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株価低迷の生鮮EC。問題は前置倉モデルの黒字化の可能性。財務報告書からの試算で検証する

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今回は、正念場を迎えている生鮮ECについてご紹介します。

 

生鮮ECの業界をリードしているのは、「毎日優鮮」(ミスフレッシュ)と「ディンドン買菜」の2社ですが、2022年に入ってから株価が急落をしています。毎日優鮮については、一部で「会社の解散」が報道されています。一部の倉庫で撤退が決まり、その撤退の有様が夜逃げのようであまりにもひどいことからSNSで話題となり、これが元になり、倒産、解散という憶測が流れたようです。

毎日優鮮では、このような報道を否定し、業務に一切の影響が出ていないことを強調していますが、経営が厳しい状況にあることは間違いありません。

▲毎日優鮮とディンドンの株価の推移。2022年に入ってから低迷が続いている。業績というよりも、ビジネスモデルそのものへの疑問が投げかけられるようになっている。

 

なぜ、危機的状況になっているのか。ほぼ1年前に「vol.081:生鮮EC「ディンドン買菜」「毎日優鮮」が米国上場へ。生鮮ECの黒字化はほんとうに可能なのか」でもご紹介しましたが、そもそも生鮮ECというビジネスモデルそのものが黒字化が可能なのかということに疑問が持たれるようになってきているからです。

この「vol.081」では、生鮮ECがどのようにして黒字化を達成しようとしているかをご紹介しましたが、今回は、生鮮ECが本当に黒字化可能なビジネスモデルなのかどうかを検証してみたいと思います。

毎日優鮮はナスダック市場に、ディンドン買菜はニューヨーク市場に上場をしました。上場をしたということは財務報告書を公開する必要があるため、さまざまな調査機関、証券会社などが、両社の財務報告から黒字化の可能性を探っています。そのような検証を使いながら、黒字化の可能性を検証したいと思います。

 

この生鮮ECという中国で生まれたビジネスモデルは、最近になって、日本やその他の国でもクイックコマースとして起業が相次いでいます。中国の生鮮ECも黒字化が難しいとなれば、同じビジネスモデルを使うクイックコマースも黒字化は厳しいということになります。

また、生鮮ECとは異なりますが、各国のスーパーやコンビニが宅配サービスを始めています。これもサービスが継続できるかどうかの判断の参考にもなります。

 

中国では生鮮ECのビジネスモデルは、前置倉(前線倉庫)方式と呼ばれます。生鮮ECのサービスの要は30分配送です。この短時間配送であるという点が、生鮮ECの生命線になっています。

白菜や豚肉といった生鮮食料品をスマホ注文すると配達してくれる生鮮ECは、通常のECのような翌日以降配送では話になりません。明日の献立を今日のうちに決めておき、食材を注文するということは普通しないからです。最近暑いから明日は素麺を食べようと考えていたら、翌日は妙に涼しく、素麺では寒かったということが起こります。明日は自宅でご飯をつくるつもりだったけど、当然残業が必要になり、食事は外食で済ませてしまい、食材が余ってしまうということが起こります。食材はその日のうちに注文して、その日のうちに調理をして食べるというのが基本です。

また、日単位の配送は不便なのです。「本日中にうかがいます」という配達方法では、荷物を受け取るまで出かけることもできません。一人暮らしであったら、トイレに行くのも控えないと、荷物を受け取ることができなくなる可能性があります。しかも、生鮮食料品は置き配をすることができません。受取人と連絡が取れて、置き配をしてくれていいと言われれば可能ですが、連絡が取れない状態で置き配をしてしまうと、受け取りがいつになるか予測がつかず、場合によっては食材が傷んだりする可能性もあります。

ところが30分配送であれば、注文をしてから「待っていられる」。消費者にとっては、すぐに食材が手に入りますし、生鮮EC側では再配達が発生しづらく、効率的な配達が可能になります。

 

