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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

投資が過熱をした無人店舗ビジネスは、結局、自動販売機へ。日本を追いかける中国の自販機

2016年から、無人店舗ビジネスが投資熱の中心となり、過熱気味にすらなった。しかし、無人店舗にはさまざまな問題があり、結局は、日本と同じような自動販売機に着地をしそうだと界面新聞が報じた。

 

無人店舗への投資は無謀とも言えなかった

2016年、アマゾンが無人店舗「Amazon Go」の展開を発表すると、中国ではにわかに無人店舗の投資ブームが起きた。

しかし、盲目的な投資が行われたというわけでもない。当時は無人店舗関連に投資をして、大きな利益が得られると期待できる状況があった。

ひとつは2015年2月にスタートしたソーシャルEC「拼多多」の成功だ。拼多多は地方で生産された農産品、製品を低価格で提供するEC。地方企業の製品は、流通が整っていないために、大都市には回らず、その地域で消費をされることが多かった。これを宅配便を使って、直接大都市に流通させることで、驚きの低価格を実現した。

当初はそのあまりの安さから「貧乏人のEC」とバカにされたが、安価であることは何よりも強く、わずか2年で、EC業界の巨頭であるアリババや京東(ジンドン)を脅かす存在となった。これで投資家たちは流通の仕組みを変えることで、奇跡のような成功をすることができるということを知り、無人店舗に大きな期待が集まった。

 

スマホ決済はただのキャッシュレスを超えている

もうひとつは2016年には、WeChatペイ、アリペイといったスマホ決済がほぼ行き渡ったということだ。スマホが財布になるということは、ただのキャッシュレス決済とは次元が違う。

クレジットカードや電子マネーカードは、現金の単なる電子化にすぎないが、スマホ決済であれば、決済と同時に身分証明として使ったり、位置情報を把握するセンサーとして使ったりとさまざまなことができるようになる。例えば、シェアリング自転車も自転車に貼られたQRコードを読み取るだけで利用ができる。同じことをクレジットカードでやろうとすると、カードリーダーを自転車に設置しなければならず現実的ではない。スマホ決済は、消費の仕組みを変えることができる。

このスマホ決済が広がったことで、無人店舗も実用可能になり、スマホの機能を組み合わせることで、有人店舗を超える利便性を提供することも可能になる。

 

無人販売の3つのスタイル

このよう投資熱を受けて、さまざまな無人店舗のスタイルが登場した。

1)無人コンビニ

閉鎖型店舗とし、入場するにはスマホをかざして身分を確認してから入場。商品を取り、セルフレジで決済をすると退場できる。AIカメラで監視をし、万引きをするなどの不正行為を検出するとと同時にマーケティングデータを取得する。

店舗スタッフを置かずに、人件費を抑えて、通常のコンビニよりも安く商品を提供できるはずだったが、実際は、商品の搬入、棚出しなどの巡回スタッフが必要で、人件費はさほど下がらなかった。セルフレジを導入した有人コンビニと変わらないレベル。無人にするにはSKU(Stock Keeping Unit=商品種目数)を抑える必要があり、有人コンビニに比べて、必要な商品が置いてないことがあるというユーザー体験の悪さもあった。

2)無人商品棚

企業など内部に、スナック菓子や飲料などを開架式の棚に並べ、スマホ決済により必要な商品を持って行ってもらうというもの。普通の棚に商品を並べて、印刷したQRコードを設置するだけでいいため、機器コストが非常に低い。オフィス内であれば盗難なども起こりづらいため、管理コストもかからないという目論見だった。

実際は、盗難などは言われるほど起こらなかったものの、商品が毀損をする率が10%を超えた。利用者が商品を見定める時に触ったり、落としたりして、そのまま棚に戻す。また、無人商品棚を置ける場所は、オフィス内や人の目がある公共施設など場所が限られているため、複数の業者による場所の奪い合いが起き、設置料、売上手数料などの条件競争になり、無人商品棚企業の収益力が低下をしていった。

