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Tmallがわずか15ヶ月で香港から撤退。アリババも通用しなかった香港の買い物天国ぶり

 

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今回は、アリババの海外展開についてご紹介します。

 

アリババに関して、あるニュースがひっそりと報道されました。メディアの扱いは小さくニュースバリューはほとんどないようですが、私個人は非常に注目をしています。それはアリババのEC「天猫」(ティエンマオ、Tmall)が10月いっぱいで香港から撤退をするというものです。進出をしたのは、昨2021年5月ですか、わずか15ヶ月での敗走となります。アリババのもうひとつのEC「淘宝網」(タオバオ)の方はサービスを続けるとのことなので、アリババ完全撤退というわけではないため、大きなニュースにはなりませんでした。

しかし、撤退をする理由の筋がよくありません。アリババは、業績不振ではなく、物流網の調整のために香港に対してはタオバオに一本化する「転進」だと主張していますが、香港メディアは「進出当初から利用は進まなかった」と報じています。中国国内では、圧倒的な強さを持っているアリババですが、香港ではその強さが見えません。ひょっとして、アリババも、日本企業と同じように、国内では強くても海外では弱い体質があるのではないか。それが今回のテーマです。

 

まずは基本情報の復習です。

アリババは2つの巨大ECを運営しています。ひとつはタオバオ、ひとつはTmallです。タオバオは、出店料無料、手数料無料で、簡単な審査で誰でも出店できるECです。元々は2003年に、CtoC型ECとしてスタートしましたが、次第に販売業者が多くなりBtoC型に近くなりました。売っていないものは存在しないとまで言われるほど、なんでも手に入るECです。淘宝とは「宝探し」の意味です。

しかし、これではアリババは収益をあげることができません。そこで、ブランド旗艦店を中心にしたEC「タオバオ商城」を2008年に新設しました。2012年には「天猫」(ティエンマオ、Tmall)と名称を変えます。こちらは出店料が必要で、販売手数料も必要になります。出店審査も厳しく、営業実態がなければ出店できません。多くの場合、知名度のあるブランドがEC旗艦店を出店します。日本のユニクロなども出店しています。いわゆる家賃が必要なECですが、その分、アリババがさまざまなプロモーションを行い集客をしてくれます。有名な11月11日の独身の日セール「双十一」も本来はTmallのセールでした。これにタオバオの販売業者が便乗をしただけでなく、他のECも便乗をし、中国全土を巻き込むお祭りになっていきました。

 

この2つのECを基礎として、アリババは急成長をしました。しかし、2016年には創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、「純粋なECはすでに死んでいる」と言い出します。ECで買い物をするような都市の購買力のある消費者のほとんどがアリババのECの会員になってしまったからです。

そこで、アリババは3つの脱出口を設定し、ECを成長させようとします。

1)新小売:オフライン小売への進出

2)農村タオバオ:地方都市、農村などの下沈市場への浸透

3)海外展開:タオバオ、Tmallの海外進出または海外ECの買収



▲アリババの2021年の営業収入の内訳。中国国内ECからの収入が圧倒的に多い。アリババ年度報告書より作成。

 

1の新小売については、このメルマガの読者のみなさんには説明不要でしょう。「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して、すべての小売業は新小売となる」というOMO(Online Merges with Offline)を先取りしたもので、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)という形で実現をしました。このフーマフレッシュは、既存スーパーを駆逐する勢いで成功をしましたが、アリババに対する貢献という点では限定的です。EC関連の収入が巨大すぎるのです。小売サービスは、全体の5%程度の売上でしかありません。

しかも、頭打ち感が出てきています。フーマフレッシュは、アリペイの決済データの分析から、購買力の高い地域に出店をしています。ほぼ大都市の中心部になります。現在、300店舗程度の展開で止まってしまいました。購買力が落ちる郊外や地方都市への展開は、フーマフレッシュそのままの業態では難しく、アリババもさまざまな業態を試していますが、これといった決定版をつくることができず、足踏みをしています。

 

2の農村タオバオも成功はしましたが、アリババへの貢献は限定的です。いわゆる下沈市場をねらう活動を2017年頃から初め、3万店の農村タオバオ店を設置しました。当時、農村でのネット利用率、電子決済利用率はまだ低かったため、店舗を設置し、タオバオの商品を店主が代理注文し、現金でも購入できるようにしました。つまり、ECのO2O(Online to Offline)を実現して、農村の人にECでの買い物に慣れてもらおうと考えたのです。同時に、農村で生産される農産物や特産物を探して、それを全国に販売するという逆の商品の流れも進めていました。

