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自分の「好き」を仕事にしたい。00后世代が起業を志す7つの業種

00后世代が大学を卒業する時期に差し掛かっている。この世代はコロナ禍により従来のような青春の色彩が濃い大学生活を送ることができなかった。一方で、自分の人生を考える時間はあり、起業を目指す学生たちにもその志向に変化が生まれていると行業観察愛好者が報じた。

 

コロナ直撃の00后世代に起業ブーム

中国の感染状況が落ち着きを見せ始め、経済が再び動き始めている。都市を封鎖してしまう中国のゼロコロナ政策は、世界から批判を浴びていて、経済に対する打撃も決して小さくないが、唯一の利点はロックダウンが解除されれば短時間で経済が回復をするということだ。怖いのは再びロックダウンされることだが、多くの企業がオンライン取引などロックダウン下でもビジネスが続けられる環境を構築してきている。

その中で、最も被害を受けたのは「00后」世代だと言われている。00后は2000年代生まれのことで、現在、20歳前後の大学生が中心の世代だ。コロナ禍での大学生活となったため、知識面はオンライン講義で賄えたものの、実習科目や企業実習、さらには休学をしてバックパック旅行で国内や海外に行くという体験をする機会がほとんど奪われてしまった。

さらに、コロナ禍で痛手を受けた企業が新卒採用を絞り込むなど、就職でも苦労をしている。これにより、就職ではなく起業を考える大学生が増えている。以前の大学生の起業といえば、何かの販売営業会社かテック企業というのが相場だったが、その様子が大きく変わっているという。00后は起業をするにしても、自分の好きなものを扱うビジネスを考えることが多くなっているという。

 

1:フィギュア

盲盒(マンフー、ブラインドボックス)の流行により、00后の多くはフィギュアの愛好者だ。盲盒はシリーズのフィギュアだが、外箱からは何が入っているのかわからず、コンプリートするまでには大量の盲盒を買わなければならない。そのガチャ感覚の面白さと、友人とレアキャラを交換する楽しさで広く流行している。

この分野のトップ企業は泡泡瑪特(POP MART)で、2010年に創業し、2018年に盲盒「Molly」シリーズが大ヒットをし、2020年に香港に上場をしている。

さらに、「積木熊」(BE@RBRICK)も人気になっている。熊の形のフィギュアだが、さまざまなデザインが施され、アート色の強いものになっている。

このようなポップマートやベアブリックのような企業を自分でも興したいと考える00后が増えている。

▲POP MARTは若い世代ではもはや知らない人はいないほど有名になった。フィギュアなどの大人向け玩具をつくってみたいと考える若者が増えている。

▲既存のフィギュアをカスタマイズして販売する個人も増えている。中には正式に版権を獲得し、ビジネスとして成立させている人もいる。

 

2:メタバース

メタバース関連も人気の領域になっている。中国のゲームセンターは、ビデオゲームから体験型に移行をしている。音楽に合わせてダンスをするダンスゲームや、脱出ゲーム、犯人あてを楽しむリアルマーダーミステリーなどが人気だ。この流れで、AR、VRゲームも導入されるようになっている。特にVRは、VRゴーグルとソフトウェアの投資で済み、大規模な施設を設置する必要がない。導入してみて、受けが悪ければすぐにソフトウェアを別のものにすることができ、ゲームセンター運営側からも好まれるようになっている。

00后は、このようなメタバースというよりもVRゲーム領域で、開発、販売、ゲームセンターの運営などを考えている。

▲AR/VRはゲームセンターなどで人気だ。VRゲームを楽しむには意外に広いスペースが必要であるため、自宅ではなかなか楽しめないからだ。

 

3:ストレス解消ビジネス

競争の厳しい中国社会では誰もがストレスを抱えている。そのため、ストレス解消ビジネスが広がっている。最も有名なのは「摔碗屋」で、食器や家電製品などが山積みになっている部屋でどれだけ壊してもかまわないという体験店。また、枕大戦屋も人気で、友人同士で枕で殴り合うことができる。羽根枕なのでケガをすることはなく、最後は枕が破れて中の羽毛が宙を舞う。

このようなストレス解消ビジネスは、抖音などのショートムービーで映像が拡散をし、どこも予約が取りづらい人気となっている。

▲いくらでも物を壊していい発散屋。仕事のストレスを発散する場所で、若者に人気になっている。

▲枕大戦も人気だ。羽枕なのでケガをする心配がなく、枕が壊れて羽根が飛び散るとストレスが発散される。

 

