中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

WeChatマーケティング。私域流量の獲得と拡散が効率的に行えるWeChatの仕組み

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 127が発行になります。

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、微信(ウェイシン、WeChat)での私域流量の獲得についてご紹介をします。

 

前回、読者の方からもご要望をいただいた通り、私域流量(プライベートトラフィック)は、中国の小売業にとって大きなテーマになっています。それはあたりまえです。私域流量の獲得とは、オンラインでお客さんをどう集め、お得意さんに変えていくかという話なのですから、そこに無関心な消費者向け企業というのはあり得ません。

私域流量に対応する言葉が公域流量(パブリックトラフィック)です。公域流量と私域流量の違いは、ショッピングモールや百貨店、商店街などのオフラインビジネスに例えると理解しやすくなります。モールや百貨店の運営者は、ブランドを構築し、セールを行い集客をします。たくさんの集客をすることが運営の価値となり、店子として入る小売店からより多くの家賃や運営管理費を徴収できるようになります。このモールや百貨店が集めた客流が公域流量です。店子としては、この公域流量の中からどれだけ自店に客流を呼び込めるかが売上に大きく影響してきます。

しかし、このような店子の中で、公域流量に頼らなくても、自力で集客ができる小売店が登場してきます。日本では一時期のユニクロ無印良品がそうで、モールの運営者は頭を下げてでも出店してほしいと考えるようになります。この独自集客が私域流量です。

こうなると、運営と店子の関係性が大きく変わります。このような私域流量を獲得できる小売店はモールの家賃や運営管理費でも大幅優遇されていますし、条件や環境についても運営に意見を言うことができるようになります。

 

インターネットでも、この公域流量と私域流量の関係は変わりません。例えば、グーグル検索はその検索性能の優秀さから莫大な公域流量を獲得しています。この公域流量を広告主に分配をすることで利益を生み出しています。

広告主は、グーグルのもつ公域流量を少しでも多く分配をしてもらうために、SEO対策(サーチエンジン最適化)をして検索順位をあげたり、競争の少ないキーワードを探して広告を出稿するという工夫をします。より多くの公域流量を分配をしてもらうことで、売上もあがるからです。

グーグルがうまいのは、このような広告主の活動が、Google検索の精度をより上げ、多数の検索キーワードが売れるようになり、検索品質と売上の向上に直結をしているという点です。広告主が自社の売上を上げたいと思ってやっていることが、グーグルの売上を上げることにも寄与しているという関係になっています。

また、アリババの「淘宝網」(タオバオ)も、この公域流量と私域流量をうまく利用したビジネスモデルになっています。タオバオは、何でも売っている、何でも買うことができるという多様さで消費者を惹きつけ、莫大な公域流量を獲得しています。参加をする販売業者はこの公域流量の分配を受けることで商売を成り立たせています。

販売業者は売上をあげるためにより多くの公域流量の分配を受けようとします。そのためには、タオバオにお金を払ってタオバオ内に広告を出したり、セールなどのプロモーションに参加をします。これがタオバオの収入源になります。このような有償サービスを利用すればするほど、タオバオでの商品検索で上位に表示されるようになるため、販売業者は競ってタオバオにお金を払おうとします。これがタオバオの収益力の源泉になっています。

 

しかし、SNSやショートムービーが登場をすると、このようなツールを利用して、自力で流量を確保できる小売企業が増えてきました。日本でも、ツイッターで告知を行い、インスタグラムで商品訴求をし、TikTokで拡散をさせ、LINEでコミュニケーションを取るという手法は当たり前のことになりつつあります。

私域流量の確保というのは、このようなツールをいかに組み合わせて、公域流量に頼らないビジネスを確立するかが大きな目的になります。ただし、実際の事例は非常に複雑です。なぜなら、私域流量の獲得は、何もオンラインツールの活用だけに頼る必要はなく、屋外広告、屋外イベント、店舗なども組み合わせるのが一般的です。vol.087:洗脳神曲「蜜雪氷城」の背後に隠されたプロモーションロジック」でご紹介したのは、店舗来店に着地させることを目的とした手法でした。ビリビリ、TikTokを駆使して最後は近隣店舗に来店させるというものです。

このように実際の事例は、その企業により異なった組み立て方をしています。おそらくは、シンプルな形で始まった私域流量の獲得手法が改善を積み重ねる間に、その企業にとって最も効果がある形に落ち着くのでしょう。以前、読者の方からのご要望に回答させていただいた通り、このような私域流量の獲得手法を体系的に整理分類した資料というのはまだ見つけられていません。きれいに分類をするのはかなり難しいと思います。

 

