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成長してきたWeChatのライブコマース。新興ブランド、中年男性ターゲットに強い特徴

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今回は、WeChatのライブコマースについてご紹介します。

 

ライブコマースのプラットフォームというと、以下の4つが主なものになります。

1)抖音(ドウイン、中国版TikTok):最も大きなプラットフォーム。グルメ、旅行関連のチケットが好調。

2)タオバオライブ:淘宝網タオバオ)の中のライブコマース。タオバオ達人が、タオバオで販売されている商品をピックアップして紹介。

3)快手(クワイショウ):抖音のライバル。メーカーやブランドの社長が自ら出演するCEOライブコマースが人気。

4)小紅書(シャオホンシュー、RED):女性が多いSNSで、女性用品、趣味用品などが中心

 

ここに2021年2月に微信(ウェイシン、WeChat)が、「視頻号」(チャンネル)機能を搭載しました。抖音とほぼ同じのショートムービー共有機能です。なお、訂正があります。今までこの機能を、私は「WeChatチャネルズ」と表記をしていました。これは、テンセントが使っている英語表記が「WeChat Channels」になっていたからです。しかし、WeChatアプリの日本語表示では「チャンネル」という用語が使われていることに気がつきました。そこで、以降、テンセントの表記に合わせて「WeChatチャンネル」という言葉を使うようにします。

このWeChatチャンネルは、業界では王者の対応だと見られていました。ご存知のとおり、WeChatは中国人のほぼ全員が使うという国民的アプリです。そこに抖音が急速に利用者を獲得してきましたが、WeChatは同様の機能を搭載するだけで、抖音の勢いにブレーキをかけることができます。WeChatチャンネルは、そのような対抗策であって、ライブコマースなどの小売ビジネスは盛り上がらないだろうと多くの人が考えました。特に小規模業者は、あっちでもこっちでもライブコマースを配信するほどのマンパワーもありません。WeChatはライブコマースプラットフォームとしては注目されずにきたところがあります。

 

ところが、テンセントの財務報告書では、2023年からWeChatチャンネルに関する言及が目立つようになり、大きな成果があがっていることがアピールされるようになりました。具体的な数値は記載がないのもの、毎回、財務報告書の特記事項として触れているため、テンセントがかなり力を入れている機能だということがわかります。

例えば、こんな風に書いてあります。

 

■2023年度第2四半期

・当社の広告事業は顕著な高速成長を実現しました。広告プラットフォームへの機械学習の適用とチャンネルの収益化によるものです。

・WeChat利用者数は健康的に増加をしています。チャンネル、ミニプログラム、モーメンツでは利用者の使用時間が増加をしています。特にチャンネルの使用時間はほぼ2倍になりました。

・(ネット広告事業は)業界平均を超える成長をしました。この成果は、広告プラットフォームの機械学習システムをアップグレードしたこと、広告主のチャンネルに対する広告出稿の強い意欲によるものです。自動車、交通業界を除き、ほぼすべての業種で、当社に対する広告支出が2桁成長をしました。

・ネット広告事業は2023年Q2の営業収入は34%増加して250億元となりました。これは、チャンネルの広告に対する強い需要、当社の機械学習システムの改善、昨年2022年Q2の収入が低かったことがあります。2023年Q2のチャンネルの広告収入は30億元を超えました。

 

■2023年度第3四半期

・当社は堅実で質の高い成長を実現しました。利益率が顕著に上昇し、利益が出せる構造を構築することができました。チャンネルとミニゲームという新しい事業が利益率の向上に貢献をしました。

・チャンネルの総配信量は、昨年同時期から50%以上増加をしました。

・WeChatの内循環広告(ミニプログラム、チャンネル、公式アカウント、企業WeChat)収入は昨年同時期から30%以上増加しました。WeChatの広告収入全体の半分以上を占めています。

・チャンネルの広告収入の伸びが顕著で、配信量、利用者平均利用時間も増加をし、広告の配信割合も安定をしました。

 

■2023年度第4四半期

・チャンネルの利用者平均利用時間も倍増しました。リコメンドアルゴリズムが最適化をされたことにより、日間アクティブユーザー数、平均利用時間も増加をしました。当社は、チャンネルの創作者に対し、収入を増加させ、ライブコマースを促し、創作者とブランドのマーケティング活動を支援していきます。

 

財務報告書は、上場をしている香港証券取引所に提出をするもので、誤ったことを書くことはできません。そのため、不用意に数字を出さない書き方になっていますが、それでも「顕著に」「質の高い成長」など、言葉の端に、テンセントの自信が透けて見えてきます。

総合をすると、次のようなことが言えそうです。

・2023年、WeChatチャンネルは大きく成長し、広告の収益化が順調に進んでいる。

機械学習システムの最適化により、リコメンド機能が強化をされ、これが飛躍の要因になっている。

・チャンネルによるライブコマースの収益化の段階に入っている。

 

