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中国AIにとっての2015年。4つの小龍がAIの商業利用を考えたビンテージイヤー

中国AIにとって2015年は特別な年だ。現在、「AI・4つの小龍」と呼ばれる4社が、AIの商業利用を考え始めた年だからだ。翌2016年に世界的なAIブームが起こり、4社はその追い風に乗ってきたと上海国際人才網が報じた。

 

中国AIにとって重要な2015年

中国のテクノロジーにとって、2015年はビンテージイヤー=当たり年として、50年後の歴史書に記載されることになるだろう。

中国のAIテクノロジーの開発企業で、誰もが挙げる重要な4社が「メグビー」「センスタイム」「クラウドウォーク」「依図科技」だ。この4社は「AIの4小龍」と呼ばれている。

創業年は、それぞれに異なるものの、2015年に各社とも、その後の方向性について重要な決定をし、本格的な始動を始めている。そこに2016年にグーグルのAlphaGoが囲碁の最強棋士と言われた韓国のイ・セドルに勝ち、世界的なAIブームが起き、AIビジネスが本格的に動き始めたからだ。

 

顔検出技術を活かしたカジュアルゲームCrow Coming

曠視科技(クワンシー、MEGVII)を創業した印奇(イン・チー)は、1988年安徽省蕪湖市で生まれた。学業成績は頭抜けていて、高校生の頃からゴールドバッハ予想の研究に取り組むような若者だった。高考でも高得点をとり、清華大学の中でもエリート中のエリートが進む「姚クラス」に入学し、ここでAIの研究を始めた。

早くからマイクロソフトアジア研究所でインターン実習を行い、AIに対する経験を深めていった。印奇は、この頃、同級生の唐文斌、楊沐とともに「Crow Coming」というiOSゲームを開発している。カラスが降りてきて畑を荒らそうとするので、カカシを操作して防ぐというカジュアルゲームだが、このカカシの操作の仕方がユニークで話題になった。タップなどではなく、頭を降ってカカシを動かすのだ。手はまったく使わない。

ちょっとした面白ゲームだが、テクノロジー的には高度な技術が使われている。顔検出や顔追跡をしなければならないからだ。

このゲームは数日で中国のApp Storeのゲームランキングの5位に入った。さらに、その頃、フェイスブックが、イスラエルで起業したばかりの顔認証技術のスタートアップ企業を1億ドルで買収したというニュースを聞いた。印奇は、顔認証や画像解析というAIテクノロジーは市場性があり、将来ロボットや自動運転にも必要となると確信をした。

2011年、印奇は曠視科技(クワンシー、MEGVII)を創業した。ロボットの眼をつくる会社だ。コンピュータービジョンによる顔認証は、将来、財布、身分証、クレジットカード、さらにはスマートフォンまでを携帯せずにすむようになるテクノロジーとなる。「顔」ですべての認証や決済ができるようになる。その世界を目指して、顔認証技術を中心とした技術開発を行なっている。

▲Crow Comingのデモ映像。顔認識をし、頭を左右に振ることでカカシを操作して、畑の作物をついばもうとするカラスを追い払うというゲーム。操作方法の面白さで人気になった。

https://v.youku.com/v_show/id_XMjk1NzU0OTAw.html

▲メグビーを創業した印奇。2015年に収益化の鍵としてスマートシティーという概念を提案し、AI技術を生活の中に応用していくことを考える。これにより、アリババの顔認証決済などが生まれている。

 

AIのメッカとなった香港中文大学メディアラボ

2014年、徐立(シュー・リー)は、妻の反対を押し切って、恩師の湯暁鴎教授に電話をした。「私にはもう子どもが2人います。起業をしてもだいじょうぶでしょうか?」と尋ねたのだ。湯教授はだいじょうぶだと答えた。これで決心がついて、徐立は商湯科技(センスタイム)を創業した。

2011年に、印奇がメグビーを創業した時、徐立は香港中文大学の博士課程に在籍をしていた。湯暁鴎教授が率いてたメディアラボの中心メンバーだった。ここで、ディープラーニングの研究が始まり、中華圏では最初のディープラーニング研究の中心地となった。特にその後の2年間の活躍は目覚ましく、CRPR、CCVというコンピュータービジョンの世界有数の学会で、29編のディープラーニング関連の論文が採用されたが、そのうちの14編は香港中文大学のメディアラボのものだった。

湯暁鴎教授と徐立の2人は、理論研究よりも商業応用の方が重要になってきているという共通認識を持ち始めた。それがセンスタイムの創業につながっている。

▲センスタイムを創業した徐立。2015年にセンスタイムをディープラーニング研究の聖地にしようとし、自前のディープラーニング計算機センターを構築するという決定をした。

 

AI人材の聖地をつくろうとしたセンスタイム

2016年に、グーグルのAlphaGoが、囲碁の最強棋士と言われた韓国のイ・セドルに勝つとにわかにAIブームが起こり、メグビー、センスタイム、雲従科技(クラウウォーク)、依図科技の4社は「AI4つの小龍」と呼ばれるようになる。

AIブームによって投資資金の獲得もしやすくなったが、4つの小龍は常に収益化という問題と戦うことになった。

センスタイムにとってこのAIブームは、特別大きな追い風となった。なぜなら、ビンテージイヤーの2015年に、センスタイムは重要な2つの決定をし、これが中国のAIテクノロジーの発展の方向を決定づけていたからだ。

1つは、ディープラーニング関連の博士級人材を独占するという決定をしたことだ。センスタイムはすべての博士級人材を雇用し、センスタイムを中国のディープラーニングの聖地にしようと考えた。

もうひとつは、インテルから6000枚以上のGPUを購入し、自前でディーラーニング計算センターを設立しようとした。

 

2015年、4つの小龍が動き始めた

一方、同じ2015年、創業して4年目のメグビーの印奇は、収益化の鍵として「スマートシティー」という概念を提案して動き始めた。そして、アリババに顔認証技術などの提供を始める。

さらに、広州で雲従科技(クラウウォーク)が創業し、依図科技の技術が招商銀行に採用され、顔認証で現金が引き出せるATMなどの運用が始まった。この頃から、アリババのアリペイの顔認証決済など、AIを活用したサービスが街の中で見られるようになっていく。

すべては、4つの小龍が、偶然にも2015年という年に商業化の方向性を定める決定をしたことから始まっている。何十年か後の教科書には、2015年は特筆すべきビンテージイヤーとして記載されることになる。

▲2015年、ドイツのハノーファーで開催されたデジタル展示会CeBITで、アリババの創業者、ジャック・マーは顔認証決済で切手を購入するというデモを行った。この技術を提供していたのがメグビーだった。