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アリババに起きた変化。プラットフォーマーから自営へ。大きな変化の始まりとなるのか

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今回は、アリババに起きた変化についてご紹介します。

アリババがECのビジネスモデルを変化させてきました。「天猫自営旗艦店」(Tmallマート)というアリババが直接運営する店舗をEC「天猫」(Tmall)の中にオープンさせたのです。アリババの公式ショップがオープンしたというだけのことですが、ビジネスモデルの観点からは大きな転換になります。

この変化がどのくらいの影響を周囲に与えるのかはまだよくわかりません。アリババはもはや流通総額(GMV)では、中国一だけでなく、世界一のECサービスになっていますので、他のECが始めて上手くいったモデルはすぐに取り入れます。販売業者と消費者を取られないようにする王者の対抗策です。

 

例えば、ピンドードーです。ピンドードーはまとめ買い、グループ購入をするというのが大きなポイントになっているECです。商品を買いたい消費者は、同じ商品を購入する人を探して連れてこなくてはなりません。実際は、SNS「WeChat」を使って、商品のリンクを送り、「一緒に買わない?」と誘います。2人の関係性で、誘った人が信頼できるのであれば、共同購入をすることになります。

これにより、販売側には大きなメリットが生まれます。まず、注文がロット単位になるため、商品の製造や農産物の収穫の計画が立てやすくなります。商品ロス、不要在庫も生まれづらいため、商品価格を大幅に下げることができます。

また、ピンドードーの主要な販売業者の多くは、地方の中小企業や農家です。このような小さな企業体は、質の高い商品を生産する能力はあっても、その商品を広めるプロモーション能力を持っていません。それにより、全国区の商品になることができず、地方商品になっているため、ビジネス規模が小さく、成長ができない状態のままにいます。ところが、ピンドードーでは、消費者がSNSを使って宣伝をしてくれるのです。企業や農家は、消費者=KOC(Key Opinion Consumer、影響力のある消費者)に対して、商品の宣伝素材を提供したり、セールスポイントを伝えることで、商品の認知度が広がっていきます。

このような仕組みの結果、ピンドードーでは激安価格の商品が大量に売れるようになり、それに惹かれた消費者が流入してくるという状況が生まれました。月間アクティブユーザー数(MAU)で、アリババの淘宝網タオバオ)を超えたこともあるほどです。

 

しかも、面白いのは、ピンドードーは、タオバオが放棄したものを拾い集めて構成されているのです。

タオバオは元々CtoC型のECで、eBayを手本にしたフリーマケットサービスです。しかし、出品をするのは個人、企業を問わなかったため、商品を販売する小売店、地方メーカーから大企業までが出品をして販売するようになりました。誰でも自由に出品できるということから、淘宝=宝探しの面白さで一気に広がりましたが、同時に、粗悪品や法的に問題のある模造品、偽ブランド品まで出品されるようになりました。

そこで、タオバオはこのような問題のある業者を排除していったのです。ピンドードーはこのようなタオバオから追い出された業者の受け皿となりました。ピンドードーが異なるのは、このような業者に対して、製造からプロモーションまでを丁寧に支援をしていったことです。

誰だって、自分から望んでニセモノ商品をつくろうとは思いません。ニセモノ商品でもつくるしか生きていく道がないからつくるのです。ピンドードーはまともな商品をつくって販売をして生きていく道を地方に与えることになりました。

 

また、面白いことに、タオバオの最初の総裁=責任者は、孫トン宇(スン・トンユー)というアリババ創業メンバー18人=アリババ十八羅漢の一人ですが、タオバオの運営をめぐって、アリババ創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)と対立をします。これにより、2008年にアリババを離職してしまいました。

その後、留学などをし、投資家として活動するようになります。ピンドードーにも投資をし、さまざまなアドバイスをしています。

今回は、話がずれるので省きますが、孫トン宇が目指していたタオバオは、地方の企業などを育て、中国の製造業、農業の底上げをするというものでした。それを放棄したタオバオに失望して離れ、ピンドードーで実現したとも言えます。

 

このようなECが、タオバオのMAUを超えるところまで成長してきました。アリババはすぐに「タオバオ特価版」というサービスで対抗します。日用雑貨の集積地である浙江省義烏市の卸業者たちと提携をして、日用雑貨を格安で販売するサービスです。

このように、ECの王者であるアリババは、他社がユニークなサービスでアリババの領分を侵そうとする時には、類似サービスを始めることで、一定の防御ができるのです。規模と信用と資本があるからです。

今回の天猫自営旗艦店も、EC「京東」(ジンドン、JD.com)に対する対抗策のひとつと見ることもできます。しかし、ビジネスモデル的にはタオバオ特価版などとは異なり、タオバオ、天猫のビジネスモデルの根幹を変えることにもなりうるものです。

単なる対抗策としてアリババが行ったのか、それともアリババがビジネスモデルを大きく変化させるきっかけになるのか、そこはまだよくわかりません。アリババとしても、大きな戦略があるというよりも、まずはやってみて、走りながら考えていこうとしているのだと思います。

 

アリババのライバルであるEC「京東」の創業者である劉強東(リュウ・チャンドン)は、アリババについてかつてこう述べたことがあります。「京東のビジネスモデルこそ健全であって、アリババはいつか京東に学ぶことになる」。

天猫自営旗艦店は、まさに京東に学んだビジネスモデルであり、劉強東の予言が現実のものになりました。

では、劉強東の言う「京東のビジネスモデル」と「タオバオのビジネスモデル」はどこに違いがあるのでしょうか。そして、なぜタオバオは大成功をしたサービスであるのに京東のビジネスモデルを取り入れなければならなくなったのでしょうか。今回は、この辺りの事情をご紹介し、京東とタオバオという中国の2大ECの違いをご紹介し、それぞれどのような強みと弱みを持っているのかをご紹介します。

そして、今後のEC業界がどのように変化をしていくことになるか、見通しを立てる時の参考になる情報をご紹介します。

 

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