中国人の生活を大きく変えたシェアリング自転車。この新しいサービスは、北京大学の学生だった戴威が始めたofoから始まった。しかし、今、そのofoが経営難となり、空中分解が始まっている。多くのメディアがその原因は、戴威個人の傲慢で不遜な性格にあると論評しているが、戴威は類まれな理想主義者でもあるとAI財経社が論じている。
「理想に殉じる子ども」ofoの創業者、戴威
ofoの創業者、戴威(ダイ・ウェイ)のことを多くの人が「子ども」と形容する。実際、北京大学在学中にofoを創業し、現在でもまだ28歳でしかない。しかし、「子ども」と言われるのは若さだけではない。「自転車は世界を理解するのに最高のツール」「この世界から未知の街角をなくす」という理想を掲げ、それに反することは頑なに拒否をする。戴威を信奉する人からは純粋、理想主義者とみられ、投資家からは狂信的とみられ、パートナーからは傲慢と見られることもある。
2019年1月17日、ofoの共同創業者である薛鼎と張巳丁が辞職をした。2人とも元北京大学の学生で、戴威とともにofoを創業したメンバーだ。戴威と意見が決裂したことが理由で、いよいよofoの空中分解が始まった。
ofoはこれまで無数の投資話が持ち込まれ、一時期はそのような投資を受けたこともある。しかし、投資を受けるということは株を売り渡し、経営権を渡すということだ。戴威はこれでは理想の運営ができないと、投資家に対抗してきた。これがofoの経営難の主要因になっている。現在でも、ofoの株の70%は戴威が保有している。
▲シェアリング自転車ofoの創業者、戴威CEO。共同創業した北京大学の仲間たちもofoから離脱し、ofoの空中分解が始まっている。しかし、若い学生や経営者からは圧倒的な尊敬を集めている。
重要な商談を「寝過ごしてしまう」戴威
2017年末、カザフスタンに進出するため、カザフスタンの政府関係者との会談をしたことがあった。この時は、ライドシェアの滴滴出行とofoのカザフスタン進出が検討されていた。滴滴出行の程維CEOは、約束した9時の15分前にスーツ姿で現れ、先方の政府関係者がくるのを待ち、有意義な話し合いをした。
9時半からはofoの戴威と会談をする予定だったが、戴威が時間になっても現れない。秘書が連絡を取ってみると、戴威はホテルで寝ていた。寝過ごしたというのだ。カザフスタンの政府関係者は怒って帰ってしまった。周辺によると、戴威はこんなことがよくあるのだという。
投資家の都合に振り回されるofo
ofoの経営がおかしくなったのは、2017年11月に、戴威が投資家との決別の大号令をかけたことからだった。ofoの投資会社の人間が匿名でAI財経社の記者に語った。「彼は投資家のことをまったく考えないのです。投資家は、戴威の夢を買ったのだと考えているようです。資本市場ではあり得ない話です。まったく子どものような考え方なのです」。
しかし、戴威が投資家との決別の大号令をかけた背景には、投資家に振り回された経験がある。シェアリング自転車市場は、ofoとmobikeが競い合っていた。しかし、2社が競い合うことによって、大きな無駄が出ていた。需要が100万台である都市に対して、ofoとmobikeの2社が100万台ずつ自転車を投入する。無駄であるし、余剰な自転車が歩道にあふれ、社会問題にもなっていた。
そこで、初期のofoの投資家である朱啸虎は、ofoとmobikeの合併を画策した。経営を統合することで、適正量の自転車を投入すればよくなり、両社の収益が改善され、社会問題となっている余剰自転車問題も解決される。
朱啸虎の案では、戴威とmobikeの胡瑋煒CEOが新会社の共同CEOになるが、実質的なCEOは戴威だというものだった。戴威は、この案に積極的ではなかったものの拒否もしなかった。
しかし、当時、ofoの大株主であった滴滴出行がこの案を潰しにかかった。ライドシェア滴滴出行は、都市交通のすべてを抑えているわけではなかった。近距離であれば車ではなくシェアリング自転車で移動する人もいるし、交通渋滞のため目的地の手前で車を降りて、シェアリング自転車に乗り換える客も多かった。
