中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

Z世代の起業は、自分の好きなものを売るお店。趣味を仕事にして生きる若者たち

中国のITビジネスが成熟をし、起業をしても何百倍にも成長する余地は少なくなっている。その環境の中で、Z世代の起業が目立つようになっている。自分の趣味を仕事にし、淘宝網にお店を持つという起業だ。大きな成長は望めないものの、楽しく人生を生きたいというZ世代特有の起業だと中関村在線が報じた。

 

目立ってきたZ世代の起業家たち

中国のITも成熟をしてきて、ToCビジネスで起業をしても成長をする空間は年々狭くなり、多くの起業家がToBビジネスを目指すようになっている。AIや自動運転といった分野で技術開発をし、その技術をToCビジネスを展開できる大手テック企業に提供、売却を目指すというものだ。

しかし、ToCビジネスの面白さは変わらない。消費者が必要としている商品を開発し、それがヒットするという楽しさは不変だ。現在、目立ってきているのは、タオバオで商品を販売し、成功する95后(95年代生まれ、20代、Z世代)の起業家たちだ。

 

BD in布丁妹妹:邱麟燃、1996年生まれ

ドッグフード専門の販売で、16万人のファンを獲得している。創業者の邱麟燃は、高校を中退し、8000元を持って実家を離れ、成都市でさまざまな仕事をした。デジタル製品や医療機器の営業の仕事だったが、月収は2500元と少なかった。

2018年に実家に戻って輸入商を始めるが失敗。40万元もの借金を背負ってしまう。すべての資産を売ったが借金は残り、生活は破綻をした。

その時にプードルの布丁(プディング)とその飼い主である呉潔淳と出会った。元からペットは好きだったが、犬を飼った経験はなかった。邱麟燃は、布丁と呉潔淳を通じて、ペットのいる生活を知るようになった。

最初は、SNSで布丁を撮影して投稿するということを始めた。ビジネスにするつもりはなく、自分たちの生活の記録として投稿をしていた。ところが、半年後、布丁を広告に起用したいというオファーがあり、500元の報酬をもらった。その広告が公開されると、その商品が売れるようになり、邱麟燃は自分たちでも何かビジネスができるのではないかと考えるようになった。

それ以来、邱麟燃はさまざまなドッグフードを自分で食べてみるということを始めた。当初は生臭くて食べられたものではなかったが、犬が好むドッグフードの味を自分の舌で理解をしようとした。

2019年5月、邱麟燃は淘宝網タオバオ)にドッグフード専門店を開店した。3年で1日の売り上げが10万元を超えるようになり、2021年にはタオバオで最も成長した店舗のひとつに選ばれた。最初は2人で始めたが、現在は30人ほどの企業となり、専任の獣医も抱えている。

成功の秘密は、SNSなどで布丁のムービーを積極的に公開していったことだ。これが好評で、フォロワーは130万人を超え、布丁は網紅(ワンホン、ネットの人気者)となり、販売に結びついている。

▲ドッグフードショップ「BD in布丁妹妹」を運営する邱麟燃。自分でさまざまなドッグフードを食べて味を見極め、オリジナルのドッグフードで成功をした。

▲BD in布丁妹妹のドッグフード。価格も安く、犬の健康に配慮したドッグフードを販売している。

▲布丁妹妹のSNS「小紅書」のアカウント。プードルの布丁の可愛い映像が投稿されている。この布丁が人気となり、その人気で、ドッグフードが売れている。

 

未及:林薇、1992年生まれ

90后の林薇は、2020年6月にブロック積み木専門店の「未及」を天猫(Tmall)に開店した。すでに数千万元のエンジェル投資を獲得している。林薇はタオバオや天猫での代理運営の仕事をしており、そのかたわら自分の店をもつ準備を進めた。創業から2年足らずで毎月の売上は100万元を突破した。

