中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

トラブル事例から見た中国ECの消費者保護。クーリングオフと覇王条款

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 107が発行になります。

 

今回は、ECの消費者トラブルについてご紹介します。

日本では狭義の消費者トラブルは他国と比べて非常に少ないのではないかと感じています。国民生活センターの相談事例を見ても、「途中で解約しようとしたら高額の解約金を請求された」とか「お試し○円と安価をうたう広告につられて注文したら、定期購入だった」など、詐欺とは言わないまでも、悪徳商法に限りなく近い相談がほとんどです。いわゆる「商品が発送されずに支払いだけ行われた」「不良品だと思われるのに、交換、返品を受け付けてもらえない」などの一般的な消費者トラブルはそう多くはないのではないでしょうか。あっても、業者との間の話し合いでほとんどが解決します。

日本の小売業のレベルの高さを表していると思います。小売業のみなさんは、間違いが起こらないように業務をこなしており、万が一トラブルが起きた場合は、返品、返金などを軸にした誠意のある対応をします。私たち日本の消費者は恵まれているのです。

一方で、中国のこのような消費者対応はまだまだレベルが低く、そのことは中国人も自覚をしています。14億人も人口がいて、激しく人が流動する中国では、今日出会った人のうちの半分以上は、もう二度と会うことがない人です。日本人の商いは、お得意様との関係を長く続けていくことが基本で、そこでは信用が何よりの絆となりますが、二度と会うことがない人と商いをする中国では、利益の最大化が最も大きなテーマになります。巧みなセールストークで、高い価格で販売することは商人としてファインプレーであり、相手がその価格で納得している以上、何も悪いことではないと考えます。仮に相手が特定の情報を知らなくて、その高い価格に納得をしたのだとしても、それは相手の落ち度であり、まっとうな商いだと考えます。

しかし、そのような考え方は、悪徳商法や詐欺と地続きであり、どこで線を引くかはとても難しいことです。

そのため、中国では、法律でルールを規定し、消費者保護をするという考え方が進みました。その中心になるのが消費者権益保護法です。

 

この消費者権益保護法は、次の3つに特徴があります。

1)三包:製造者、販売者の返品、新品交換、修理の責任を定めたもの

2)クーリングオフ:7日間は理由なく返品が可能

3)覇王条款:消費者に著しく不利で公正さを欠く規定は無効

 

三包については、「vol.072:中国の消費者保護はどうなっているのか。三包とテスラ問題、iPhone問題の関係」でご紹介しました。

1)購入してから7日に以内に品質やサービスに要求に合っていないと感じた場合は返品ができる。

2)7日以降は、契約が解除可能な場合は返品ができる。

3)7日以降、契約が解除できない場合は、新品交換または修理を要求できる。

4)また、運送費などは製造者、販売者が負担をする。

というものです。つまり、7日以内は無条件で返品が可能で、それ以降は返品、新品交換、修理を要求できるというものです。

 

2のクーリングオフ制度は、購入してから7日以内であれば、理由を説明することなく返品ができると定めた規定です。また、販売者は返品商品を受け取った日から7日以内に商品代金を返却しなければなりません。

原則としてすべての商品に適用されますが、「消費者の依頼に基づいて制作した商品」「腐敗をする生鮮品」「コピーが可能なデジタルコンテンツ商品」などは除外されます。また、販売時に「返品不可」を明示していればこの規定は適用されません。

 

ところで、この消費者権益保護法25条に規定されている7日間無理由返品の規定は、一般に「中国版クーリングオフ制度」と呼ばれますが、日本のクーリングオフ制度と決定的な違いがあります。真逆と言ってもよく、中国と日本の消費者保護の考え方の違いがよくわかる興味深いポイントになっています。

日本のクーリングオフ制度の対象となるのは、訪問販売、キャッチセールス、アポイントメントセールス、電話勧誘などです。キャッチセールスは街を歩いていて話しかけられ、何かを売りつけられたり、契約をさせられたりするものです。アポイントメントセールスは、「懸賞にあたりました」などと言われて販売者の事務所などに呼び出され、そこで何かを売りつけられたり、契約をさせられるというものです。

つまり、心の準備がないままに販売者と対面をしてしまい、話の勢いで契約をさせられてしまう。頭を冷やして考える時間が与えられなかった。このような契約は一定期間(原則8日間)、取り消しができる仕組みを用意すべきだという考え方のものです。ですので、ECでの購入にはクーリングオフは適用されません。自分で冷静に考える時間がいくらでもあるからです。

将来、Zoomライブコマースのようなものが出てきて、「景品の説明をしたい」と誘われてZoomをつなぐと、1対1で高額の英会話教材の契約を迫られたというような場合、クーリングオフが効くのかどうか議論になるかもしれません。ライブコマースをインターネット通販の一形態として見ればクーリングオフ対象外ですが、オンラインのアポイントメントセールス、電話勧誘の一形態と見れば対象になります。クーリングオフ制度の趣旨からすればもちろん対象にすべきです。専門家の方はすでに理論構築を始めているのではないでしょうか。

 

一方、中国のクーリングオフ制度=7日間無理由返品制度は、インターネット、テレビ、電話、郵便などの手段で販売をする場合に適用されます。そもそも、中国ではクーリングオフという言葉は一般的でなく、7日間無理由返品と呼ぶのが一般的です。趣旨は、商品を見ないで注文するのだから、現物を確かめた後に取り消しができる機会が必要だというものです。

一方、訪問販売、キャッチセールス、アポイントメントセールスなども中国でもありますが、この場合は7日間無理由返品は適用されません。現物を見ているので取り消す必要はないということです。本人が契約すると言った言葉は重く、冷静に考える時間がないと思えば、「また今度」と断ればいいだけじゃないかと中国人は考えます。消費者の権利と責任に関して、日本と中国で考え方がまったく違っています。

 

中国では、消費者権益保護法という法律が整備されていても、さまざまな消費者トラブルが起きています。むしろ、法律があるために、販売者も消費者も自分の主張をするために対立することがあるのです。

そこで、今回は、具体的な消費トラブルの典型事例をご紹介して、中国のECにどのようなトラブルがあるのかをご紹介します。

 

続きはメルマガでお読みいただけます。

毎週月曜日発行で、月額は税込み550円となりますが、最初の月は無料です。月の途中で購読登録をしても、その月のメルマガすべてが届きます。無料期間だけでもお試しください。

 

今月発行したのは、以下のメルマガです。

vol.105:店舗の未来は「体験」をつくること。これからの主力商品は「店舗体験」

vol.106:電動自転車がいちばん便利な乗り物。コンパクト化が進む中国の都市

 

登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001690218.html