中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

0を1にするのではなく、-1を1にする。新小売で蘇った百貨店「銀泰百貨」は何をしてきたのか

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 178が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、銀泰百貨の新小売手法についてご紹介します。

 

中国だけでなく、どこの国でも百貨店は厳しい状況になっています。

百貨店の業績がよかったのは、経済成長の時代です。高級品や輸入品といった非日用品の小売を百貨店がほぼ独占することができた上、消費者も豊かになり、そのような非日用品を買い求める意欲が高かったからです。珍しい物を手に入れることで豊かになったことを感じ、幸せになれた時代です。

しかし、小売業が成熟をすると、ECが登場し、ブランドは独自でECやD2Cを行うようになり、都市内や郊外にはショッピングモールが出現します。百貨店のライバルが多数出現してしまい、消費者が分散をしてしまいました。これにより、百貨店が苦しくなっています。

そのような中で、百貨店は、他の小売店よりも百貨店を選んでもらえる施策をしなければなりませんが、それがうまくいっていないというのが現状です。中には、都市の中心部にある立地にあぐらをかき、いわゆる殿様商売のままきてしまった百貨店もあります。既存の顧客ばかりを大切にして、新規顧客の獲得に不熱心な百貨店もあります。

この「いい時代の既存顧客の維持」と「新しい時代の新規顧客の獲得」の間で、百貨店の戦略は揺れ動き、やみくもに価格を下げ、品揃えを広げていった結果、都心にある価格高めのスーパーになってしまって、百貨店本来の魅力を失ってしまったところもあります。有名ブランドのショップを入居させる不動産業になってしまった百貨店もあります。

 

その中で成功したのがショッピングモール「北京SKP」(https://skp-beijing.com)です。現在、ショッピングモールとしてはトップの売上を誇る高級モールです。北京SKPの前身は、台湾の新光三越百貨店が母体になって2007年に開店をした「新光天地」百貨店です。日本の三越のノウハウを台湾の新光がアレンジをし、北京でもあっという間にトップレベルの高級百貨店となりました。内装も華やかだった頃の三越を思わせる上品で落ち着いたもので、北京の富裕層で新光天地で買い物をしない人はいないほどでした。

しかし、2010年代後半から、多くの百貨店が業績を悪化させる中で、新光天地はいち早くショッピングモールに転換をします。と言っても、中に入っているショップはラグジュアリーブランドばかり。私のような一般人は、中に入るのにも気後れするほどです。2015年5月に北京SKPと名称変更をし、それ以来、富裕層向けのモールとして成功をしています。既存の富裕層をしっかりと捕まえながら、新興の若い富裕層の取り込みにも成功をしました。

 

しかし、北京SKPは例外中の例外です。多くの百貨店は、なすすべもなく、既存の顧客だけに頼り、業績を落とし続けていきました。今回ご紹介する銀泰百貨(インタイ、Intime)も例外ではありません。経営危機を迎え、その中で、同じ浙江省杭州市にあるアリババに助けを求めます。アリババはそれに応え、2014年3月から2017年6月までにわたって3回の投資を行い、銀泰百貨の運営会社である銀泰商業の73.79%の株式を取得しました。アリババの子会社になったわけです。

アリババ側にも、銀泰百貨を買収する強い理由がありました。このメルマガではほぼ毎回出てくるキーワード「新小売」です。2014年に中国の労働人口=消費者人口がピークを打ち、減少に転じると、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、自社の中核事業であるECの限界を感じ取ります。そして、2016年に杭州市雲栖で開催されたアリババのコンファレンスで、「純粋なECはすでに死んでいる」という爆弾発言をします。そして、これからはオンライン小売でもなく、オフライン小売でもなく「新小売」なのだという主張を展開します。

新小売とは「オフライン小売とオンライン小売は深く融合して新小売となる。すべての小売業は新小売になっていく」というものです。

 

ジャック・マーのすごいところは、理論を主張するだけでなく、実践をすることです。この新小売の現実解として始めた新事業が、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)です。注文の仕方はオンライン(スマホ)、店頭(セルフピックアップ)の2通り、受取は30分宅配、持ち帰りの2通りを自由に組み合わせることができるというものです。クイックコマースのように、スマホ注文で宅配をしてもらうだけでなく、店頭に行って食材は自分の目で確かめて購入し、重たい油や水だけを後で宅配してもらうなど、消費者の都合で購入体験を自由自在に組み立てられるのが魅力のスーパーです。新小売が目指しているのは、消費体験の革新です。フーマフレッシュは、アリババが新小売を実現するための実験的プロジェクトでした。

そして、もうひとつの実験プロジェクトが銀泰百貨でした。この経営が行き詰まった銀泰百貨を新小売で蘇らせるというものです。その結果、業績を落とす百貨店が多い中で、毎年成長をするという大きな成果をあげました。このため、銀泰百貨の新小売事例は、「0を1にしたのではなく、-1を1にした」と言われます。では、具体的に何をしたのでしょうか。これは百貨店だけでなく、あらゆる小売業に参考になる事例です。

今回は、銀泰百貨の新小売プロジェクトについてご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月、発行したのは、以下のメルマガです。

vol.174:中国でも地位を獲得している日本料理。なのに、なぜ日本企業の撤退が続くのか

vol.175:中国で広がるAI面接による採用。AIが面接を受け、AIが採用を決める時代がやってくる?

vol.176:アリペイ運営のアントに上場中断と株主構成の変更。統治権を奪われたジャック・マーに何が起きていたのか?

vol.177:まったく新しいアプローチ、レベル2+自動運転とは何か。テスラのFSDを追いかける百度のANPとファーウェイのASD