2018年頃から急速に利用者が拡大した社区団購(シャーチートワンゴウ)。テック企業が参入をして、激しい競争を繰り広げていたが、そのトップグループにいた美団優選が大幅縮小を始めている。いよいよ社区団購の競争が決着しそうだと漢聡電商が報じた。
生活協同組合から始まった社区団購
社区団購(シャーチートワンゴウ)は、本来は、小売店の少ない地方や農村などで、生鮮食料品を購入するための住民自治的な仕組みだった。日本の生活協同組合の仕組みをよく研究し、住民有志が集まって共同購入をし配送をしてもらうというのがそもそもだった。住民は社区(町内会に相当)ごとにグループを結成し、団長が注文を取りまとめて発注。商品は団長のところに配送されてくるので、住民は団長の家に取りにいくという仕組みだ。この頃、社区団購を始めた大手3社は「老三団」と呼ばれる。
物流コストが削減できることにテック企業が注目
しかし、テック企業がこの社区団購に目をつけた。社区団購は前日に注文をし、翌日取りに行くというのが基本。これはつまり、配送をする前に販売数が確定をするということだ。これにより物流経費が大きく削減できる。チェーンスーパーに商品を配送するためには、需要を予測し、供給量との兼ね合いの調整をしなければならないため、途中何ヵ所かの卸業者を通さなければならない。卸業者はただ中抜きをしているわけではなく、配送量を調整する重要な役目を担っている。しかし、当然ながらマージンは必要になるため、販売価格は高くなる。
さらに、店頭でも商品が完売するとは限らない。欠品は小売店にとって販売機会を失い、購入体験を悪化させるため、余裕を持って仕入れる。しかし、余った商品は廃棄をせざるを得ず、この商品ロス分も価格に転嫁をさせる必要がある。
社区団購では、このような卸業者、商品ロスと無縁になるため、生鮮食料品を低価格で提供することができる。
テック企業がこれに目をつけ、アリババ、拼多多(ピンドードー)、京東、美団(メイトワン)、滴滴(ディディ)などが参入して激しい競争を始めた。そこに新型コロナの感染拡大が起こり、外出を控えるマンション住人たちが社区団購に加入をし、社区団購ビジネスは急激に成長を始めた。
トップグループは拼多多と美団
このような激しい競争の中で、このビジネスを産み育ててきた「老三団」は破綻や大幅縮小。「多多買菜」(拼多多)、「美団優選」(美団)の2社が1日2500万件程度でトップグループを形成し、橙心優選(滴滴)、興盛優選、十薈団が1日1000万件程度で第2グループ、「盒馬集市」(アリババ)、「京喜拼拼」(京東)が1日300万件程度で第3グループを形成しするという状況になっていた。
アリババと京東は、このビジネスに深入りをしてなく、自社のECが弱かった地方都市、農村の消費者を本業のECに取り込むことが目的だと見られている。焦点はトップグループの多多買菜と美団優選のどちらがこの市場を制するかになっていった。
その美団優選が大規模な撤退を始め、競争に終止符が打たれたのではないかと見られている。
配送コストの高い西北部でサービス停止
2022年4月下旬、中国西北部の美団優選の利用者が、自分が加入している美団優選のサービスが停止をしているという話をネットに上げ始めた。美団優選は公式サイトでも一部地域のサービス停止を公告した。
地区ごとの案内で、4月20日をもってサービスを停止し、すでに注文済みの商品については全額返金をするという内容だった。
これがごく一部の地域であれば、サービス地域の調整などの可能性もあるが、甘粛省、青海省、寧夏省、新疆ウイグル自治区の4地域のほぼ全域にわたっている。大規模な撤退だと言わざるを得ない。なお、美団優選はサービス品質向上のための調整のための一時的なサービス休止だとしているが、サービスが再開される時期については未定だとしている。
業界関係者によると、この西北4省は面積が広大な地区で、配送コストが非常に高い地域になるため、宅配を組み込んだEC、新小売などのサービスにとっては常に頭の痛い問題になっているという。多くの企業が、「全国にサービスを提供」という名目を保つために、コスト割れを承知でサービスを提供している例もあるという。
しかし、2021年の美団本体の財務状況が100億元以上の赤字という急速な悪化をしたため、不採算部門の整理をしているのではないかと見られている。
中高年に支持されるも逆風が吹く社区団購
今後、社区団購ビジネスはどうなっていくのだろうか。一説によると、社区団購全体ですでに500億元(約9900億円)が割引クーポンなどのプロモーション費用として投入されているともいう。
社区団購は、中高年に支持をされている。引退をして、預貯金や年金で生活をしている人は価格に対する感度が高く、低価格で生鮮食料品が購入できる社区団購は歓迎をされている。また、団長のところまで商品を取りに行くという面倒があるが、多くの場合、わずか数分の距離であり、散歩を兼ねることもできる。また、団長のところでおしゃべりをするのを楽しみにしている人も多い。
しかし、低価格だけでは消費者をつなぎ止めることは難しいために、各社区団購は扱い品目を増やしている状況だ。下着や普段着、日用雑貨などの提供を始めている。このような商品品目を増やすことで、どれだけ消費者をつなぎ止めるかが鍵になる。
ただし、社区団購には逆風が吹いている。生鮮食料品の物流関係者からは、政府に対して規制をかけてほしいという陳情が相次いでいる。なぜなら、卸業者を通さない物流であるため、卸業者の経営が圧迫をされているからだ。万が一、卸業者が次々と廃業をするようなことがあると、一般のスーパーや小売店、飲食店への物流に支障が生じる可能性もある。政府もそれに応え、過度な低価格販売、ダンピングなどについては厳しく取り締まるようになっている。
安心できる食材に舵きりができるかが鍵
社区団購は、テック企業の参入とコロナ禍による急成長があったために、大きなビジネス市場として見られ、投資も殺到し、過剰な競争が繰り広げられてきたが、元々の発想は生活協同組合で、このような仕組みは日本でも欧州でも多くの国に存在し、受け入れられている。受け入れられている理由は低価格ではなく、「安心できる生鮮食料品が手に入る」だ。消費者は組合員となり出資もし、自分たちで運営をする。食料品だけでなく、日用品や衣類、さらには医療、介護、住宅、冠婚葬祭までも手がけるところが多い。
中国にはこのような市民による共同購入組織が今まで存在をしなかった。社区団購が「儲かるビジネス」ではなく、生協のような社会インフラ的な側面をどれだけ強化していくことができるか、それが社区団購の今後を決めることになる。