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軍事企業「紅隼」が、歩兵用のARシステムを発表。戦争はもはやゲームと区別がつかなくなる

人民解放軍に兵器を提供している軍事企業「紅隼」」が、歩兵用のARシステムを発表した。壁の向こう側にいるターゲットを把握できるなどの機能がある。もはや、FPSゲームと区別がつかないと話題になっていると朴刀swordが報じた。

 

歩兵の能力を拡張するAR/VR

AR(拡張現実)、VR(仮想現実)の軍事利用が進んでいる。最も応用が進んでいるのが米軍で、すでにマイクロソフトがARヘッドセット12万台を米軍に納入する契約を結んでいる。具体的な用途は公表されていないものの、研究ではなく、実戦に近い訓練や非戦闘時での大規模使用などが想定される。

AR/VRの軍事応用は、研究レベルではかなり進んでいる。例えば、ターゲットにシグナル発信装置を持たせ、兵士は壁越しにそのターゲットの位置を視覚的に捉えられるというもの。

また、監視兵の横に高精細のカメラを設置し、人間の目には見づらい小さな動きを強調して、監視兵のARグラスに表示をするものなどが考えられている。

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▲ARシステム応用例。シグナル発生装置をターゲットに持たせる、外部のレーダー、カメラなどでターゲットを把握し、兵士は、壁に遮られていても、ターゲットの位置を把握することができる。

 

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▲ARシステムの応用例。高性能レーダーなどで取得した映像を兵士にフィードバックし、人の目には見えづらい小さな動きも視覚的に把握ができる。

 

ARグラスを大幅に軽量化する回折光導路技術

中国でも紅隼防務科技(ホンスン)が、軍事用ARシステム「ICE2.0」(Intelligent Combat Ecosystem)を発表した。

このICEには、回析光導路(Diffractive Waveguide)という技術が使われている。ヘッドセットのグラス部分をディスプレイにすると、装置そのものが重く大きくなる上に、透明度がさがり、装着者自身の視覚の妨げになる。あるいは透明度を優先すれば表示される映像の鮮明さを犠牲にしなければならない。

回析光導路は、グラス部分は単なる透明素材だが、スリットやホログラム技術などを利用して、グラスの端に投影した映像がグラス内を回折して、装着者の目に届く仕組みになっている。プリズムで光が屈折する現象を利用したものだ。

さらに、光の3原色を分離して、異なる層で回折させることで、単層に比べて、色にじみのない鮮明な映像が得られるように工夫をされている。

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▲展示会で公開されたICE 2.0のARグラス。回析光導路技術が使われ、ディスプレイ型のものより、大幅に軽量化、小型化が進んでいる。

 

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▲回析光導路技術の解説図。グラス面に映像を照射し、グラス内を反射しながら、装着者の目に届け、現実の風景に重ねるようにして必要な情報を表示する。光の波長によって屈折度が異なるため、単層グラスでは色にじみが起きてしまうことから、波長別に素材の異なるグラスを使う複層グラスが使われるようになっている。

 

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▲映像を装着者の目に届けるのにも、ミラーを使う、スリットを使う、ホログラフィック回折格子を使うなどさまざまな方法がある。

 

人民解放軍の制式銃QBZ191と連動

このICEは、人民解放軍の主力歩兵銃QBZ191の照準と連動しているのが特徴だ。照準を合わせた方向の映像をARグラスにフィードバックし、射撃の精度をあげることに使われるという。ターゲットのシグナルを感知できるのであれば、壁の向こう側からターゲット位置を把握し、目標をロック、壁が切れたところで射撃をすれば自動的にあたるという仕組みが構築できる。

紅隼では現在、ウェブなどで製品情報の公開を始めていて、人民解放軍が正式採用するかどうかについては明らかになっていない。しかし、紅隼は人民解放軍に軍事用品を納入している企業であるため、正式採用される可能性は高いと見られている。

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▲ICE 1.0のARグラス。この時は単眼グラスだったが、ICE 2.0では両眼となり、視認性が大幅に向上した。

 

https://www.bilibili.com/video/av289943461/

▲ICE 1.0の時点での、紅隼が公開した映像。携帯ドローンで取得した映像を兵士のグラスに表示する機能が紹介されている。