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若者たちは会社ではなく店舗を目指す。スタートアップ店舗のインキュベーター、北京市の郎園station

コロナ禍で大学生活に大きな制限を受けた00后が卒業の時期を迎え、社会に出始めている。00后は大手企業や起業よりも、自分の店舗を持つことを目指す傾向が強くなっていると言われる。倉庫街の跡地である郎園stationには、このような店舗が集まり、店舗のインキュベーターとして機能するようになっていると北京日報が報じた。

 

店舗運営を目指す若者たち

00后(2000年以降生まれ)が大学を卒業し、社会に出る時期になってきている。Z世代は95年以降生まれなので、00后はニューZ世代のような位置付けだ。しかし、Z世代と大きく違うのは、大学生活の多くの時間がコロナ禍であったことだ。授業の多くはオンラインになり、企業インターンなどの機会も大きく減り、大学で友人をつくる機会も大きく減った。多くの学生が孤独感と戦いながら、大学を卒業した。

その中で、起業の指向性が大きく変わったと言われる。従来の起業は、今までになかったテック開発やビジネス開発を行い、会社を興すというものだった。経営、開発、経理(資金調達)という3人が最低でも必要になる。

それが00后では、店舗経営を目指す人が増えている。1人でも起業が可能で、何よりも自分の好きなものを扱える。カフェを目指す人もいれば、大人玩具店を目指す人もいれば、自分でつくる工芸品を売ることを目指す人もいる。株式公開をするというような大きな経済的な成功はなかなか難しいが、一生、自分の好きなものに囲まれて生きる人生的な成功を目指す人が増えている。


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▲郎園stationにあるユニークな店舗を取材したウェブメディア

▲レンガ倉庫を利用したカフェ。このようなSNS映えする店舗が並んでいる。

店舗+SNS=網紅店のインキュベーター「郎園station」

と言っても、ただ店を開いただけではうまくいくはずもない。SNSの活用はもはや常識だ。店舗を開き、商品などをSNSで発信し、店舗販売とECの販売の両立を目指す「網紅店」(ワンホン店=ネットで話題の店舗)をつくろうとしている。

このような網紅店のインキュベーターが、北京東北五環にある郎園(ランユエン)stationだ。ここは古いレンガ倉庫街で、地下鉄の駅も遠く、近くに住宅地はほとんどない。ネット民たちからは、雰囲気がいいと、撮影場所やライブ配信の場所として好まれていた。ここに店舗系起業を目指す若者を育てるインキュベーターがある。

▲郎園stationにはユニークな店舗が集まるようになり、店舗のインキュベーターとして機能をしている。

 

旧倉庫街にカフェや生花店

郎園stationは、元は国営の北京紡績倉庫だった。30棟のレンガ倉庫が並び、荷物を運ぶ2.23kmの鉄道のレールも残っている。現在は、倉庫を利用してカフェ、レストラン、生花店などが入り、週末になると観光客もやってくるようになった。

しかし、交通が不便であるために、観光客は多くなく、開発のためを投資をしようという企業もなかなか現れなかった。ところが、北京市朝陽区政府が、三里屯(サンリードゥン)の再開発に成功をし、その次のCBD(中央商業区、Central Business District)として開発を始めるようになってから、にわかに注目をされるようになった。

特に、2019年にここで「一帯一路国際グルメ文化祭」が開催され、3日で2万人が訪れるという成功をして、知名度があがった。それ以来、毎年300件程度のイベントが開催されるようになっている。

▲ガソリンスタンドを模したハンバーガー店「Station Grill」。

▲女性向けの服飾品店「Power Girl Style」。

▲キャンプ用品の店「Yep!」。カフェも併設されていて、テントの中でコーヒーを楽しむこともできる。

▲倉庫時代の引き込み線線路も残されていて、散策を楽しむことができる。

 

SNS映えする店舗が並ぶ倉庫街

それ以来、不思議な店舗が集まるようになっている。まるでガソリンスタンドのようにしか見えないハンバーガー店、城壁をピンクに塗ったセレクトショップ、モロッコ風のカフェなど、外観がそもそも写真を撮ってSNSにあげたくなる「映える」ものになっている。

大量生産品であれば、もはや店舗に買いに行く人はいない。ECで購入をしてしまう。これにより、実店舗は大きな打撃を受けることになった。しかし、商品に個性があり、店舗にも個性があれば、人は足を運んでくれる。

郎園stationでは、店舗向け賃貸契約をすでに100人程度と契約をし、50店舗以上が既に開店をしている。店主の多くが、90后か00后だ。また、デザイナーの入居も多く、建築、家具、インテリアなどのデザイナーのアトリエが20ほどあり、デザイン基地としての顔を持つようになっている。

このような感度の高い場所で、店舗として成功できれば、支店を出してもやっていくことができる。郎園stationに店舗を出したいと考える若者が増え、ここが店舗起業のインキュベーターとして機能するようになっている。