4:リアルマーダーミステリー、密室脱出ゲーム

ゲームといってもビデオゲームではなく、リアルなゲームだ。リアルマーダーミステリーは、参加者に内密に殺人犯人などの役割が与えられ、スタッフも加わり、用意されたシナリオに沿って演技をしながら、殺人犯をあてていくというゲーム。密室脱出ゲームは、部屋に用意されたパズルのような謎を解いて脱出するというものだ。

体験ゲームだが、装置などの投資が少なくてすみ、シナリオを新しくすることでリピーター需要も期待できるため、ゲームセンター、ショッピングモールなどに設置されるようになっている。

▲リアルゲームの流行の勢いは衰えない。犯人探し、密室脱出などを楽しむ体験型ゲーム。若い世代の娯楽としてすっかり定着している。

 

5:手芸作家

自分で手芸作品をつくり、SNSやショートムービーなどで拡散をし、オンラインで販売をする。趣味としての人気は高く、手芸用品の販売ビジネスも好調だ。このような趣味が高じて、ブランドを構築し、ビジネス展開をする00后が現れ始めている。

▲手芸作家も増えている。小紅書などのSNSで作品を発信し、人気になれば会社勤め以上の収入を得ることも難しくない。それがきっかけで、本格的なメーカー企業を起こす人も増えている。

 

6:ペットビジネス

世界的なブームになっている犬、猫を中心にしたペットは、中国でも大きな人気となっている。ペット販売だけでなく、ペット関連グッズの販売も好調だ。ペットに可能な限りの快適な生活空間を与え、幸せそうにくつろぐペットの姿を見て、自分も癒される。

ペットがいれば結婚しなくてもいいという00后も多く、社会問題にもなり始めているが、ペットを起点に飼い主同士での交流も盛んになっている。また、犬の場合はトレーナービジネスも成長をしている。

▲ペット産業は最も有望な産業のひとつ。関連するペットグッズビジネスも拡大を続けている。

 

7:ドリンクカフェ

コーヒーを出すカフェも急増しているが、利用をしているのはホワイトカラー系が多い。コーヒーは仕事をする時に飲むものというイメージになっている。一方、リラックスするために飲むのがティードリンクで、中国茶をベースにしたミルクティー、タピオカミルクティーフルーツティーなどのドリンクカフェに行くのが日常的な光景になっている。

ドリンクだけでなく、カフェの内装やペーパーバッグのデザインなども重要で、お茶を飲みながら写真を撮り、それをSNSに上げるまでが楽しみになっている。

この世界で成功したのは喜茶(HEY TEA)だが、流行の移り変わりは激しく、次々と新しい味のティードリンク、新しいチェーンが登場している。変化が激しい世界であるということは参入のチャンスも大きいということで、ドリンクチェーンを起業したいと考える00后が増えている。

▲喜茶の成功は多くの若者を刺激している。ドリンクとしての美味しさだけでなく、凝った内装やロゴ、ペーパーバッグなど、ブランドデザインがなされている。このようなカフェを運営してみたいという若者は多い。

 

小さな資本で、自分の人生を豊かにする起業

もちろん、従来型の営業特化、技術特化の起業を考えている大学生もたくさんいるが、これまではどこかの企業に就職をすることを考えるようなタイプの大学生まで、ここで紹介したようなビジネスでの起業を考えるようになっている。

特徴は、大きな資本を必要としないスモールスタートが可能なビジネスで、なおかつ自分が好きな領域の商品やサービスを扱うということだ。

実はこれは、起業などという大袈裟なものではなく、昔の人が「パン屋さんを開く」「花屋さんを開く」というのと同じレベルのことかもしれない。一般的なスタートアップのように、事業計画書をつくって、投資家にプレゼンを行いというのではなく、「友人同士で集まって小さな規模でやってみて、うまくいくようだったら、親戚からお金を借りて店にする」感覚だ。しかし、その中から全国展開をするような企業も出てくることになる。

00后は、「起業をして人生を変える、世界を変える」という大きな志よりも、「自分が好きなことをしながら生きていきたい」という幸福に対する強い気持ちで起業を志すようになっている。