林薇の家は家族全員がブロック積み木の愛好者だった。年末の年越しは、ブロック積み木の大作を家族全員で挑戦するというのが恒例になっており、昨年末は故宮の角楼に挑戦をした。8000個ものブロックがあり、完成まで40時間もかかった。

2020年の春節の時、林薇は広東省汕頭市澄海の玩具工場を仕事で訪ねた時、ブロック積み木のほとんどが子ども向けに供給されていて、成人の愛好者向けの供給はほとんど行われていないことを知った。その頃、ポップマートの盲盒(マンフー、ブラインドボックス)が流行し始めたこともあり、ブロック積み木の成人市場が空白になっているのではないかと考えた。

そこで、市場調査を行い、ベーカリーのブロック積み木を設計し、クラウドファンディングを募ったところ、15日で2000人が30万元を投資してくれた。これで成功するという感触を得て、天猫に本格的に出店をすることにした。

現在、3人で始めた店舗は30人にまで増えている。

▲ブロック積み木ショップ「未及」を運営する林薇。家族全員がブロック積み木の愛好者だったが、成人向け市場が存在していないことを知り、大人積み木を開発することで成功した。

▲ヒット作となったブロック積み木のベーカリー。つくって楽しむだけでなく、インテリアとして飾ることができ、積み木の成人市場を開拓した。

▲未及のブロック積み木。大人でも愛好できるブロック積み木を開発して販売をしている。

 

一反又藍:陳楊、1990年生まれ

2013年に大学を卒業した陳楊は、杭州市のあるアパレル企業にデザイナーとして入社をした。仕事の関係で、半年に1回は日本と韓国の市場調査に行く。日本で、初めて藍染を見て、その美しさに魅入られてしまった。

自分で藍染の研究を始めてみると、雲南省の雲貴高原のあたりで藍染技術が伝わっていることを知った。その藍染技術を学び、2016年に仕事を辞めて、藍染の衣類を販売するビジネスを始めることを決断した。

最初はクラウドファンディングを行い、131%の調達率で10万元以上の資金を得て、ショップを始めたがうまくいかず、20万元の借金を背負って、職場に戻るしかなくなった。失敗の原因は、品質が安定しなかったことと、藍染の認知度が低く、市場を確保できなかったことだ。多くの人が1枚は買ってくれるものの、愛好者になってリピート購入してくれるところまではいかない。

再挑戦では、愛染だけでなく、刺繍、絞り染め、型染めなどの技法を取り入れ、現代的なデザインも取り入れ、普段着として出勤着として使えるものにした。これが大都市の男性に受け、さらには香港、台湾、日本などでも売れるようになる。現在、60%が海外の売上だという。

現在、タオバオのショップでは月10万元を越え、雲南省成都市の5つの小売店に卸している。

藍染着ショップ「一反又藍」を運営する陳楊。伝統的な藍染着を現代デザインにアレンジをすることで成功をした。

▲一反又藍で販売されている藍染着。伝統的な藍染の技法を活かして、現代的なデザインのシャツやジャケットを販売している。

 

趣味を仕事にするZ世代の若者たち

タオバオは確かに成長の限界に達しているが、最近目立つのは若い世代の店主の成功だ。タオバオの統計でも、00后(2000年以降生まれ、10代から20代前半)の新規出店数が3.5倍になっている。

このような若い世代のショップの多くが、趣味と仕事の融合だ。自分の好きなものを仕事にして成功をしている。タオバオは、現実のお店を出すことを考えたら、ほぼ0に等しい初期投資でお店を持つことができる。成功することは簡単ではないものの、若い世代がタオバオでお店を開くケースが増えてきている。

お店を開くと言うのは、アリババやテンセントのような何百倍、何千倍という大きな成功は望めない。しかし、余裕のある生活を送れるだけの収入を長期にわたって得ることは可能だ。Z世代は、物欲よりも満たされた生活を送ることを重視する。Z世代らしい起業が目立つようになってきている。