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成長の限界に悩むシェアリングモバイルバッテリー。次の成長曲線はどこにある?

スマホが生活ツールとして重要になるとともに成長をしてきたシェアリングモバイルバッテリービジネス。どこでも借りることができ、充電をしたら、どこにでも返すことができる。しかし、スマホバッテリー容量があがるとともに需要が減り始めている。各社ともに次の成長曲線をどこに求めるか悩み始めていると創業最前線が報じた。

 

上場企業も生まれた充電宝ビジネスの苦境

出先でスマートフォンのバッテリーがゼロになりそうになった時の強い味方、シェアリングモバイルバッテリー。中国では「充電宝」と呼ばれる。駅や飲食店などに設置をされていて、簡単に借りることができ、返却はどこのステーションでもOK。利用料はスマホ決済で行われるというものだ。

2021年4月には、この市場で34%のシェアをもつ「怪獣充電」が米ナスダック市場に上場をした。

この市場は、上位4社でシェアの96.3%を持っている。街電、来電、小電、怪獣の4社で「三電一獣」と呼ばれていた。しかし、街電が吸収合併をし、竹芒科技と改称したため、勢力図が変わり、現在は「小竹獣」の状況になっていると言われる。

この充電宝ビジネスが苦境に立たされている。

▲充電宝企業の「怪獣充電」はナスダックに上場をした。しかし、各社ともに次の成長曲線が描けずに苦悩するようになっている。

 

スマホの進化とともに伸びた充電宝

2010年以降の10年は、スマートフォンの普及と進化の時期で、ディスプレイの解像度やチップ性能は上がり続け、バッテリー容量も増え続けたが、機能に対して追いつけず、スマホ利用者は常にバッテリー切れを心配しながら使う状態だった。さらに、スマホ決済を中心とし、スマホが生活必需品になるにつれ、バッテリーの問題は重要になっていった。

これにより、公共交通施設、飲食店、ショッピングモール、観光地などに設置された充電宝は多くの人が利用する社会インフラのひとつになっていった。

特に、地下鉄やバスがスマホ決済で乗れるようになってからは、バッテリーが切れると、移動もできず決済もできない状態になるため、バッテリー残量を常に気にする人が増えていった。

また、学生にとっては充電宝は必須のアイテムとなっている。大学や高校ではコンセントの数が少なく、学生の数が多いため、なかなか充電をすることができない。そのため、学内に設置された充電宝を使うのが一般的になっている。

▲街中のあちこちに設置されている充電宝ステーション。レンタルをして、充電をしたら、別のステーションに返すことができる。

 

バッテリー容量があがるにつれ、需要が下がった充電宝

しかし、次第にスマホのバッテリー性能があがり、充電宝の利用にも変化が見られる。錦緞研究院の調査によると、2018年の利用時間、総利用回数は2.3時間、13.9億回だったが、2019年になると2.1時間、15.6億回と、回数は増えたものの時間が減少し、2020年になると1.3時間、16.2億回と、利用時間が減少する傾向にある。

利用料金も上昇し続けている。2017年は1回あたりの平均利用料が1.3元だったが、以降、2.3元、4.1元、5.3元と上昇し続けている。従来は、問題にするほどの金額ではなかったため、気軽に利用することができたが、1回5元を超えるようになると、数十元で購入できるモバイルバッテリーを自分で持ち歩いた方がいいと考える人も増える。

以前の充電宝は「スマホを充電するための主な方法のひとつ」だった。学生などは、夜は学生寮で充電し、昼間は学内の充電宝を利用して充電をする。しかし、価格が上昇し、さらには充電サービスを提供しているカフェなども増えてくると、充電宝は緊急用に使うものになっていった。

 

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次の成長曲線が描けない充電宝

充電宝企業側でも、利用料金だけではなく、収入源の多角化を進めている。例えば、小電では、主力は充電宝ビジネスだが、広告ビジネスも行なっている。しかし、充電宝ビジネスの収入割合は2018年が97.8%で、以降98.8%、97.3%と高く、なかなか広告ビジネスが拡大していかないのが実情だ。他の充電宝企業も、充電宝利用料からの収入が95%を超えている。

一方で、人流の多いバーや飲食店に充電宝を設置する場合、設置場所に対して利用料を支払う必要がある。いわゆる家賃に相当するものだ。特に人流が多く、数時間の滞在をするため充電宝の利用率が高くなるバーなどでは、利用料の40%から50%をバーに対して支払う契約になっている。

この負担も、充電宝企業にとっては重荷になっている。小電の場合、このような支払いが2018年から、1.05億元、7.15億元、10.13億元となっており、それぞれ営業収入に占める割合は25%、44%、53%にもなる。

スマホが生活の中で重要なツールになるとともに急成長をしてきた充電宝ビジネスだが、現在は停滞をし始めている。少なくとも次の成長曲線を描けない状態になっている。

 

次の主力事業が見えない各社

竹芒科技は、マスクの自動販売機やAED自動体外式除細動器)と一体になった充電宝ステーションを開発することを発表し、新たな収入源の確保と社会貢献を両立させることをねらっているが、どこまで売上に貢献できるかは不明瞭だ。

シンプルなビジネスであるため、消費者の理解も早く、一気に普及をしたが、シンプルであるが故に他のビジネスと複合させることが難しい。スマホ側も大容量バッテリーや省電力化の技術が進み、以前のようにバッテリー切れに不安を感じることも少なくなっている。

充電宝は、早急に次の成長曲線が描けるビジネスを見つける必要に迫られている。

▲竹芒科技では、AEDと一体型の充電宝ステーションを開発し、社会貢献をしながら、設置場所を広げようとしている。