the Uyghur Genocide: Interim Findings」(ファストファッションウイグル人虐殺:暫定的な知見)という刺激的なタイトルで、中国の激安アパレルEC「SHEIN」はウイグル人を強制労働させた綿を使って製品を製造していると指摘したものだ。この中で、Temuについても触れられ、デ・ミニミス・プロビジョンを悪用していると糾弾されている。

2022年には、6.85億個の荷物がこの特例を受けて米国内に輸入されたが、そのうち30%はSEHINとTemuなどの中国の越境ECによるものだったと報告書は指摘している。

つまり、SHEINとTemuが低価格で販売をできるのは、関税を逃れているからで、この800ドルという額を引き下げる必要があるという主張だ。

▲2022年の各ファストファッションブランドの関税支払額。SHEINとTemuは0ドル。価格が安いために、すべての商品が免税優遇を受けることができている。

 

進まない関税優遇措置の撤廃

この問題は2022年から議論されている。米国のアール・ブルーメナウアー下院議員は「Import Security and Fairness Act」(輸入安全と公正法)を議会に提出した。米国の優先監視リストに入っている中国などの非市場経済国からの輸入品にはデ・ミニミス・プロビジョンを適用しない、つまり関税を免除しないという内容ものだ。しかし、この法案は上院で棚上げをされた。

2023年には、3人の上院議員が、輸入安全と公正法を含む法案を提出したが、これも現在審議中のままになっている。しかし、すでに議員の間からは、「Temu」「SHEIN」「AliExpress」という具体的な中国越境ECの名前を出して、関税の抜け穴を防ぐべきだという声が上がっていて、免税上限額を200ドルに引き下げるべきだというところに意見が集約されようとしている。

 

元々は個人輸入を促進するために引き上げられた

しかし、200ドルに引き下げたところで、200ドルは日本円で3万1000円程度であり、中国越境ECの商品単価を考えると、関税がかかることになる商品はほとんどないように思える。

そもそも、米国はこの免税基準が他国に比べて突出して高いのはなぜなのか。2016年までこの基準は200ドルだった。しかし、当時のオバマ政権がこの額を200ドルから800ドルに引き上げる法案に署名をしてから、この問題が起こり始めているのだ。

当時は、米国はアマゾンなどの国内ECはよく利用するものの、海外のECの利用率が低かった。そこで、個人輸入を促進し、同時に税関の業務負担を減らし、行政コストの軽減をねらったものだった。思惑通り、輸入小包の数は年々増加をしている。

 

200ドルに下げても影響がないSHEINとTemu

この動きを中国のEC関係者たちは見逃さなかった。SHEINの前身は、2008年に創業をしたウェディングドレス専門の越境ECだった。創業者の許仰天(シュー・ヤンティエン)が、「中国で製造されたウェディングドレスは、米国では10倍以上の価格で売れる」という話を聞いて、ウェディングドレスの米国輸出を考えたが、米国に販売網を築くことは簡単ではない。そこで、越境ECでの販売を始めたところよく売れた。

2011年にShe Insideという越境ECを立ち上げ、女性アパレル全般の越境ECを始め、一定の成功を収めた。しかし、爆発的に伸び始めたのは2017年に「SHEIN」とリブランドをしてからだ。デザイン企画から販売までを7日間という短いサイクルで可能にする体制を構築したこと、発注システムを構築し、広州市番禺区の下町工場を組織化していき、低コストで生産できる体制を整えたことなどがあるが、米国でのデ・ミニミス・プロビジョンの免税上限額が緩和をされ、ほとんどの商品が関税なしで輸出できるようになったことも大きい。

SHEINの商品は多くが10ドルから20ドル程度で、これは当時の米国の最低時給が7.25ドルであったことから「2時間働けばSHEINの服が買える」ことを目指したものだ。SHEINのターゲットは女子大学生であり、勉学に忙しい女子大学生は、アルバイトをするのも週に数日が限界だと想定したからだ。

つまり、免税上限額が800ドルから200ドルに引き下げられても、SHEINやTemuにはほとんど影響はない。

 

中国を名指しで関税をかければWTOに提訴される

影響があるとすれば、非市場経済国として中国を名指しで免税措置を取り消すことだが、それをしたとしても、衣類の場合、簡易課税になるので5%または10%であり、SHEINやTemuの価格上昇はごくわずかなものだ。すると、今度は中国輸入品に対しての関税率を大きく上げていく必要がある。しかし、そこまですると、中国政府は世界貿易機関WTO)に提訴をしてくることは確実だ。

2016年に米政府がよかれと思って免税上限を引き上げたことにより、市民の間に中国の越境ECが定着をしてしまい、米国は対応に苦慮をすることになっている。