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今日のおかずは郵便局がお届け。郵便局が社区団体購入に参入をした意味

郵便局が社区団購ビジネスに参入をした。郵便局が拠点となり、生鮮食料品を配送し、会員が郵便局まで取りに来る仕組み。郵便局の配送網にマッチをするだけでなく、郵便局が持つ地域との結びつきを活かせると郵楽網が報じた。

 

公共サービスを官民連携で構築する

中国では公共的なサービスが民間事業として行われることがしばしばある。シェアリング自転車などがその例で、ofo(オッフォ)、Mobike(モバイク)、ハローバイクなどの民間企業が激しいシェア争いを行った。しかし、シェアリング自転車のサービスを提供するには、公共の歩道や施設に駐輪場を設置することが必須であり、必然的に地方都市政府の協力が必要になる。現在、多くの都市で、自転車の導入数を決め、それを各社の実績やサービス品質に応じて割りあてをするようになっている。そして、都市政府はシェアリング自転車企業の支援も行う。

あくまでも運営は民間企業だが、公共の仕組みができあがり、過剰な競争による混乱は起きなくなっている。

▲社区団購の発送作業。前日注文、翌日受取であるため、配送量が事前に確定をする。大型スーパーへの大量配送ではなく、多数存在する郵便局への少量配送が主体になるため、郵便局の配送リソースを活かしやすい。

 

公共性の高い民間サービス「社区団購」

社区団購(シャーチートワンゴウ)も、公共性を帯びた民間サービスだ。社区団購はその地区の代表者が団長となり、地域住民が購入する生鮮食料品のリストをSNSなどで送ってもらい、団長がそれを取りまとめて一括発注するというもの。商品は団長の下に配送されてくるので、団長が個人別に分け、地域住民は団長のところまで取りに行く。

もともとは農村や郊外地区など、買い物が不便な場所で、住民の自治活動として始まった。これが2016年頃から、組織化され、企業化もされていくようになった。

これに2018年頃から、テック企業が目をつけるようになった。社区団購は、前日に注文を入れ、翌日受け取りであるため、あらかじめ配送量が確定をする。そのため、卸などの流通の調整機能が不要となるため、生鮮食料品を安く消費者に提供することができる。京東、蘇寧、アリババ、テンセントなどが参入し、2020年にコロナ禍が始まると、外出が規制される中で有力な販売チャンネルだとして、滴滴、美団、拼多多なども参入し、激しい競争を繰り広げるようになった。

 

民間企業の競争が終わって、中国郵政が参入

しかし、現在、その競争もほぼ集結し、美団と拼多多の2社が、社区団購の大手として生き延びた。そして、中国郵政が社区団購に参入を始めた。中国郵政は中国の郵便局。実質的な国営企業だ。全国の物量をもつことから、社区団購のビジネスを大規模に提供するリソースを持っている。中国郵政が参入をすることで、社区団購も公共化がいっそう進むと見られている。

 

郵便局が社区団購の拠点となる

社区団購の参入に積極的なのは北京郵政だ。2022年今年の初めからサービスの提供を始め、6月末段階で、団長が4224名、539.39万元(約1億円)の流通総額に達している。

元々中国郵政は、物流ネットワークを活かしたEC「郵楽網」(ヨーラー、https://www.ule.com)を運営しており、この郵楽の仕組みを使って、社区団購のサービスを提供している。

中国郵政の社区団購の特長は、団長の質が高いということだ。一般的な社区団購では、団長は公募をする。団長には手数料が落ちる仕組みになっているため、仕事として団長になる人がいる。生活用品関連の商店主や宅配便の配送拠点の店長が団長になるケースが多い。

各社区団購は、団長を短期間に揃えて、サービス地域を拡大しようとしたため、手数料にさまざまな報奨金を上乗せして団長を募集した。これにより、社区団購の団長は儲かる仕事だと認識され、一気にサービス地域を拡大したが、このような報奨金が徐々に削られていくと、離職をする団長が現れるようになる。これにより、サービスを維持できない地域も出るなど混乱が起きている。

しかし、中国郵政の社区団購の場合は、中国郵政の郵便局、配送拠点の既存スタッフが団長になるケースが多い。郵便局、配送拠点は現在でも各町に設置をされているため、一気にサービス地域を広げることができる。しかも、郵便業務のひとつとして行うために、原則的に「儲からないからやめる」ということが起こらない。

▲中国郵政が始めた社区団購。郵便局の配達リソースを利用して、生鮮食料品を団長である郵便局に配送する。会員は自分の注文した食料品を郵便局に取りにくる。

 

地域との連携を核にしたビジネスを展開する中国郵政

中国郵政は郵便が主軸事業で、元々が公共性を帯びたサービスを担っている。そのため、郵便局員が地域の高齢者の見守りを担うなどの社会貢献も行なっている。中国郵政が社区団購に参入することで、独居老人への配食なども担うことができる。社区団購がより公共性の高いサービスに進化をすることが期待されている。

中国でも郵便事業は先細りで、中国郵政の主軸事業は完全に宅配便に移っている。しかし、宅配便は民間企業との競争が激しく、このままでは中国郵政の存在価値がなくなっていく。中国郵政は、元々持っていた強み=地域への浸透を活かしたビジネスに活路を見出そうとしている。国営企業ですら「今日仕事に努力をしない者は、明日職探しに努力することになる」時代になっている。