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若者がきてくれないなら、お店の方から迎えにいく。海底撈が始めた夜市の出店、無料送迎バス

2021年に、コロナ禍が終息したとみて積極策に出て大失敗をした海底撈。しかし、その業績がV字回復している。これまで取り込めていなかった若者層の取り込み策が効果を表し始めているからだと火鍋餐見が報じた。

 

2021年に積極策が大失敗をした海底撈

火鍋チェーンの「海底撈」(ハイディーラオ)の業績が復活をしている。海底撈の創業は1994年。それ以来、過剰サービスで名前を売り、火鍋のトップブランドとして成長をしてきた。店内で無料のネイルサロン、靴磨き、洗髪などのサービスを提供し、ソフトドリンク無料、フルーツ無料、スタッフがタレまでつくってくれ、鍋の管理までしてくれるという過剰接客で人気となった。

しかし、コロナ禍が大きなつまづきとなった。感染拡大期間に来店客が大幅減少をし、その損を取り戻そうと、価格を値上げし、店舗数を拡大するという積極政策に出たが、これが裏目となり、2021年には41億元(約850億円)という大きな損失を出すことになった。

しかし、店舗調整を行い、基本に立ち返ることによって、再び客が戻るようになり、2022年には再び成長路線に戻ることができた。

▲海底撈の営業収入と利益。2021年には大規模出店をするという積極策に出て、これが大失敗をし、営業収入は増えたものの、大赤字を出した。

 

若者を取り込めていない海底撈

しかし、海底撈には大きな弱点がある。それは若者から好まれないということだ。最も大きな理由は107元(約2200円)という客単価だ。多くの若者は夕食であっても20元(約410円)で済ませたいと考えている。

もうひとつは、海底撈は大人数でやってきて、楽しく食事をする賑やかな場所だが、多くの若者は一人か少人数でさっと食事を済ませたいと考えている。

海底撈の客の年齢層は高くなっており、若者層を取り込めないと、それは将来、じわじわと客数が減少することにつながっている。

若者の嗜好に合わない海底撈は、どうやって若者層を取り込んでいくのかが大きな課題になっている。

 

人、貨、場を重ねることでお金が生まれる

中国の消費者ビジネスでは、人、貨、場の3つが重要視される。この3つの要素を重ね合わすことで商品が売れるという考え方をする。この3つの要素をどうやって重ね合わすかの技術がマーケティングだ。オフライン店舗のモデルでは、貨(商品)と場(販売場所)が固定をされているため、人(客)を動かすしか重ねる方法がない。そのため、オフライン店舗では集客技術=マーケティングということになっていた。

しかし、集客のコストが高くつくようになり、難易度も上がってきた。そこで生まれた考え方が新小売で、新小売ではネット(場)を利用して、客はどこにいても購入できるようにし、商品は客のいる場所に届ける。こうすることで、人、貨、場を重ね合わせることができ、商品が売れる。

海底撈は、オフライン店舗でありながら、若者層を獲得するために、海底撈の方から若者のいる場所に出て行くことにした。貨と場を動かして、人のいる場所に移動させることに挑戦をした。

 

夜店を出店した海底撈

さまざまな都市で、夜間経済が推進されていて、夜市の出店場所が広がっている。海底撈はこの夜市に店舗を出店した。夜市はいわゆる夜店であり、その多くは個人の業者だ。中には素晴らしく美味しいものを安く提供する評判の店はあるが、多くは業務用スーパーで買ってきたものを出していて、美味しいとはとても言えない。衛生的に問題があるとしていかない人もいる。しかし、その胡散臭い空気まで含めての夜市であり、多くの人が散歩がてらに歩き、雰囲気を楽しみ、結局は何かを買って食べてしまう。

出店をしたのは、山東省青島氏の李村楽客城(ロックシティ)横の夜市。若者が集まる場所で、10元から20元以内のメニューを提供している。また、キッチンカーも用意し、ザリガニとビールも出すオープンカフェを展開するなどもしている。

つまり、若者がいる場所に、海底撈の方から出ていき、海底撈の料理を味わってもらうという試みだ。

▲海底撈は若者の集まる夜市に出店をして、低価格の料理を販売し、認知度を高めようとした。

▲屋台のメニューはいずれも20元以下の夜市価格になっている。

▲キッチンカーを出して、ポップアップレストランを出店することも行っている。

 

コンサート会場に無料送迎バス

また、陝西省西安市では、無料送迎バスの試みをしている。西安オリンピックセンターは市内から20kmほど離れているが、さまざまなアーティストのコンサート会場にも使われている。しかし、交通は地下鉄14号線が唯一のもので、コンサートのある日には大混雑となる。中には数時間かけて歩いて帰る人もいるほどだ。

そこに海底撈はバスを出し、「無料のバス。いっしょに海底撈を食べに行きましょう!」と呼びかけた。この作戦はあたり、大きな話題になっている。

コンサートに行った若者たちは、そのまま帰りたくない。まだまだ騒ぎたい。しかし、早く帰らなければ終電がなくなる。それが無料バスで市の中心地にある海底撈につれていってくれるというのだ。バスの中でもノリノリ、海底撈に行ってからもノリノリで、夜遅くまで楽しむ。

この無料バスは当たり、各地のコンサート会場で、海底撈の無料バスが見られるようになっている。

▲海底撈はコンサート会場に無料バスを出して、帰りの足に困っている人たちをそのまま市の中心部にある海底撈に連れていくという試みを行なっている。

▲バスの中では、その日のコンサートの続きで、大いに盛り上がる。

▲海底撈についても、その日のコンサートの続きで、大いに盛り上がり、深夜まで大騒ぎをする。このような体験を通じて、海底撈は火鍋を食べながら楽しむ場所だというイメージを定着させていく。

 

お金を使わない若者がお金を使う4つのこと

若者はお金を使わなくなっていると言われるが、一方で、次の4つのことでは重切った消費をすると言われている。

・利便性を得るための消費

・自分が楽しむための消費

・自分の精神や感情に訴える消費

・将来の自分への投資になる消費

海底撈は、夜市やコンサート会場という若者がいる場所に自分の方から出向いていって、楽しむための消費を通じて若者にアプローチをしようとしている。これが成功をしたかどうかがわかるのは、若者が社会人になる数年後のことだ。しかし、業績が回復をして余裕が生まれた今、海底撈は将来への投資と準備を始めている。