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「地方市場は安ければ売れる」の大きな誤解。大都市よりも熾烈な地方でのカフェ競争

スターバックスが地方市場に進出をすることを含む、300都市9000店舗の計画を発表している。しかし、地方はあまい市場ではなく、低価格でありながら一定水準の品質を提供しなければ生き残ることができない。すでに地方市場に特化をしたカフェチェーンも登場してきていると咖門が報じた。

 

スターバックスも入れない地方市場

スターバックスが2025年までに300都市9000店舗にするという計画を発表し、ライバルの瑞幸珈琲(ルイシン、Luckin’ Coffee)もフランチャイズ方式で地方市場に進出を始めるなど、カフェの地方市場への浸透が大きなトレンドになっている。

しかし、大都市で拡大したカフェチェーンが地方市場に進出するのは簡単ではない。その理由の最大のものは価格帯だ。スターバックスは客単価が30元以上、ラッキンも20元弱だが、地方市場では10元を切る価格が相場になってきている。

 

10元以下が地方市場の相場になってきている

なんといっても強いのが激安ドリンクスタンドの「蜜雪氷城」(ミーシュエ)で、レモン水は1杯4元。この蜜雪氷城はカフェのサブブランド「幸運珈」(ラッキーカップ)をすでに600店舗以上展開し、最低価格の低脂肪ラテは1杯5元だ。

また、全国9000店舗を展開するケンタッキーフライドチキン(KFC)は、SOE(シングルオリジンエスプレッソ)を9.9元で提供している。コンビニコーヒーも10元+が相場だが、さまざまなクーポンを配布して、実質10元以下で買えるようにしている。

スターバックスやラッキンは、価格を半分以下にしないと、価格競争力がないということになる。

▲梁小糖の店内。大都市のカフェに学び、洗練されたものにしている。

 

地方市場に特化したチェーンが続々登場

しかも、地方市場では、続々と激安ドリンクスタンドが登場している。その中で、注目されているのが広西省を拠点に600店舗以上に急成長している「梁小糖」(リャンシャオタン)だ。ミルクティーを主力商品とし、客単価は8.5元。これで店舗によっては1日3000杯以上を売り上げ、最高の月間売り上げは40万元以上になる。

蜜雪氷城もそうだが、梁小糖のように頭角を表す地方ドリンクチェーンに共通していることが、IPをうまく使いブランド構築をしっかりとやっていることだ。梁小糖はブランドカラーとしてグリーンを使い、店内はブランドカラーとアルミ系の金属で統一をしている。さらに、「糖吨吨」(タンドゥンドゥン)というキャラクターもつくっている。

このような手法は、大都市に展開するカフェ、ドリンクチェーンから学んだもので、デザインの質が高いかどうかは別として、遠くからでも梁小糖であると認識できることが大きい。

▲梁小糖の店舗。グリーンをブランドカラーにし、遠くからでも認識できるようにしている。

 

ターゲット顧客が多い場所をねらって出店

梁小糖は2017年に、梁安軍によって創業された。店舗の9割が広西省にあり、7割以上が地方都市にある。しかし、出店の立地は他の一般的なドリンクチェーンとは大きく違っている。

一般的なドリンクチェーンは、歩行者街、繁華街など、人通りが多い場所を選ぼうとする。これは客流が多いところで、一定割合の顧客を獲得しようとする戦略だ。しかし、地方市場ではこの戦略には矛盾が生じる。顧客の獲得数を伸ばすには、獲得率が一定だと仮定すると、客流そのものを増やすしかない。つまり、より人通りの多い場所に出店することになり、であれば地方市場ではなく、大都市に出店すべきだということになってしまう。

一方、梁小糖は地方都市の中でも、学校、農産物市場、城中村(都市の中に取り残された村)を中心に出店している。梁小糖は顧客ターゲットを10歳から25歳までと考えており、このような顧客が多い場所をねらって出店している。つまり、客流は少なくても、顧客獲得率が高い場所に出店をしているのだ。

▲梁小糖では、さまざまなアレンジドリンクを出している。地方では珍しいドリンクが多いため、目を引くことになる。

 

地方の若い世代をねらう戦略

梁小糖のメニュー価格は、5元から13元で、客単価は8.5元。この価格帯は、高校生、大学生、新社会人にとってありがたい。価格帯も顧客ターゲットに合わせている。

梁小糖は、「学生時代によく飲んだ」思い出を顧客に与えようとしている。そのために、店内にはスケートボードなどが飾ってあり、キャラクターの糖吨吨も地域イベントに積極的に参加をする。梁小糖が学生時代の思い出となることによって、社会人になっても立ち寄ってもらえることを期待している。

▲梁小糖では、糖吨吨というキャラクターをつくり、地元のイベントに出演させるなど、若者の心をつかもうとするキャンペーンを行なっている。

 

小学生にもアプローチ

また、まだ自分1人ではドリンクスタンドにくることはない小学生にも浸透を図っている。地域の小学校にはランドセルを寄付するなどの公益活動をし、その際には子どもたちにドリンクも贈る。

また、街の清掃スタッフにドリンクを無料提供する活動も行なっている。街中の清掃スタッフは、リタイアをした高齢者が務めていることが多いが、賃金は安く、あまり生活費の足しにはならない。それでも屋外作業であるため、夏や冬などの気候の厳しい時期にはつらい仕事だ。体も汚れるため、誰もがやりたがる仕事ではない。しかし、このような高齢者は、自分の住んでいる街をきれいにしたいということからほぼボランティアに近い感覚で清掃を行なっている。

梁小糖はそのような方々に感謝の意思表示としてドリンクを無料提供している。もちろん、後に、清掃スタッフの高齢者が孫を連れて来店してくれることを期待している。

▲梁小糖は小学生も顧客ターゲットにしている。小学校にランドセルを寄贈したり、高齢者が主体になっている清掃員を招いて、飲料を無料提供するなどしている。高齢者が孫を連れて訪れてくれることを期待している。

 

「地方市場では安ければ売れる」は通用しない

地方市場は、非常に価格に敏感な市場で、しばしば「安くすれば売れる」と勘違いしがちだ。よくある勘違いが、品質を落として安くして地方市場に参入し、まったく受け入れられず敗退をするパターンだ。

地方市場は、確かに消費者の収入が低く、購買力は小さいが、家賃と物価も低いために相対的な購買力は決して小さくない。また、地方市場の消費者は日常消費=食事などに集中して消費をする傾向があるため、飲食チェーンにとっては魅力的な市場だ。

そこに浸透をしていくためには、価格は安くても品質は高い、ブランドがその地域に積極的にコミットしようとしているという姿勢を見せる必要がある。地方市場では安いだけでは売れない。なぜなら、安いだけの商品はすでに余るほどあるからだ。

蜜雪氷城や梁小糖のような激安ドリンクスタンドは、その価格帯から軽視されがちだが、ただ安いだけでなく、地方市場に浸透をする戦略を立て、それを地道に実行している。大都市のスターバックスやラッキンが、ブランド力だけで参入することは簡単ではない。

地方市場をめぐって、カフェチェーン、中国茶カフェ、ファストフード、コンビニ、地方激安ブランドの激しい競争がすでに始まっている。

▲地方市場では、子どもが大切にされるため、子どもが行きたいという店は流行る。