AIの4つの小龍と呼ばれる4社のうちのひとつ「商湯科技」では、メタバースの本質はVRではなくMRだと定義し、観光などに活かせる具体的なソリューションを発表していると川観新聞が報じた。
MR対応のメタバースソリューション「霊境空間」
中国でメタバース関連のプロダクトの発表が続いている。「AIの4つの小さな龍」として注目をされるAI関連4社のひとつ、商湯科技(シャンタン、SenseTime、https://www.sensetime.com/cn)は、メタバースを「霊境空間」(仙人がいる場所、仙境)と呼び、独特のMR(Mixed Reality)ソリューションを発表している。
2022年5月には、四川省科学技術協会が主催した「2022第1回天府元宇宙大会」で、センスタイムの霊境空間事業部の王子彬部長が出席し、センスタイムのメタバース関連のソリューションの紹介を行い、その内容が話題となっている。
インタラクティブに3次元データを扱えるメタバース
王子彬部長は、従来のスマートフォンを中心にしたテクノロジーは二次元データを扱うものだったが、通信技術、xR技術の進展により、3次元データを扱えるのがメタバース時代であると定義をした。また、ただ3次元データが扱えるだけでなく、操作ができるというインタラクティブ性を持たせることが重要だという。
メタバースの本質はVRではなくMR
また、メタバースという言葉が話題になり、多くはVRゲームに注目が集まったが、メタバースの本質は、社会や文明のリアルとバーチャルを融合して重ね合わせることができるMRが本質であると認識しているという。VRゲームは、メタバース技術を産業化するには適したジャンルだが、そこがメタバースの目指すところではないという。
このMRの具体的なソリューションを、センスタイムでは「霊境空間」と呼んでいる。
リアルとバーチャルが融合する霊境空間
この霊境空間には、「リアルからバーチャルへ」と「バーチャルからリアルへ」の2つの方向があるという。
リアルからバーチャルの方向は、いわゆるデジタルツインだ。都市の建築物、構造物をデジタルデータ化して、バーチャル空間に都市を再現してしまう。これにより、たとえば水害が起きた時にどのような状況になるのかを確かめたり、新しい建造物を入れてみて都市景観がどうなるのかをシミュレートすることができる。
バーチャルからリアルへの方向はMRだ。現実世界にデータをオーバーラップ表示させることで、都市の機能を増強する。たとえば、カーナビは小さなディスプレイの地図を見るのではなく、現実の道路にルート案内がオーバーラップ表示される。
このような霊境空間を実現するために、AI演算のクラウドであるSenseCore、MRプラットフォームであるSenseMARSを開発し、さらに今年の初めに運用が開始されたセンスタイム人工知能計算センター(AIDC)を活用し、実現をしていく。
歴史をリアルに蘇えさせるAR観光ソリューション
その具体的なソリューションの開発も始まっている。最もわかりやすいのは、AR観光だ。
上海市黄浦区の南昌路は1.7kmほどの通りだが、フランス租界であったこともあり、アオギリの街路樹が美しく、歴史的建造物も多く、観光客が散歩をするのにうってつけの場所だ。
この南昌路で、センスタイムが開発したアプリを起動し、スマートフォンを建造物に向けると、100年前の上海の映像が現実の風景にオーバーラップ表示され、その歴史的建造物の解説が表示される。
位置情報と映像分析から場所と立ち位置を判定し、SenseMARSが映像をつくり出し表示をしている。
南昌路は静かな通りで、わかりやすい観光スポットがないために、今までは観光客が訪れることも少なかった。しかし、上海の歴史を知ってもらうためには重要な場所であり、散歩をしても気持ちのいい場所だ。上海市では、南昌路をもっと知ってもらうと、このようなAR観光の仕組みを提供している。
南宋時代の戦闘が目の前に
杭州市の西湖では、国内最大規模のAR観光が実施されている。南宋時代の武将、岳飛を祀った岳王廟では、スマートフォンを建築物に向けると、戦いの様子の映像がオーバーラップ表示され、岳飛の人生の解説が流れる。
南北朝時代に活躍をした歌手、蘇小小の墓の前では、蘇小小が歌ったとされる詩が朗読され、蘇小小の生涯が紹介される。
施設内のARナビゲーション
観光だけでなく、実用的な方向にも霊境空間は応用されている。四川省成都市の複合商業ビル「成都IFS国際金融センター」には、ARナビを提供している。スマホをかざすと、現実の通路にガイドが表示されるもので、地下の駐車場から各ショップ、ホテル、オフィスまでガイドをしてくれる。
このようなソリューションはまだ都市の中の点として点在をしている状態だが、王子彬部長はこれをつなげて面として提供をし、AR都市を生み出すことを目指しているという。このようなAR観光により、観光旅行は名所旧跡に行き写真を撮るだけのものから、都市の体温を感じられるものになっていく。都市は知能を持つようになる。