滴滴出行は、自社のライドシェアサービスとofoのシェアリング自転車を組み合わせることで、都市移動の「最後の1km」までカバーしようと考えていた。滴滴出行のビジネスはライドシェアの営業収入だけではなく、都市移動のビッグデータを収集して行うコンサルティング収入も大きな柱になっている。それが「最後の1km」の部分が把握できないのは大きな問題だった。これを解決し、都市移動データを把握するには、ofoが独立をしたまま、滴滴出行傘下に入ることが理想的だったのだ。
この絵図が崩れてしまうために、滴滴出行は、ofoとmobikeの合併に反対をした。2017年、滴滴出行は、ofoを30億ドル(約3300億円)で買収する計画を実行に移した。その資金を用意するため、滴滴出行は日本のソフトバンクから15億ドル(約1600億円)の投資も受けた。
▲滴滴出行の程維CEO。元アリババ社員で、老練な経営を行い、ライドシェア滴滴出行を急成長させてきた。しかし、ofoを買収しようとして、ofoの内情に青ざめ、ofoの買収を中断したという。
滴滴出行も青ざめたofoの内情
滴滴出行は、ofo買収の前段階として、ofoの経営陣に2人の滴滴出行の人間を送り込んだ。すると、大きな問題が発覚した。
ひとつは、ofoの社員はすべからく高給だったということだ。この時、ofoの社員は3000人ほどだったが、チームリーダーの月給は5万元(約80万円)を超えていた。製造やエンジニア部門はさらに高給をもらっている。滴滴出行は、これでは人件費がかかりすぎると考え、買収にあたって大規模なリストラと給与体系を変える必要があると感じた。
戴威は、ofoはお金儲けをする企業ではなく、自転車の理想を実現する活動コミュニティーだと考えていた。それが理想に向かって一定の成功をし、利益も出ているのだからメンバーに還元をするのは当然のことだと考えていた。
もうひとつの大きな問題が、利用者から預かっていたデポジット資金を消費していたことだ。ofoのシェアリング自転車を利用するには、最初の入会時に199元(約3200円)のデポジットを支払わなければならない。自転車を返却しない、破損したという場合を除き、このデポジットは退会時に返金をしてもらえる。この預かっているデポジット総額は36.05億元(約590億円)にもなっている。
ofoは、このデポジット資金をキャンペーンや運営費に消費していた。滴滴出行は青ざめた。中国の法律では問題ないというものの、いつか返金しなければならない資金は、会社の運営資金とは別にしておかなければならない。理財運用をするならともかく、使ってしまっているのだ。滴滴出行がofoを買収した場合、もしデポジットの返却を求められたら、滴滴出行がこの原資を用意しなければならなくなる。とても、買収額は30億ドルというわけにはいかない。デポジット資金分を差し引かなければならない。
破談となる滴滴との買収話。投資家も離れ始める
滴滴出行の担当者と戴威の買収条件交渉が続いたが、戴威は頑なだった。「高い給料を社員に支払って何が問題なの?」「デポジット資金を使って何が問題なの?」。それどころか、デポジット資金を消費しているという事実を経営上の大きな失策だとあげつらって、その責任を取るという形で、買収後に戴威をofoから追放しようとしているのではないかとすら疑い始めた。滴滴出行の担当者は匙を投げた。「私たちの仕事は、子どもをあやすことではない」とそのうちの一人が語ったという。
最初に戴威の才能を見抜き、ofoの黎明期に投資をした投資家、朱啸虎もofoから距離を置いた。「投資家は、創業者の理想には関心はない。リターンのみに関心があるのだ」と別れ際に戴威に語った。戴威は裏切られたと感じたが、朱啸虎にしてみれば、若い理想主義の経営者に対する最後の教えのつもりだった。
独自のシェアリング自転車サービスに舵を切る滴滴出行
滴滴出行は、ofoの買収をいったん保留したが、2018年になって再度買収を持ちかけている。ofoの資金繰りが悪化し始めたからだ。しかし、この時の提示額は17億ドル(約1800億円)程度だったという。戴威はあっさりと拒否をし、経営陣からも滴滴出行系の人間を排除した。
