シンガポールの造船企業「Keppel O&M」が、マイクロソフトのHoloLensをベースにしたAR船舶検査ソリューションを導入した。書類やデバイスを携帯する必要がなくなり、両手が空くため、検査員の安全に寄与をすることができる。将来は、デジタルツイン空間の中で作業が行われるようになると国際船舶網が報じた。
進むAR/VRの産業応用
拡張現実、仮想現実を実現するAR、VRグラス。エンターテイメントやメタバースへの応用が進んでいるが、一方で、応用が加速をしているのが製造業だ。
シンガポールの造船企業「Keppel O&M」では、シンガポール情報通信メディア開発庁(IMDA)と協働して、AR/VRグラスを活用した船舶検査ソリューションを開発した。
使用しているのはマイクロソフトのHoloLensヘッドセット。ARグラス部分に、設備の性能、起重機にかかっている負荷重量などの情報が、状況に応じて作業員が見ている風景に重ね合わせる形で表示される。これにより、設備検査の効率が40%高くなったという。
また、検査作業員の作業リスト、操作ガイドの動画なども表示される。Keppelでは、検査メンテナンスに必要な作業時間が15%減少できるとしている。
コロナ禍による苦境が加速をしたAR/VR導入
今回のテスト運用は、Keppelが描いているAR/VR作業のごく一部で、今後、さまざまな業務への応用を進める。このプロジェクトは、IMDAの「5Gイノベーションプログラム」に選出されている。Keppelでは、今年2022年第3四半期までには、すべての造船所にARソリューションを導入する予定だ。
このようなプロジェクトが進んだ要因は、ひとつは5Gの普及が後押しをしているが、コロナ禍がそれを加速するという皮肉なことになっている。2020年からのコロナ禍で、Keppelでは多くの海上作業が中断をしたままになっている。企業経営も圧迫をされているため、一層の作業効率が求められるようになっている。
このような事情と5Gの普及、AR/VR技術の進展がクロスした領域で応用が始まっている。
人はデジタルツイン仮想空間で安全に作業をする
Keppelが使用しているマイクロソフトHoloLensベースのヘッドセットには、カメラ、マイク、5G、WiFiなどが備えられ、司令室と通話をすることができる。司令室から音声で次の作業を指示したり、作業員が現場状況を報告をすることも可能だ。
また、作業場所のデジタルツインを作成しておき、人間の作業員はデジタルツインによる仮想空間の中で作業をし、それが現実の作業場所のリモート操作になるような仕組みを用意し、作業員の安全に寄与をすることも可能だ。また、造船でもデジタルツインを用意することで、仮想空間で検査を行うことで、製造前の段階で、設計上の問題を発見することもできる。
Keppleの首席執行官のクリス・オン氏はこう語っている。「コロナ禍期間、作業員の安全確保のために現場での検査、測定作業に大きな制限をかけなければなりませんでした。私たちは、AR/VR技術を応用して、船舶のリモート検査を可能にする環境を構築したいと考えています」。
再び、新型コロナが再拡大をし、外出自粛が起きたとしても、自宅でAR/VRゴーグルを装着し、デジタルツイン仮想空間の中で作業をするというリモート製造業、在宅ワーク製造業が可能な時代がすぐそこまでやってきている。