中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

リストラが続いたテック企業の2022年。それでも研究開発費を増やし続ける理由とは

2022年は、中国テック企業にとって寒い冬の時代となり、リストラが続いた。しかし、多くのテック企業が研究開発費を減らさず、将来への投資を行なっている。米中のテック企業の大きな違いは、研究費の多さで、中国テック企業は研究投資を行なって米国テック企業に追いつこうとしていると億欧網が報じた。

 

業績悪化に悩んだ2022年

2022年は、多くのテック企業が業績悪化に苦しんだ。特に深刻なのがアリババで、4つの四半期のうち2つの四半期が赤字となった。これは上場以来初めてのことだ。アリババが上場以来初の赤字になったのは、2021年1-3月期だが、この時期は独占禁止法違反で約180億元(約3500億円)もの罰金を支払ったためで、この罰金を除外して考えれば黒字になっている。2022年の赤字は、投資をしている企業の業績が低下をしたためだとアリババは説明しているが、稼ぐ力が痩せ細ってきていることは間違いない。これはテンセントも同じだ。これにより、2022年はアリババ、テンセントでは大規模なリストラが行われた。

 

それでも研究開発費を減らさないテック企業

しかし、テック企業、特にアリババ、テンセントの研究開発費の支出はあいかわらず旺盛だ。2022年Q3の研究開発支出を見ると、アリババとテンセントは150億元(約2900億円)を超えている。

しかも、両社は研究開発費を減らしていない。むしろ、アリババ、テンセントともにこの数年間は研究開発費を増やし続けている。2022年は微減をする見込みだが、これは大規模なリストラを行なったため、研究開発部門の人件費が減少することによるものだ。両社は、業績は厳しくなっているものの、将来への投資は怠っていない。

▲アリババとテンセントの研究開発費の推移。コロナ禍、業績悪化の中でも研究開発費は増額か維持をしている。単位:億元。

 

ドローン配送に集中する美団

アリババ、テンセント以外のテック企業も、業績が苦しくなる中で、研究開発費を減らさないどころか、むしろ増やしている企業もある。ただし、アリババ、テンセント以外の企業は、全方位の研究開発をすることは体力的に難しいために、企業の強みとなる分野に絞って研究開発費を支出している。

フードデリバリー「美団」(メイトワン)は、ドローンや無人カートを使った無人配送の分野の研究開発に集中をしている。22Q3の研究開発費は、前年比14.9%増え、54.1億元となった。すでに、深圳市で18の定期ドローン航路を開き、2022年は12万件の飲食品、商品をドローンで配達した。

さらに、2021年10月には「小売+テック」戦略を打ち出し、新たな分野の研究開発も進めている。

▲主要テック企業の22年Q3の研究開発費。アリババとテンセントが多く、ファーウェイはさらに桁違いに大きい。アリババ、テンセントの2倍以上あると推定される。単位:億元。

 

アグリテックに集中する拼多多

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)は、テック企業としては研究開発費の割合が小さな企業だが、それでも前年比11.4%増え、27.0億元となっている。

拼多多が特化しているのは農業だ。農業生産をテクノロジーで効率化し、質の高い農産物を低コストで生産し、都市部に売るということを考えている。2021年8月には農業科学プロジェクトに累計100億元の投資をすることを発表している。

 

ゲームに集中するネットイース

ゲーム+デジタルエンターテイメント企業の「網易」(ワンイー、ネットイース)も、研究開発費が2.9%増え、39.7億元となった。網易の研究開発は、ゲーム分野に対して行われている。

例えば、ゲームグラフィック開発環境Unreal Engineを使った「永劫無間」は、Steamで年間ベストセラーランキングTop10に入った。中国製ゲームとしては唯一のトップ10入りとなった。「無尽的拉格朗日」(インフィニット・ラグランジュ)もそのグラフィックの美しさから好評を得ている。

▲22年Q3の収入に対する研究開発費割合。百度の他、ビリビリなどの研究開発割合が大きい。

 

