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成功の鍵はコスト圧縮。失敗の原因もコスト圧縮。シェアリング自転車ofo

シェアリング自転車という新しいビジネスを生んだofoが経営危機にあえいでいる。ofoは徹底したコスト圧縮戦略で、奇跡とも呼べる急成長をした。しかし、成長した今、コスト圧縮が大きな足かせとなって経営が危うくなっていると沐足匯が報じた。

 

「経営悪化→デポジット返金→経営悪化」の悪いサイクル

2016年に登場し、2017年に一気に普及したシェアリング自転車ofoが追い詰められている。経営不振が報道され、デポジットの返還請求が相次ぎ、経営状態がさらに悪化をし、一部の報道では倒産の可能性まで触れられている。

シェアリング自転車ofoを利用するには、最初に199元(約3200円)のデポジットを支払う必要がある。自転車を壊す、持ち去るなどのルール違反をするとこのデポジットは没収されるが、きちんと使えば、退会をするときに全額を返金してもらえる。

ofoについての悪い報道が流れると「倒産する前にデポジットを返してもらわなければ」と退会申請をする人が増え、それがさらに経営状態を悪化させるという悪い循環に入ってしまっている。

ofoが預かっているデポジット総額は36.05億元(約580億円)。現在、求められているデポジットの返金は10.5億元から21億元(約340億円)程度だと言われている。さらに、ofoは負債が64.9億元(約1000億円)もある。デポジット返金は資金繰りを悪化させるだけでなく、退会なのだから利用者数も激減する。ofoの経営はますます厳しさを増している。

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▲ofoのデポジット返金を求める利用者の行列。ofoの経営悪化が伝えられると、多くの利用者がデポジット返金を求める取り付け騒ぎのような状況が起きている。

 

北京大学でコスト0円で自転車を集めたofo

ofoは最初にシェアリング自転車ビジネスを発想したイノベーターで、創業者は北京大学の学生だった戴威(ダイ・ウェイ)。大学の中では、学生は自転車で教室間を移動することが多いが、学生ならではのノリで、人の自転車でも勝手に乗っていってしまう。自転車を買っても、すぐになくなってしまうという問題が起きていた。

戴威たちは、この問題を解決するために、シェアリング自転車のビジネスを思いついた。スマートフォンを使って、QRコードで鍵を開け、どの自転車でも乗れるようにするというものだ。

戴威たちは、大学内に置かれている自転車の所有者を丹念に調べていって、その所有者に自転車を寄付することを求めた。「そのまま置いておいても、いつか誰かが乗っていってなくなってしまう。私たちに寄付してくれれば、永久に無料でシェアリング自転車のサービスが利用できる特別会員にします」と交渉し、コスト0円で自転車を集めてしまった。

このサービスが北京大学の学生の間で話題となり、ofoは本格的に大学の外でもサービスを展開することになった。

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北京大学在学中に起業したofoの創業者、戴威(ダイ・ウェイ)。「自転車は世界を理解するのに最も適したツール」という信念から自転車を広めようとしている。大資本からの資金提供の申し出はたくさんあるが、「投資を受けることは経営権を渡すことになり、やりたいことができなくなる」と頑なに拒んでいる。ビジネスは危うくなっているが、強い信念を持った経営者として若い世代から人気がある。

 

1600円で自転車を作れるようにした製造革命

このときに戴威が重要視したのがスピード感だった。あっという間に、中国の都市のいたるところにofoの黄色い自転車を出現させなければならない。そのために、苦心をしたのが、低コストで大量に自転車を製造することだった。最終的に1台の製造コストは100元以下(約1600円)になった。そのため、199元のデポジットをもらうので、万が一、利用者が自転車を持って帰って返却してくれなかったとしても、199元のデポジットを没収すれば、自転車を100元で仕入れて199元で売ることになる。ビジネスは必ずうまくいくはずだった。

この低コストの自転車を大量に生産して、都市に次々と投入していく。人々は突然現れた黄色い自転車に驚き、仕組みを理解すると便利さに喜んだ。すぐにMobikeなどのライバルが参入してきたが、低コストであることを最大限に活用して、敵が100万台投入するのであれば、こちらは200万台投入するという物量作戦で勝ち抜いてきた。ofoの成功の鍵は、コスト圧縮だった。

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サービス地域が広がるとともに非効率になる管理

成長期に低コストは大きな武器になった。しかし、成熟期には低コストであることが足かせになってしまった。

低コストの自転車であるということは、故障率も高いということだ。北京大学の中、あるいは主要都市でサービスを展開している間は大きな問題ではなかった。巡回をして、問題のある自転車を回収し、修理センターで修理をすればいい。

しかし、地方都市にまで展開を始めると、巡回コスト、修理センターの設置コスト、運搬コストなどが、サービス地域が分散をしたため、一気に非効率になっていった。現在、ofoはこのような管理運営をするコストが毎月3億元(約48億円)必要という高コスト体質になってしまっている。これが経営を圧迫している。

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▲製造コストを圧縮し、低コストで大量に自転車が作れるようにし、大量に投入していくという手法であっという間にシェアリング自転車を普及させた。その一方で、大量の廃棄自転車が生まれ、社会問題にもなっている。

 

管理問題がユーザー体験に悪影響を与え始める

ofoはこの管理コストもなんとか圧縮しようと努力をしてしまった。当然の帰結として、管理レベルの低下を招いた。利用者がofoの自転車を利用しようとしても、鍵を開けたら故障している自転車であることがわかったとか、乗っている途中に故障するというトラブルの比率が上がっていく。利用者は、目の前にofoと他社の自転車が並んでいるときは、自然とofo以外を利用するようになる。

利用率の低下が如実になった2017年10月、ofoは利用率の低下に歯止めをかけようと、「59元(約950円)で1年乗り放題。デポジット不要」というサービスを始めた。デポジットを支払う必要はなく、最初に59元を支払えば、1年間無料でいくらでも乗れるというものだった。デポジットを支払うということがハードルになってしまっている新規利用者を取り込もうというものだった。

ところが、結果は、すでにデポジットを支払っている会員が退会をしてデポジットを返金してもらい、それで乗り放題プランに再加入するということが大量に発生をした。

 

土俵際のofoは生き残れるか?

ofoの成功の秘密はコスト圧縮であり、失敗の理由もコスト圧縮だ。かといって、コストをかけた高品質の自転車を最初から採用していたら、この急成長もなく、シェアリング自転車というサービスが生活の中に定着することもなかった。

理屈を言えば、どこかの時点で、管理コストのかからない故障しない自転車に転換をしていく必要があったのだろう。しかし、わずか2年ほどで全国をカバーするという急成長のジェットコースターに乗りながら、その判断をするタイミングを見つけるのは簡単なことではない。

ofoは追い詰められているが、まだ死んではいない。戴威の経営者としての資質が試されている。戴威は、若く、新しい発想と強い信念を持っている経営者として、若者からの人気は高い。そのため、ofoがこのまま死んでほしくない、戴威に逆転の一手を見せて欲しいという期待からもofoの行く末が注目されている。