中国の国民的インフラ「WeChat」が収益化を強化している。これまで広告が少なく課金圧の少ないSNSとして普及をしてきたが、そのポリシーが大きく変わる可能性があるとTech星球が報じた。
広告も少なく、課金もされないSNS「WeChat」
中国で国民的インフラと呼んでも差し支えがないSNS「微信」(ウェイシン、WeChat)。2022年Q1の平均月間アクティブユーザー数(MAU)は12.88億人。中国人と海外在住の中国人のスマートフォンユーザーほぼ全員が使っているといっても過言ではない。
これだけ広まった理由は、SNSやビデオ通話、スマホ決済、ミニプログラムといった生活をする上で重要な機能を続々と投入したということがある。もうひとつの理由が課金圧が弱いことだ。多くのアプリでは、ある程度ユーザー数が増えたたところで、広告が大量に流れ込んだり、物販が始まり、サービスの利便性が下がっていく。しかし、WeChatはそのようなことをほとんどしていない。
タイムラインにあたる「朋友圏」(モーメンツ)には広告が表示されるが、1日4本までという制限がある。各社が利用するミニプログラムにはプッシュ通知の機能を実装していない。ユーザーが広告や企業からの通知といった商業的情報に振り回されることがないように抑制されているのだ。
テンセントの広告収益力が15%の低下
しかし、それが変わろうとしている。その大きな理由がテンセント全体の収益力の低下だ。2022年Q1の財務報告書によると、この四半期の営業収入は1354.71億元(約2.79兆円)で、昨年同時期から6%の減収となった。また、営業利益は372.17億元(約7650億円)で、昨年同時期から34%の減益となった。
WeChatのユーザー数は12.88億人と限界値に近づいているものの昨年同時期から3.8%の増加とわずかながら成長をしている一方で、広告収入は157億元となり昨年同時期から15%の減少となった。原因は、ショートムービーを活用して私域流量(プライベートトラフィック)を獲得する企業が増え、広告への依存度が低下をしていること、未成年のゲーム規制が行われゲーム関連の広告が大幅減少していることなどがある。
テンセントとしては、WeChatの収益化を強化しなければならなくなっている。
ライブコマースなどで収益化
最も収益化が望めるのが、視頻号(チャネルズ)によるライブコマースだ。チャネルズはWeChatの中でショートムービーが見られる仕組み。商品タグをタップすることでムービーで紹介されている商品を購入することができる。また、ライブ配信の機能もあり、ライブコマースも行われている。5月末から「6.18チャネルズライブコマース好物節」を始め、販売力のあるKA(Key Account=重要アカウント)業者を招いて本格的なセールを行った。販売手数料がWeChatの収入となる。
ライブコンサートの配信も有望な収益化手法
もうひとつはチャネルズで開催される著名アーティストによるライブコンサート配信だ。5月には中華圏で人気のある周傑倫(ジェイ・チョウ)、6月にはバックストリートボーイズなど、ほぼ毎週のようにライブが配信されている。
現在のところ無料で配信をされているが、スポンサーが費用を支出し、テンセントの重要な収入源になりつつある。また、多くのライブ後のアンケートでは、9割近い観客が、入場料、視聴料などを支払ってもいいと回答しており、視聴料を徴収することも今後あり得る。チャネルズのライブのビジネスモデルはまだ模索をしている段階だが、人気も高いことから将来WeChatの大きな収入源になる可能性がある。
また、すでに有料化をした配信もある。「テンセントNBA」で、米バスケットボールリーグNBAの試合をライブ中継するというものだ。このような有料ライブチャンネルは今後増えていくと見られている。
法人向けWeChatはすでに有料化
一方で、企業微信(WeCom)はすでに有料化が始まっている。WeComは企業用のWeChatで、従業員同士がテキスト、音声、ビデオなどで連絡を取ることができる。また、ToC企業の活動にとってもはや必要不可欠になっている公衆号(公式アカウント)、ミニプログラムなどの顧客管理ができるCRMツールと連結させることができ、WeComも企業活動にとって必要不可欠のツールになっている。
このWeComが有料化をされた。価格はアカウント数によって変わるが、100人規模の中小企業で年に4000元から5000元(約10.3万円)になり、高いとは言えないが、決して安い金額でもない。
ライバルであるアリババの釘釘(ディンディン)、バイトダンスの飛書(フェイシュー、Lark)は無料のままであり、今後、WeComが課金を納得するだけの機能を投入できるのか、あるいは釘釘や飛書の有料化もあり得るのかが注目されている。
中国のIT産業が成熟をして、成長の時期から安定の時期にシフトをしようとしている。その中で、無料ランチの時代が終わり、必要なものに適切なコストを支払う時代が始まろうとしている。