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シェアリング自転車のパイオニア「ofo」がいよいよ最終局面。デポジット返金の万策が尽きる

シェアリング自転車という新しいビジネスを考案したイノベーター企業「ofo」が追い詰められ、いよいよ最終局面に入っている。2018年末に経営不安が報じられるとデポジットの返金申請が殺到し、事実上の経営破綻をした。それ以来、デポジットの返金業務を進めていたが、いよいよ手がなくなっていると財経正解局が報じた。

 

会社の解体が主力事業になっているofo

シェアリング自転車ビジネスを2016年に最初に始めたパイオニア「ofo」(オーエフオー、オッフォ)が、デポジットの返金に苦しんでいる。2021年6月には当局により1341万元分(約2.3億円)の差し押さえが行われたが、ofo側はすでにそれだけの資産が残っていないことを明らかにした。

シェアリング自転車を利用するには、アカウント登録時に199元(約3400円)のデポジットを預ける必要がある(時期によって99元、299元の利用者もいる)。万が一、シェアリング自転車を利用して破損をした、返却をしなかったという場合はこのデポジットが没収されることになる。問題がなければ、退会時に返却されるというものだ。

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▲ネットにあげられた返金申し込み画面。1500万人が返金を待っていると表示される。このペースでは全員に返金が終わるのは、988年後になる。

 

デポジット返金の完了予定は988年後

2018年末にofoの経営状態に問題があるという報道が相次ぐようになると、このデポジットの返金を求める人が殺到した。これが経営に大きな打撃となり、ofoは事実上の経営破綻状態になった。

経営破綻をしようとも、デポジットは返金をしなければならない。そのため、ofoはサービスの運営は停止をしているものの、このデポジット返金業務を進めている。しかし、ない袖は振れない。現在、デポジット返金の申込者は1500万人程度で、2020年の第4四半期の3ヶ月間に2828人に返金が行われた。しかし、そのペースで行くと、残りの希望者への返金が完了するのは988年後になる。

 

デポジットを投資に回せる仕組みを始める

そこで、ofoは間接的にデポジットを返却する方法をさまざま考え出している。2018年11月には、フィンテック企業PPmoneyとの提携を発表した。それは、99元のデポジット返却を申請している利用者のうち、希望者はPPmoneyの資産100元分に転換できるというものだ。つまり、PPmoneyを通じて、さまざまなファンドに投資ができるようになる。この資産は30日後以降、解約をして現金化ができる。

PPmoneyから見れば、1人100元の資産を無料配布することで、顧客を1人獲得できる。新規顧客獲得コストとしては決して高くない。ofo側では、99元のデポジット返却負担が消える。しかし、この方法は多くの利用者から不評だった。個人情報を売っただけじゃないかと批判されたのだ。

 

ECのポイントに変換

2019年2月には、ofoがECを始め、99元のデポジットは150元分のポイントに変換でき、199元のデポジットは300元分のポイントに変換できる仕組みをスタートさせた。

さらに2019年11月になると、このECで1500元以上の買い物をすると、すぐにデポジットを返却するという仕組みをスタートさせた。

つまり、現在のofoは、ECなどの企業と提携し、資金を稼ぎながら、どうやってデポジットの返却を完了するかが中心的な事業になっているというきわめて珍しい状態にある。しかし、差し押さえが実行され、資産がないことが明らかになったため、いよいよ破産申請をするしか道がなくなっている。

 

1700円で自転車が製造できる仕組みを構築

ofoがここまで悲惨な状況になったのは、創業者の戴威(ダイ・ウェイ)の運営方法に大きな問題があったからだ。戴威は、元々自転車が大好きで、誰もが自転車に乗り移動する社会を作りたいと考えてofoをスタートさせた。戴威にとって、ofoはビジネスではなく、社会運動だったのだ。

幸か不幸か、この戴威というイノベーターは、稀に見る優秀な人間だった。シェアリング自転車という仕組みを考案しただけでなく、自転車メーカーと共同して、約100元(約1700円)で1台の自転車を製造できる仕組みを確立した。つまり、199元のデポジットを預かって、コスト100元の自転車を貸す。シェアリング自転車が登場した時、多くの人が「壊されたらどうするの、持ち逃げされたらどうするの?」と心配したが、ofoにその心配は不要だった。デポジットを没収すれば、100元の商品を199元で売っただけにすぎず、売るまでの間に利用料が入るので、どう転んでも損をしない仕組みができあがっていた。

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▲シェアリング自転車の競争が始まり、過剰に自転車が供給されたため、各地で社会問題となった。現在は駐輪場が設置され、ジオフェンスなどの技術を使って管理されるようになっている。

 

高待遇を受けていたofoの従業員たち

戴威の「ofoは社会運動である」という感覚と、ビジネスモデルの成功が、ofoをおかしくさせた。戴威は出資者の助言にまったく耳をかさなかった。出資者は、戴威が描く夢にお金を出しただけであって、ofoの運営に口を出す権利はないとまで語ったとも言われている。

さらにofoの従業員は誰もが高給だった。彼らは労働者ではない、運動を支援してくれる人たちだから高額の報酬をもらう権利があると戴威は考えていたようだ。3000人の従業員がいて、チームリーダー(係長クラス)の月給は5万元(約84万円)を超えていた。

当時のofo社屋の駐車場には、まだ高価だったテスラのモデルSがずらりと並んでいたという。経営陣の間でテスラが流行し、みなお揃いで買ったのだと言われている。

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▲シェアリング自転車というビジネスを考案した戴威。しかし、戴威は、ビジネスではなく、社会運動と考えていたため、企業としての経営が行われなかった。

 

デポジット預かり金を運転資金にしてしまっていた

しかし、ofoは結局最後まで黒字運営をすることができなかった。そのような大盤振る舞いの原資はどこからきているのか。デポジットとして預かったお金を使ってしまっていたのだ。

当時、消費者から預かったデポジット企業会計とは別建てにして保全をしておく義務が明記された規制は存在しなかった。そのため、違法ではなかったが常識外だった。保全義務の規制はなくても、多くの企業がなんらかの保全策を講じるものだ。なぜなら、一旦、デポジット返金の動きが始まったら、それが利用者の不安を呼び、返金の動きがさらに拡大をしていき、一気に破綻するリスクがあるからだ。そして、ofoはまさにそのようにして崩壊した。

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▲ofoの経営不安が伝えられると、ofo本社にはデポジット返金を申請する利用者が殺到した。取り付け騒ぎとなり、ofoの空中分解が始まった。

 

坂を転げ落ちるように空中分解したofo

経営層がそのような具合だったので、従業員の間でもモラルが低下していたという。会社の備品を持ち帰ってネットで売却する、商品の自転車を大量売却して着服するなどの事件が起き、実際に公安によって逮捕起訴された事件も数件起きている。

創業者の戴威は、現在、個人資産を裁判所により管理され、39回に渡って、個人資産の利用制限の通告を受けている。不動産や車を買うことはできず、ゴルフなどの高額の娯楽消費も認められない。飛行機に乗ることも認められず、高鉄に乗ることは許されているがグリーン車の利用はできない。

学生の頃と同じように、北京大学周辺の狭いエリアで暮らしているようだ。時々、北京大学周辺のカフェでの戴威の目撃情報がSNSにあがるが、すでに多くの人がofoのことを忘れようとしている。もし、戴威に、ビジネス感覚に長けたパートナーがいたら、また違った結果になっていたのではないかと考える人は多い。