つまり、ライブコマースを行う小売業者にとって、WeChatチャンネルが無視できなくなってきたのです。しかし、WeChatチャンネルは、これまでのライブコマースプラットフォームとはさまざまなことが大きく違っています。そのため、戸惑う業者が多く、あちこちで「WeChatチャンネル研究」のようなグループができ始めています。そこで、今回はチャンネルが今までのライブコマースと何が違うのかをご紹介したいと思います。

 

ライブコマースを行うときに、どのプラットフォームを選ぶかはとても重要です。プラットフォームの性格が異なるからです。日本でも企業の公式アカウントを出す時に、XにするのかLINEにするのかインスタグラムにするのかは検討をすると思います。公式アカウントの目的に合わせて、適切なプラットフォームを選ぶ必要があるからです。それと同じで、ライブコマースプラットフォームも性格が異なっているのです。それは、SNSの結びつきの強さを軸に整理するとわかりやすくなります。

SNS(Social Network Service)は、すべてまとめてSNSと呼ばれてしまいますが、利用者の結びつきの強さを軸とすることで分類をすることができます。

1)非常に弱い結びつきしかないもの:視聴者同士がメッセージを交換することはほとんどありません。例)タオバオライブ。

2)フォロー/フォロワーという上下関係での結びつき。人気のあるインフルエンサーをフォローしてその人のライブコマースを見るもの。例)抖音、快手

3)ネット上で対等な関係として結びつくもの。特定の趣味や感覚などを軸に利用者が集まり、その中心にいる人がライブコマースを行う。人数は少ないが、コンバージョンは高く、客単価も高くなる傾向がある。例)小紅書

4)対面で知り合っている人が基になるSNS。例)WeChat

もちろん、この4つはきれいにわかれるわけではなく、グラデーションのように重なり合っています。それでも、WeChatチャンネルが特殊な存在であることがわかると思います。

 

WeChatチャンネルやそのライブコマースについては、あまり盛り上がらないのではないかとも言われていました。WeChat利用者の母数が巨大なので、利用率は低くても毎日数億人が見るという数字だけは出てきます。でも、それだけで、収益をあげるのは難しいのではないかと見る人もいました。その理由は主に2つあります。

WeChatは、日本でのLINEとよく似たポジションのSNSで、実際に対面で知り合った人と後で連絡を取るのに使われることが多くなっています。中国では仕事上で面会した人とは、名刺交換ではなく、WeChatのアカウント交換をするようになっています。また、若者が街で異性を見かけて「WeChatのアカウント教えて」とナンパをするのも定番の光景になっています。つまり、WeChatに登録をするのは、実際に会ったことがあり、顔を知っている人が中心になります。

これが、ムービーの自由な拡散の障害となっていました。WeChatチャンネルで見たムービーは自動的に友人にも推薦されることになります。明示的に「朋友圏」(モーメンツ)に転載をすることもできます。つまり、ムービーを自由に見ているわけですが、どんなムービーを見ているかは友人たちが知る可能性があり、どことなく人の目を気にしてしまうのです。

この少しの公共性があるために、WeChatチャンネルは広がらないだろうと見る人もいました。あまりに低俗な映像ばかり見ていると、それが知り合いに知られてしまう可能性があるからです。特に若者は、そういうことを気にせず済む抖音や快手を使うだろうと考えられました。

 

もうひとつ懸念をされていたのが若者は利用しないだろうということです。若者はすでに抖音、快手、タオバオライブ、小紅書を使っていて、大きな不満があるわけではありません。わざわざ特徴のあまりないWeChatチャンネルのライブコマースを見に行く必要はないわけです。そのため、WeChatチャンネルを使うのは、中高年が主体となり、中高年は若者や現役世代ほどライブコマースで買い物をしません。ご存知の方も多いかと思いますが、中国では重要な消費者は順番に「若い女性>子ども>中年女性>若い男性>高齢者>犬>中年男性」であると冗談半分で言われます。これはあながち間違いではありません。中年男性も物欲がないわけではありませんが、今まで使ってきてなじんでいるブランドの商品を選ぶ傾向が強いのです。プロモーションを行っても効果があがりづらい消費者群なのです。

 

ところが、テンセントの財務報告書によると、ネット広告の増収分に対するWeChatチャンネルの貢献が小さくありません。また、報道によると、2023年のWeChatチャンネルの流通総額(GMV)は1400億元(約2.9兆円)になってきました。他のライブコマースプラットフォームと比べるとまだまだ小さな数字ですが、戦えるステージには達しています。

▲各種ライブコマースプラットフォームの2022年の流通総額(チャンネルは2023年)。タオバオはECと不可分であるためライブコマースでのGMVは不明。各種報道を整理。

 

あまり注目されていなかったWeChatチャンネルはどうやって成長してきたのでしょうか。そして、どのような性格を持ったライブコマースなのでしょうか。そして、どのような小売業者であればWeChatチャンネルのライブコマースに適しているのでしょうか。今回は、WeChatチャンネルのライブコマースの成長についてご紹介します。

 

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