中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

過剰投入の大戦後に、定着のステージに進んだシェアリング自転車

2017年のシェアリング自転車競争では、ofoとMobikeなどが市場に過剰投入をすることで、放置自転車問題が社会問題にまでなっていた。現在は、大手企業が投資を行い、母企業とのシナジー効果を狙う戦略に変わっている。これにより、適正投入となり、シェアリング自転車は競争から定着のステージに進んだと燃財経が報じた。

 

過剰投入で崩壊をしたシェアリング自転車ビジネス

シェアリング自転車というと、2017年頃、中国で盛り上がり、急速に崩壊をしていったビジネスと思われている方が多いと思う。中には一種のバブルで、元々需要がなかったところに投資資金が流れ込み、街中に大量の放置自転車の山を生み出すだけに終わったと思われている方もいるかもしれない。

しかし、シェアリング自転車は「移動の最後の1km」を補う手段として、需要は強く、現在でも利用している人は多い。

崩壊の原因は、過剰投入だ。当時は、ofoとMobikeの2つのスタートアップが中心となり、激しい競争を繰り広げていた。100万台の需要がある都市に、ofoもMobikeもその他の企業も100万台を投入していく。ofoやMobikeは、潤沢な投資資金にものを言わせて、市場シェアを握るために150万台、200万台を投入していく。これにより、合計では、その都市が必要としている台数の数倍から10倍の自転車が街にあふれることになり、社会問題となっていった。

この過剰投資により、各社とも黒字化ができない。投資家が離れ出し、崩壊が始まった。

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▲2017年のシェアリング自転車大戦では、各社が過剰投入をしたため、街中に自転車があふれるという事態が起き、社会問題になっていた。

 

アリババ系の投資を受けるHello Bike

しかし、現在、第2世代のシェアリング自転車企業が登場し、2017年のシェアリング自転車大戦に学び、適正な競争を始めている。現在、利用数のトップ3は、Hello Bike、DiDi Bike、美団(メイトワン)になっている。

Hello Bikeは、2016年9月に創業したハローグローバルが提供するシェアリング自転車。このHello Bikeは「農村から都市を包囲する」という戦略で起業され、都市で過熱するofoとMobikeのシェアリング大戦から距離を置いていた。地方都市と観光地に丹念にサービスを提供していった。これが功を奏した。都市で、ofoとMobikeが自滅をしたために、悠々と都市に進出することができた。

ハローグローバルは過去14回投資を受けているが、そのうち4回にアリババ傘下のアントフィナンシャルの関連会社の名前が見え、アリババ系の企業だと見られている。2019年末にも大型の投資を受け、投資資金の累計は200億元以上だと見られており、現在、シェアリング電動自転車やタクシー配車、ライドシェアにも進出を始め、滴滴出行と事業ドメインが似通ってきている。

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▲Hello Bikeは、2017年のシェアリング自転車大戦では、都市ではなく、郊外や観光地を中心に展開をしていた。都市部でofoとMobikeが破綻をすると、Hello Bikeは都市部の進出をした。

 

ofo買収からBlue GoGo買収に切り替えた滴滴

DiDi Bikeは、2017年のシェアリング自転車大戦で苦戦をしていたBlue GoGoを、ライドシェアの滴滴出行が買収をしたものだ。滴滴出行は、タクシー配車、ライドシェアの事業を行い、そこにシェアリング自転車を加えることで、都市の公共交通以外のすべてのサービスを提供しようという戦略を持っていた。これにより、都市の移動データを把握することができ、さまざまなビジネスに展開ができるようになるからだ。

当初、滴滴出行はofoの買収に動いていたが、ofoの内情にあまりに問題が多いことを知ると、一転して、Blue GoGoの買収に切り替えた。2020年4月には、10億元の投資を受けたが、8.5億元は滴滴出行で、残りの1.5億元はレジェンドキャピタルとソフトバンクが出資をしていると報道されている。

DiDi Bikeは、滴滴出行のタクシー配車、ライドシェアアプリの中から利用することができ、完全に滴滴系のシェアリング自転車になっている。

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滴滴出行は、タクシーやライドシェアと自転車を組み合わせて、最後の1kmの移動を自転車で補う計画だ。MaaS(マース)化をする第一歩になる。

 

Mobikeを買収した美団

美団は、外売(フードデリバリー)、即時配送を中心に、生活関連サービスのすべてを提供することを目指していて、その一環として、シェアリング自転車に進出をしたがっていた。2018年に経営が難しくなったMobikeを27億ドルで買収した。当時、Mobikeの企業価値は50億ドルと見積もられていたので、美団にとってはいい買い物だった。

その後、美団アプリからシェアリング自転車も利用できるようになり、名称もMobikeから美団自転車に変更された。

 

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▲グルメサービス、エンタメサービスなどを展開する美団は、Blue GoGoを買収してシェアリング自転車サービスを始めた。街中に外出する時のすべての情報とサービスを提供する美団の理念を実現するひとつとして考えられている。

 

母企業とのシナジー効果を狙うシェアリング自転車

2017年のシェアリング自転車大戦は、ofoとMobikeというスタートアップ企業が中心となっていた。スタートアップは市場シェアを握れなければ、撤退する以外の道はない。そのため、競争が過熱をした。

しかし、現在のシェアリング自転車大戦は、アリババ、滴滴出行、美団という大企業が背後についている。そのため、強引にシェアを取りに行く必要はなく、それぞれの企業が展開する事業とのシナジー効果を狙う戦略が採られている。これにより、過剰な投入や過剰なクーポン合戦は影を潜め、地道に利用数を伸ばすという適正な競争に向かおうとしている。

 

需給バランスが適正化され、定着段階に進んだシェアリング自転車

北京市交通委員会の統計によると、2019年上半期の1日のシェアリング自転車利用回数は160.4万回で、1台あたりの回転率は1.1回になっている。しかし、下半期になると冬という自転車にとっては向かない季節を挟むこともあり、1日の利用回数は127.2万回に減少している。しかし、1台あたりの回転率は1.4回に上昇している。つまり、需要に応じて、投入する自転車の量が調整できているということだ。

以前とは違ったシェアリング自転車の競争が始まり、ようやくシェアリング自転車が生活の中に定着する段階に進んだ。