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「変態級おもてなし」でNo.1に登り詰めた火鍋チェーン「海底捞」

中国式おもてなしで、117店舗を展開するNo.1火鍋チェーンに登り詰めた「海底捞」。その人気の秘密は、変態級接客サービスにある。日本のおもてなしとは異なり、形に見えることが重要で、顧客満足度をKPIとし、スタッフ全員の待遇が上下する。それが現場からおもてなしが生まれる秘密になっていると中購聯が報じた。

 

変態級おもてなしでNo.1火鍋チェーンになった「海底捞」

海底撈(ハイディーラオ、かいていろう)という火鍋店をご存知だろうか。日本でも主要な繁華街での出店が始まっていて、中国では117店舗を展開し、火鍋といえば海底捞と言われるほど有名なチェーンになっている。

火鍋そのものが美味しい、スープやタレの味が細かく選べるなどのこともあるが、人気の秘密は接客だ。中国では「変態級接客サービス」とまで呼ばれている。

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▲海底の基本火鍋セット。4つのスープが味わえる。タレはバイキング方式で自分の好みに合わせて作ることができる。わからない人にはスタッフが作ってくれる。

 

ライバル店が追従できない来店客の期待以上の接客

とにかく徹底的に親切で、「そこまでやるか?」という気づかいをしてくれる。荷物には、匂いがついたり、スープのハネがかからないようにカバーをかけてくれる。スタッフがわざわざエプロンをかけてくれる。食事中には、変面や麺打ちのパフォーマンスを随時やってくれる。キャンディやポップコーン、果物を無料で配ってくれる。特製スープや特製のタレを作って無料で配ってくれる、小皿のサイドメニューや飲み物は無料など、接客という概念を超えて、徹底的に親切。場合によっては、過剰でもあり、来店客が期待した以上の接客をする。

それが面白い、気持ちがいいということから人気店になっている。しかも、企業として強い。ライバルが海底捞の変態級サービスを真似しようとしても、うまくはいかない。海底撈の変態級接客サービスを真似をした飲食店はことごとく失敗をしている。スタッフが息切れしてしまうのだ。フォロワーが出てこないので、海底捞は独走状態で、年間に30億元(約460億円)を売り上げるチェーンになっている。

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▲子どもにはプレゼント、大人にはポップコーンや果物などを無料でくれる。さらに、随時、さまざまなパフォーマンスが店舗内で行われる。このような変態級接客サービスは、現場スタッフみずからが考え、実行したもので、優れたものは他店舗に横展開される仕組みだ。

 

お客は食事をしにくるのではない、満足をするためにくるのだ

海底捞は、1994年に、創業者の張勇(ジャン・ヨン)が、四川省簡陽市で、テーブルがわずか4卓しかない火鍋屋を開いたことから始まった。

張勇は、かつてトラクターの製造工場で働いていて、飲食店を経営したことなどなかった。火鍋の激戦区である四川省では、火鍋の味で差別化をすることは難しい。しかし、そのまま手をこまねいていたら、大きな火鍋店に負けて、張勇の小さな店など吹き飛んでしまう。

そこで、生き残るために、張勇は来店客に徹底的に親切にした。子どもをあやす、無料で果物を提供する、果ては来店客の靴まで磨いた。

お客は食事をしにくるのではない、満足をしにくるのだ。張勇はそう考え、来店客を徹底的に観察をした。お酒を飲みすぎて食が進まなくなった客には、そっとお粥を無料で出す。火鍋のタレの味に舌鼓を打っている客を見かけると、お土産にそのタレの缶を持たせる。お茶や水は無料にする(当時の中国では、お茶や水も有料が常識)、小皿のサイドメニューは無料にして食べ放題にする。

こういう努力が、現在の海底捞の変態級サービスの基礎になっている。思いつくことはなんでもやってみる、なんでも無料で提供する。これが海底捞だ。現在では、女性客のために、無料のネイルアートのコーナーまで用意されている。

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▲海底の創業者、張勇。最初はテーブルが4つしかない店から始まった。客は火鍋を食べにくるのではない、満足をしにくるのだと気がついて、あらゆるサービスを提供したことが現在の海底の基礎になっている。

 