そこで、今回は、WeChatだけを使って私域流量を獲得するのにどんな手法があるのかをご紹介したいと思います。WeChatには、SNS、公式アカウント、ミニプログラム、ショートムービー、ECショップと、私域流量を獲得するための道具立てがすべてそろっているため、WeChatを中心に置いている小売企業は少なくありません。ひとつのツールに限ってご紹介することで、手法がシンプルとなり、理解をしやすくなるのではないかと思います。また、私域流量のビジネスセミナーなどをのぞいてみても、まずはWeChatで私域流量の獲得手法を理解をして、それから外部のサービスを活用するという説明をしていることが多いようです。

 

WeChatでの私域流量の獲得手法をご紹介する前に、WeChat特有のピープルランクという重要な概念をご紹介させてください。おそらく多くの読者の方がWeChatをお使いだと思いますが、WeChatでは人間関係(ソーシャルグラフ)に基づいて、利用者全員がランク付けされています。重要な人なのか、どうでもいい人なのか点数評価されているのです。これに基づいて、WeChatでは、「誰でもいいから大量に確保する」だけでなく、「重要な人をピンポイント」で確保するということも可能になってきます。

どのように重要なのかと言うと、それは消費に関する他人への影響力です。たくさんの人に対して、「この製品はいいよ」と勧めると多くの人が買ってくれる。そういう影響力を持つ人が高く評価をされ、このような人物はKOC(Key Opinion Consumer)と呼ばれるようになっています。プロのインフルエンサーではなく、あくまでも消費者の中で影響力のある人という意味です。マイクロインフルエンサーと呼ばれることもあります。

現時点での網紅(ワンホン、インフルエンサー)の第一人者は口紅王子のリ・ジャーチですが、2022年になって視聴者数の低下に悩まされるようになっています。昨年、トップ網紅のウェイヤーと雪梨シェリー)が巨額脱税で摘発をされ、アカウントが凍結されライブコマースができなくなるという状況になりました。この一件以来、「網紅は結局、商売で商品を紹介し、莫大なお金を稼いでいる」という感覚が消費者の間に広がっているのかもしれません。

 

WeChatのピープルランクは、グーグルのページランクの人間版です。グーグルの創業者であるラリー・ペイジセルゲイ・ブリンは、スタンフォード大学で、ウェブページの重要度をどう決定すべきかという研究に取り組みました。ウェブページの重要さに得点をつけて並べられないかと考えたのです。

答えは意外と簡単でした。「他のウェブページからたくさんのリンクが張られているページは重要」というものです。リンクを張るという行為を一種の投票行動だとみなしたのです。

しかし、個人のブログが張っているリンクと、Yahoo!が張っているリンクは価値が違います。投票の重みが違います。これを解決するためには、先に個人ブログは1点、Yahoo!は100点というように点数を決めておく必要があります。しかし、Yahoo!の得点は、Yahoo!に対してリンクを張っている数(投票数)を調べなければ決めることができません。どんどん遡っていくことになり、永遠に点数が確定できない状況になります。これを数学とプログラムで解決をするというのが2人の研究テーマでした。

その研究結果が正しいことを実証するために、試験的に検索エンジンを立ち上げて、検索結果を重要度順に並べるようにしたところ、多くの人から精度の高い検索エンジンだと称賛され、投資家がつき、ビジネス化をしたというのがグーグルのそもそもです。

 

ちなみに2人がどう解決をしたかを簡単にご紹介をしておきます。世界中のウェブからまったくランダムにひとつを選んで、それを1点と仮定をし、リンク関係をたどりながら他のウェブの得点を計算していきます。どこにもリンクを張っていないウェブやすでに計算済みのウェブにあたると、突き当たりとなり、そこで計算が終了します。今度は、別のウェブページをランダムに選び、同じ計算をします。これを何度も繰り返し平均をとると、すべてのウェブページの得点が計算をできます。正確ではないかもしれませんが、実用的な得点を決定できるのです。

WeChatでも、フォロー、友人関係、メッセージの転載などのソーシャルグラフに基づいて似たような計算を行い、利用者の得点を割り出しています。たくさんの人にフォローされ、たくさんの友人がいて、自分のメッセージがよく拡散をする人の得点は高くなります。このような人はある分野におけるKOCである可能性が高いと考えることができます。

では、WeChatでは、このような数値、ツールを使って、どのような私域流量獲得手法が可能になるのでしょうか。今回は、WeChatでの私域流量獲得手法についてご紹介をします。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

先月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.122:ハーモニーOSで巻き返しを図るファーウェイ。ファーウェイのスマホは復活できるのか

vol.123:利用者層を一般化して拡大を目指すビリビリと小紅書。個性を捨ててでも収益化を図る理由

vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

vol.125:5分でバッテリー交換。急速充電の次の方式として注目をされ始めたバッテリー交換方式EV

vol.126:SoCとは何か。中国と台湾の半導体産業。メディアテックとTSMCを追いかける中国