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決済アプリ「アリペイ」でNBAの試合中継が見られる。決済アプリでコンテンツ提供がされる理由

スマートフォン決済アプリ「アリペイ」が、NBAの試合中継に対応をした。さらに、NBA関連のショートムービーも楽しむことができる。アリペイの弱点を補うコンテンツになる可能性があると三易生活が報じた。

 

決済アプリでNBA中継が見られる

「支付宝」(ジーフーバオ、アリペイ)に新しいタグが追加された。従来は、いちばん下のバーに「アリペイ」「理財」「情報」「マイページ」の4つしかなかったが、ここに「生活」が加わった。

この中にNBAのコーナーが設けられ、スーパープレイが見られるショートビデオの他、試合日程や試合中継をみることができる。さらに、TikTokや「抖音」と同じようにショートムービーを見ることもでき、その中にライブコマースも含まれ、商品タグをタップすることで商品を購入することが可能になっている。

簡単に言えば、NBAを特集したTikTokがアリペイの中に入ったという感覚だ。

▲決済アプリ「アリペイ」にNBAコーナーが登場した。関連ムービーが見られるだけでなく、試合中継も見ることができる。

 

利用時間が伸びない決済アプリの弱点

なぜ、決済アプリであるアリペイにショートムービーが必要なのか。それはアリペイの最大の弱点をカバーするためだ。

2019年に、アリペイは世界で10億人のユーザーを獲得し、非ソーシャルアプリとしては世界最大のアプリになった。月間アクティブユーザー数(MAU)も8億人を超える規模になっている。

実際、中国人の多くの人がアリペイをほぼ毎日利用している。ライバルのテンセントの「微信支付」(ウェイシン、WeChatペイ)も必須アプリとなっているが、WeChatはSNSであり、利用者同士でお金を転送しやすく、ミニプログラムも豊富であるためモバイルオーダーなどにも利用しやすい。日常の細々とした決済をするときはWeChatペイを、少し金額の張る飲食店や小売店での決済、オンライン決済などにはアリペイを使うという人が多い。

アリペイの最大の弱点は、SNS機能がないことだ。このため、調査企業「QuestMobile」の調査によると、アリペイのアクティブユーザー1日あたりの利用時間は7.8分でしかなかった。WeChatは60分以上、抖音に至っては120分以上ある。使われる時間が圧倒的に短いのだ。

これは考えてみればあたりまえのことだ。アリペイは決済の専門ツールなのだから、決済が必要な時に起動をして、決済が終わったら閉じてしまう。一方、WeChatペイはSNSの機能もあるため、知人とメッセージをやり取りしたり、ニュースを読んだり、ショートムービーを楽しむことができる。決済以外の機能も豊富なのだから、1日の平均利用時間が長くなるのはあたりまえのことだ。

しかし、これがアリペイというサービスの最大の弱点になっている。決済というニーズが発生をしないと開いてもらえないために、ユーザーと接する時間が短く、広告などの収益があがりづらいのだ。もちろん、アリペイのトップページに表示される広告は1日8億人の目に触れるため、大きな収益を生む。しかし、利用導線が「起動」→「支払い」と単純であるため、利用導線に置ける広告が少ない。また、広告だけでなく、キャンペーン告知なども同様で、莫大なMAUを獲得しておきながら、その流量を活かすマネタイズ策ができていないのだ。

タオバオの資源を活かして、ライブコマースも見られる。決済は当然アリペイで行われる。

 

UGCではなくPGCで利用時間を延ばして収益化

そこで、アリペイは「生活」タグで、ショートムービーやライブコマースに対応をした。ショートムービーを楽しんでもらったり、ライブコマースを見ることで、利用時間を伸ばしたり、アリペイの中で買い物をしてもらうことで手数料収入を得ようというものだ。

しかし、ここでもアリペイには課題がある。それは利用時間が短いためにUGC(User Generated Contents、ユーザー作成コンテンツ)ではうまく回らないということだ。抖音は1日の利用時間が長いために、面白いショートムービーを見ると、自分も真似をして投稿してみようと考える人が出てきて、たくさんのUGCが集まってくるという循環が起きるようになる。

しかし、アリペイは利用時間が短いために、ショートムービーを投稿しようと思い立つ人が少なく、下手をするとUGC不足に陥り、同じショートムービーが何度も配信してくる「さびれたプラットフォーム」になりかねない。

そこで、アリペイではNBAやライブコマースなどのPGC(Professional Generated Contents)を主体にした。NBAはアリペイが契約をし配信する。ライブコマースは淘宝網タオバオ)の販売業者が配信をする。このようなPGCでコンテンツを充実させている。それが、抖音や快手、WeChatチャネルズ、小紅書とはまた違った毛色のコンテンツとなり、差別化にもつながっている。

この施策により、アリペイの平均利用時間がどこまで伸びるのかが注目されている。