中国のIT企業アリババは、社員がスピンアウトをして起業することが多い。有名なところではライドシェアの「滴滴出行」の創業者、程維(チャン・ウェイ)が元アリババの社員だ。このようなアリババ出身者のスタートアップはすでに800社を超え、アリババの事業に協力をするアリババマフィアともいえる集団になっていると上観新聞が報じた。
トップ500企業のうち200社をアリババ系にしたい
「中国で優秀な企業トップ500のうち、200程度の企業のCEOがアリババ出身者になることを希望しています」と、退任が決まっているアリババ会長ジャック・マーが102班の席上で語った。
102班とは、アリババが組織しているOB会で、世界各地のアリババ出身者が集まり、ジャック・マー会長の教えを受け、親睦を深める集まり。現在、約1000名が参加している。
▲アリババ出身者企業の企業価値ランキング。圧倒的に大きいのがライドシェア滴滴出行。約4500億円の企業価値がある。
800社を超えるアリババマフィア
アリババは、製造企業をマッチングさせるBtoBの「アリババドットコム」、CtoCの個人ECサイト「タオバオ」、BtoCのECサイト「Tmall」が主要事業で、さらにスマホ決済「アリペイ」を運営している。
しかし、アリババの強さは、これら主要事業だけでなく、アリババ出身者がスピンアウトをして起業し、そのような企業がアリババと協働して新しい市場を開拓していくということにある。
アリババが創業して19年間、アリババを退職したOBは10万人に達する。ネガティブな退職ばかりではなく、起業をするために退職した人も多い。そのような企業はアリババと良好な関係を保ち、新しいビジネスを開拓していく。有名なところでは、ライドシェアの滴滴出行がある。
このようなアリババ出身者による起業は800社を超え、「アリババマフィア」とも呼べる集団を作っている。アリババは、新しい事業に挑戦するときに、このようなアリババマフィア企業の助けを借りることができる。これがアリババの強さのひとつになっている。
▲アリババ出身者のスタートアップはやはり浙江省に多い。アリババ本社が浙江省杭州市にあるためだ。
▲業務分野としては、BtoBサービスが圧倒的に多い。多くがアリババのシステムの一部を担っている。アリババのピラミッドは、日本企業にありがちな下請けの裾野ではなく、技術革新の裾野が広い。これがアリババの強さを支えている。
成長速度が異常に速いアリババマフィアスタートアップ
アリババ出身者の起業がここまで多い理由は、間違いなくアリババという土台があるからだ。起業をするパートナー、人探しもアリババの社内で行い、スタートアップに最も重要な資金もアリババから調達することが可能。アリババは事業遂行する企業でありながら、スタートアップのインキュベーターとしても機能している。
アリババという強力なバックグランドがあるため、アリババマフィアは異常に成長が速い。米国の統計によると、シードラウンドからAラウンドまでは平均で15ヶ月、AラウンドからBラウンドまでは平均で17ヶ月となっている。ところがアリババマフィアのスタートアップはそれぞれ12ヶ月、13ヶ月と3ヶ月以上早いのだ。中には新小売コンビニ「ゴリラコンビニ」のようにエンジェルからAラウンドまで58日間、小電科技は10日間という例もある。創立したその日にエンジェル投資を受けるというアリババマフィアスタートアップも少なくない。
▲アリババ出身者の企業には、上場企業がすでに15社もある。上場予備軍でもあるBラウンド(事業拡大フェーズ)も105社。「中国トップ企業500のうちを、200社をアリババ系にしたい」というジャック・マーの希望もあながち空想とも言えない。
テクノロジーではなく、その背後にある夢が社会を変える
アリババマフィアは、このような起業環境にも恵まれているが、もうひとつ大きいのがジャック・マーを全員が信奉をして、彼の考え方を共有していることだ。ジャック・マーはこう言っている。「テクノロジーは私たちの生活を変えたりはしない。テクノロジーの背後にある私たちの夢が生活を変えるのだ」。
アリババマフィアは、「テクノロジーがあるから、これで何かビジネスをしよう」という発想はしない。「生活をこう変えたいから、それに必要なテクノロジーを探してくる。なければ自分で作る」という考え方をする。
中国トップ企業500社のうち200社がアリババマフィアで占められるというジャック・マーの夢、あるいは予言はただの空想ではないかもしれない。