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里帰りをしてわかった農村のデジタル生活。想像以上に広がっている生鮮食料品のスマホ注文

社区団購は、前日注文翌日受取で生鮮食料品が購入できる仕組み。これが農村にも広がり始めている。近所で買い物が済み、取りに行くことで住人同士の交流も生まれる。さらに、都市の息子、娘が代理で注文する親孝行注文も増えていると南方+が報じた。

 

農村でも食料品はスマ注文で買う

今年の春節にも、多くの人が里帰りをした。大都市で働いている人の多くは、農村出身で、春節などの長期休みには里帰りをする。そこで多くの人が驚いたのは、社区団購が農村にまで浸透をしているということだった。

社区団購は、前日までにスマートフォンで生鮮食料品を注文しておくと、翌日、近所の拠点まで配送をしてくれるので、受け取りに行くというもの。注文時に配送量が確定をするために、配送量の調整機構である卸を通す必要がなくなる。このため、産地→集積倉庫→拠点というシンプルな物流になるため、低価格で生鮮食料品を提供することができる。

もともとは、商店が少ない農村で静かに広がっていった仕組みだった。日本の生協の仕組みをよく研究し、買い物が不便な農村に安価で質のいい食材を提供するという互助的な仕組みだった。

このビジネスにテック企業が注目。2018年頃から京東、テンセント、アリババなどが参入を始めたところに新型コロナの感染拡大が始まり、一気に広がった。大規模マンションなどでは、敷地内に配送拠点を置けば、外に出なくても生鮮食料品が買えるからだ。

▲農村の入り口にある商店には、美団優選のカゴが並べられている。社区団購の配送拠点になっているからだ。ここが住民の交流の場にもなっている。

 

サービスとして難しさのある社区団購

しかし、社区団購というビジネスを軌道に乗せるのは簡単ではなかった。都市部では新型コロナの感染拡大が収まると、前日注文で取りに行かなければならないという社区団購よりも、注文して30分で戸別配達してくれる新小売スーパー、クイックコマース、デリバリーの方が便利であり、多くの人が利便性の高いサービスに流れていった。

一方、農村部では、客単価も低く、人口密度が低すぎて配送距離が長くなり、業務効率がよくない。

その中で、美団(メイトワン)の「美団優選」と、アリババの「淘菜菜」が業界をリードして拡大をしている。

 

農村にも広がる社区団購「美団優選」

このうちの美団優選が地方の農村まで浸透をし始め、里帰りした時に、農村のあり方が様変わりしていることに驚いた都市住人も多かった。

南方+の記者の実家は、湖北省の4線都市にあるという。都市階級区分では、1線都市から2線都市までが大都市と呼ばれ、3線都市は地方中核都市、4線都市は地方の衛星都市という感覚だ。つまり、4線都市は田舎町という言葉がぴったりとくるような場所になる。

その町の入り口に小さな商店があるが、そこに多くの人が集まっていることに記者は驚いた。「美団優選」とプリントされた黄色いカゴが大量に並べられ、多くの人が集まり、食材を仕分けしている。美団優選の食材が届いたため、それを注文者ごとに仕分けして、注文をした人が取りにきているのだ。

▲社区団購の配送拠点の注文票。会員がアプリ注文した内容が自動集計されるが、アプリがうまく使えない人には配送拠点の店主が、電話などで注文を聞いて、代理注文することもある。

 

地方でももはやスマホは常識

このような田舎町の住人は高齢者が中心となるが、ほとんどの人がスマホを持っている。もちろん、利用の程度は人それぞれだ。それでも、電話、SNS「WeChat」、スマホ決済「WeChatペイ」ぐらいは誰でも普段から使っている。

2020年に新型コロナが拡大をしたことが、農村でも社区団購を利用するきっかけになっている。

町の商店はそれまで、市場に食材を仕入れに行き、それを店に並べて販売をしていた。しかし、市場は新型コロナのクラスターが発生するホットスポットになったため、市場が閉鎖をされたり、商店主も仕入れに市場に行くことに不安を感じるようになった。

そのような状況の中で、社区団購の団長になるという商店主が多かった。団長になると、顧客が注文した商品を商店にまで配送をしてもらえるようになり、なおかつ一定の手数料収入が生まれる。

近隣の顧客の中には、注文アプリの使い方がわからない人もいたが、丁寧に教えた。また、スマホを持っていない人に対しては、電話で注文を聞き、注文を代行し、社区団購の利用者を増やしていった。

 

なじみのある商店で買い物が済ませられる

住人にとっても、社区団購はありがたい存在だった。町の商店とは古い付き合いだが、生鮮食料品や日用品をすべてそこで買うかといったらそうでもなくなっている。バスに乗ったり、電動自転車で行かなければならないが、より大きな町の市場やスーパーの方が、品揃えが豊富で、しかも安かったりする。

このため、平日は町の商店で必要なものを買い、週末に遠くのスーパーに行ってまとめ買いをするということが一般的になっていた。

しかし、遠くのスーパーまでは電動自転でも15分以上かかり、なおかつまとめ買いをするので、帰りは荷物を満載して帰ってこなければならない。また、まとめ買いをすると、生鮮食料品などは冷蔵庫に入れても鮮度は落ちてしまう。高齢になると、買い物に行くこと自体が負担になり始めていた。

それが、なじみのある商店で、毎日、必要な生鮮食料品を買うことができる。取りに行くのも近所なので、そう面倒ではない。そして、取りに行ったついでに、商店主や近所の人とおしゃべりを楽しむ。社区団購の配送拠点は、単なる利便性だけでなく、町の商店の社交場の機能を取り戻すことになった。

▲農村の商店は品数が少ないため、週末などに町のスーパーにまで買い物に行く人が多かった。しかし、高齢者にとって、重い荷物を持って長い距離を帰ってくるのは負担になっていた。

 

子どもが親のために買う親孝行注文

また、バカにならないのが、親孝行経済と呼ばれるものだ。都市で働く息子、娘が農村に残る親のために生鮮食料品やなどを注文をする。また、現在の社区団購は、普段着や家電製品などの販売も始めているため、都市の息子、娘が親のために注文を入れる。わずかな追加料金を払うことで、自宅までの配送を頼むこともできる。親が一人暮らしになっている状況では、戸別配送をしてもらうことで、安全に暮らしているという証明にもなる。

美団優選によると、この親孝行注文は1月で250万件を超えることもあり、全ユーザーの約3割が自分のためではなく、親のために会員になっているという。さらに、親孝行注文の場合、平均単価は全平均よりも3割ほど高くなるという。

元々農村の互助組織として始まった社区団購は、テック企業が参入したことにより、農村の人々の交流を復活させ、農村にいる親と都市にいる子ども世代を結びつける仕組みとなり、静かに農村に広がり始めている。