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真夏の電力不足に悩む上海市が、EVを蓄電池として利用するV2G充電ステーションを設置

欧州、東アジアでは、夏の異常高温が大きな社会課題になっている。最大の問題は、ピーク時に電力が不足をしてしまうことだ。そこで、上海市ではEVを蓄電池として利用できるV2G充電ステーションの設置を始めたと澎湃新聞が報じた。

 

夏の暑さで電力が足りない上海市

異常な気候変動により、欧州や東アジアではどの地域も夏は異常高温になる日が続くようになっている。その影響で、大都市では電力不足が深刻になってきている。上海市経済情報化委員会は「2024年上海市夏のピーク時を迎えるにあたっての秩序ある電力計画」を発表した。この中で、今年の夏が平年並みの天候だとすると電力負荷の最大値は3950万kWだが、異常高温が連続をすると4150万kWになると予測され、これは2022年に記録をしたピーク時よりも9.01%多いという。

ところが、供給量は絶対的に足りない。上海市の発電能力は最大2270万kWであり、市外から1611万kWの電力供給を確保し、予備電力が108万kWある。しかし、これを合計しても3773万kWでしかなく、平年並みであってもピーク時には電力が足りなくなり、異常高温が続くと、計画停電などを考えなければならない事態になる。

そこで、経済情報化委員会は工業、商業施設8.62万カ所にピーク時の節電を求めている。電力の不足が予想される場合は、前日までに個別通知をし、節電量1kWあたり0.3元の補償金を支給するというものだ。

上海市外高橋の富特北路V2G充電ステーション。54台のEVが充電できるが、電力が不足するピーク時には、EVのバッテリー電力をグリッドに放電できる仕組みになっている。

 

EVを仮想発電所として利用する

しかし、これはあくまでも「乗り切る」ための方策で、根本的な解決になっていない。発電量を増やすというのが根本解決策だが、すぐにできることではない。そこで、電気自動車(EV)を利用して仮想発電所とするV2G(Vehicle to Grid)充電スタンドの設置が急がれている。

これはEVをオフピーク時に充電をしておき、ピーク時には、逆にEVから電気を取り出して送電をするというものだ。

上海市外高橋にある富特北路充電ステーションが、上海初のV2G対応充電ステーションとなった。上海電力実業と上海浦東供電が共同で設置したもので、54台のEVが充電をできるが、いずれもV2G機能を備えている。電力の供給能力は最大で600kWに達するという。

▲放電は、その車の使用実績に合わせて、走行に支障が出ない範囲で行われる。

 

放電量に応じてポイントがつく仕組み

この充電ステーションにはスマート充放電システムが備えられていて、利用者の車の利用実績から、充放電を自動で判断するようになっている。原則はオフピーク時に充電をし、ピーク時には逆に放電を行い、社会に電力を供給する。しかし、その供給はバッテリーが空になるまでするのではなく、利用者の車の使用時間帯、走行距離などから、自動車の利用に支障がない範囲での放電が行われる。

利用者には、放電量に応じてポイントが与えられ、充電をするときに使えるため、電力ピーク時に車を使用することを避けるようにすると、充電料金がゼロに近づいていく仕組みになっている。

上海市では、このようなV2G対応充電ステーションを2023年末までに8カ所建設する計画だ。EVを蓄電池とみなして、電力ピーク時に電力を供給してもらうという計画は世界各国で進んでおり、特に米国テスラが積極的に推進をしている。EVシフトが進み、中国では現在2470万台の新エネルギー車が道路を走っている。この膨大なバッテリーを利用して、電力ピーク時を乗り切るという試みは今後、他都市でも試みられていくことになる。

▲放電をするとポイントがつき、充電時に利用できるようになる。ピーク時を避けてEVを使うようにすると、充電料金が無料に近くなるように設定されている。