中国政府は、昨2021年9月に、暗号資産関連のビジネスとマイニングを全面禁止にした。中国人が海外の取引所を通じて、暗号資産を取引することも禁じた。その理由のひとつが、暗号資産が犯罪の温床になっているからだと南方都市報が報じた。
暗号資産を禁止する理由は海外送金
中国政府が暗号資産に対して懸念をしているのが、国際送金が容易なことだ。暗号資産の場合、中国内で購入し、それを海外で売却して現地通貨に変えるということが簡単にできてしまう。資産の海外移転が簡単にできてしまうのだ。
調査によると、2020年に国際送金された暗号資産は175億ドル(約2兆円)と見られ、2019年から51%も増えている。これには合法的な送金も含まれているが、補足できない非合法な送金もあり、氷山の一角だと見られている。暗号資産の禁止は、この非合法な送金を防止することも大きな理由のひとつになっている。
マネーロンダリングに使われる暗号資産
暗号資産は、違法な資金の国際送金に使われ、さらに中国政府が最も懸念している資金洗浄や薬物犯罪にも使われている。
2021年4月、最高人民検察院と中国人民銀行は、暗号資産を利用した典型的な犯罪例を公表した。中国国内で詐欺を働き、集めた資金90万元(約1600万円)分のビットコインを海外に送金をしていたというものだ。
2015年8月から2018年10月までの間、この犯人は、会社を設立して、毎月一定額の配当が分配されるとうたった理財商品を発売した。複数の暗号資産に投資をする投資信託という触れ込みで、大量の資金を集めた。
2018年11月に上海市公安局浦東分局は、この投資信託に注目し、捜査を始め、違法な手段により1200万元(約2.2億円)を集めた詐欺事件だという確証を得た。しかし、犯人側も公安の動きを察知して、すぐに海外逃亡をした。
犯人は資金確保の手も打っていた。8月に犯人は、違法に集めた資金の一部300万元(約5400万円)を妻の銀行口座に移し、そこで偽装離婚をした。11月に海外に逃亡すると、現地で新たに銀行口座を開き、そこに妻の口座から300万元を送金し、現地で使っていた。元妻は形式上他人であるため、犯罪に関わっていたことを立証しなければ、妻の口座の動きを捜査することができない。
さらに、犯人は詐欺会社が保有していた90万元相当のビットコインを逃亡先で売却、高級車を購入したり、贅沢な生活をするための資金として使っていた。
マイナーを経由してビットコインの洗浄
さらに、犯人は、中国国内にいるビットコインのマイニングをしているマイナーと妻の3人で、SNS「WeChat」のグループチャットを作り、マイナーに対して、手持ちのビットコインを送金し、手数料を引いた上で、マイナーが自分で発掘したビットコインを送り返すという方法で、ビットコインの資金洗浄をしていた。このビットコインは、過去の取引履歴がない生まれたてのビットコインであるために、捜査は難航することになる。
しかし、2019年4月に、この犯人の妻が資金洗浄の罪で起訴された。上海市浦東新区人民法廷は12月に、懲役2年、罰金20万元の判決をくだした。しかし、海外逃亡をした主犯はいまだに逮捕されていない。
違法薬物の取引に使われる暗号資産
もうひとつの典型例が薬物の取引に暗号資産に使われるというものだ。薬物取引に銀行振込やスマホ決済を使うのは取引記録が残るために犯人にとっては危険な行為となる。現金であれば匿名取引が可能だが、現金を受渡しする必要がある。そこで、遠隔取引が可能であり、匿名化がしやすい暗号資産が取引に使われる。
2021年8月、アモイ市公安局江頭派出所が2名の売人を逮捕した。この2人は、海外から大麻チョコ、大麻キャンディー合計900グラムを違法に輸入し、ダークウェブで販売していたというものだ。
宅配便ステーションが薬物の発送拠点に
2021年5月、江頭派出所の刑事がダークウェブで大麻チョコや大麻キャンディーを販売されていることを察知し、アモイ市では、チョコやキャンディーに大麻成分を使うという形式の薬物犯罪は初めてのことであったため注目をした。
捜査により、販売をしていたのは遼寧省出身の20歳の女性で、6月に湖南省のバーにいたところを逮捕した。その場で、大麻チョコ、大麻キャンディー100gも押収された。取調べの結果、その薬物の購入元も突き止め、安徽省の宅配便ステーションにいるところを逮捕した。この宅配便ステーションが、薬物の発送拠点となっていて、800gの大麻チョコ、大麻キャンディーを押収した。
暗号資産を全面禁止、デジタル人民元を導入
中国ではデジタル人民元の正式導入が目前となっている。デジタル人民元もブロックチェーン技術を使い、対面でもリモートでも決済ができるデジタル通貨となる。また、現金と同じ匿名性も保証されているが、取引記録は銀行から政府が収集をし、身分証データベースと照合することで、政府機関は取引履歴を把握することができ、違法な取引の場合は、すぐに身分が明らかになる仕組みになっている。
合法な決済をするのであれば、デジタル人民元は暗号資産と同じレベルの利便性があり、非合法な決済については政府機関が把握をできる。中国は暗号資産を全面的に禁止をして、デジタル人民元を普及させることを目標にしている。