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ソーシャルEC「拼多多」躍進の理由のひとつは、ジャック・マーの油断?

我的電商故事は、拼多多が躍進をしたのは、アリババの創業者、ジャック・マーの油断があったからだと主張する。アリババのEC「淘宝網」と「天猫」は、まったく異なる路線のECであるのに、運営を完全分離しなかった。そのため、タオバオの運営が天猫に引きずられ、そこに拼多多が成長する空間が生まれたと考えているという。

 

拼多多に猛追されているタオバオ

中国のECでは、アリババの淘宝網タオバオ)、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)が上位3サービスになるが、2020年の年間アクティブユーザー数で、拼多多が7.884億人と、タオバオの7.79億人を抜き、利用者数では拼多多が第1位のECに躍進したことが大きな話題になっている。

しかし、拼多多は激安が売りの低価格商品が中心で、流通総額(GMV)の面ではまだ3位だ。ECの流通総額の半分はタオバオが握っており、残りの半分を京東と拼多多で分け合っている状態で、アリババの強さは依然として変わらない。

しかし、ピーク時にはタオバオのGMVシェアは90%を超えていたこともあり、タオバオとECは同義語だった時代もある。それから比べると、アリババは拼多多に猛追をされていると見ることもできる。アリババも拼多多に対抗するために、タオバオ特価版というサブブランドサービスを始めたが、拼多多に対抗する規模には育っていない。

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▲拼多多の創業者、黄(ホワン・ジャン)。もはや参入の余地はないと思われていたEC領域で、ソーシャルECという新しい手法で、アクティブユーザー数ではタオバオを抜くほどの躍進をした。

 

拼多多の躍進を許してしまったジャック・マーの油断

この拼多多の躍進を許してしまったのは、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)の油断があったと指摘する専門家も多い。それは、タオバオを成長させるために、客単価をあげる方向に走ったことだ。

伝統的なECでは、「GMV=訪問者数×コンバージョン×客単価」という公式が成り立つ。つまり、訪問者数を増やす、コンバージョンを高める、客単価をあげるという3つの施策を行うことで、GMVを増やしていくことができる。このうち、アリババは客単価をあげる施策に力を入れてしまい、そこに客単価の低い層をねらった拼多多につけ込まれる隙を作ってしまったというものだ。

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▲アリババの創業者、ジャック・マー。筆者は、ジャック・マーの油断が拼多多の成長空間を作ってしまったと主張している。現在のアリババは、拼多多への対抗策に苦しめられている。

 

タオバオと天猫を完全分離しなかったことがそもそもの原因

しかし、実際にタオバオで長年、販売業者をしてきた筆者は、タオバオと天猫(Tmall)の分離がきちんと成されなかったことが問題だと指摘している。

2008年に、アリババはタオバオとは別にタオバオ商城というECブランドをスタートさせた。これが現在の天猫の前身になっている。タオバオは、eBayなどに対抗するため、出店料や手数料を完全無料にしていた。これにより多くの出品業者を惹きつけることに成功し、タオバオは淘宝の名前通りに、宝探しをして、掘り出し物が激安価格で手に入れられるECとなった。

しかし、問題が2つあった。ひとつは、手数料無料ではアリババは利益の出しようがないという問題だ。もうひとつは、有象無象の出品業者が集まったため、劣悪商品や偽物商品が氾濫してしまったことだ。

そこで、出店料、手数料を取るタオバオ商城を新設した。その代わりに、アリババが販売を強力にサポートする。11月11日の独身の日セールもここから生まれてきた。

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▲日本でもよく知られる11月11日の独身の日セールは、本来、天猫のセールイベント。しかし、タオバオも便乗をする。さらに、京東や拼多多も便乗してセールを行い、中国最大のECセールとなった。

 

ジャック・マーとタオバオ総裁の間の運営論争

この時、タオバオタオバオ商城との分離に関して、当時のタオバオ総裁の孫彤宇(スン・トンユー)とジャック・マーの間で論争があった。

ジャック・マーは、タオバオ商城はタオバオのサブブランドであるのだから、運営は一体化をした方がいいという見方だった。タオバオの出品業者の中から、タオバオ商城向きの業者を勧誘して、タオバオ商城を急速に拡大をしていくことができる。

しかし、孫彤宇は両者は明確に分離をし、運営も別々に行うべきだと主張した。タオバオは低価格商品の宝探しをする場所、タオバオ商城は信用力のあるブランドの製品を購入する場所で、消費者の目的が違う。だから、はっきりと分けるべきだと主張した。

2012年には、タオバオ商城は、天猫(Tmall)と改名され、タオバオとの差別化が図られたが、運営面などではタオバオと完全には分離されていない。ここが問題だった。

論争に負けた孫彤宇は、アリババの創業メンバーの一人で、アリババ十八羅漢の一人として数えられていたが、2008年にアリババを退職している。

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▲アリババ創業メンバーの一人、孫彤宇。タオバオ総裁時代に運営分離問題で、ジャック・マーと対立し、アリババを辞職している。妻の彭蕾(ポン・レイ)は、アリペイなどで長く活躍した。

 

天猫の戦略にタオバオも引きずられる

その後、天猫は、客単価をあげる施策を行っていく。「消費のアップグレード」というキーワードで、豊かになった中国人は価格が高くても良質のもの、高級なものを購入するというイメージを広げていった。

しかし、タオバオと天猫の運営が完全分離をされていないため、同じ施策がタオバオにも適用された。タオバオ中で、良質な製品、高級な製品を販売する販売業者を優遇したため、低価格商品を販売する業者は相対的に冷遇された。タオバオでは、販売業者に対するセミナーも行われるが、その内容は「いかに客単価を上げるか」という内容のものが多くを占めるようになっていった。

 

タオバオから拼多多に出品業者が流出

これにより、タオバオと天猫は大きく成長をした。ますます客単価を上げる戦略が正しいと認められるようになり、タオバオの低価格業者は居場所を失っていった。

そこに登場したのが拼多多で、スタートしてすぐにうまくいったのは、大量のタオバオの出品業者が拼多多に流れたからだった。タオバオの低価格出品業者の多くが、拼多多にも出品をした。すると、タオバオは、複数のプラットフォームに出品する業者に圧力をかける「二選一」を行うようになる。

中には、タオバオに別れを告げて、拼多多専属になる業者もいた。すると、アリババは拼多多に対抗してタオバオ特価版を始めるが、遅きに失した。拼多多とは大きな差がついてしまい、追撃のきっかけさえつかめないままでいる。

 

ジャック・マーの油断が拼多多の成長空間を生んだ

すべては、タオバオタオバオ商城の完全分離を行わなかったことにある。2つは名前は似ていても、まったく異なる路線のサービスなのだから、名前も運営も完全に分離をし、別々の子会社がそれぞれに運営するようにすべきだった。90%以上ものシェアを握り、ジャック・マーに油断がなかったとは言えない。