赤字でも研究開発費を減らさないビリビリ

テック企業の中には、創業以来赤字が常態化をしているという企業もある。動画共有サービスの「ビリビリ」と、ショートムービー共有の「快手」(クワイショウ)だ。そのような黒字化を模索している段階のテック企業は、研究開発費をどうしているのだろうか。

ビリビリの研究開発費は、前年比43.5%増え、11.0億元となった。ビリビリの陳叡(チェイン・ルイ)CEOは、2024年に赤字を解消することを株主と約束している。現在のCEOの最も重要な仕事が赤字削減になっている。それでも、コスト削減だけで黒字化をすることは難しく、収益力の高い事業が必要になる。そのために、研究開発のスタッフは増やし続けている。収益に占める研究開発費割合は19.48%となり、テック企業の中では頭抜けて高い。

 

研究開発費を減らした快手

一方、快手は研究開発費を16.2%減少させ、35.0億元となった。販売、マーケティングなどの管理支出も減少しており、支出の全面的な縮小が行われ、コストを下げることでの黒字化が模索されている。しかし、ビリビリや快手が株式市場から求められているのは、黒字化よりも収益性を証明することだ。赤字であっても、儲かる可能性の企業であると市場から評価されれば株価があがり、資金が調達でき成長できる。しかし、儲かる可能性がないと判断されてしまえば、コストだけでなく、収入も株価も全面的に縮小していくことになる。ビリビリと快手の研究開発に対する姿勢の違いが、企業の明暗を分けることになるかもしれない。

▲主要テック企業の22年Q3の研究開発費の前年比。多くのテック企業が経営状況が思わしくない時期に研究開発費を増やしている。

 

新分野に研究開発投資をする百度と小米

また、美団や拼多多、網易とは異なり、新分野に積極的に研究開発投資をして、道を拓こうとするテック企業もある。「百度」(バイドゥ)と「小米」(シャオミ)だ。

百度は創業以来、研究開発投資を積極的に支出し続けている。前年比で7%減と減り58億元となったが、収入に占める研究開発費割合は17.7%で、非常に高くなっている。研究開発が集中をしているのは自動運転とAIだ。すでに自動運転ロボタクシーは試験営業を始めていて、47.4万回の乗客を乗せた運行を行なっている。すでに、正式営業に入れる状態となっていて、法的整備が整うのを待っている段階だ。正式営業になれば大きな収入が得られることになる。

小米の研究開発費は、25.7%増加し40.7億元となった。さらに、雷軍(レイ・ジュン)CEOは、今後5年間で累計1000億元の研究投資をしていくことを発表している。リストラが進むテック企業の中で、小米は従業員数を2500人規模で増やしたが、その9割は研究開発スタッフだという。

小米の研究開発の焦点になっているのは自動車だ。2024年には量産に入る予定で開発が進んでいる。

 

米国テック企業並みの研究開発を行うファーウェイ

研究開発に積極的な企業といえば、華為(ファーウェイ)で、研究開発費は1105.8億元と桁違いであり、収入に対する比率は25%を超えている。米国で最も研究開発を行っているテック企業、アマゾンの2022年Q3の研究開発は194.85億ドルで、これは人民元に換算すると約1370億元になる。また、研究開発費が少ないことで知られるマイクロソフトは66.28億ドルで、460億元に相当する。ファーウェイは、米国のトップクラスのテック企業と同等の研究投資を行っている唯一の中国企業ということになる。

逆に言うと、アリババ、テンセントですら、米国のテック企業の研究開発投資と比べると見劣りする。企業価値、営業収入などでは米国と肩を並べた中国企業だが、この研究開発の分野ではまだまだ追いつけていない。ここが、米国と中国のテック企業の埋めようとして埋められない差になっている。

中国テック企業は、「寒い冬」に例えられる現在の停滞期を早く脱して、より研究投資を行い、新しい事業を生み出していく必要がある。