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香港上場のポップマートに続く52TOYS。大人玩具の市場が成長し始めた

中国では箱を開けてまでどれが入っているかわからないフィギュア=盲盒(ブラインドボックス)のブームが続き、販売しているポップマートは香港の上場を果たした。これに続いて上場を狙える存在が52TOYSだと見られている。中国でも大人玩具の市場が成長し始めていると中国起業家雑誌が報じた。

 

香港上場のポップマートを追いかける52TOYS

中国のZ世代の若い世代の間で人気が一向の衰えない盲盒(マンフー、ブラインドボックス)。シリーズもののフィギュアで、箱を開けてみるまでシリーズのどのフィギュアが入っているのかわからないというものだ。

このブランドボックスを販売する「泡泡瑪特」(ポップマート)は、2020年12月に香港証券取引所に上場を果たしている。

このポップマートを追いかける存在が、「52TOYS」(https://www.52toys.com)だ。2021年9月、52TOYSは4億元(約74億円)のCラウンド投資を獲得したと発表した。これは2021年の玩具業界で最大規模の投資案件となった。

ポップマートは玩具販売店から出発をして、オリジナルのブラインドボックスを販売するようになった。一方で、52TOYSは玩具の製造を古くから手掛けてオリジナル玩具を販売するようになった。玩具業界ではポップマートに続いて上場企業になるのではないかと期待をされている。

52TOYSでは玩具の設計、製造、IPの取得、販売など上流から下流までを手掛け、販売店は全国20店舗にまで増えている。

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▲52TOYSの成都市の店舗。玩具は、ネット販売も行われるが、店舗で体験をしてもらうことが重要になる。

 

ロックバンドでメジャーデビューをねらっていた創業者

52TOYSの創業者、陳威(チェン・ウェイ)は、大学時代ロック青年で、バンドでキーボードを担当していた。北京のライブハウスから引っ張りだこのバンドだった。なぜなら、その日の出演料をもらうと、そのままライブハウスでファンと飲み、出演料のすべてを散財してしまう。ライブハウスの店主からは歓迎をされた。

大学を卒業して、プロとしてバンドデビューしたかったが、そんなに甘い世界ではない。そこで、何か生きていく道を見つける必要があった。

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▲52TOYSの創業者、陳威。大学時代はロックバンドに参加をしていた。テレビゲームの小売店を開いたことから玩具業界で生きることになった。

 

飾っていた玩具が5倍の値段で売れた

陳威がロック音楽の次に好きだったのがテレビゲームだった。当時、北京市の鼓楼大街に数軒のゲーム専門店があり、陳威のお気に入りの場所だった。

2000年、陳威は友人と、鼓楼東大街にゲーム専門店「創異無限」を開店する。35平米の店舗を借りて、商業空間設計を大学で学んだ陳威が内装を担当し、鼓楼大街では最もクールな店になった。壁にはグラフティアート、商品棚には陳列される商品の間にトカゲや大クモの飼育箱が置かれていた。さらに、陳威がコレクションしていた珍しい海外の玩具も陳列されている。

開店したばかりの頃、お客さんから「この玩具は売り物ではないの?」と聞かれることがたびたびあった。それは自分のコレクションであり、貴重なものだから、「売り物ではありません」と答えていた。

しかし、あまりにも尋ねられ、売ってもかまわないと思った玩具について尋ねられた時、100元で買った玩具を「500元だ」と言ってみたところ、その価格で売れてしまった。当時はまだインターネットも広く使われてはなく、客の方も原価や相場というのがわからない状態だったのだ。

これがきっかけになり玩具の販売もするようになった。次第に玩具の方の売上がゲームを超えるようになり、店名も「創異無限玩具」に改めることになった。

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▲52TOYSのヒット商品「BEASTBOX」シリーズ。キューブの状態からフィギュアに変形をする。可動域が多く、ポージングの自由度も高い。

 

バンダイとの代理店契約から成長が始まる

創異無限玩具を成長させるため、陳威は海外の玩具メーカーの中国地区販売代理店の契約を結ぶ戦略をとっていった。2002年には、米国のマクファーレン(https://mcfarlane.com)と契約をし、2004年には日本のバンダイhttps://www.bandai.co.jp)と契約をし、中国地区独占販売代理店となった。

特に日本のバンダイとの契約は大成功だった。最初は「聖闘士星矢」のフィギュアを5体展示することから始まったが、7ヶ月後には毎月コンテナ1つ分を発注するようになっていた。

 

