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バイトダンスが警戒をする小紅書。女性中心だった小紅書が男性を取り込む成長を可能にした理由

女性が中心だった小紅書で、男性利用者が増え始め、バイトダンスなどが警戒をするようになっている。小紅書のコミュニティーはモザイク状に構成されるため、多様な人たちが共存できる仕組みになっているとAI財経社が報じた。

 

8割以上が女性ユーザーだった小紅書

中国のインスタグラムとも呼ばれるSNS「小紅書」(シャオホンシュー、RED)。その利用者の8割以上は女性だった。化粧品や服飾品、旅行などの話題が中心になっている。

小紅書の特徴は、種草に対応をしていること。種草とは「作物を植える」の意味で、写真や動画の記事に商品タグを埋め込むことができ、タップをするとその場で購入ができる仕組み。紹介をした発信者と小紅書に手数料が入る。これにより、小紅書は女性特化のSNSとして成長をしてきた。

▲小紅書は種草で多くの人を惹きつけた。投稿する記事に商品タグを埋め込むことができ、タップをするとその場で購入することができる。記事全体がアフィリエイト広告になっている。

 

抖音、快手からも警戒される小紅書

小紅書は女性の園とも言えるSNSだったが、コロナ禍以降、男性の利用も進んだ。男性割合が17%から33%になり、男性の現在月間アクティブユーザー数(MAU)は2億人、日間アクティブユーザー数は5500万人を超えている。

これにより、ショートムービー「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)が小紅書を警戒し始めている。これまでは、女性特化ということで、自分たちとは別物のSNSという認識だったが、男性も増えてくるとなると、ユーザー層が大きく重なることになるからだ。

2021年初めのバイトダンスの戦略会議では、張楠CEOが「なぜ小紅書は急成長をしているのか?」という疑問を呈し、小紅書対策チームを設置した。2022年の春には、快手のチームが小紅書を数度にわたって訪問し、データの分析処理などを見学している。その背後には程一笑CEOが、小紅書をライバルとして重視し始めたことがあると言われている。

ショートムービー両社が小紅書をライバル視するのは当然だ。両社とも小紅書が始めた種草の仕組みを取り入れ、ムービーに商品タグを埋め込むことで大量の商品が販売できるようになり、大きな収入源のひとつになっているからだ。

今まで、女性が中心だった小紅書に男性も入ってくるようになった。さらに小紅書の種草で扱う商品が増えることが予想をされる。警戒をするのも当然のことだ。

 

テックジャイアントも小紅書に学ぶ

小紅書に注目をしているのは、ショートムービーだけではない。小紅書はアリババとテンセントの両方が投資をする珍しい企業で、この2つのテックジャイアントも小紅書の種草に学んでいる。

アリババは、EC「淘宝網」(タオバオ)内に、小紅書そっくりの「逛逛」(グワングワン)をスタートさせ、2021年11月にはMAU2.5億人、DAU5000万人と小紅書と同じ規模に成長をしている。また、テンセントはやはり小紅書そっくりの「企鵝恵買」のテスト運用を始めている。

 

バイトダンスの停滞の理由は小紅書への流出?

その中でも、特に警戒を強めているのが、抖音を運営するバイトダンスだ。2021年、小紅書のDAUは2000万人から4000万人に急増をした。

抖音の強みは、テレビの代わりになっていることだ。仕事が終わって夕飯を食べ、寝るまでの間、特に目的がなくても、とりあえず抖音を開いてしまう。次々と現れるショートムービーを漠然と見て、面白いものを発見する。そこで、商品タグが埋め込まれた種草ムービーと出会い、ついつい商品を買ってしまう。

小紅書も同じように、暇な隙間時間ができると目的なく開いてしまう。そこで、気になる商品と出会い、ついつい購入してしまう。いわゆる「暇つぶし」を消費に転換する仕組みであることが共通をしている。

その点でも、抖音は小紅書に追いつかれようとしている。抖音の1日の平均利用時間は95分前後だが、小紅書は2018年には26.48分だったものが、2021年には55.31分にまで迫っている。

抖音のDAUは6億人を超え、7億人を目指すところで足踏みを始めている。この伸び悩みは、抖音の利用者が小紅書に流出をしているからではないかと分析されている。これまで創業以来、成長が止まったことがないバイトダンスにとって、「頭打ち」は何よりも警戒すべき事態だ。