「目に見える」おもてなしを追求する海底捞

しかし、日本のおもてなしとはまったく違っている。日本のおもてなしは、来店客の心に訴えかけるものだ。来店客への気遣いも、「気を遣っていると気づかれないように気を遣うのが、気遣いの境地」のような感覚がある。それは素晴らしいことであり、日本人の美点のひとつだ。

一方で、海底捞の「気遣い」は、必ず目に見える形でなければならない。無料で何かを提供する、荷物にカバーをかける。そういう誰の目にもわかる気遣いが、海底捞では極上とされている。

食事中には、担当のスタッフがテーブルに貼り付き、お客様の手を動かさせないことが最上とされる。グラスの中の飲み物は、常にいっぱいでなければならない。お手拭きが少しでも汚れたら、すぐに取り換える。

そういう形に見える「気遣い」をスタッフが日々考え、実行する。それが海底捞の「おもてなし」だ。ネットで都市伝説として語られている話では、赤ちゃんを連れた家族が食事をしていて、赤ちゃんが眠り始めた。すると、スタッフはどこからか、ベビーベッドを運んできて、赤ちゃんを寝かしつけたというのだ。この話が本当かどうかはともかく、やりかねない勢いが海底捞にはある。

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▲火鍋を作るときは、ほとんどスタッフがやってくれる。海底では、「客は、食べる時以外、手を動かさない」が基本になっている。

 

海底捞のアメとムチのスタッフ運用

海底捞は、今では従業員数が2万人に達しようとしている。その多くは、店舗スタッフで、日々、変態級接客サービスを自ら考え実行している。マニュアルに書かれたことを実行しているわけではない。誰もが疑問に思うのが、2万人ものスタッフ教育や意識づけをどうやっているのだろうか?ということだ。

海底捞では、スタッフを家族と位置付け、高待遇であることはもちろん、住居などの福利厚生が一般的な飲食店に比べて、大きく充実している。しかし、それだけでは、従業員はここまで意識を高く持つことはできない。やはり、そこには厳しい競争の仕組みがある。

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▲麺を注文すると、客のそばで麺づくりのパフォーマンスをしてくれる。これを見たいがために、多くの人が麺を追加注文する。

 

顧客満足度が上がれば天国。スタッフ全員の給与が連動

その競争は、売上ではなく、顧客満足度で測られる。顧客満足度によって、各店舗はABCの3つの格付けがされ、C級になると、6ヶ月以内に改善されないと、店長は降格、さらにその店舗のスタッフのボーナスや昇給もなくなる。

一般の飲食店では、店舗スタッフの待遇は固定され、店長などの管理職の待遇が成績に連動するということが多い。そのため、店長が一人で施策を考え、スタッフはそれをしぶしぶ実行するということになりがちだ。

しかし、海底捞の「従業員は家族」の意味は、店の顧客満足度が落ちれば、全員の待遇が悪くなる。逆に、スタッフ全員で店の顧客満足度を上げていこうという意識が生まれる。施策がボトムアップで生まれてくるようになる。

海底捞の店舗スタッフの給与は、月に平均で4000元(約6万1000円)程度と、飲食店としては極めて高い。しかも、店舗の顧客満足度の成績によっては8000元程度まで上昇することも珍しくなく、標準では1年ほどの勤務で他のスタッフを指導する高級スタッフに昇進する。こうなると、1万元(約15万円)を超える給料が普通になる。スタッフの多くは、他の飲食店と同じように、農村出身者が多い。そういう人にしてみれば、夢のような高待遇だ。

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▲なぜか火鍋店に無料のネイルコーナーがある。これが人気で、予約をしておかないとサービスを受けられないほど盛況だ。

 

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▲男性向けには、なぜか靴磨きコーナーもある。こちらも予約必須の人気サービスだ。

 

海外進出も。「中国式おもてなし」は定着するか?

2018年には、香港市場に上場をし、資金を得て、中国の2級都市、3級都市への出店を始めただけでなく、米国、欧州、日本、韓国などの海外展開も始めている。海外でも、海底捞の変態級接客サービスが話題になっている。日本の「おもてなし」は世界的に有名だが、海底捞の変態級接客サービスも「中国式おもてなし」として定着するかもしれない。

なお、日本の海底捞では、飲み物はドリンクバー形式で有料、サービスも簡素化されているが、ネイルコーナーやキッズルームなどは備えており、海底捞の変態級接客サービスの一端を味わえることができる。