この農村タオバオは順調に進み、社会貢献も大きい公益的事業でもありました。しかし、2015年に創業されたピンドードーが力をつけて、2018年から2019年にかけて、下沈市場をあっという間に握ってしまいました。この辺りの事情は「vol.027:中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?」「vol.044:貧困を撲滅するタオバオ村の成功例と失敗例」「vol.075:アリババをユーザー数で抜いて第1位のECとなったピンドードー。そのビジネスモデルのどこがすごいのか?」などでご紹介をしていますが、簡単に言えば、アリババは「地方の優れた農産物、特産品を発見しよう」としました。一方で、ピンドードーは「支援をして育てよう」としました。特にピンドードーの農業研究所は大きな成果を上げていて、日本の農業試験場のような役割をしています。地方メーカーの品質も急速にあがっていきました。

 

なお、この農村タオバオに絡んで、ある夫婦が重要な働きをします。孫トン宇(スン・トンユー)と彭蕾(ポン・レイ)の夫婦です。2人ともアリババの創業メンバー「アリババ十八羅漢」に入っています。2人は、元々、杭州財経学院の教師で、職場恋愛をして結婚しました。

その後、孫トン宇は杭州市の広告会社に転職をします。その広告営業で、起業したばかりの中国黄頁という会社を訪問します。ジャック・マーがアリババの前に起業した企業で、後のAlibaba.comの前身となるサービスを開発していましたが、結果的に失敗をします。しかし、孫トン宇はジャック・マーという人物に惚れ込んでしまいました。そこに、ジャック・マーが電話をかけてきて、中国黄頁に転職してきてくれないかと誘われます。

その後、アリババを創業する時には、孫トン宇はもちろん、妻の彭蕾も創業に参加することになります。

 

孫トン宇は、EC「タオバオ」の責任者を務めます。タオバオは成功をしましたが、マネタイズ問題に直面して、タオバオ商城が新設されます。この時、孫トン宇はジャック・マーと激しい論争をしました。

孫トン宇は、タオバオとTmallは、同じECと言っても、性格がまったく異なるのだから、異なるポリシーで運営していかなければならないと主張をしました。しかし、ジャック・マーは統一的な運営でかまわないというのです。ジャック・マーはTmallこそがアリババの核心的事業で、タオバオはTmallに入るべき販売業者、ブランドを発見するためのファーム=2軍という考え方だったのです。ジャック・マーの頭には、フリーミアムモデルがあったのだと思います。

しかし、孫トン宇から見ると、タオバオの販売業者は未熟で、さまざまな支援をする必要があるように見えました。農家には農産物を商品として見る目を持ってもらわなければなりませんし、地方の弱小メーカーには品質を上げる意識を持ってもらわなければなりません。一方、Tmallに出店する企業は、すでにビジネスを完成させているブランドです。アリババが何かを教える必要はなく、各ブランドがビジネスをしやすい環境を提供することが重要です。

 

この路線の違いから、孫トン宇は2008年にアリババを辞職し、後任の現在のCEOとなる張勇(ジャン・ヨン)がタオバオとTmallの責任者となり、双十一セールを始め、大成功をします。

これにより、タオバオの品質もあがっていきました。ビジネスが大きくなると、品質の低い販売業者は淘汰されていきました。これはジャック・マーも望んでいたことでした。しかし、地方の農家や地方メーカーは、行き場を失います。

アリババを辞職した孫トン宇は、新しく登場したEC「ピンドードー」に出資をしました。出資するだけでなく、軍師としてさまざまなアドバイスを行なったようです。ピンドードーは、地方農家やメーカーにビジネスの基本を教えるセミナーなどを積極的に開催をしていき、タオバオから脱落した販売業者たちを育てていきます。これにより、ピンドードーは地方の販売業者と地方の消費者を獲得し、さらには大都市にも進出をし、アリババを脅かすほどの巨大ECに成長をしていきます。

アリババの下沈市場へのアプローチは、決して悪くはなく、積極的に行い、結果も出していましたが、ピンドードーのきめ細やかさとスピード感に負けてしまった観があります。

 

3の海外進出も、アリババを成長させる戦略として重要です。その第一歩として、香港に、アリペイ、タオバオ、Tmallを進出させました。また、東南アジアではLazada(ラザダ)を買収し、中国の製品を東南アジアで販売するチャンネルを構築しようとしています。

しかし、ここも、理想通りにうまくいっているとは言えません。それが、Tmallの香港からの撤退ということになってしまいました。これは、ニュースとしては小さな扱いですが、私個人は今後の分岐点になるできごとであるように思います。なぜ、Tmallは香港ではうまくいかなかったのでしょうか。

今回は、なぜアリババは香港で通用しなかったのか、その理由をご紹介し、アリババの海外戦略の今後を占います。

 

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