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著名アーティストのライブが同じ日、同じ時間に激突。抖音とWeChatがライブを大量配信するわけ

このところ、ショートムービープラットフォームでは、著名アーティストによるライブコンサート中継が盛んに行われている。さらには、異なるアーティストのライブが異なるプラットフォームで同じ時間に開催されるということまで起きている。その背後には、熾烈な利用者獲得競争があると紅星新聞が報じた。

 

同じ日、同じ時間に2人のアーティストのライブが激突

5月27日、「今日は羅大佑を見る?それとも孫燕姿を見る?」という言葉がSNSを駆け巡った。羅大佑は台湾の有名アーティスト、孫燕姿シンガポールの有名アーティストで、その日、羅大佑はテンセントの微信(ウェイシン、WeChat)の視頻号(チャネルズ)でコンサートがライブ中継され、孫燕姿はバイトダンスの「抖音」(ドウイン)でコンサートをライブ中継されるからだ。どちらも無料で視聴ができるが、ライブ配信であるために、同時に見ることはできない。

これまでもWeChat、抖音では頻繁に著名アーティストのライブが行われてきたが、この日は同じ日、同じ時間に対決をすることになった。ショートムービープラットフォームでは、新規利用者を獲得するためにたびたび著名アーティストのライブを配信してきたが、この日はその効果がはっきりと出るため、音楽ファンだけでなく、業界関係者も注目することになった。

その結果、羅大佑は視聴者4000万人だったが、孫燕姿は2.4億人という圧倒的な差がついた。

▲台湾の有名アーティスト羅大佑(上)と、シンガポールの有名アーティスト孫燕姿(下)。WeChatと抖音で、同じ日、同じ時間にライブ配信されたため、大きな話題となった。

 

盛り上がる著名アーティストのライブ配信

このようなライブは昨年あたりからたびたび開催されるようになっている。昨2021年9月、抖音は「抖音夏日歌会」を開催している。孫燕姿だけでなく、欧陽娜娜、魚丁糸(ソーダグリーンの元メンバー)、張恵妹など7組のアーティストが登場するライブで4000万人が視聴した。

WeChatでもウエストライフのライブを配信し2700万人が視聴した。さらには今年2022年4月15日には、中国のロックの父と呼ばれる崔健(ツイ・ジエン)のライブが4600万人、さらに5月20日は台湾の人気アーティスト周傑倫ジェイ・チョウ)のライブが見逃し配信も含めて1億人が視聴をしている。

▲テンセントが配信をして大きな話題になったジェイ・チョウのライブ。リアルタイムで2000万人以上が見て、見逃し配信なども含めると再生回数が1億回を超えた。

 

企業、アーティスト、プラットフォームのウィン・ウィン・ウィン

このようなライブは、企業がスポンサーとなり開催し、それをプラットフォームがライブ中継している。企業はブランド浸透することができ、アーティストは存在感を示すことができ、プラットフォームは流量を獲得できるというウィン・ウィン・ウィンのイベントであるため、頻繁に開催されるようになっている。

例えば、崔健のライブは北京汽車傘下の自動車メーカー「極孤」がスポンサーになり数千万元の費用を出している。それでも極孤にとってはじゅうぶんな価値があった。崔健のライブは3時間で4600万人が視聴した。予告なども合わせて、極孤のロゴは9000万人にリーチし、WeChat内での極孤の検索回数はライブ前の54倍以上に跳ね上がった。

極孤汽車の田川市場総監督が紅星新聞の取材に応えた。「協賛したねらいは、ブランドの知名度の拡大です。まったく予想以上の効果で、投資効果は400%以上になったと考えています」。

極孤は、さらに羅大佑のライブにも協賛をしている。視聴者数は4161万人を超え、じゅうぶんな知名度拡大効果があったという。

紅星新聞が百度検索での「WeChatチャネルズ」の検索回数の推移を調べたところ、明らかに、ライブが開催される時期に検索回数が増えている。ライブは大きな効果があることがわかる。

▲ライブを配信をすると、配信プラットフォームである「WeChatチャネルズ」の検索回数が上昇をしていき、ライブ配信後も高止まりをする。プラットフォームにとっても大きなメリットがある。

 

時間消費はSNSからムービーへ

調査会社Quest Mobileの調査データによると、各テック企業のアプリ使用時間の割合を2020年と2021年のそれぞれ12月で比較をすると、テンセントは3.8%ポイントの減少となり、一方でバイトダンスは5.2%ポイントの増加となっている。快手も伸びており、ショートムービーの利用拡大が進んでいることがわかる。

数年前まで、利用時間の大きな割合を占めていたのはSNSで、WeChatが最も長時間使われていた。しかし、この数年でショートムービーが利用時間の多くを占めるようになっている。

このような危機感から、テンセントは2020年6月に、ショートムービー機能「WeChatチャネルズ」をリリースした。そして、ショートムービーに奪われた流量を奪還するために、著名アーティストのライブを配信するという手法をとるようになってきた。抖音でもこれに対抗してライブを配信し、消費者は毎月のように著名アーティストのライブを見られるようになっている。

▲各アプリの利用時間の統計。WeChatを運営するテンセント系のアプリの利用時間がこの1年で大きく減少した。代わりに伸びているのは抖音、TikTokを運営するバイトダンスのアプリだ。利用の中心がSNSからショートムービーに移り始めている。

 

移動制限のある中で強いコンテンツとなったライブ

中国は広いために、ライブに行けるという人は開催都市の大都市住人に限られてしまう。内陸部の地方都市に住んでいたら、高鉄に乗っても移動が1日がかりで、宿泊場所を確保しなければならない。また、まだまだ新型コロナの感染対策が行われ、自由に市外に移動しづらい状況もある。その中で、著名アーティストのライブは多くの人を惹きつけることができるコンテンツとして、これからもたびたび開催されることになると見られている。