3)自動販売

この中で生き残ったのが、第3の自動販売機方式だ。閉架式の棚であり、決済をしないと商品を取り出すことができない。閉架式であるため、冷蔵や温蔵にも対応できる。機器コストはかかるが、屋内だけでなく屋外にも置けるなど、設置場所が大きく広がる。

 

自動販売機小売のトップ企業が香港上場へ

この自動販売機を開発して、設置し、商品を販売するというビジネスに多くの企業が参入をしたが、この分野でのリーダー企業は「友宝在線」(ヨウバオ、https://www.uboxol.com)だ。

2021年の売上は26.7億元(約530億円)、純利益は-1.8億元。101箇所の倉庫を持ち、31省10.3万カ所に自動販売機を設置している。いずれも現金には対応してなく、スマホ決済のみ対応のキャッシュレス自動販売機だ。これにより、金銭管理をする必要がなく、盗難、破壊のリスクも小さくなるため、設置場所の自由度が高くなる。友宝は香港証券取引所に上場申請を行っていて、成功をすれば、無人店舗関連では初めての上場企業ということになる。

▲友宝の典型的な自販機。スマホ決済専用であるため、大きなディスプレイを備えるが常識になっており、意外に使いやすい。

 

パートナー方式にしたことにより拡大

友宝は当初、設置場所を確保し、自社で自販機を設置し、自社流通の商品を販売するという直営方式をとっていた。これを日本と同じようなパートナー方式に力を入れるようになってから成長が始まった。企業オフィス、マンション、学校、公共施設など設置スペースを持っている人に手を挙げてもらい、自動販売機を設置するというものだ。

直営方式では、設置のための家賃が固定費となっていたため、売れ行きの悪い自販機は容易に赤字になってしまう。しかし、パートナー方式では双方で売上をシェアする方式であるため、売れ行きが悪くても赤字になりにくい。公共施設などでは利益があがらなくても、利用者へのサービスの一環として自販機を設置するところもあり、設置場所もさらに広がった。

▲友宝の直営方式とパートナー方式の売上推移。パートナー方式に比重を置くことで、友宝の成長が始まった。

 

他社も続く自動販売機小売ビジネス

この友宝の成功を見て、自販機ビジネスに参入をする企業が相次いでいる。宅配企業「順豊」(シュンフォン、SF Express)は、オフィス内に設置する閉架式の商品棚、自販機を通じて商品を販売する「豊e足食」(フォンイー)をスタートさせている。商品の補充は、順豊のスタッフが行う。

また、ペットボトル飲料で急成長をした「元気森林」は、自販機を開発し、飲料やスナックなどを販売する「元気森林GO」をスタートさせ、販売の拡大をねらっている。

▲宅配企業の順豊も自販機ビジネスに進出。宅配スタッフが商品の補充を行う。

▲飲料で成長をした元気森林も、自社製品を中心に自販機ビジネスに参入している。



結局、日本式の自販機ビジネスが正解だった

2016年から始まった無人コンビニ、無人店舗技術がようやく落ち着き、最終的な結論としては自動販売機に着地をしそうだ。結局、日本が数十年前に完成をしたビジネスモデルをトレースしていることになる。

この分野の正解は「スマート自動販売機」「キャッシュレス自動販売機」であることははっきりとした。日本はかなり早い段階でその正解をストレートに目指してきた。中国はさまざまな方法を試すという「無駄」をしながら正解にたどりつこうとしている。

しかし、この回り道による無駄は、まったく無駄だったわけではない。中国では、自販機は販売チャンネルだけでなく、広告チャンネルとしての活用(試供品を0.1元で販売するなど)やマーケティングデータを取得するためのツールとしての活用も始まっている。スマホ決済が基本であるため、利用者の属性も正確に捉えることができる。マーケティングの観点からは、現金というのは匿名であるために非常に扱いにくいデータになってしまうのだ。

ある部分では、中国の自動販売機の方が日本よりも先に進み始めている。