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ECビジネスのパラダイムシフト。鍵は種草経済。検索から種草へ。流量から留量へ

EC各社が種草経済に注目をしている。写真、動画に埋め込まれた商品タグをタップすることで、直接商品を購入できる仕組みだ。従来のECは流量(トラフィック、アクセス数)が重要だったが、種草経済のECでは留量(滞在時間)が重要になってくると網経社が報じた。

 

ニーズ先行、ウォンツ先行。2つの消費行動

アリババの淘宝網タオバオ)やそのライバルの京東(ジンドン、JD.com)を中心としたECビジネスがパラダイムシフトを起こし始めている。

タオバオや京東は、伝統的EC、検索ECとも呼ばれる。このようなECでは、先に商品に対するニーズがあって、その商品を検索して探し、購入をする。現実世界ではスーパーやコンビニに近い。お風呂の洗剤が切れていることに気づき、スーパーに行き、商品棚を検索して商品を見つけ購入する。日用品などに適した購入方法だ。

一方、これとはまったく手順が異なる購入行動もある。例えば、女性がワンピースを購入する時に、「ワンピースが必要」というニーズが先にあり、「ワンピース」と検索して検索結果の中から選んで購入をするという検索ECのような購入行動をとることはほとんど考えられない。

まず最初にあるのは、街頭や雑誌、SNSで自分の好みに合うワンピースを見かけることだ。同じようなワンピースが欲しいと思うウォンツ(欲求)が生まれ、そこで同類の商品を見つけ購入するということになる。

 

記事の商品を直接購入できる種草経済

このような検索ECとは異なる購入スタイルに対応をすることで成功をしたのがSNS「小紅書」(シャオホンシュー、RED)だ。

小紅書はインスタグラムとよく似ており、写真や動画中心の記事を投稿する。利用者は気に入った人のフォローをする。その中で気に入った商品が使われているを見かけた場合、他のECに行って自分でその商品を探す必要はない。その記事そのものに商品タグが埋め込まれていて、タップをすれば購入画面が表示され、そのまま購入することができる。

このような記事に商品タグを埋め込むことは「種草」と呼ばれる。「種」は植えるという意味の動詞で、草は作物一般のことを指し、「作付け」「種まき」といった意味になる。販売業者から見ると、多くの投稿者に自社の商品の商品タグを埋め込んでもらい、種を蒔き、その記事を見て購入してもらうことが収穫にあたる。

商品タグを埋め込んだ記事を見て、誰かが商品を購入した場合、投稿主には一定割合の手数料が入ることになる。これが種草の仕組みで、ここから生まれる経済循環は種草経済と呼ばれる。

▲小紅書の種草。左下の商品タグをタップすると購入ページが表示される。

▲小紅書の種草。服飾では、複数の商品タグを埋め込むことも可能。



各プラットフォームも種草経済に対応

種草の仕組みは元々、小紅書の専売特許のようなところがあったが、「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)などのショートムービープラットフォームが導入し、大きな成果をあげている。さらに、2020年頃から、主要プラットフォームが種草の仕組みを取り入れたサービスを次々とリリースしている。

テンセントは「企鵝恵買」のテスト運用に入っている。当然ながら、商品情報や記事情報などをSNS微信」(ウェイシン、WeChat)を通じて拡散できるようになっている。運営主体は深圳恵買生活信息科技だが、企鵝(ペンギン)はテンセントのキャラクターであり、両社の提携により運営されているサービスであることがわかるようになっている。2021年9月には「地域BOSS」の名前で地区ごとに独立していたサービスだったが、今年5月に統合され、名称を「企鵝恵買」に変えた上でテスト運用が始まっている。

アリババはタオバオ内で提供していた「逛逛」(グワングワン)を「発見」という名前に変えて、タオバオアプリのアクセスしやすい場所に移動させた。また、「屋顔」というアプリをリリースしている。これは家具、キッチン用品などに特化したECアプリだ。また、「平」(タンピン)もリリースしている。アプリとしては屋顔とほぼ同じだが、内容がインテリア、家電などに特化をしている。

京東は種草経済に2018年から対応している。「種草TV」を提供し、さまざまな商品の紹介動画を15秒で見ることができ、欲しければ商品タグをタップしてそのまま購入できるというものだ。

さらに、網易、新浪なども種草経済に対応したECアプリをリリースしている。

▲ショートムービー「抖音」の種草。左下の商品タグをタップすると、購入パネルが表示され、商品を購入できる。

▲各テック企業も種草経済に対応したSNS、ECを続々とリリースしている。

 

既存ECの成長の限界と種草経済の成長空間

各プラットフォームが種草経済に対応したサービスをいっせいに提供し始めているのは、従来の検索型ECがもはや限界に達しているからだ。生活必需品、さらには生鮮食料品までECで購入されるようになり、ECプラットフォームにはこれ以上成長する空間が残されていない。

しかし、小紅書のようなSNSでは、投稿記事を見ている間に、新たなウォンツを生成してくれる。利用者は「ECで買い物をする」つもりではなく、自分の好きなジャンルの投稿記事を見て楽しんでいる間に、欲しい商品と出会い購入してしまう。女性の服飾品、男性の大人向け玩具などがその典型だ。

 

流量(アクセス数)ではなく、留量(滞在時間)が重要になる

SNSに種草を活用したECでは、一人あたりの滞在時間が長くなるのが特徴だ。検索型ECの滞在時間はきわめて短い。先に買うものがほぼ決まっているので、必要な商品を見つけて購入したら用はないので離脱をしていく。スーパーで買い物が終わったら、帰っていくのと同じだ。

しかし、SNSでは購入することではなく、記事を読むことが目的なので、滞在時間が長くなる。滞在時間が長くなれば、種草を入れた記事と出会う回数も多くなり、購入に結びつく機会も多くなる。この滞在時間を伸ばし、複数回の購入機会を生み出し、ECとして成長をしようというのがねらいだ。

これが流量から留量への意識の変化を起こしている。月間アクティブユーザー数(MAU)で上位にくるのは国民的SNS「WeChat」、ECである「タオバオ」「京東」「拼多多」、スマホ決済「アリペイ」などだ。大量の流量(トラフィック)を集めることで収益化を図っている。

しかし、1日の平均使用時間のランキング、つまり留量のランキングを見ると、顔ぶれが異なってくる。上位にはショートムービーや動画共有サービスが並び、その次にSNSが並ぶ。

この留量が元々大きいショートムービーは、種草を利用することでEC機能をつけ、大きな流通総額を獲得して成功している。小紅書も大きな留量を獲得し、種草EC機能で収益化に成功した。既存ECは、検索型ECが頭打ちになる中で、種草EC機能に活路を見出そうとしている。これにより、種草経済が注目をされるようになっている。

中国のネットサービスはこれまで利用者の争奪戦を繰り広げてきた。そのため、初めて使う時には大量のクーポンが利用できる状態が生まれている。しかし、これからは競争のポイントがシフトし、利用者の時間を奪い合うようになる。ECは確実に新しい局面に入ろうとしている。

▲各プラットフォームの滞在時間。ショートムービーは滞在時間が長く、種草経済にとっては有利になる。