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金と技術は出しても、口は出さない戦略で、ECを成長させるテンセント

中国第2位のEC「京東」の大株主はテンセントで、株式比率は創業者の劉強東より大きい。しかし、京東は種類株を発行していて、テンセントの議決権は4.5%に過ぎない。テンセントは、ECに対して、金と技術は出すけど口は出さない戦略で、ECを育てることに成功してきたと益企財経課堂が報じた。

 

ECに出資をして支援をする戦略のテンセント

アリババにはSNSがないが、テンセントにはECがない。このことが、アリババとテンセントの競争を膠着させている。各領域で直接対決することは少なく、がっぷり4つに組み合って、互いに動くことができない状態になっている。

テンセントは2005年に、アリババの淘宝網タオバオ)に対抗して、拍拍網(パイパイ)をスタートさせている。タオバオが手数料問題で業者の反発を受けた時、販売業者の乗り換えキャンペーンを行って、アリババと深刻な対立をした。しかし、その後、拍拍網の業績は振るわず、2014年に、自社でECを運営することを断念し、既存のECである京東(ジンドン)に出資をして、技術的な支援に回る戦略を取るようになった。続いて、拼多多(ピンドードー)にも出資をし、拼多多はテンセントのSNS微信」(ウェイシン、WeChat)を活用して急成長した。流通総額のトップ3は、タオバオ、京東、拼多多と、そのうちの2つをテンセント系が占めるようになっている。

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▲テンセント創業者のポニー・マー(左)と、京東創業者の劉強東(右)。テンセントは金と技術は出しても口は出さない戦略で、ECを育てることに成功した。

 

京東の大株主はテンセント

2014年3月に、テンセントは京東に2.15億ドル(約240億円)を出資し、さらに拍拍網などを譲渡し、当時まだ未上場だった京東の株式の15%を取得した。これにより、京東の役員に人材を送り込んでいる。

その後、2回株式を取得し、現在、テンセントは京東の株式の17.8%を取得し、京東の最大株主となっている。

これは、創業者の劉強東(リュウ・チャンドン)の保有株式比率を超えている。京東は創業者の会社ではなくなり、テンセントの支配下に置かれているのだろうか。

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▲テンセントがかつて運営していたEC「拍拍網」。タオバオに対抗したものだったが、まったく相手にならなかった。これ以降、テンセントはECに出資をして、支援する戦略に切り替えた。

 

テンセントの議決権は4.5%、創業者の議決権は79%

京東は、国内の株式市場ではなく、米ナスダック市場に上場をしている。ナスダックでは、種類株の制度がある。A株とB株があり、価格は同じだが、議決権はB株がA株の20票分ある。つまり、議決権のある株と、ほぼない株を分けることにより、株主の統治と配当を分離しているのだ。

これにより、テンセントは最大株主でありながら、議決権は4.5%しか持っていない。一方、創業者の劉強東は、株式割合は少なくてもB株を持っているため、議決権割合は79%を保有している。つまり、京東は劉強東が統治できるようになっている。

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▲2017年に浙江省烏鎮で開催された世界インターネット大会終了後の食事会の写真。京東の劉強東と美団の王興が企画をしたため「東興食事会」と呼ばれる。中心にはポニー・マーが座っている。さらに、小米(シャオミ)の雷軍、滴滴の程維、快手の宿華、バイトダンスの張一鳴など、テンセント系の経営者、投資家が勢揃いしている。

 

ECを育てることでアリババに対抗するテンセント

テンセントにとって、これでまったくかまわない。拼多多や美団(メイトワン)に対しても同様で、株式は保有しているものの、議決権割合は小さい。テンセントのねらいは、その企業を支配して、自分たちでECを運営することではなく、運営は創業者に任せ、配当のみをもらう。同時に、テンセントのエンタープライズ支援ビジネスにより支援をすることで、自社のビジネスを拡大する。いわば、口は出さないが、金と技術は出す大株主なのだ。

2014年に、テンセントが京東に出資をした時、京東は難しい局面にいた。全国配送網が京東の生命線だとして、整備を進めていたが、資金調達が難航をしていた。テンセントはこのタイミングで、大規模投資を行なっている。劉強東にすれば、テンセントの馬化騰(マー・ホワタン、ポニー・マー)は恩人でもあるのだ。拼多多や美団に対しても、資金調達に困っているタイミングで大規模出資をしている。テンセントはECを運営することでは失敗をしたが、ECを育てることでは大きな成功をしている。