しかし、どうやって30分配達を実現したらいいでしょうか。これを可能にしたのが前置倉です。

住宅地の中に、80平米程度の小さな倉庫を点在するように配置をします。これが前置倉です。注文が入ると、配達先から最も近い前置倉に連絡が行き、食材をピックアップして、電動バイクで配達をします。だいたい1つの前置倉が周辺の3kmから5kmのエリアの配送を受け持ちます。これにより、30分配達を実現しています。

わかりやすいイメージでは、日本のコンビニのような感覚で前置倉が配置をされていて、そこから配達をされるというものです。ただし、店舗ではなく、倉庫なので、客がそこで買い物をすることはできません。そのため、クイックコマースでは、この前置倉をダークストアと呼んでいます。

来店客のことを考えてなくていいので、人通りの多い場所に設置する必要はありません。その分、家賃などが安く済みます。と言っても、商品の搬入をし、商品管理をしなければならないので人手は必要になります。

ここが生鮮ECのジレンマになっています。サービスの質を上げるには前置倉を密に配置をしていく必要がありますが、そうなると運営コストがあがって利益が下がってします。前置倉をどのくらい、どこに配置するかは常に生鮮ECの頭の痛い課題になってきました。

 

これに対抗する考え方が、アリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)のような店倉合一方式です。フーマフレッシュではダークストアではなく、来店客を迎える店舗と倉庫を兼ねて、お店で買い物をすることもできるし、30分配送にも対応しているというやり方です。

アリババがフーマフレッシュの事業を始める時、この企画を持ち込んだ侯毅(ホウ・イ)フーマ総裁とアリババの張勇CEOはぎりぎりまで「前置倉で行くか、店倉合一で行くか」を議論し続けたそうです。店倉合一の課題は、初期投資が莫大になることです。お店ですので、立地も考えなければなりません。内装も倉庫レベルというわけには行きません。商品管理だけでなく販売のスタッフも用意しなければなりません。生鮮ECとは比較にならないぐらい莫大な初期投資が必要になります。

一方、店倉合一の利点は、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)が提唱した新小売を実現できる点です。生鮮ECはオンラインで注文をし、配達をするという単純なO2O(Online to Offline)にすぎません。ジャック・マーは既存のビジネスを効率化する程度の改善ビジネスには興味がありませんでした。侯毅総裁が主張するような消費者体験を変革するような革命的なビジネスでなければ投資をする意味がないと考えていました。

店倉合一にすることで、消費者はお店に買いに行くことも、配達をしてもらうこともできます。それだけでなく、お店に行って商品を自分の目で確かめて選んで、それを宅配してもらうこともできます。自宅でスマホ注文をしておき、車で出かけるときにフーマによって商品を受け取ることもできます。このような消費者の消費体験に革命を起こすOMO(Online Merge Offline)でなければ意味がないと侯毅総裁は考えていました。そして、張勇CEOもその意味を理解し、アリババとしても決して小さくない事業投資を決断したのです。

 

ディンドン買菜が2017年に上海でサービスを開始した時、メディアはフーマフレッシュのライバルになると見て、侯毅総裁に取材をしました。その時、侯毅総裁はこう答えました。

「ディンドンが上海で営業を始めても、フーマフレッシュの販売には何の影響もありませんでした。前置倉は投資資金も小さく、配達地域を素早くカバーしていくことができます。でも、あくまでも過渡期の形態なのです。商品品目を増やすことが難しいため、消費者を惹きつけるには、必然的に価格競争にならざるを得ません。永遠に投資資金を消費し続けるだけで、黒字化の可能性は見えないのです」。

生鮮ECは、あくまでも過渡期の形態で、黒字化の可能性はないと切り捨てています。それから5年が経ち、生鮮ECはいまだに黒字化ができません。今のところ、侯毅総裁の見込みが正しかったことになります。

侯毅総裁の予測は正しかったのか、具体的な数字を見ながら検証します。今回は、生鮮ECの黒字化の可能性についてご紹介をします。

 

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