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社区団購「同程生活」が破綻。アリババの参入で、さらに業界再編が激化する社区団購

社区団購の旧三団と呼ばれる大手「同程生活」が破綻をした。原因は、テック企業が参入し、利益虫のシェア争奪戦に飲み込まれたことだ。しかし、テック企業系社区団購は、サプライチェーンや運営管理などの面でも優っていて、これも破綻の理由になっていると鉛筆道が報じた。

 

コロナ禍で急速に拡大した社区団購

コロナ禍以降、急速に拡大をする社区団購(シャーチートワンゴウ)。近隣の個人商店店主などが団長となり、「前日注文、翌日配送、店舗受取」が基本の生鮮小売販売だ。利点は価格の安さ。前日の段階で販売数が確定するため、流通はただ配送だけをすればいい。店頭小売の場合は、需要を予測して、不足と余剰が出ないように仲卸が調整をしていく必要があるが、それがまったく不要になり、流通コストが大幅に下がる。また、団長も近所の顔なじみであるため、配達をしてくれるなどの融通がきくサービスを行ってくれる。

本来は、農村や地方都市で、個人商店の品揃えの少なさを補う目的で始まったビジネスだが、コロナ禍で注目をされた。外出を避けたいマンションやご近所さんの有志が団長となり、マンションまで配送してもらい、それを各自取りにきてもらうということが行われるようになった。

 

旧三団と新三段の熾烈な競争

これに目をつけたのがテック企業で、続々と社区団購に参入をした。以前からサービスを展開している興盛優選、十薈団、同程生活の3社は「旧三団」あるいは「老三団」と呼ばれ、コロナ禍以降参入した「多多買菜」(拼多多)、「美団優選」(美団)、「橙心優選」(滴滴)は「新三団」と呼ばれる。さらに、2021年7月には、アリババの「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が「盒馬隣里」(フーマNB)で社区団購に参入をし、激しい競争をしている。

それと入れ替わるように、旧三団の同程生活(トンチャン)が破綻をし、破産を申請した。

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▲同程生活は急速に店舗数を伸ばしていた。多くが、個人商店のフランチャイズだ。

 

資金力の面で競争にならなかった旧三団と新三団

同程生活は、2018年8月に「同程旅游」の企業内ベンチャーとして始まった。創業者は、同程旅游の副総裁の何鵬宇だ。襄禾資本、ベルテルスマンアジア、元禾資本などのベンチャーキャピタルから10億ドルの投資を受けていた。

2020年末には、翌2021年のGMVは300億元から500億元と予測し、黒字化を達成したいと発表していた。

しかし、この予測は楽観的すぎるとも見られた。なぜなら2020年にはテック企業の参入が相次ぎ、特に2020年9月からは競争の様相が大きく違ってきたからだ。それまではイノベーションと運営の競争だったが、テック企業参入以降は、資本と消費者還元の競争になってしまった。

創業者の何鵬宇は、内部で、「テック企業の参入がなければ、うちの業績はライバル2社よりもよかった。テック企業の参入さえなければ、2021年末には上場がじゅうぶんに可能だった」と述べたとも言われる。

また、2020年のメディアのインタビューには、「テック企業の社区団購は、粗利5%でやっている。粗利0というところもあれば、粗利がマイナスというところもある。同程生活は粗利20%を維持しなければやっていけない。価格面ではもはや競争ができない」と正直に述べたこともある。

 

テック企業系社区団購の強みは資金力だけではない

しかし、テック企業の強みは大量の資金だけはない。多多買菜は、拼多多の知名度を活かして、一気に利用者を獲得し、サプライチェーンも独自で確立をしている。美団優選はレベルの高い管理能力を活かし、利用者の利便性を高めている。いずれも、薄利であっても運営が継続できる仕組みを作り上げようとしている。

ある業界関係者は、同程生活の破綻は意外ではないという。やってくるべき日が早めに訪れたにすぎないという。テック企業の参入により、旧三団やそれを追いかける中小プラットフォームは、淘汰されるか、吸収されるかのいずれかだと、業界人は見ているという。なぜなら、資本力があるだけでなく、サービスのレベル、商品の品質の点でも強みがあるからだ。

2020年末には、市場監督管理局と商務部は、主要社区団購を集めて行政指導会を開催し、「九不得」の指針を示した。9つの禁止事項で、ダンピング行為などを禁止し、公平な競争が行われるようにする規制だった。しかし、ほとんど効果はなかった。販売価格を下げることはできないが、その代わりに補助金や還元を行い、テック企業系社区団購は、実質的な低価格での販売を続けた。

その結果、2021年2月には、中小の社区団購から淘汰整理が始まっていた。考拉買菜、誼品到家などが破綻、食享会江蘇は十薈会に吸収、易小鮮は、飲食店向けのtoBサービスに転換など動きがあわただしくなっていた。

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蘇州市にある同程グループの本社ビルには、同程生活関連の債権者が押しかけた。テック企業参入前には、上場まで視野に入っていた同程生活は、あっけなく破綻をした。

 

5+5体制のさらに先に進む整理淘汰

2021年の初め、社区団購は、5+5体制になって落ち着くと言われた。テック企業系の京東、アリババ、美団、滴滴、拼多多5社と、独立系の興盛優選、十薈会、食享会、同程生活、美家優選の5社だ。しかし、そこで落ち着くことはなく、美家優選は京東に買収され、同程生活は破綻をし、独立系は3社しか残っていない。

同程生活はただ手をこまねいていたわけではない。中国版TikTok「抖音」の公式アカウントを作り、ショートムービーで新規利用者を集め、江蘇省広東省などの10都市で、再生数の上位にランクインした。また、団長の中で優秀な人物をピックアップして、ショートムービーを配信するインフルエンサーを養成し始めていた。「密橙生活」というサブブランドを作り、団長によるライブ配信で生鮮食料品を配信するライブコマースを始める計画も進めていた。

一方で、京東やアリババ、バイトダンスに対して、買収の意向を確かめる交渉も進めていた。

しかし、そのすべてが無駄になってしまった。社区団購の淘汰整理はまだ終わらないと見られている。企業価値65億元のユニコーン企業である同程生活の破綻、そしてアリババの本格参入は、この業界にとって激震だ。同程生活が抜けたことによる成長空間をめぐって、生き残った各社はさらに激しい競争を始めている。社区団購はまだまだ大きな波を乗り越えなければならない。