中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

小米SU7誕生秘話。勇気とは恐れない心ではなく、恐れに直面しても揺らがない心

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 241が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、話題の小米の電気自動車「SU7」の開発秘話をご紹介します。

 

2024年7月19日、恒例となった小米(シャオミ)の製品発表会で、再び創業者、雷軍(レイ・ジュン)の講演「勇気」が行われました。昨年の「成長」は、「vol.192:小米創業者・雷軍の年度講演「成長」。認知の突破のみが人を成長させる」でご紹介しましたが、今年も雷軍氏の講演をご紹介したいと思います。

今回のテーマは、話題の電気自動車「SU7」を開発するまでの物語です。みなさんに読んでいただきたいのは、雷軍氏のものづくりに対する姿勢です。小米といえば、フォーチュン500のグローバルランキング2023年で360位にランクされている企業です。その近辺にある日本企業を探すと「みずほフィナンシャルグループ」(350位)、「KDDI」(357位)、「明治安田生命保険」(375位)などがあります。雷軍氏はこの規模の企業の創業者でありCEOなのです。

それが、ものづくりではあいかわらず先頭に立っているのです。雷軍氏は、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)などで、自社工場をたびたび紹介していますが、その詳しさが経営者のものではありません。現場で毎日作業をしている人の詳しさなのです。そのため、一般的には総経理(社長)という肩書を使って「雷総」(レイゾン、雷社長)と呼ばれるのですが、ネット民の間では「雷工場長」と呼ばれています。自分で生産ラインに入って作業しているのではないかと思うほど詳しいのです。

 

日本のものづくりが衰退をしたのは、このようなマインドが失われたからです。ある、誰もが知っているメーカーの社運をかけた製品の取材をしたことがあります。開発ストーリーをお聞きし、最後に役員プレゼンの話になりました。発売前1ヶ月というタイミングで、量産や流通、広告などあらゆる部署が発売に向けて動き出している時期です。その開発担当者は役員プレゼンがいちばん緊張するという話をしてくれました。なぜなら、その役員プレゼンでノーと言われたら発売は延期か中止になり、関係部署全員の努力が無駄になってしまうからです。

私は「とは言っても、現実にはそこで中止になることなどないのだろう」と内心思いました。メーカーにとっても、莫大な損害を被ることになるからです。しかし、その開発担当者は「あり得る」と言います。なぜなら、担当役員に定期報告はしているものの、製品をじっくり見てもらうのは初めてのことであり、その他の役員に関しては製品を見ることすら初めてだからだというのです。

私は心底驚きました。社運を賭けた製品なのに、経営者が1ヶ月前になって製品を初めて見るなどということがあるとは思いもしなかったのです。私が経営者なら、心配で心配で、毎日でも精力ドリンクか何かを手土産に現場に足を運んでしまいます。たぶん、現場のスタッフからはうるさがられると思います。それでも、開発とは関係ない部分での困りごとをなんとか察知して、こちらで解決して支援しようとします。それが、この会社は、発売前1ヶ月という大詰め段階で、経営者が初めて製品を見るというのです。驚きました。

 

経営と執行の分離という考え方があります。経営層は業務にタッチをせず、方針決定に専念をする。業務に関しては執行役員が統括をするという役割分担をして、意思決定を素早くするという考え方です。しかし、であるならなぜ「役員プレゼン」などをするのかわかりません。経営者は執行役員から報告を受ければいいのです。あるいは儀式的な「役員お披露目会」はやってもいいかもしれませんが、そこで「ノーと言われたら発売できなくなる」などという権限を持たすべきではありません。経営と執行の分離が曖昧になってしまいます。経営者はもっと早い段階で、執行役員からの報告を受けて、発売するかどうかを判断しなければならないのです。

この会社は、その後も、あるモバイル製品の発表会で、役員がそろいもそろって新製品を上下逆さまに持ち、それに気づかずマスコミの撮影に応じてしまい、メディアで流されてしまったという失態をしでかしています。

経営と執行の分離などと言うと、いかにもスマートで洗練されているように聞こえますが、ものづくり企業には向いていないのかもしれません。経営者をものづくりマインドから遠ざけるだけになってしまうのではないかとも思います。もちろん、私は会社経営の経験などありませんので、私の方が間違っているのかもしれません。

ものづくり企業にとって大切なことなのはなにか。雷軍氏の講演にはそのヒントが埋め込まれています。フォーチュン第360位の企業の創業者が、工場長と呼ばれるほど現場に入り込んで開発の先頭に立っています。ものづくり企業はどうあるべきなのか、講演を読みながら、ぜひみなさんにも考えていただきたいと思います。

内容は小米の電気自動車「SU7」の開発ストーリーです。今までメディアで語られなかったエピソードも満載です。難しく考えなくても、開発ストーリーとしても面白い内容になっています。

今回は、雷軍氏の年度講演「勇気」をご紹介し、そこからものづくりに求められるマインドとは何かを探ります。なお、前回の「成長」のご紹介では、ほぼ全訳をしようと無謀なことをしたため、長くなり、単なる状況説明の箇所も含まれていました。今回は、ハイライトをご紹介し、間に「※注」として、私の補足と説明を入れていく形式にします。それでも、全体の半分程度はご紹介できていると思います。

▲年度講演「勇気」のプレゼンテーション。作成しているのは雷軍氏のスタッフだが、雷軍氏はデザインやフォント、色についても、細かく指示をするという。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.240:AI時代にいちばん不足するのは電力。中国はどうやって電力を増やそうとしているのか。「東数西算」工程とは。