▲寺院などに露出度の高い服装で自撮り写真を撮るということが流行した。伝統を大切にする人たちからは、不謹慎だ、伝統文化に対する敬意が感じられないという非難の声があがった。

 

炎上すら新規ユーザーの獲得につながった小紅書

小紅書の柯南COOは、最近の小紅書の成長は別に不思議なことではないという。中国の人口は広大で、都市部から地方都市へと利用者が自然に広がっているだけだという。

2021年、小紅書は数度の問題を起こした。ありふれた風景であっても、切り取り方によってはおしゃれな画像になる。そのような場所で撮影し、服飾品などの種草を入れる。これが拡散をすると、多くの利用者がその場所を特定し、自分も写真を撮りに行く。現地では突然大量の人が押し寄せ、混乱が起き、後にはゴミの山が残される。

また、古い寺院に露出度の高い服で撮影をするということも流行した。これも不謹慎ではないかという批判の声があがった。

いずれも、記事を目立たせることにより、種草の手数料収入をねらったものだ。小紅書の種草は行きすぎではないか、一定のルールを設ける必要があるのではないかという声があがっている。

しかし、批判の声はあるものの、法に触れる行為ではなく、世の中に大きな悪影響を与える行為でもない。この批判が注目され、かえって地方都市の利用者たちが流入をするきっかけになった。

▲小紅書にはおしゃれなショップや風景の写真が大量に投稿されるが、切り取り方がうまいだけで、実はありふれた風景ということも少なくない。それでも、人気になると、大量の人が同じ写真を撮りに集まってきて、ゴミを散らかしたりするため、問題になっている。

 

不可能三角形を可能にした小紅書

柯南COOはある対談の中で、「小紅書は上海の安福路なのです」と語っている。安福路は元フランス租界だった場所で、カフェやおしゃれな雑貨店が並んでいる上海でも最も感度が高く、静かな地域だ。地方都市の住人たちは、小紅書が質の高い生活への入り口となっていて、憧れを持って小紅書を利用している。

ここに男性が入り始め、男性も質の高い生活に関連するスポーツ、大人玩具、旅行、デジタル製品といった記事を配信させ始めている。

SNSにとって重要なのは「流量」「粘性」「コミュニティーの雰囲気」だが、この3つは「不可能三角形」とも呼ばれ、同時に成立させることが難しいとされていた。流量が多くなると雰囲気は保たれなくなる。2つまでは同時に成立させることができるが、3つは難しい。それを小紅書は可能にした。

その理由は、コミュニティーがモザイク状になっているからだ。女性のコミュニティーと男性のコミュニティーは違っていて、互いに干渉することが少ない。女性の海外ブランド好きコミュニティーと国潮好きのコミュニティーは違っていて互いに干渉することが少ない。小さなコミュニティーがモザイク状に存在することで、小紅書全体の利用者が増加をし、不可能三角形を成立させている。

▲上海の安福路。街路樹がしげり、おしゃれな通りとして知られる。センスのいいセレクトショップ、カフェなどが集中する地域。

 

古典的なフォロー・フォロワー関係がうまく作用した小紅書

SNSでは記事をどのように配信するかという問題がある。抖音ではAIを活用している。小さなサンプルユーザーに配信をし、そのリアクションを機械学習し、そのムービーを好みそうなユーザーに配信をしていく。これにより、拡散の爆発力が生まれる。コミュニティーはひとつであるかのように見え、全ユーザーが知っている網紅が生まれやすい。これにより、「まったく無名の女の子が一夜で人気者に」という現象が起こり、若者たちを惹きつけてきた。

一方、小紅書は古典的なフォロー・フォロワー関係で記事を配信する。拡散力は弱まるが、小さなコミュニティーが形成されやすい。

タオバオ、京東などの伝統的な検索型ECが成長の限界を迎え、ECの中心は種草経済に移っていくと見られている。種草経済では、小紅書、抖音、快手の3社で激しい競争が展開されることになると見られている。

抖音のようにAIが投稿の内容を評価して、優れたものを拡散させるというアルゴリズム拡散が優れているのか、それともインフルエンサーをフォローする人手による拡散が優れているのか。小紅書、抖音、快手の種草経済上の競争が答えを明らかにしてくれそうだ。