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利用者層を一般化して拡大を目指すビリビリと小紅書。個性を捨ててでも収益化を図る理由

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今回は、利用者層の一般化が進むサービスについてご紹介します。

 

中国で、エッジの効いたサービスと言えば、「ビリビリ」と「小紅書」(シャオホンシュー、RED)の2つであることに異論を唱える方はいらしゃらないと思います。

ビリビリはオタクの聖地。ACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)が好きな若者が集まってくる動画共有サービスです。もうひとつの小紅書は女の園。利用者のほとんどが女性で、フェミニンな優しい空気感と、女子校の悪ノリ感覚が同居をしている不思議なサービスです。構造はインタスタグラムそっくりで、フォローをしている芸能人やインフルエンサーの写真や動画を楽しむというものです。

このような特定の層に特化したサービスは、その層にとっては楽しいものです。多少羽目を外しても、周りは自分と同じ特性の人ばかりですから、多めに見られます。特定の層が集まるため、自然に他にはない文化が生まれます。自由さと開放さを感じられる楽しい場になります。

しかし、運営をする側にとっては難しいサービスになります。マネタイズが難しいのです。

 

これは雑誌の専門誌と総合誌の違いのようなものです。特定のジャンルに特化した専門誌は、記事の内容も濃くなり、読者も同じ趣味の人が集まってくるので、雑誌としては面白くなります。しかし、掲載できる広告企業が限られるため、そのジャンルが盛り上がっている間はいいのですが、ブームが去ると一気に維持が難しくなります。

安定した収益を得るには、サービスを一般化し、より多くの人が楽しめるサービスに変えていく必要があります。しかし、これは双刃の剣です。コアなファンたちからは「日和った」「薄くなった」「ニワカが増えてつまらなくなった」と文句を言われることになります。

現在、ビリビリ、小紅書ともにコアなファンからは不満を持たれがちになっています。ビリビリはもはやオタクの聖地ではない、小紅書はもはや女性天国では無くなったと文句を言われながらも、利用者の幅を広げ、収益化を図ろうとしています。一方で、元々の個性は薄まってしまっています。

今回は、特定の層に特化したサービスがどのように収益化を図ろうとしているのか、そして、なぜ個性を薄めてまで一般化をしていかなければならないのかをご紹介します。

 

インターネットはもはや成熟をして、「全員に向けたサービス」というのはすでにGAFAなどに独占をされてしまっています。今後、新しいサービスが可能になるのは、特定の層に特化をしたサービスです。例えば、Z世代に特化したサービスは無数に登場してくるでしょう。しかし、対象をZ世代のままにしておいたら、収益化はほとんど望めません。若い世代の人口は多くないですし、可処分所得が小さいので購買力もないからです。どこかで、Z世代以外の利用者にも幅を広げていく必要がありますが、今度はコアなZ世代からは鮮度が落ちたサービスと見られるようになってしまいます。

 

このスタート時のコンセプトの呪縛の殻を、最もうまく打ち破ったのは中国版TikTok「抖音」(ドウイン)です。

抖音は、2016年から開発が始まりましたが、そのコンセプトは「縦動画、15秒」というものでした。現在は、このようなショートムービーはごくありふれたものになっていますが、当時としてはかなり斬新な発想でした。そのため、開発元のバイトダンスでは、15秒、1分、5分の動画を用意してユーザーテストを行なったり、動画共有サービスでどのくらいの長さの動画が好まれているかを調査して、1分を超えると、急速に見られなくなるという確証を得て、ようやくプロジェクトが進み出したと言います。

このような斬新なサービスであったために、当初の想定ユーザー層は「若者」です。それも先進的なサービスに興味を持つ好奇心の強い若者をねらいました。

そして、人気が爆発したきっかけになったのがβ版テストで、あるテスターが投稿したスクラブダンスでした。左腕を水平に構え、右のこぶしを上下に突き出すというダンスというより振り付けのようなものです。誰でも簡単に真似ができて、斬新で、自分もやってみたくなる。スマホの前でやって撮影をしたら、投稿をしたくなる。この連鎖反応で、抖音が正式公開した時には、スクラブダンス一色で、一気に人気を獲得したのです。このようなサービスに反応をするのは当然ながら、新しもの好きの若者です。

 

利用者層を若者以外にも広げる原動力となったのがAIでした。顔検出技術を使い、顔に猫耳やサングラスといったスタンプ特殊効果を提供する中で、「狗頭」という特殊効果の人気が爆発します。

 

https://v.douyin.com/N3V25HR/

▲「狗頭」特殊効果。自分の顔が犬の顔に変わる。面白いのは、手を自分の前にかざすと、顔検出ができなくなり、犬の顔が消える。これを遊ぶ人が続出した。

 

これは自分の顔が犬の顔に変化をするというものです。犬のかぶりものをしたような感じになり、まばたきや口の形などは、自分の顔の表情がそのまま反映されます。

しかし、この狗頭が受けたのには、面白い理由がありました。それは自分の顔を手などで隠すと、犬の顔が消え、自分の顔が見えるようになるということです。顔を隠してしまうと、顔検出ができなくなり、犬の顔が消えてしまうのです。これを利用して、わざと手で顔を隠し、自分の顔を犬の顔を切り替えるショートムービーを投稿する人たちが現れます。これが受けたのです。

つまり、動画撮影で遊べるということに気がついたのです。

 

この人気を受けて、バイトダンスは特殊効果を専門に開発するチームを設置し、本格的にAI研究に乗り出します。この辺りのストーリーについては、「vol.102:TikTokに使われるAIテクノロジー。最先端テックを惜しげもなく注ぎ込むバイトダンスの戦略」で詳しくご紹介しています。

AI演算をスマホで実行するにはさまざまな工夫が必要になりましたが、その結果、抖音では素晴らしい特殊効果が次々と生まれています。

その中でも大きな話題になったのが、「動態老照片」という特殊効果です。

 

https://v.douyin.com/RvrypK4/

▲「動態老照片」特殊効果。古い写真人物がカラー化をされ、動きのある表情を見せる。祖父母の写真で試して、感涙する人が続出した。

 

これは古い写真を取り込んで、カラー化をし、写っている人の顔を認識し、微笑みなどの表情をするように動かすというものです。多くの人が、祖父母の古い写真やあるいは自分が若い頃の写真で試してみて、感激のあまり涙を流したと言います。古い写真の中の人物は、どこか遠い存在に思ってしまいがちですが、カラーになり表情が出ることで、急に身近な人物のように思えてきます。祖父母の写真で試した人は、祖父母にも自分と同じ若い時代があったということが実感でき、自分の若い頃の写真で試した人は当時の記憶がありありと蘇ってきて感動をするのです。

バイトダンスは、このようなテクノロジーをエモーショナルなことに利用をするクリエイティブ力にも優れていて、テクノロジー×クリエイティブの領域が強みになっています。

このような特殊効果を次々と公開していくことで、抖音の利用者層は若者から中高年にも広がってき、広告やECでもじゅうぶんビジネスになる環境が生まれました。

▲抖音の2020年時点での男女比。ほぼ半数になっている。

▲抖音の利用者の年齢構成。10代から30代前半が中心であるものの、中高年にも厚みが生まれている。

 

では、オタクに特化したビリビリ、女性に特化した小紅包はどのように利用者の拡大を図り、収益化を図ろうとしているのでしょうか。今回は、特定の層に特化したサービスの収益化問題についてご紹介します。

 

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