テンセントの年度報告書が公開され、SNS「WeChat」内のショートムービー機能「WeChatチャネルズ」の記述が大幅に増え、テンセントにとって重要なツールになってきたことが伺える。ショートムービーで消費を集め、モーメンツ広告を打ち、SNSで拡散し、ミニプログラムで消費させるというサイクルが成立し、各企業から注目をされていると捜狐が報じた。
テンセントの成長に寄与をしたWeChatチャネルズ
2021年は、多くのテック企業にとって受難の年となった。その中で、騰訊(タンシュン、テンセント)は堅調な成長を見せた。2021年の年度報告書によると、営業収入は5601.8億元(約11.0兆円)となり、前年から16%の伸びとなった。
特に重要なのが、2020年に微信(ウェイシン、WeChat)に搭載された「視頻号」(WeChatチャネルズ)による収入が大きくなってきたことだ。
WeChatチャネルズは、ショートムービーが閲覧、投稿できる仕組みで、勢いのあるTikTokに対抗をしたもの。TikTokの中国版「抖音」(ドウイン)では、商品を紹介したショートムービーを配信し、そこから購入ができるというECが始まっており、2021年は流通総額が8500億元(約16.7兆円)と急成長をしている。WeChatチャネルズでも、このようなECによる収入増を狙っている。
WeChatには、抖音にない強みがある。SNSであるということだ。抖音の場合、どのショートムービーを配信するかは、その人の嗜好に合わせてAIが決めているが、WeChatチャネルズは、WeChatの中でできあがっている友人知人関係が評価した動画が中心に配信をされてくる。さらに、メッセージにより動画や商品のリンクを友人知人に送ることもできる。「友人知人は似たような商品に興味を持つ」という仮説に基づいた仕組みだ。
チャネルズに対する言及が急増した年度報告書
2021年の年度報告書の中では、WeChatチャネルズに対する言及が13ヶ所もある。それだけテンセントがWeChatチャネルズを重視しているということだ。
「2021年は挑戦の年となり、私たちは積極的に変化を受け入れ、長期に持続可能な発展を可能とする措置を行ってきました。しかし、収入の増加に対する影響は緩慢で、財務に対する影響はさらに緩慢です。それでも私たちは、企業向けソフトウェア、ツールの提供、WeChatチャネルズの投稿数、視聴数の増加、海外ゲーム市場の開拓という戦略を継続してきます」。
つまり、法人向けIT、WeChatチャネルズ、海外ゲーム市場の3つは、収入に反映するまでは時間がかかるが継続をしていく重要戦略だとしている。
チャネルズを成長させたウェストライフのオンラインコンサート
2021年の年度報告書では、具体的な数値は明かしていないものの、2021年は、WeChatチャネルズの一人あたりの平均利用時間、総再生数が前年の2倍以上になったという記述がある。
これに大きく貢献したのが、独占放映をしたウェストライフのオンラインコンサート映像で、約2700万人が視聴をした。
収益が上がり始めているチャネルズ
また、年度報告書にはWeChatチャネルズについて、次のような記述がある。
・目下の重点は、ユーザーの関与度を上昇させることです。WeChatチャネルズが、ショートムービー広告、ライブ配信の投げ銭、ライブコマースなど重要なマネタイズの機会を与えてくれると考えています。
・WeChatチャネルズのライブ配信サービス、有料動画サービス、2020年に合併をした虎牙(弾幕付き動画共有サービス)などの貢献により、SNS収入は1173億元(約2.3兆円)となり、8%成長となりました。
WeChatチャネルズがWeChatの収益に貢献し始めていることは間違いがないようだ。
チャネルズ、モーメント広告、ミニプログラムが連携し始めている
さらに、注目されるのが次の記述だ。
「2021年第4四半期、WeChatのデイリーアクティブ広告主は30%以上増加をしました。朋友圏(WeChatモーメント)の広告収入の1/3以上は、ミニプログラムに誘導する広告と企業微信(WeCom)のユーザーの広告によるものです」。
WeChatの中には、WeChatモーメントと呼ばれるタイムライン画面がある。ここには友人知人の動向やメッセージなどが表示される。企業はここに広告を掲載することが可能だ。
ただし、やみくもに広告を配信してもあまり効果は上がらない。そこで一般的に行われるのが、企業の公式アカウントをフォローした利用者に対して、その企業が広告を配信する。アカウントをフォローするぐらいだから、その企業の製品に興味があるわけで広告の効果は高くなると期待できる。企業側は、このような広告配信を企業微信(WeCom)というソフトウェアを使って管理をしている。WeChatのエンタープライズ版だ。
つまり、企業はやみくもに広告を配信するのではなく、企業アカウントをフォローしてもらい、その利用者と知人に対して広告を打っていくようになっている。この企業アカウントをフォローしてもらうのに有効なのがショートムービー、つまりWeChatチャネルズだ。ショートムービーで製品に興味を持ってもらい、企業アカウントをフォローしてもらい、そこに広告を出して、商品の購入やサービスの利用に結びつけていく。
企業が私域流量を確保するツールとなっているWeChat
このように企業が自分で流量を集めてビジネスを行うことは「私域流量」(プライベートトラフィック)と呼ばれる。一方で、マスメディアのように満遍なく広告を配信することは「公域流量」(パブリックトラフィック)と呼ばれる。
ビジネスを行うには、私域流量を集めた方が圧倒的に効率がいい。見込み客ばかりが集まっている状態をつくることができるからだ。そこで、どの企業も、私域流量をどのようにして確保するかが大きなテーマになっている。
WeChatチャネルズは、ショートムービーを配信、拡散させて、公域流量を私域流量に変換させる触媒として企業から注目をされている。その私域流量による広告収入が全体の1/3を超えてきたということだ。
私域流量確保の点では、ツールが完結していない抖音
抖音でも企業は同じように私域流量をいかに集めるかを考えている。ショートムービーで利用者を惹きつけ、アカウントを関注(フォロー)させ、ライブコマースに誘導をする。しかし、集めた私域流量を維持するには、WeChatの公式アカウントをフォローさせるか、自社のアプリやミニプログラムに登録をさせるという外部のツールの助けが必要になる。
一方で、WeChatでは、私域流量を集め維持をすることが、公式アカウントやモーメントへの広告配信、WeComによる管理など、WeChatの中で完結をするようになっている。
ショートムービープラットフォームとしては、抖音はすでに月間アクティブユーザー数が8.6億人もいる巨大な存在になっているが、企業から見て私域流量を獲得する装置としては、WeChatチャネルズを入り口にしたWeChatの方が優れている。消費者にとっては、抖音の方がはるかに大きな存在だが、企業にとっては抖音もWeChatチャネルズも甲乙つけ難い、どちらも重要な存在になってきている。
企業のプロモーションツールという側面で、抖音とWeChatが競い合う局面が続きそうだ。