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アリババをユーザー数で抜いて第1位のECとなったピンドードー。そのビジネスモデルのどこがすごいのか?

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明日、vol. 075が発行になります。

 

今回は、ソーシャルEC「ピンドードー」についてご紹介します。

ピンドードーについては、「vol.005:第2位のECに浮上した拼多多とは何ものか?」でもご紹介しました。しかし、2020年2月に配信したもので、この時は、中国人でも都市住人はピンドードーを使ったことがない人も多く、農村から都市への進出が始まり、会員数で第2位のEC「京東」(ジンドン)を抜いたという時のものです。ですから、多くの人が意外に健闘したダークホースととらえていたため、「ピンドードーとは何ものか?」という題名を付けていました。

 

しかし、ピンドードーの勢いは止まらず、同社の財務報告書によると2020年の年間アクティブユーザー数(YAU)は、7.884億人となり、アリババの淘宝網タオバオ)と天猫(ティエンマオ、Tmall)の合計の7.79億人を上回りました。つまり、2020年末の段階で、ピンドードーは中国で最も実質的な利用者数の多いECサービスになったわけです。

もちろん、ピンドードーは激安商品を売りにしているため、流通総額(GMV)は小さく、アリババ、京東に次ぐ第3位ですが、それでもアリババにとっては大きな脅威になってきました。

前回の「vol.074:アリババはテンセントの軍門に降ったのか。アリババのサービスがWeChatミニプログラムに続々対応」でもご紹介したように、アリババはタオバオの販売業者と利用者がピンドードーに流れることを警戒し、「タオバオ特価版」というサブブランドサービスを2020年3月に始めています。

しかし、タオバオ特価版の利用者の多くは、タオバオユーザーであり、なかなか新規の利用者を獲得できません。そこで、背に腹は変えられず、タオバオ特価版は、ライバルであるテンセントのWeChatミニプログラムの開設を申請するという決断をしました。アリババとテンセントのライバル関係も大きく変わっていくことになります。つまり、ピンドードーが台風の目となってネット小売の業界地図を揺さぶっているのです。

 

なぜ、ピンドードーはここまで影響力があるのでしょうか。その理由はいろいろありますが、驚嘆するのはそのビジネスモデルです。ピンドードーは、2015年9月にスタートしましたが、この時はすでにネット小売の世界は業界地図が定まっていました。日用雑貨はアリババのタオバオ、一般的な商品はTmall、家電製品は京東で買うのが当たり前で、もはや参入する余地などないと思われていたのです。

タオバオのようなCtoC型のECは、先行者が圧倒的に有利です。タオバオの場合、本来は個人間取引でしたが、プロの販売業者も個人の資格で参入し、BtoC、CtoCを含むマーケットプレイスになっています。淘宝とは「宝探し」の意味で、掘り出し物を見つけるのが楽しみのひとつになっています。

このようなCtoC型のECに対しては、販売業者は消費者が多いところに出店をしようと考えますし、消費者は販売業者が多いところを利用します。そのため、先行して販売業者と消費者を確保してしまえば、よほど杜撰な運営を行わない限り、追従者に抜かれるようなことはありません。ご存知の通り、アリババはこの運営でも最高レベルでした。アリペイという便利な決済システムを導入し、利便性を上げるだけでなく、取引のトラブルも防止できる仕組みを作り上げました。誰もECという分野でタオバオに勝てるとは思わなかったでしょう。

 

京東は、アリババとはうまく棲み分けができています。京東は、元々北京市の中関村でCD-Rなどを扱っていた販売店が出発点です。2003年に中国でSARSが流行すると、人々は外に出なくなり、店舗の売上が激減します。そこで、仕方なく当時の貧弱なインターネットを使って、ネット販売を始めました。

そのため、商品は自社で仕入れるのが基本、配送も自社で行います。これにより、商品の品質面で信頼ができる、注文すると当日か、翌日に配達してくれるということから根強いファンをつかんでいます。

アリババは商品の豊富さ、京東は買い物の安心さ、快適さでシェアをつかみました。

 

もちろん、これ以外にもECは存在しています。しかし、その多くが、「垂直EC」と呼ばれる特定の市場に特化したものです。例えば、化粧品や服飾品を中心にし、女性のライフスタイルを提案するEC「小紅書」(シャオホンシュー)にも根強いファンがいます。また、ママのために幼児用品に特化したECや、スポーツ好きのためのスポーツ用品専門のECもあります。

このようなECでは、単なる商品の販売だけではなく、コミュニティを作り、情報提供や交流が可能になっています。市場が細分化されている分、情報交換がしやすいのです。

このような垂直ECは、ECとして重要で、ビジネスとしても軌道に乗っていますが、タオバオのような総合ECを脅かす存在にはなり得ません。

 

つまり、当時の中国のECは完全なレッドオーシャンでした。参入する余地などどこにもないというのが普通の人の見方です。

それどころか、死海だったかもしれません。中国のITサービスの成長期にもかげりが見られるようになり、タオバオ、京東ともに業績は成長していても、その成長率は明らかに鈍くなっていました。

そのため、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、オンラインだけではなく、オフラインにも進出する必要があると判断し、新小売(ニューリテール)という概念を作り出し、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を成功させます。これは逆の見方をすれば、オンライン小売はもはや限界に達していたということです。

ところが、新小売ではない、純粋なオンライン小売の分野で「ピンドードー」が現れ、アリババのビジネスが脅かされることになりました。アリババ内部のことはわかりませんが、相当に不意打ちだったはずです。

 

ピンドードー躍進の秘密は、その考え抜かれたビジネスモデルにあります。まるで複雑な高次元連立方程式を解くような見事さで、伝統的なECが注目をしてこなかった断片要素を集めて、うまく組み合わせているのです。

もちろん、創業者の黄ジャン(ホワン・ジャン)が最初からこのビジネスモデルを発想していたのではないと思います。もし、最初からすべての絵図を描いていたのだとしたら、21世紀の10人に入る天才だと思います。おそらくは、アリババと京東の隙間を狙ったビジネスモデルから出発し、それを改善する過程で新たな発見があり、トライ&エラーを繰り返しながら、現在のピンドードーモデルに到達したのだと思います。

このメルマガでも繰り返し登場する「ソーシャルEC」「リファラル購入」「私域流量」「下沈市場」という考え方は、ピンドードーから生まれてきたと言っても過言ではありません。

中国のテックビジネスで、新たなパラダイム=破壊的イノベーションは何かと聞かれたら、あくまでも個人的な見方ですが、アリババの新小売、ピンドードーのソーシャルEC、バイトダンスのAIリコメンドの3つを挙げます。

前回ピンドードーをご紹介した時は、ピンドードーの仕組みやその人気の秘密などの点に注目をしてご紹介しました。今回は、ビジネスモデルという観点で、改めてご紹介したいと思います。

今回は、ピンドードーのビジネスモデルについてご紹介します。

 

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先月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.070:アリババに巨額罰金。独占を防ぐことで、市場は停滞をするのか、それともさらに成長するのか

vol.071:コロナ終息後にも定着した5つのトレンド。ライブコマース、社区団購、リモートワークなど。

vol.072:中国の消費者保護はどうなっているのか。三包とテスラ問題、iPhone問題の関係

vol.073:個人商店を系列化する社区団購。主要テック企業が資本を投下し、競争が過熱をする理由

vol.074:アリババはテンセントの軍門に降ったのか。アリババのサービスがWeChatミニプログラムに続々対応

 

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