スターバックスとの交渉で、ビジネスに目覚める

創異無限玩具が一定の成功をしたため、陳威はさまざまなビジネスに手を出すようになった。インターネットカフェ、広告会社、映像会社などを経営していく。

その中で、スターバックスフランチャイズにも手を出そうとした。当時、スターバックスは一線都市には直営店、二線都市以下にはフランチャイズ契約をするという方針だった。陳威は北京でスターバックスを開きたかったので、スターバックス側の方針と合わず、一旦あきらめた。

一年後、陳威は二線都市の杭州スターバックスを開店するのも悪くないと思って、再びスターバックスと交渉を始めた。しかし、その時には、スターバックスは二線都市でも直営店のみにし、フランチャイズ三線都市以下に限られるようになっていた。

陳威はスターバックスを開店することをあきらめたが、自分のビジネスに潜在的な危険があることを理解した。海外メーカーの販売代理店になるということは、他人の花嫁の花嫁衣装をつくるようなものだと悟ったのだ。

つまり、外資系企業は、中国での販売を拡大するために、販売代理店やフランチャイズを活用する。しかし、商品に対する認知が広まるとともに、直営の割合を増やしていくのだ。

陳威は、人の商品ではなく、オリジナルの商品を開発して販売することが必要だと感じた。

 

「三国殺」創業者と52TOYSを共同創業

当時、中国で「三国殺」(http://www.sangokusatu.jp)というカードゲームが流行をしていて、毎年開催される「王者の戦い」の大会運営を創異無限玩具が担当していた。その関係で、三国殺の創業者である黄今(ホワン・ジン)と親しくなった。

二人の間で、オリジナルの玩具を製造して販売をするという陳威の構想が膨らんでいき、2012年に「楽自天成」を共同創業した。これが2015年に「52TOYS」に社名変更されることになる。

しかし、52TOYSはそう簡単には成長できなかった。当初は、玩具を製造して、販売小売店に卸すというビジネスを想定した。しかし、無名のメーカーの商品を置いてくれる小売店は少ない。すぐに資金が枯渇をし、経営が続けられない状態になった。

二人は、自分の家を抵当にして運転資金を借りたが、それすらも尽きようとしている。6時ごろに仕事が終わると、二人は地下の倉庫で今後どうしたらいいかを夜中の3時半ごろまで話し合う。それから家に帰ってベッドに入るがほとんど眠れないという日々が続いた。

 

やるべきことではなく、何をやるべきではないかを考える

光が見えてきたのは、発想の転換だった。二人は「何をしたらいいだろうか」ということばかりを議論していた。そうではなく、「何をやるべきではないか」を話し合った時に光が見えた。

売上を立てるため、海外メーカーのIP玩具も製造して小売店に卸していた。これをやめて、オリジナル商品だけに集中をした。IP玩具は使用料を支払わなければならず、ビジネスとしては利が薄い。それ以上に、IP玩具とオリジナルの両方を扱っているため、オリジナルに対する注力度が不足をしていた。背水の陣でオリジナル商品のみに賭けることで、52TOYSの力が発揮できる。

しかし、投資家たちは不安を持った。2017年には、投資団から多くの投資会社と投資家が撤退をし、最後まで残ったのが啓明創投だ。2018年3月、啓明創投は、1億元(約18.5億円)のAラウンド投資を行なった。

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▲中国特有のフィギュアで、中国文化を取り入れたものが好調だ。特に高い年齢層にアピールをし、大人玩具の年齢層を広げている。

 

ブラインドボックスブームが追い風に

52TOYSが製造販売をしていたのはコレクションの対象となるような大人向けの玩具だった。その決定版として、2016年に「BEASTBOXシリーズ」(https://www.beastbox.jp)を販売していた。ボックスの中に四角いキューブが入っているが、これが変形をして、恐竜や動物、昆虫などに変身をする。その変身ぶりの面白さと、可動域が多く、自由なポージングができることがウリのフィギュアだ。

しかし、最初の3年間の売れ行きは芳しいものではなかった。ところが、2018年にAラウンド投資が決まると、世の中にブラインドボックスのブームが起こり始め、BOXシリーズの売り上げがあがっていった。

これを見て、いったん離れた投資会社が戻ってきたり、新たな投資会社が参入をしてきて、それ以降の52TOYSは順調に成長をしている。日本でもアマゾンなどを通じて購入ができるようになっている。52TOYSには、ポップマートの次に上場を果たす玩具企業となる可能性が生まれている。

中国でも大人玩具の市場が成立しようとしている。