滴滴出行の程維CEOは、この顛末を休暇先の海南島の三亜のリゾートで受けた。集まった経営陣と酒を飲みながら会議をし、10億ドルの資金を使って、滴滴出行独自で新しいシェアリング自転車サービスを始めることにした。その後、経営が難しくなっていたシェアリング自転車Blue GoGoを買収し、これを元に滴滴出行のシェアリング自転車サービスを始めている。
▲ofoの買収を狙っていた滴滴出行は、ofoの内情に驚き、Blue GoGoを買収し、独自のシェアリング自転車サービスを始めた。
アリババにも喧嘩を売る戴威
滴滴出行の買収を拒否したofoだが、運転資金不足であることは明らかだった。戴威は、アリババから17億元(約280億円)の融資を受けてしのいだ。投資ではなく、融資であるので、アリババが経営に加わることはできない。戴威の独立宣言でもあった。
しかし、ここでも戴威は戴威だった。2017年9月、突然、WeChatのミニプログラムからofoが利用できるようにした。WeChatは、アリババのライバルであるテンセントが運営するSNSで、当然、WeChatペイで決済をする。アリペイを運営するアリババは激怒して、戴威に詰め寄り、WeChatのミニプログラムを停止することを求めた。しかし、ここでも戴威は拒否をした。
アリババは2017年末、シェアリング自転車サービスHello Bikeに投資をした。ofoを通じてシェアリング自転車サービスに参入したかったアリババは、方針を転換して、Hello Bikeを通じてシェアリング自転車サービスに参入することにした。
▲アリババもofoを支援したが、ライバルであるテンセントに擦り寄るという裏切りにあい、ofoを見限り、Hello Bikeとの提携に舵を切った。
会社の資産も、個人の資産もすべて担保に入れる
ofoの資金繰りは、その後も悪化の一途をたどった。2018年3月には、さらにアリババから追加融資を受けている。この時、アリババは厳しい条件をつけた。それはofoが所有する自転車などの資産を担保に入れることを求めたのだ。つまり、返済ができなければ、資産はすべてアリババに渡る。アリババは自動的にofoを買収できることになる。
それでも、まだ資金繰りが改善しない。2018年9月には、さらにアリババから追加融資をしてもらっている。この時の担保は、戴威が所有する株式だった。
もし、返済が滞るようなことがあれば、ofoの資産はすべてアリババに渡り、戴威は一文無しに近い状態で放り出されることになる。まさに背水の陣になっている。しかし、それでも戴威は、この期に及んでも、「自転車は世界を理解するのに最高のツール」「この世界から未知の街角をなくす」という自分の理想を熱く語っているという。
戴威は傲慢な「子ども」なのか、それともイノベーターなのか
ofoの経営難の主な原因は、戴威CEOの頑な性格にあると結論づけているメディアがほとんどだ。しかし、反論するコメントも多い。なぜなら、戴威が熱狂的な理想主義者であったからこそ、シェアリング自転車という新しいサービスが生まれ、中国人の生活の中に定着をしたからだ。戴威が金儲けをしたいだけの平凡な経営者であったら、ここまでシェアリング自転車は浸透しなかっただろう。
戴威は、いまだに北京大学周辺で暮らしており、10km四方のその地域から外に出ることはほとんどない。食事は、ほとんどがファストフードかコンビニの弁当だ。唯一の贅沢は、社員を連れてカラオケ店の個室で朝まで騒ぐことぐらいだという。戴威の頭の中には理想を実現することしかなく、それ以外のことはどうでもいいのだ。それが時として、不遜に映ったり、傲慢に映ったりする。
理想に燃える若き経営者が、現実の問題に直面をした時にどうなるのか。そういうストーリーとしても、ofoの経営難問題は注目されている。大人たちは、戴威を「子どもすぎる」と言うが、学生や若いスタートアップ経営者は戴威を「イノベーター」と呼ぶ。